2019年12月14日〜15日にかけて,
第8回シリアスゲームジャム の制作&発表会が東京は立川のビサイドにて開催された(参加者は12月8日に専門家によるレクチャーを受け,チーム編成まで済ませている)。
シリアスゲームジャムは日本デジタルゲーム学会のゲーム教育専門部会が主催となって行うシリアスゲーム専門のゲームジャムだ。参加者の多くは学生で,今回は25名(5チーム)の参加となった。
ビサイドのオフィスに入ると,トロがお出迎え
シリアスゲームは一般的に,
「エンターテイメント目的だけでなく,教育など社会的な問題を解決するために開発されたゲーム」 であるとされる。
日本ではシリアスゲームに対する注目度はさほど高くないが,一世を風靡した「脳トレ」や各種学習用ゲーム,最近では「
リングフィット アドベンチャー 」のように大きなムーブメントを発生させることも珍しくない。
また海外での研究では周辺・近隣領域が広く設定されていることが多く,「シリアスゲームと一般のゲームの良いところ取りを目指している」と評価できる作品も増えてきた。
そんななか,第8回シリアスゲームジャムは
「みんなのバリアフリー(3)」 と題し,昨年の第7回に続いて
「アクセシビリティ」 がテーマとなった。今年は障がい者または高齢者と健常者が同じ土俵で競えるゲームの制作が目標となった。
“障がい者や高齢者とゲームをする”という話になると,多くの読者にとっては「自分と関係のない話だ」と感じるかもしれない。しかし,誰しも障がいを背負う可能性があるし,「老眼」という老化の影響を受けている読者もいるはずだ。
我々が楽しくゲームを遊び続けられるための技術を学ぶゲームジャムにおいて,どんな作品が生まれたのか。まずは,ゲームジャム終了後の成果発表と試遊会の模様からお届けしよう。
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2018/12/21 18:56
5チームによる成果発表
・チーム:
大関吉(だいかんきち)
ゲーム
「Buddy Kayak」
カヤックがテーマとなった二人協力型ゲーム。
お互いのプレイヤーはそれぞれ左右のキーを1つずつ担当し,キーを押した側の漕ぎ手がパドルを漕ぐ。これによって左右の推進力が変わるので,陸地に接触しないようにコースを漕いでいって,なるべく速くゴールを目指す。
本作のデザインにあたっては,健常者と障がい者が一緒に遊べるというだけでなく,
互いに積極的に声をかけあい,感想戦も楽しめるようにすること に力点が置かれているという。このようにして相互にコミュニケーションが行われることで,健常者と障がい者の間にある「健常者側からの無関心のバリア」を打破しようというのが目標だ。
ちなみにゲームの難度はなかなか高めで,思い通りにコントロールできるようになるには相当の練習が必要と思われる。一方で,練習すれば確実に上達できるデザインでもあるので,良い「やりこみ要素」と言えるだろう。
・チーム:
ビサイドオーラカ
ゲーム
「Dice Dragon Luck」
双六がモチーフとなったボードゲーム。最大4人まで同時にプレイでき,協力してドラゴンを倒すのが目的。
プレイヤーはサイコロを2つ振った後,そのどちらかを選択し,選んだサイコロの出目だけ前進する。ゲームボードは円周状になっており,それぞれのマスには「ドラゴンにダメージ」「自分を回復」「ドラゴンからダメージ」といった効果が示されている。
プレイヤーの最大HPは2で,1点ダメージを受けると振れるダイスが1つ減り,HPが0になるとゲームから脱落する。全プレイヤーが脱落する前にドラゴンのHPを0にできれば勝利だ。
本作のコンセプトは
「身体的な条件にかかわらず,運は誰もが持っている」 ことにある。つまり「運ゲーであればあるほど技術的要因によるバリアは低くなる」という,なかなか興味深い視点だ。
ゲームのルールはシンプルで,双六ベースなので高齢者にも理解が容易だ。また可能な限り言語依存度が低くなるようにデザインされているため,ランゲージバリアについても低いと言える。
また完全な運ゲーではなく,「2つのサイコロのうちどちらを選ぶのか」という選択の要素は存在しており,ただダイスを転がし続けるためのゲームではない。
・チーム:
いえいえ
ゲーム
「ユニークショット!」
間違い探しとシューティングゲームをミックスさせた作品で,敵集団の中に紛れている「ほかとはちょっと違う敵」を素早く見つけ出して攻撃するというのが趣旨。
間違い探し という誰もが遊んだことのあるゲームをベースに,
シューティングゲーム の爽快感をプラスすることで,高齢者と一緒に楽しめるゲームを目指した。
残念ながら本チームはゲームを駆動状態にまでは持って行くことができなかった。またチームメンバーの情熱が高いからこそ起きる「ボタンの掛け違い」も発生したうえ,チーム内部での使用言語が日本語・英語・中国語と多岐にわたったことによるコミュニケーション不全がそれを後押ししたのだという。
発表者は「コミュニケーションの向上を目指すゲームを作ろうとしていたのに,実のところコミュニケーションを取れていなかったのは自分自身だった」と反省していた。
近年では「ゲームジャムで作ったゲームをもとに商業版をリリース」といったケースもしばしば耳にするようになったが,ゲームジャムにおいては「時間内に動くところまでたどり着けませんでした」ということも珍しくはない。これについてシリアスゲームジャム運営側の古市昌一教授(日本大学生産工学部)は「失敗が経験できるのもゲームジャムの良さであり,ぜひ次もチャレンジしてほしい」とエールを贈った。
・チーム:
ゼロイチ
ゲーム
「OneButton Curling」
カーリングがモチーフのゲーム。ターゲットは四肢不自由者と高齢者で,操作が難しいというだけでなく,「ゲームとは何をするものなのか」というゲーム・リテラシー不足への配慮(およびそこにあるバリアの突破)がデザインの根幹となっている。
基本ワンボタンで操作できるUIで,また音声入力にも対応しているので複数人の同時参加も可能だ。カーリングのストーンを投げるパワーをボタンで決定し,「氷を磨いてストーンを前進させ続ける」動作をボタン連打ないし「声かけ連打」で行う。
テーマとしてカーリングを選んだのは,話題性に基づいたからだという。もっともゲームそのものは実際のカーリングの試合のごく一部を切り取ったもの(特定の状況に対して,まっすぐ一投するだけ)なので,カーリングのルールに詳しい必要はない。
物理系の挙動がいささか怪しいのと,スコアリングのメカニズムにバグを含んでいたためプレイヤーが困惑するシーンはあったが,ゲームとしては完成している。
また本作は第8回シリアスゲームジャムにおいて,
唯一デフォルトで音声入力を用いた作品 である。ここ数回のシリアスゲームジャムでは採用例が多かった音声入力だが,今回人気が今ひとつだったのは少し面白い。
・チーム:
マーベル
ゲーム
「Telepathy」
言葉で表現しようとすると非常に難しいので,実際に写真を見ていただくのが早い系の作品だ。
回転する切り絵の回転をタップで止めて,自分好みの模様を作っていくのがゲームの趣旨。一応,「ここで止めると良い」というガイドは「影」として存在しており,「影」と「いま回転している切り絵」をピタリと一致させて止めると高得点が得られる――が,本作の趣旨はあくまで「自分の好きな模様を作る」ことであり,ハイスコアを狙うのは余録ということになるだろう。
本作のデザインにあたっては「障がい者向け」を意識しすぎれば,今度は「障がい者のためのゲーム」になってしまい,結果的に健常者との間にバリアを作ってしまうという問題意識がキーポイントとなっている。実際,本作においては「ここが障がい者向け」と特筆すべきデザインは存在せず(ワンボタンでプレイできる程度),
「たとえ健常者しかプレイヤーとして想定していなくても,こうなりますよね」 というUIになっている。
またゲーム・リテラシーに対するバリアという面においても,「アートを作る」という内容にすることによって,ゲーム・リテラシーが低い高齢者でも楽しめ,かつ自分が作った作品を発端にしたバイラル効果によるコミュニケーションとコミュニティの広がりが期待できる。
デザイン部門とグランプリを受賞したチーム「マーベル」が圧勝
プレゼンと試遊会の後は,結果発表と講評の時間となった。結果は以下の通り。
・Excellent Research
ゼロイチ
大関吉
・Excellent Design
マーベル
・Grand Prix
マーベル
マーベルがグランプリを獲っただけでなく,デザインも受賞するという圧勝 であった。画面の説得力もさることながら,障がい者向け・高齢者向けを意識することによって「そういうゲーム」になってしまうことも回避した手腕は卓説したものだったと言えるだろう。
また,受賞した作品だけが良い作品だったというわけではない。事実,講評においては「第8回シリアスゲームジャムはこれで終わるけれど,今後この作品をもっと作り込んで,世の中のためになるものにしていってほしい」(遊びと学び研究所・岸本好弘氏),「もうちょっとだけリニューアルや作り込みをして,まとめて世に出してほしい」(ビサイド・南治一徳氏)といった声が相次いだ。具体的な締め切りや目標なしに開発を続けるのは大変かとは思うが,それもまた良い経験と言えよう。
ビサイド・南治一徳氏
日本大学生産工学部 古市昌一教授
第8回シリアスゲームジャムは海外からの参加者(学生)も多く,言語の問題でコミュニケーションに苦しんだチームも少なくなかったようだ。
一方でグランプリを獲得した「マーベル」はチームのほとんどが中国からの参加とあって,ここは逆にコミュニケーション・ギャップは少なめだったかもしれない。だがそれだけでは説明不可能なくらいに,作品の完成度に歴然とした差があったのも事実だ。
実際,「Telepathy」は「短時間でゲームを作るにあたって,何をどうすれば良い結果が得られやすいかを熟知しているチームが作った作品」と評するほかない。ただ,チーム「マーベル」はけして順風満帆だったわけではなく,途中で一度企画からやり直したというのだから,「おそるべし」の一言である。
もちろん,「Telepathy」に問題がまったくなかったわけではない。個人的に最も気になったのは,「高いスコアが得られる状態でないとき」に回転を止めると,
「ブー」という警告音が鳴る仕様 だ。
本作はあくまで「作品を作る」ゲームであって,ハイスコアを目指すかどうかはプレイヤー次第なのだから,「スコアが伸びない選択」に対してゲームが否定的なリアクションを返してしまうのはいただけない。このあたり,ゲームというものはたったひとつの効果音が決定的に気に障ることもあるという,ゲーム作りの怖さと面白さを如実に示した事案と言えるだろう。
また全体的に感じられた問題点として,「欲張りすぎて仕様が定まらなくなったのではないか」という点がある。
今回の課題は「障がい者または高齢者と,健常者が,同じ土俵で競えるゲーム」であって,ここで示されているプレイヤープールは「(障がい者 OR 高齢者) AND 健常者」だ――つまり障がい者と健常者,ないし高齢者と健常者だけが同じ土俵で戦えるというだけでも,条件は満たしている。だが,事実上すべてのチームが「障がい者 AND 高齢者 AND 健常者」を前提としたゲームを作ろうとしていたように思える(障がいを特定しているチームはあった)。
障がいは後天的に得ることもあるのだから,バリバリの若いゲーマーがある日突然,重度の障がいを負うという可能性もある。なのに「いまから自分たちがゲームを作ろうとしている相手は高齢者であり,従ってゲームのリテラシーがない」と決め打ってしまい,それによってデザインの幅を自ら狭めているケースが散見されたのは,企画を統御するチームリーダーの重大なミスではないだろうか。
このあたりは事前のレクチャーだけでなく,「何かをはじめてしまう前に,基本的なドキュメントを何度でも確認する」姿勢が必要なように思える。チームで登ろうとする山が高ければ高いほど,コミュニケーションコストも幾何級数的に跳ね上がっていくのだから。
海外勢の参加者増によって急激にレベルが上がるとともに,チーム内での言語の壁という課題とも立ち向かわねばならなくなったシリアスゲームジャム。環境としては極めて面白いので,ゲーム業界を目指す学生であれば要注目と言える。