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「そうだ アニメ,見よう」第96回は虚淵 玄氏の「OBSOLETE(オブソリート)」。“髙橋良輔イズム”を受け継ぐロボットアニメが誕生
「Phantom -PHANTOM OF INFERNO-」や「沙耶の唄」など,数々の話題作を生み出したニトロプラスの虚淵 玄氏。その活躍はPCゲーム業界だけに留まらず,TVアニメ「魔法少女まどか☆マギカ」や「PSYCHO-PASS サイコパス」,特撮の「仮面ライダー鎧武/ガイム」といったヒット作品を手がけ,その鬼才ぶりを世に知らしめている。そして,虚淵氏の新たなチャレンジとなるのが,オリジナルフルCGアニメーション「OBSOLETE(オブソリート)」だ。
というわけで「そうだ アニメ,見よう」第96回のタイトルは,虚淵氏が原案・シリーズ構成を手がけるYouTube Originals作品「OBSOLETE(オブソリート)」。アニメーション制作は武右ェ門,監督は「風の又三郎」の山田裕城氏(武右ェ門)と、「ヨルムンガンド」や「コードギアス 亡国のアキト」で設定考証を担当した白土晴一氏が共同で務めている。
「OBSOLETE(オブソリート)」
一方,変わり始めた世界に対し,アメリカ合衆国をはじめとする先進諸国は,自国の産業保護などを目的に,エグゾフレームの輸入や利用を規制する「ザンクトガレン協定」を締結。その軍事的可能性も目を背けるばかりだった。
そんな政府の姿勢に危機感を抱いた合衆国海兵隊のボウマン(CV:田中正彦)ら一部隊員は,エグゾが世界に及ぼす影響の調査を独自に開始するが,彼らの前にドクロのエンブレムを付けた謎の部隊「アウトキャスト・ブリゲード」の姿が見え隠れする。
2023年,エクアドルとペルーの間を流れるセネパ川の国境紛争に,ボウマンらアメリカ合衆国が秘密裏に武力介入を開始した。
異星人のテクノロジーにより作られた意識制御型汎用作業ロボット「エグゾフレーム」により,変容していく世界を舞台にしたのが本作「OBSOLETE(オブソリート)」だ。エグゾフレームは全長2.5メートルと,こうしたロボットアニメに出てくるマシンとしては非常にサイズが小さく,フレームがむき出しになっているので,いささか頼りない。
しかし,人が中に座って思考する“意識制御”で動くため,習熟時間がほとんどいらず,なによりも安価である。石灰岩1トンで1台のエグゾフレームが入手できるのだが,ちょっと調べてみたところ,石灰岩は世界的に埋蔵量が豊富で,日本国内でさえ20万円もあれば必要量が揃ってしまう。
作中に登場する米軍の主力戦車M1 エイブラムス1台が400万ドル(日本円で約4億3000万円)であることを考えれば,いかに破格の値段であるかが分かるだろう。
そのため,作業用や戦闘用として瞬く間に世界に普及し,世界の軍事バランスを崩していく。本作は,そんな不安定な世界の戦場をエピソードごとに,時間や舞台,登場人物を変えてオムニバス形式で描いている。
“使い捨ての美学”の復権
この企画を立ち上げた虚淵氏は,往年のTVアニメ「太陽の牙ダグラム」(1981年放送)や「装甲騎兵ボトムズ」(1983年放送)のような,“壊れる”ロボットアニメが作りたかったとのこと。最近のロボットは壊れず,本来のロボットが持つ“道具としての魅力”が失われているという。
たしかにボトムズの主人公キリコは,戦場ごとにAT(アーマードトルーパー)を乗り換え,そこに“愛機”といった概念は存在していなかった。虚淵氏はこの“使い捨ての美学の復権”が本作の根底にあると,インタビューなどで語っている。
作中では,さまざまなエグゾフレームが登場し,ガンガン破壊されていく。そこにはオンリーワンな特別感はなく“兵器”としてのロボットがあるのみだ。昨今,こうしたロボットアニメが制作されず,不満に思っていた人に向けて,本作は生み出されたのだ。
じつは本作には,企画プロデュースとして,前述の2作品や「機甲界ガリアン」(1984年放送),「蒼き流星SPTレイズナー」(1985年放送)を手がけた,ロボットアニメの第一人者・髙橋良輔氏が参加している。つまり本作は正統な「髙橋良輔作品」の血統というわけだ。
リアルロボットにローラーダッシュは必需品
もちろん,こうした舞台設定だけでなく,ロボットアニメ本来の面白さも忘れてはいない。ローラーダッシュのような車輪による高速移動や,モノアイカメラによるズーム,パラシュートによる降下など,第1話「OUTCAST」からマニアックな要素が盛り込まれ,「これだよこれ!」とヒザを叩いたファンもいたとか(ええ,私です)。接近戦にて,使い捨てのトーチのようなもので敵の装甲を貫くという描写も,本作の持つリアリティを象徴していて面白い。
また,第3話「MIYAJIMA REI」の雪山での戦闘は,エグゾフレームの機動性とポテンシャルを感じさせてくれて,これは現用兵器とは異質なものなのだと,改めて気づかせてくれるエピソードだった。
なお,本作のキャラクターは,劇画タッチのバンド・デシネ(フランス語圏の漫画の手法)調で描画されている。キャラクターデザインを務めているのは,「タクティクスオウガ」や「ファイナルファンタジータクティクス」でお馴染みの吉田明彦氏だ。
劇画タッチなのは,「ちょっと距離を置いたような冷たさ」や「客観性」を感じさせることが狙いなのだという。さまざまな思惑を持った大人達の世界を表現するために,大げさな動きも抑え,立ち方やシルエットで内面を表現するようしているとのこと。本作の“男臭い”雰囲気は,こうしたこだわりから生まれたようだ。
「OBSOLETE」は,YouTube Originals作品として,YouTubeバンダイナムコアーツチャンネルで2019年12月より配信されている。公開中の全6話をすべて見られるのは,YouTube Premiumメンバーが対象となるが,2019年内に1〜5話,1月7日からは第6話の無料公開がスタートしている。各話15分程度で見られるので,まとめて見てもいいし,空いた時間に気軽に視聴するのもオススメだ。こだわり抜いた“大人のロボットアニメ”をぜひ堪能してほしい。
「OBSOLETE」公式サイト
「OBSOLETE」公式Twitter
放映データ |
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2019年12月〜 |
全6話 |
キャスト | |
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ボウマン:田中正彦 | |
ミヤジマ:森川智之 | |
レブナー:山野井 仁 | |
フェルナンド:高木 渉 | |
ジャマル:本城雄太郎 | |
カイラ:杉本ゆう | |
ザーヒル:大友龍三郎 |
スタッフ |
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原案・シリーズ構成:虚淵 玄(ニトロプラス) |
監督:山田裕城(武右ェ門)、白土晴一 |
メカニックデザイン:石渡マコト(ニトロプラス) |
キャラクターデザイン:吉田明彦・永井悠也(CyDesignation) |
設定監督:白土晴一 |
武器考証:鈴木貴昭 |
CG監督:中島智成(武右ェ門) |
撮影監督:小久保将志(武右ェ門) |
美術監督:谷口淳一(武右ェ門) |
美術設定:曽野由大 |
デザインワークス:本田大助(オールサンデー) |
編集:瀬山武司(瀬山編集室) |
音響監督:鶴岡陽太(楽音舎) |
サウンドデザイン:笠松広司(デジタルサーカス) |
音楽:石川智久(TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND) |
OPテーマ「obsolete」Written and Produced by Skrillex and Nik Roos |
EDテーマ「ORB-SOLUTION」TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND |
企画プロデュース:髙橋良輔 |
アニメーション制作:武右ェ門 |
(C)PROJECT OBSOLETE |
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