イベント
「マヨナカ・ガラン」「くちなしアンプル」制作現場でのUEの活用事例が紹介された,UNREAL FEST EXTREME '22 SUMMERの講演をレポート
UNREAL FEST EXTREME '22 SUMMER 特設ページ
初のUEでのゲーム制作となった「マヨナカ・ガラン」
講演はCAVYHOUSEの紹介で始まった。約10年間の活動歴があるCAVYHOUSEは,ゲームデザイン,プログラム,グラフィックス,楽曲などの制作を幅広く担当している善乃氏と,シナリオ担当のyOs氏の2人によるゲーム制作チームだ。
基本的に(1)テーマの決定→(2)ゲームの形に落とし込む(システムを完成させる)→(3)必要な素材作り→(4)デバッグや移植の作業という流れで,(3)でゲーム冒頭からエンディングまでを順番で作り上げていくという。
そんな,同社が初めてUnreal Engineを用いて制作したタイトルが,「マヨナカ・ガラン」だった。これまで挑戦したことがなかった,“完全にストーリーがメイン”のノベルゲームを作りたいという思いから,制作が始まったという。
最初に障壁として立ちはだかったのが,善乃氏が考えるノベルゲームの魅力のひとつである“クオリティが高く,情報量の多い1枚絵”を,自分一人で大量に用意することの困難さ。この問題の解決を考えたとき,「全編3Dのフルアニメーションにすればいい。ついでにVRにも対応させれば一石二鳥!」というアイデアに行きつき,それを実現させるツールとして選択したのがUnreal Engine 4だった。
自身が苦手としているものでもあった“大量の1枚絵を描く”という問題が解決し,一瞬「楽勝じゃね? と思った」という善乃氏だったが,すぐに新たな困難に直面した。そのフルアニメーションのゲームを,2人で完成させなければならないという点だ。
制作に入る前に練ったのが“労力の分配”。善乃氏は,myOs氏には“面白すぎるシナリオ”のアウトプットに集中してもらい,自身は,ゲームシステムはシンプルに,シナリオを活かすための演出(グラフィックの制作)に力を注ぐことにした。
制作事例として最初に説明されたのが,“シナリオに合致したマテリアル作り”。yOs氏の作ったシナリオが“隠れキリシタンが村おこしをする話”だったことで,善乃氏は「人形劇や童話風のグラフィック」で世界観を表現するのが適している」と判断。そこで善乃氏は,シャドウを一切描画しない,あえて情報量を落としたグラフィックスで,人物や建造物,背景といったゲームに必要なマテリアル全般を作っていった。
グラフィックスでこだわった部分の例として,モブ(村人)の表現を挙げた。村の外からやってきた主要キャラクターと村人が,“表面上では仲良く交流していても,根っこの価値観,村人たちの信仰に関しては分かり合えない”ということを表現するため,村人の顔は真っ黒な影にし,モーションやモデルも共通のものを使う仕様にしたという。
それが結果的に,作業時間の短縮につながったうえ,ゲームの世界観を表現するうえで効果的な演出にもなった。
“3Dフルアニメーションで進行する,VR対応したノベルゲーム”にしたことで生じた苦労も語られた。VRの性質上「キャラクターを瞬間移動させられない」「主人公が各シーンを見渡せる位置にいなければならない」「主人公の視界の中にすべてのキャラクターを収めなければいけない」といった制約が生まれ,そのうえで通常のゲームプレイでも見栄えのする配置を模索する必要があったため,労力がかかったという。
UE制作2作目「くちなしアンプル」と,UE5での開発を進める新作「こふんは生きている」
ストーリーメインのノベルゲームだった「マヨナカ・ガラン」の反動で生まれた,「次はキャラクターを動かせるゲームを作りたい!」という欲求が開発のきっかけとなったのが「くちなしアンプル」だ。
善乃氏が元々好きだった「アイテム収集」「レベル上げ」という要素を組み合わせた“ダンジョン農地ローグライク”というコンセプトで企画し,「マヨナカ・ガラン」をほぼブループリントで制作できたこともあり,ツールはUE4にすんなり決まった。
「くちなしアンプル」の実制作に入る前に懸念していたのは,収集要素で満足感を得られるアイテムや敵の数のボリュームと,ゲームバランスとの兼ね合い。そのため「マヨナカ・ガラン」のときに多くのリソースを割いていたグラフィックスにかける時間は短縮。しっかりとバランス調整に時間をかけるため,アイテムや敵,魔法陣といった素材は,開発の初期段階で一気に300種類ほど制作したという。
ゲームバランスの調整に労力を割くことが決まったが,決して絵作りを簡略化したわけではない。「グラフィックスを描くのが楽しいからゲームを作っている部分がある」とも語る善乃氏は,「世界観が伝わる絵作り」にはこだわったという。
とくに,ダンジョン内で入手したサンプル(アイテムや敵のグラフィックス)がズラリと並ぶ画面はこだわりを持って制作した部分で,「サンプルのUIはテキストとともに注目してほしい部分です」と語っていた。
善乃氏がこだわりを持ってデザインした,「くちなしアンプル」のUI |
敵モンスターは,主人公がスコップで殴っても後味が悪くならないよう,シンプルな見た目で統一 |
キャラクターのデザインは,ダンジョンや敵モンスターとの調和を心がけた |
グラフィックスの制作事例に続き,「くちなしアンプル」で最も多くの労力を割いたという,ゲームバランスの話へ移る。
善乃氏がまず気を掛けたというのが,“周回プレイが苦痛にならないような調整”。ダンジョンに何度も潜ることがゲームの楽しみにつながる,ダンジョンを1周すれば,必ずなんらかの要素が成長する仕組みにし,各種パラメータが上昇した効果を実感できるよう“派手にアップ”するようにした。
その作業の中で,「ゲームは難しくしすぎるよりも,簡単にしすぎる方が面白くない」という気づきを得られたという。とくに後者は,やりすぎるとゲームの魅力を損なう結果を招くこと知り,それらは今後のゲーム開発にとっていい経験になったそうだ。
主人公の成長パターンや攻略セオリーなどが固定されることによって生まれる,“先が読めることによる飽き”を感じさせない工夫も語られた。取得するとゲームプレイの感覚が大きく変化するスキルを“思いつく限り入れる”ことで,さまざまな攻略方法がある,戦略の幅が広くて自由度の高いゲームに仕上がったという。
講演の最後では,現在制作中のCAVYHOUSE最新作「こふんは生きている―マホロヴァ・クラブの死体さがし―」について語られた。
“VR+物語”の「マヨナカ・ガラン」,“アイテム収集+物語”の「くちなしアンプル」の制作によって得られた「やりたいものを作りきれた」自信から,今作は“3Dアドベンチャー+放置ゲーム+物語”というメインで扱う要素を増やして制作が進められている。
開発にはUnreal Engine 5を採用。これまでの作品とは異なる,Megascansを用いた“リアル寄り”なグラフィックスに挑戦しているという。UE4からUE5への移行もスムーズにできており,いまのところはとくに困難なことはないそうで,「いままで使っていなかった,リッチな描画機能を使うのが新鮮で楽しい」と語っていた。
講演終了後の質疑応答
講演終了後に質疑応答があったので,そのやり取りの中からいくつかをお届けして本稿の締めとしたい。
――開発を外注することはあるのか。
善乃氏の回答:
声優や音響監督以外,外注はほぼしない。キャスティングは音響監督にお任せしている。外注ではないが,効果音にフリー素材を使うケースはある。
――インディーズゲーム制作以外で働いているのか。
善乃氏の回答:
私(善乃氏)は専業。yOs氏は別の仕事も持っている。
――ゲーム制作に使用しているPCのスペックは。
善乃氏の回答:
PCを新調したばかりなのでCPUは新しいが,GPUは「マヨナカ・ガラン」制作時に買い替えてからそのまま。なので,トータルのスペックを見るとそんなに強くないと思う。それでもUE5は普通に動いているので,買い替えるかどうかは検討中。
――好きなゲーム,影響を受けたゲームや作品は。
善乃氏の回答:
「塊魂」。グラフィックやシステムも好きで,「塊魂」をプレイしたときに受けた衝撃を,自分たちの作ったゲームをプレイしたユーザーにも届けたいと思っている。
――ゲーム開発を長年続けるために工夫していることはあるのか。
善乃氏の回答:
好きで続けていることなので,すごく困った経験や,特別工夫しているといったことはない。辛くなったときは「時間はまだある,大丈夫」と言い聞かせ,自分の面倒を見ている。
――今回の講演動画はどのようにして制作したのか。
善乃氏の回答:
Adobe After Effectsを使用している。(イベント主催の)Epic Gamesが資金を提供してくれたので,有料のプラグインを使ってちょっと豪華に制作しました。
――特徴的なグラフィックの作品が多いが,なにか参考にしているものは。
善乃氏の回答:
具体的に「これ!」と挙げられるものはなく,いろいろな作品から自分ができそうな要素を抽出している。
――「マヨナカ・ガラン」の,隠れキリシタンが村おこしをするというストーリーのアイデアは,どういう経緯から生まれたのか。
善乃氏の回答:
完全にシナリオ担当の趣味。以前からyOs氏は“村もの”のお話が好きらしく,「隠れキリシタンが隠れてるだけじゃなくて,村おこしをしていたら面白いんじゃないか」という発想を元々持っていた。
――「マヨナカ・ガラン」の観音像が置かれたマップに配置された,揺れる布のようなものはどのように制作したのか。
善乃氏の回答:
四角いメッシュにボーンを通し,手動でアニメーションをつけた。物理(演算)などは使っていない。
――「マヨナカ・ガラン」をVRでプレイするときの,話している相手の方を向くとストーリーが進んでいくという仕様どう決まったのか。それまでほかに試したアイデアはあったのか。
善乃氏の回答:
とくに悩まずに実装が決まったように思う。ノベルゲームを作りたいという思いから始まったゲームなので,VRでもストレスなく文字は表示しやすかった。
――「くちなしアンプル」の会話システムはどうやって制作したのか。
善乃氏の回答:
メッシュを使って実装。画面に統一感を出したいと思っていたので,会話のフキダシにも影をつけるためにメッシュを利用した。表現のためには仕方なかったが,移植する際にUIを3Dで作ったことが手間になって後悔した。
――「くちなしアンプル」で,「どうしても追加したい」と思って後から実装したアイテムはあるのか。
善乃氏の回答:
基本的には最初に作った300個のみで追加はない。ただ,ストーリー上で必要になったボスやアイテムの実装用に,10個ぐらいのマテリアルが追加できるマージンは取っていた。
――「くちなしアンプル」に実装されたスキルは,どのように取捨選択したのか。
善乃氏の回答:
プレイに幅を持たせるため,とにかくスキルの種類を稼ぎたかったので,あまり取捨選択はしなかった。そもそも,捨てるのではなく増やす方向性でスキルを制作していた。
――コンシューマ機向けに移植する際に苦労した点は。
善乃氏の回答:
9割5分はPC版のままで動いたので,コアな部分で困ったことはなかった。それぞれのハードに合わせてパフォーマンスを出さなければいけない点はちょっと大変だった。
――UEを使う際に必要な技術や知識はどう勉強して身につけたのか。
善乃氏の回答:
タイトルは失念したが,メジャーなUEの教科書を1冊読んで勉強した。
――UEを改造した部分はあるのか。ブループリントだけではなくC++を使っているのか知りたい。
善乃氏の回答:
PC版の制作時にはまったく改造はしていないが,コンシューマ移植時には少し調整を施した。とくに「マヨナカ・ガラン」をPS VRへ対応させるのが大変で,エンジンの改造に加えてC++を使う必要があった。
――UIやパーティクルも自作しているのか。
善乃氏の回答:
これまでは基本的に自作だが,エフェクトに関する知識がないため,今後も続けていくかは分からない。
――プラグインを使うことはあるのか。
善乃氏の回答:
「マヨナカ・ガラン」「くちなしアンプル」では使用していないが,リアルなグラフィックスを目指している「こふんは生きている」では積極的に使っていきたいと考えている。
――UE5とE4でのゲーム制作の違いや不自由さを感じることはあるか。
善乃氏の回答:
最初はUE5がダメだったらダウングレードしてUE4に戻すくらいの覚悟で制作を始めたが,そんなに違いは感じないし,いまのところはこれという問題も起こっていない。UE4ユーザーなら,自然に移行できると思う。
――3Dモデルはどのソフトを使用しているのか。CG制作はどのように学んだのか知りたい。
善乃氏の回答:
ソフトは現在「Blender」を使用している。CGは独学で,UEの前に使っていた「Metasequoia」のチュートリアルなどを漁って勉強した。
――ゲームの宣伝はどのように行なっているのか。
善乃氏の回答:
主にTwitterでの宣伝がメインで,インディーズゲームへの出展なども行っている。正直,個人でやれることには限界があると感じているので,パブリッシャにお願いできるのであれば丸投げするのが一番楽だと思う。
――「こふんは生きている」の新情報はいつ公開されるのか。
善乃氏の回答:
今夏のコミックマーケットに当選したら,そこで体験版を出したい。夏ごろにはなんらかの情報を発信できるはず。
UNREAL FEST EXTREME '22 SUMMER 特設ページ
- 関連タイトル:
くちなしアンプル
- 関連タイトル:
くちなしアンプル
- 関連タイトル:
くちなしアンプル
- 関連タイトル:
くちなしアンプル
- 関連タイトル:
マヨナカ・ガラン
- 関連タイトル:
マヨナカ・ガラン
- 関連タイトル:
マヨナカ・ガラン
- この記事のURL:
キーワード
(C)2020 CAVYHOUSE. Licensed to and published by Active Gaming Media Inc.
(C)2021,2022 CAVYHOUSE. Licensed to and published by Active Gaming Media Inc.
(C)2021,2022 CAVYHOUSE. Licensed to and published by Active Gaming Media Inc.
(C)2021,2022 CAVYHOUSE. Licensed to and published by Active Gaming Media Inc.
(C)2018 CAVYHOUSE /(C)2018 Carpe Fulgur Published by Sony Music Entertainment(Japan)Inc.
(C)2018 CAVYHOUSE /(C)2018 Carpe Fulgur Published by Sony Music Entertainment(Japan)Inc.
(C)2018 CAVYHOUSE /(C)2018 Carpe Fulgur Published by Sony Music Entertainment(Japan)Inc.