企画記事
「真・女神転生III NOCTURNE HD」のCMは,ゲームと同じく“原作尊重”がテーマ。監督の齊藤雄基氏とアトラスの山井一千氏に,制作経緯やこだわりを聞いた
これは真3HDのオリジナル版である,2003年発売「真・女神転生III -NOCTURNE」(以下,真III)(※1)のCMを再現したもので,映像だけではなく,監督は映像作家 / CMディレクターの齊藤雄基氏,ナレーションは声優 / ナレーターの藤井千夏さんと,こちらも当時の担当者を起用し,ゲーム本編と同様“原作尊重”をテーマに制作されている。
4Gamerは同CMの撮影現場を取材し,10月30日に公開された30秒フルサイズ版がまさに完成するというMA(※2)の現場にて,CM監督の齊藤氏と真3HDのディレクターを務めたアトラスの山井一千氏にインタビューを行ってきた。CM制作の経緯や原作尊重へのこだわり,制作に懸けた思いなどを聞けたので,本稿でそれをお届けしよう。
※1 リマスターのベースは,真IIIに新要素追加版となる「真・女神転生III-NOCTURNE マニアクス クロニクルエディション」
※2 マルチオーディオの略。映像に音楽やナレーションなどを付け加え,作品を仕上げる作業
「真・女神転生III NOCTURNE HD REMASTER」公式サイト
根強いファンがいるのはゲームと同じ
だからこそCMも“原作尊重”をテーマにした
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
まずは,なぜ17年前のCMを再現した動画を制作しようと考えたのか教えてください。
実は,真3HDのコンセプトにある“原作尊重”に関係しているんです。
このコンセプトって,根強いファンのみなさんに長い間支えられてきた真IIIのリマスターをお届けするとなったとき,システムやあの雰囲気を残す意味でも「なるべく余計なことはしないほうがいい。なるべく当時のままを残してお届けしたい」という思いで生まれたんですが,「その話ってゲームのCMにも当てはまるよね」というところから始まってるんです。
4Gamer:
気になりますね。どういうことでしょう。
山井氏
今回のオリジナルとなる17年前のCMって,ゲームと同様に当時から根強い人気があって。街を背景に人修羅が落ちてくる印象的なシーンやBGMのピアノ,「東京が死んで,僕が生まれた」というナレーションなど,いまでも話題にしていただけることが多いんです。
それならばと,プロモーションチームに「ゲームに合わせてCMも“原作尊重のHDリマスター”みたいなものが作れたら面白いよね」という話をしたのが始まりですね。
4Gamer:
それはいつごろの話ですか? というのも,CM制作現場の取材にもうかがいましたが,それがCM公開日の2週間前で「なかなかタイトなスケジュールだな……」と思ってしまいまして。
山井氏
9月の半ばくらいですね。その時点でも「間に合うかな……」という話はありました。それでもゲームと同じような形で過去のCMを蘇らせるというアイデアにはプロモーションチームもノリノリで,オリジナル版からのファンに刺さる施策という点でも,「なるほど,これはやるべきだな」と。
そこから,「原作尊重なら映像自体はもちろん,監督も当時の人にお願いしてみたらどうか」という話になり,それで探し出して齊藤さんにお声がけしたんです。
4Gamer:
探し出して,なのですか? アトラスに当時のCM制作に関する資料はなかったのでしょうか。
山井氏
調べてはみたんですが,出てこなかったんですよね。
当時と今で会社の状況が変わっていますし,あのころはゲーム制作が修羅場だったため今回ほど開発チームがCM制作に関わっていなかったという理由もあって,当時を知る開発スタッフにも確認したんですけど,「ちょっと覚えてない」という感じでした。
4Gamer:
では,どのような形で齊藤監督にたどり着いたのでしょう。
山井氏
プロモーションチームが当時のCM情報誌を探り,メイキングか何かの記事を見つけて……といった流れでしたね。それで「おそらくこの方だと思われます」という形で齊藤監督の名前を広告代理店に伝えて,実際に齊藤監督に確認を取っともらって,という。
齊藤雄基氏(以下,齊藤氏)
連絡をいただいたときはびっくりしました。約20年この仕事をやっていますが,こういったケースは初めてでしたから。社内の人間も含め「なんだろうね,これ?」って。
4Gamer:
最初から,17年前のCMをもう一度撮ってほしいという依頼だったんですか?
齊藤氏
いえ。お話をいただいた段階では,「こういうプロジェクトを動かそうとしているので,権利関係について教えてほしい」という質問くらいで,その時点では僕への監督の依頼という形ではなかったんです。
当時のCM制作に使用した音楽などはアトラスさんのものだったので,「権利的には問題ないと思います」とお伝えしたら,すぐあとに「制作が決まったら手伝ってもらえないか」という連絡が来て。「もちろん大丈夫ですよ」と返事をしたら,あらためて正式な制作依頼が来たという流れです。
4Gamer:
最初に相談がきた時点では,アトラス側もまだ“やるなら監督も原作の人に”というところは固まっていなかったのですか?
山井氏
そうですね。それができればとは思っていましたが,スケジュール的に難しいというのがありましたから。
そもそも最初に齊藤監督に連絡した時点では,実際に制作するかどうかもまだ固まっていませんでした。その段階では原作尊重という案だけではなく,今風に解釈して作り直すという案もあったんです。
4Gamer:
では,原作尊重のリマスターで確定し,齊藤監督ご自身がディレクションを担当することが決まったのはどの段階での話なのですか?
齊藤氏
10月初頭ですね。メールだけでのやり取りではなく,「一度オンラインで集まろう」とミーティングを行い,アトラスさんとこちらの,お互いのアイデアや意見を出して方向性を固めました。
そこで(人修羅の)落下シーンなど,アトラスさんが大事にしたい要素やこだわりについて聞き,スケジュール的にももう動き出さなくてはいけないし,腰を据えて監督をやりますというお話をしました。
山井氏
それまでのメールのやりとりでは,「どこを確実に残すべきか」という踏み込んだ話はできていなかったんですよね。ミーティングでそのあたりのこだわりやお互いの考え方などが確認できて,「こういう形なら原作尊重のCMが作れそうだ」と。
さまざまな条件が重なって撮影できた
“生”の東京と「静と動」「光と闇」の対比
4Gamer:
齊藤監督は,オリジナル版を制作したときのことをどれくらい覚えていたんですか?
齊藤氏
「このシーンはこう作った」「これをするには何が必要か」といったことは明確に覚えていました。
例えば人修羅が東京の街を落下していくシーンですが,オリジナル版ではフルCGで街を作っていたんです。それを覚えていたので,ミーティングのときに話が出た際も,「これは時間がかかるはずだから,いったん持ち帰ってやれるかどうか調べる必要があります」と,すぐにお伝えすることができました。
山井氏
意見交換の時点ですぐにそのあたりが確認できたのは大きかったですね。
4Gamer:
話がスムーズに進んだと。人修羅が落ちてくるシーンですが,オリジナル版ではフルCGという話でしたが,今回は東京で撮影された実写映像が使用されていますね。これはどのような流れで決まったのでしょう。
齊藤氏
落下シーンはアトラスさん側でとくにこだわりのある部分という話で,そのこだわりを聞いたら,やらないという選択はありません。
スケジュール的に厳しいものがありましたが,どのような形でならできるか。それをCG制作チームに相談した際に,「背景は実写で撮れば期日に間に合うと思います」という意見があがったんです。僕はその段階ではフルCGで作るという考えしかなかったのですが,「ドローンを使えばできる」と聞いて,それなら確かにできそうだと。
4Gamer:
ドローン撮影という,当時の制作方法にはない手段での解決法があったと。
齊藤氏
はい。ただリスクも当然あって,ドローンを飛ばせるかどうかは天候に左右されるんですね。実際,撮影日は雨が降っていたのですが,雨雲レーダーを見ながら「10分後に5分間だけ雲が無くなる!」みたいに,雲が無くなって雨が止んだら飛ばすというのを4,5回繰り返して撮影しました。
4Gamer:
これは東京の銀座あたりの風景ですよね。都内だと,ドローンは飛ばすだけでも許可などを取るのが大変そうですが,このあたりはどのようにクリアしたんですか?
齊藤氏
たしかに東京都内で許可を取るのは難しく,動かせる範囲や高さといった条件もあって,撮影可能な場所を探すのも大変です。
ですが,たまたま仕事で何度か登った事があるビルの屋上を思い出し,窓口の方もよく知っている人で,相談したらすごく迅速に対応していただけまして。シーン的に撮影は垂直飛行のみでそこまで高く飛ばなくても済むので,ビルの屋上くらいの敷地でも十分に必要な絵が撮れました。
山井氏
真IIIって東京の話なので,実写で背景を撮ると聞いたとき「ぜひ東京の街を撮影してほしい」って思いがあったのですが,ただ難しいのも分かっていて。それがふたを開けてみれば東京で撮影できたと。嬉しかったですね。
齊藤氏
いちおう保険はかけていて,朝イチで幕張に行って撮影していました。そのままだとやはり幕張は幕張なんですけど,CGでビルを作って追加すれば,実際の東京ではないにしても真IIIの世界観を表現できると考えていました。
4Gamer:
銀座は“ギンザ”としてゲームでは重要な場所として出てくるので,CMを観た人も嬉しいものがあったと思います。
山井氏
そうですね。ゲームが200X年と2020年より前が舞台なので,当時の東京を再現するか,今の東京にするのかは,アトラスの中でも議論が分かれたところでしたが,結論として“今の東京を撮る”という選択で間違いなかったと感じています。
「2020年 少年は再び悪魔になる」という今回のキャッチコピーに合わせたかったので。
齊藤氏
あのシーンは,天気が良くなかったことが,結果としてよいものにつながっているんです。
最初は僕の中で,なんとなく“絵は綺麗じゃなきゃいけない”みたいなものがあって,晴れの中で後光が差す映像みたいなのを撮ろうと考えていたんです。曇りの中で1度だけそういった絵が撮れたので,それを使って人修羅が落ちるシーンを作ってみたんですが,それがなんだかしっくりこない。“生”の東京に人が落ちてくる感じというのがしなかったんです。
4Gamer:
生の東京,ですか。
齊藤氏
「リアルな東京に人修羅という異物が落ちてくる」という“違和感”ですね。絵が綺麗すぎて,その違和感がうまく出ていないと感じられた。
あと,オリジナル版では下に落ちていくにつれて背景のビルがゆがむようなエフェクトを入れていたんですが,これも綺麗な絵と同様,今回はそれもしっくりきませんでした。カラーの調整などは行っていますが,なるべく余計なことはしない方がいいと感じたんです。
山井氏
動画を見せてもらったときは,監督から「このシーンは,人修羅が羊水の中にいるイメージです」という話をうかがいました。
ただ落ちていくというイメージだけではなく,産道に見立てたビルの間をだんだん「生」に向かって進み,最後は光に包まれる。「東京“に”産み落とされる」という見方ですね。「東京“から”産み落とされる」という解釈もできますし,本当に面白いシーンだと思います。
齊藤氏
ちょっとした裏話をすると,そういった映像を作るうえで,幕張での撮影って無駄になっていないんですよ。
実は映像の一番右側の手前にあるビルは,幕張で撮影したものを足していて,これによって画面全体に締まりと縦の移動のストロークが生まれているんです。
山井氏
なるほど。手前に何もない絵では,通過する感じが出ないということですよね。
人修羅の落ちるシーンは,依頼しておいて失礼な話ではあるのですが,「これで発売日のオンエアに間に合うのか」と思ったところも「できる」と聞いて驚かされ,実際にできたものを見てまた驚かされました。
人修羅はゲームのCGモデルを用意したのですが,綺麗にしてお渡ししたものの,もとはローポリゴンの素材ですから。あそこまで仕上げるのは大変だったんじゃないかと思います。
齊藤氏
そのあたりは,オリジナル版ではイチから作ったところを,今回はゲームのCGモデルを使えたことは大きいのです。ですが,何よりCGチームが本当に優秀だったということですね。
4Gamer:
撮影と言えば,演出やボディペイントなどからもかなりのこだわりを感じました。そのあたりをお聞きしたいのですが,まず,どのように人修羅役を選んだのでしょうか。
齊藤氏
人修羅役をお願いしたのはダンサーの方です。これはオリジナル版のときにどのようにキャスティングしたのかを明確に覚えていて,そのときもいわゆる普通の役者さんやモデルさんではなく,ダンサーに絞ってオーディションしたんですよ。
身体のラインや筋肉の作り方が違うというのと,台詞ではなく所作で感情表現をする作品なので,そういった条件でダンサーの方がふさわしいと。
4Gamer:
ボディペイントも“片足1時間待ち”みたいなかなりのこだわりでした。
齊藤氏
キャスティングと違って,ボディペイントについては当時のことを覚えていないんですよ。誰に頼んで,現場ではどうやったかも忘れてしまったのですが,今回ほどは時間はかかっていなかったと思います(笑)。
今回担当してくれたメイクさんは知人を介して紹介してもらったのですが,その道の第一人者の方で,本当にこだわりとプライドを持って取り組んでいただけました。
4Gamer:
撮影現場でかなり話し合っている様子でした。どのような話をしていたんですか?
齊藤氏
例えばツノのような髪ですが,「絵的には入らないので端折って大丈夫です」と伝えるまで,どのように再現するか悩まれていましたし,体に浮かぶライトブルーのラインも,模様全体を“身体からにじみ出てきたもの”という風に見せたいことや,ゲームのキャラクターだからこそ成立する色で,実際に人間の肌に塗るとペイントに見えてしまうのでそこはやめましょうと話しました。
ブルーがなくなった分,模様が痩せて見えるところは,バランスを見ながら太さを調整したいといった提案もしていただけましたし。すり合わせがうまくできたと思います。
山井氏
腕に模様が浮かぶシーンですが,最初のほうは「あのアニメーションはできない。シーンの再現は厳しいかもしれない」みたいな話だったんです。
それが撮影日が近づくと,「これもできるようになりました」「これもやります」という連絡がどんどん増えて。現場全体に熱気があるというか,“原作尊重のリメイクへの執念”みたいなものが生まれているみたいで,CM制作陣にそれだけ熱心に取り組んでいただけていたのが本当にありがたかったです。
4Gamer:
腕に模様が走るシーンでは,壁に手をつく際の力の入れ方や角度など,齊藤監督自身が実演しながら何度も細かく撮影されていたのが印象的でした。どのあたりを重視し,何を確認して撮影されたのでしょう。
齊藤氏
撮影しながら考えることもありますが,“短い秒数でどれくらい正確に伝わるか”みたいなところは常に大事にしている点です。コマーシャル尺の映像は,1秒という短い時間に,場合によっては1秒にも満たないところにすべてを詰め込まなきゃいけないわけですから。
4Gamer:
具体的にはどのような演技プランを伝えたんですか?
齊藤氏
文様が浮かぶシーンで言えば,浮かびあがってくるわけですから,ものすごく痛かったり苦しかったりするはずだと。そして,それを出すまいと抗う気持ちがあるはずです。この,「自分の中から出ていこうとするもの」と「それを押し戻そうとするもの」という2つを意識してやってくださいという話は伝えましたね。
あとは,演技ではなく本気で苦しんでいるようにしたかったので,「トリミングできるから手をつく位置は気にしないでいい。本当に自分がそういう状態になったときをイメージして動いてほしい」と話し,腕だけではなく身体全体で動いてもらいました。
山井氏
オリジナル版のときはどういう演技プランで進めたのか気になりますね。
齊藤氏
似たようなことを考えてやっていたと思います。
人修羅が落ちてくるシーンと暴れるシーンもそうなんですが,常に「静と動」や「光と闇」といった対比は意識していました。模様が浮かぶシーンで言えば,背反するものが1人の身体の中でうごめいていて,それをどうやって自分の中に閉じ込めるのか,どのように抗うのか,という点ですね。
4Gamer:
手をつくシーンには都内のある建物にある駐車場を使い,人修羅が暴れるシーンも同じ建物内のボイラー室で撮影されていましたよね。
ボイラー室は,ところどころ塗装が剥げていたり埃が舞っていたりと,撮影用に貸し出しているような場所ではありませんでした。あの場所はどうやって見つけたんですか?
齊藤氏
最初はコンクリートの倉庫的なところを探していて,第三候補くらいまでに絞ったんですね。撮影まで日がないため仮押さえという手段は使えず,この場所だと決めて押さえるか,ほかの人に押さえられてしまうかという状態だったんですが,第一候補だった場所が取られてしまったんです。
それで,あらためて僕のストックの中からあの建物を選んで,駐車場とマシンルームを見るためにロケハンに行ったんです。マシンルームを見ている途中に,なんだか気になる梯子があって,ここを登っていいですかとお願いしました。
4Gamer:
藤井千夏さんが担当されたナレーションも当時の雰囲気そのままという感じでしたね。
ナレーションと同じくらい気になっていたのが音楽です。オリジナル版の音源をそのままリマスターして使っていると思ったら,そんな感じではないですよね?
山井氏
これがですね,面白い話があるんですよ。
齊藤氏
まずオリジナル版の楽曲ですが,あれはアトラスさんからいただいた楽曲データが,トラックごとに分かれたものだったので,それをもとに僕とミキサーさんで作ったものなんです。
「この音は取ろう」「この音はいらないね」という感じでどんどん削っていって,最終的には主旋律も外してピアノのラインのみにしたものですね。
山井氏
この話には驚いたんです。今だったらそういうやり方はけっこう難しいですから。
齊藤氏
ふつうはトラックが分かれたデータでもらえませんし,作り直すということもやらせてくれませんよね。でもこのときは,ゲームの世界感により大きなインパクトを持たせて伝えるためにも尖った表現をしなければならないという思いがあって,それが叶ったんです。
4Gamer:
では,アトラスに元のデータがあるわけでも,楽譜のようなものが残っているわけでもなかったんですね。
山井氏
どういう形で作られたかは分からなかったですね。元の楽曲は目黒(将司)が作曲した真IIIのテーマ曲なんですが,今回あらためて確かめてみたら,「たしかに自分の作った曲を使っているようだけど,経緯は不明」という話でしたし。
それくらい開発現場とCM制作は別の動きをしていたという話にもなるのですが,楽曲としてはCMオリジナルと言えるものだったんです。
齊藤氏
オリジナル版は15秒もなかったので,メインの部分はそのままに続きの部分を作ったり,僕的に「こういう要素を加えたい」というものを足したりしました。
4Gamer:
具体的にどのようなものを足したのですか?
齊藤氏
何か所か,すごく高いキーのピアノの音を足しているんです。絵作りのときと同じく,相反する2つのものを入れることで生まれる“違和感”のような,妙に耳に残る感じを付け加えたかったんですね。
山井氏
アトラスとしては,当初はどういう経緯でCM楽曲ができたか分からなかったので,「音楽は変わってもいいんじゃないか」みたいな感じだったんです。
それが,まさか齊藤監督が一番知っているとは思いませんでした。しかも「オリジナルと同じにしますよ」とものすごくこだわって新たに楽曲を作るところまでやってくれたんです。
4Gamer:
絵的な部分だけではなく音楽までも原作尊重のリメイクを実現してくれたと。
山井氏
原作再現という点もですし,リマスターという意味でも,本当に想像以上の作品に仕上げていただき感謝しかないですね。15秒バージョンの監修は16秒くらいですし,今日は30秒バージョンをチェックしたんですが,これも32秒ぐらいです。見終わってすぐ「はい。良いと思います」って。
4Gamer:
一度とおしで見て1,2秒で判断できるくらい,文句なしの出来だったと(笑)。
山井氏
はい(笑)。変な話ですが,限られた期間ですし,無理を言ってやっていただいたというのもあったんで,出来上がったものがオリジナル版に似て非なるものであっても,良い作品に仕上がっていて,ファンに満足してもらえるものになっていれば問題はないかなという考えもあったんです。
それが,想像を超えるクオリティで,オリジナル版の空気感はそのままなのに,2020年といういま,新しいものを打ち出せる作品に仕上がっていると。純粋に「早くファンの皆さんにお届けしたい」と思える素晴らしいCMに仕上がりました。
17年で積み重ねたものに,偶然や運が結びついて叶えられた“原作尊重”
山井氏
僕のほうから齊藤監督に聞きたかったんですが,当時と今で作り方などで変わったなと感じたことってどのあたりにありますか?
時代が変わったというのもあると思いますけど,個人的にも経験を重ねて考え方が変わったことなどもありますよね。
齊藤氏
作品を作るうえで一番分かりやすく変わった点で言うと,前回は4:3のブラウン管向けだったことですよね。4:3と16:9という画像の比率の違いで絵の見せ方や攻め方は変わりますし,最近だと2Kや4Kで視聴できるわけで,根本の考え方がけっこう違います。
攻めているという話だと,オリジナル版の方かもしれないですね。見せたいところ以外は見えなくてもいいくらいに,アングルや何かをがっつり落として作りましたから。
山井氏
ああ。今は全体がはっきり映るからそれが難しいけど,ブラウン管のときはいい感じでボケるからそれができましたよね。
齊藤氏
そういう意味でオリジナル版は狭い世界で撮っているんですよね。ビルとの距離感が近いし,ビルの数が少なくてもそれができたんです。でも,いまの画角で同じような狭い世界を作ろうとすると,ビルの数が増えて息苦しい絵になるかもしれません。
4Gamer:
単純にビルで埋めれば当時の絵になるわけではないと。
齊藤氏
原作尊重を意識しつつ,このサイズになったからこそのスケール感のある絵にしようと考えました。それが実際の街を撮影するところにもつながっています。昔はそれこそ空撮なんてとても大変なものでしたが,ドローンがあることで本当に可能性が広がりました。
これはドローンの話だけではないですが,いろいろな技術があることは知っていても,実際に触れてみないと思いつかないような解決方法があるということをあらためて感じましたね。
山井氏
ものづくりをしていると,当初考えていた方法が使えず代替案として出したものや,最初にやりたかった表現がうまくいかなず「もう駄目だ」という状態からひねり出したものから,想定したものとは違う形で良いものとしてまとまることがありますよね。
名作と呼ばれる作品にもそのような話はありますが,さっきのボイラー室の話なんかもそれですね。偶然見つけた場所があれだけ印象的なシーンになったわけですから。
齊藤氏
最初に本命にしていた場所が取られていなかったらあのシーンは生まれなかったと思うと,たしかにそうですね。
あの建物自体は,話をすれば基本どんな場所でも貸してくれるんですけど,あのボイラー室は入ったことがありませんでしたし,何度もあの建物で撮影しているスタッフも,「あそこは今回の撮影には合わない」と思っていたら……という話でしたから。
山井氏
我々に試練を授けることも多いメガテンの神々ですが,今回はさまざまな形でご加護をいただけました。
4Gamer:
(笑)
齊藤氏
偶然や運というものはありますが,それらは自分自身がこの17年で積み上げてきたものがあってのことでもあると感じています。あの場所を思いついたのも,以前ミュージックビデオの撮影のために似たようなロケーションを探したことがあったからです。
制作スタッフやドローン撮影をしたビルもそうですが,オリジナル版を撮影した17年前からこれまでに作り上げた人間関係やリソースが,とてもうまい形でつながっていったかなと。藤井千夏さんも,疎遠にはなっていましたが今もつながりがあったから,「お久しぶりです。お願いできますか」という形ですぐに話を進めることができましたし。
4Gamer:
実際,制作期間ってどれくらいだったんですか?
山井氏
制作する内容を具体的に決めて3週間くらいでしたね。こちらも「あれもできる」「これもやります」みたいな連絡をもらいながら,本当に間に合うのかハラハラして待っていました(笑)。
齊藤氏
バッファのまったくないスケジュールでしたが,無駄な時間もなく進んだと思います。通常,CMを制作する際は企画や出演者,スケジュールなどを確認するPPM(プリプロダクション)を行うのですが,アトラスさんと話し合い「それはやらずに,決まったものから順次やっていきましょう」という形で進めることができましたから。
いわゆるCMの作り方で段取りを踏むようなことをすべて端折って進められたのが,いろいろな部分で時間のロスを軽減できたと思います。
山井氏
何かを制作するときって,「こうしなくちゃいけない」みたいなものが細かければ細かいほど時間がかかるし,作っている者同士でストレスになっちゃうと思うんです。
そのあたりはミーティングで「ここは押さえてほしい」みたいな部分の確認がしっかりできていましたし,常にオンラインで「こういうことができるのでやってみます」「こんな感じでいきます」みたいなやり取りができていたので,「ここからは安心してお任せできる」という信頼がありました。
4Gamer:
すでに多くの人たちが観ていると思いますが,最後に,このCMをどのように受け止めてほしいかなど,読者にメッセージをお願いします。
齊藤氏
どのように観てほしいというのはなく,皆さんそれぞれの感性で受け止めてほしいのですが,CMを観た人達がどのように感じるのかは気になります。
このCMは,ゲームファンで17年前のオリジナル版を知っている人向けという,観る人をかなり絞って作られたものですよね。ここまで対象を絞って作ることってめったにありませんので,どういう反応があるのか,楽しみでもありますしドキドキしています。
山井氏
まずは17年という長い間,真IIIというゲームを好きでい続けてくれて,ゲームはもちろんCMを覚えているというファンの皆さんに楽しんでいただきたいですね。「こんなに違和感なく,オリジナル版の雰囲気を再現できたよ」「綺麗な映像でお届けできたよ」と,自信を持ってお届けできる映像となっています。
4Gamer:
では,当時を知らない人やゲームを未プレイだった人,真3HDでメガテンを知ったという人向けにはどのような思いがありますか。
山井氏
「ゲームはもちろん,CMもオリジナル版のころからこんなに尖っていたんだよ」「それを,当時のクリエイターが丁寧に蘇らせてくれたよ」ということをお伝えしたいですね。ここまで作家性が感じられるものって,かなり貴重だと思うんです。ぜひこの雰囲気を楽しんでほしいです。
もちろんゲーム自体も,ですね。さまざまなエンディングが用意されている作品ですし,発売後に配信されたDLCなどでまた違った雰囲気でゲームが楽しめますので,ぜひ繰り返し遊んでほしいです。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
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