イベント
「東京ゲームタクト 2019」のトークショーをレポート。ゲーム音楽とクラシックの関係について,6名の作曲家が持論を展開した
本トークショーはインターネットラジオ「ホンマルラジオ」の公開収録として,2部構成で行われた。パーソナリティを務めたのは,ホンマルラジオ会長の中村 隆氏と,「LUNAR」シリーズなどのシナリオをはじめ多数のゲームシナリオを手がける重馬 敬氏。前半に登壇した作曲家は岩垂徳行氏,なるけみちこ氏,桑原理一郎氏の3名だ。
トークの最初のテーマはゲームタクトにてゲーム音楽を演奏することについて。桑原氏は「作曲家としてすごく嬉しい体験。ありがたい機会です」と感謝の意を示した。
また岩垂氏は「ゲームタクトは自分たちのような作曲家がゲーム音楽を“文化”として残したいという気持ちで始めたもの。オーケストラやバンドで曲を演奏してもらう中で,作曲家も演奏に加わったり,指揮をしたりと,作曲家自身が何かを発信することを目指した」と語った。
ゲーム音楽にオーケストラの演奏を取り入れることについては,桑原氏が「オーケストラで演奏されるクラシックやオペラにはさまざまな表現があり,幅が広く色彩が豊か。その一方でゲームも懐が広く,オーケストラのさまざまな表現を受け入れることができる」とコメント。
岩垂氏は自身が中学生のときにモーツァルトの「交響曲 第41番 ジュピター」の演奏を生で聴いて感動し,それからクラシックが好きになったというエピソードを披露し,自身の楽曲にオーケストラを採用するのは自然なことだったと語った。
一方,なるけ氏はもともとオーケストラが身近なものではなかったという。「ワイルドアームズ」の楽曲を初めてオーケストラコンサートで演奏することになり,自身でオーケストラアレンジを手がけたときには,「こういうフォーマット(オーケストラ編成)に自分の曲が乗るのか」と恐怖に近い驚きを覚えたそうだ。今でもゲームタクトでほかの作曲家の楽曲のスコアを見たり,実際にオーケストラの一員として演奏したりすると勉強になるとのこと。
また桑原氏もオーケストラの演奏に加わると,各楽器が分離して聞こえ,オケ中でのパート間のやりとりが面白いと話していた。
今ではなるけ氏もゲーム音楽の作曲にオーケストラの編成を取り入れているとのこと。以前は弦楽器をすべて1つのトラックにまとめていたが,今では「ヴァイオリン1」「ヴァイオリン2」「ヴィオラ」……と,楽器ごとにトラックを分けてアンサンブルを作っているという。また,なるけ氏にアドバイスした岩垂氏によると,トラックを分けたほうが楽曲がよくなると持論を語っていた。
また岩垂氏は,自分で作曲する際にはベルリンフィルハーモニー管弦楽団のような大編成をイメージするが,レコーディングでは編成の規模が異なることも多く,どうやって自分のイメージに近づけるか,いつも頭を悩ませているという。
クラシックに限らず,ゲーム音楽はロックやジャズ,フュージョンなどさまざまなジャンルを取り入れている,といった話題では,岩垂氏が「正直,大変」と本音を明かしつつ,「ゲーム音楽の作曲家達はおそらく飽きっぽい人が多いので,いろんなことにチャレンジするのではないか」とコメント。
楽曲のジャンルの決め方について,なるけ氏は「クライアントが指定することもあるし,自分から提案することもある」と回答。また桑原氏は「モンスターストライク」の楽曲に読経を採用したが,これは仏教モチーフのキャラクターに由来しているとのこと。さらに桑原氏は自分で台詞台本を書くこともあり,それと作曲も密接に関連しているという。
楽曲についてクライアントと自分の意見が食い違うことがあるかという質問には,桑原氏が「ゲーム全体の雰囲気を踏まえて,曲のイメージをすり合わせていくのが楽しい。提案したりされたりしながら進めるので,すれ違いは少ない。」と回答する。
なるけ氏は,「好きな映画など周辺の話から相手の好みを探り出し,望まれている曲のイメージに近づけていくようなコミュニケーションができると確実によくなっていく」と語っていた。
影響を受けたクラシックの作曲家という話題では,岩垂氏が前述のモーツァルトのほかに,ハイドンとベートーヴェン,マーラーの名を挙げた。また,なるけ氏はドヴォルザーク,桑原氏はチャイコフスキーやヴェルディをそれぞれ挙げていた。
最後にゲーム音楽に対する思いを問われた岩垂氏は,ゲームによって求められるものが違うことから「臨機応変」と回答する。なるけ氏はゲームの多くが何かしらの戦いを描いているとし,「戦っている人への応援」と語った。そして桑原氏は,「ゲームの世界をより広げられるような曲を作っていきたい」と今後の意気込みを見せていた。
トークショーの後半に登壇した作曲家は中條謙自氏,加藤浩義氏,いとうけいすけ氏の3名だ。
最初の話題はゲームタクトについて。中條氏は一昔前と比べるとゲーム音楽は大きく進化し,ファンも増えている一方で,まだまだマニアが聴くものというイメージから脱却し切れていない事実があると指摘する。ゲーム音楽を多くの人に普段から聴いてもらえるような存在にするための1つの答えがゲームタクトであると改めて説明した。
そうしたゲーム音楽を馴染みやすくする手法の1つに歌ものの楽曲が挙げられる。実際,加藤氏が作曲を手がけた「消滅都市」では挿入歌が採用されているが,サウンドトラックの反響などから歌ものの楽曲がとくに好まれて聴いてもらえている実感があるという。加藤氏は「歌詞があると,聴く人の心により強く訴えかけることができる」と話していた。
また中條氏によると,なるけ氏が今回演奏された自身の楽曲のリハーサルにて奏者達に,「ここは『行け〜』と歌うようなイメージで」と指示を出していたエピソードを披露した。
最初からオーケストラで演奏されることを意識して作曲しているのか,という話題では,中條氏がかつてのゲーム音楽にはハード的な制約があり,それをいかにして最大限に活用することが重要だったと指摘する。その一方で,すぎやまこういち氏による「ドラゴンクエスト」の楽曲のように最初からオーケストラを想定して作曲し,そこからファミコンの音源に落とし込んでいく手法もあることを説明した。
また,そういったハード的な制約は今のゲーム音楽にはほぼなくなっているが,1曲の長さという縛りは残っているという。とくにスマートフォンゲームはサイクルがコンパクトになっているので,作曲が難しくなっていると中條氏は語った。
そんな中,いとう氏は3分程度のバトルのために10分におよぶ楽曲を作ったことがあるとのこと。「盛り上がるシーンの曲を作っていて,止まらなくなってしまった」と話し,「60秒という指定があっても,それではイントロとAメロで終わってしまう。イントロがあってAメロがあってBメロがあってサビがあって……と,つい長くなってしまった」と語っていた。
ゲームタクトにかける意気込みを改めて問われた中條氏は「ただ音楽を聴いて楽しむ場だけで終わらせたくない。だからこうしてトークもするし,会場をウロウロしたりもする。ある意味,音楽フェスのようなものにしていきたい」とコメント。
また加藤氏は「さまざまなゲームの音楽をオムニバス形式で楽しめるコンサート。曲の良さを知って,そのゲームを手に取ることもあるのでは」「沖縄で開催したときは,バンドの演奏やDJプレイもあった。今後もいろんな表現ができると思う」と語った。
いとう氏は「音楽を楽しんでいただくのはもちろんのこと,こうしたトークを聞いて勉強になったと思ってもらえると嬉しい」と話していた。
ゲーム音楽がクラシックのように100年後も残るためには何が必要かという話題では中條氏が「これまでにない違和感を作る」ことを挙げた。中條氏は上記の読経やメインテーマを壮大な曲調ではなくあえてジャズ調にしてみるといった試みを例に出し,「毎日のように新しいゲームが登場する今,新しいことにチャレンジしないと埋もれてしまう」と説明した。
また加藤氏も,「これまでにない新しい要素」を挙げる半面,「変わったことをやればいいというわけではない」とも話していた。
一方でいとう氏は,「ゲーム音楽を音楽単体で残そうとは考えていない」とし,「基本的にはBGMとして作曲しているので,ゲームとの接点が必要だと考えている」と持論を示した。すなわち「ドラゴンクエスト」シリーズや「スーパーマリオ」シリーズ,「モンスターハンター」シリーズなどの楽曲は,あくまでもゲーム本編のシリーズが継続しているからこそ多くの人に親しまれているのであり,ゲームプレイと切り離して考えることはできないというわけだ。
最後の話題は,楽曲についてクライアントと意見が食い違った場合にどうするかについて。3名とも喧嘩になることはないとし,プロデューサーやディレクターのオーダーの枠の中で自分がやってみたいことにチャレンジする,あるいはオーダーを踏まえて自分のやりたいことを提案し,落としどころをすり合わせていくと語っていた。
また,ラジオ本編は以下から確認できるので,こちらもチェックしてほしい。
ホンマルラジオ
「ゲーム音楽とクラッシックの素敵な関係」
〜ゲーム音楽がクラシック音楽になるには?〜
PART1
http://honmaru-radio.com/everyonehonmaru0009/
PART2
http://honmaru-radio.com/everyonehonmaru0010/
「東京ゲームタクト 2019」公式サイト
- この記事のURL:
キーワード