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[TGS2022]ブロックチェーンでゲーム業界はどのように変わるのか。業界経験者が集まり,その未来を語った
ステージに登壇したのは,ゲームアーツで「LUNAR」シリーズや「グランディア」シリーズなどを手掛けた宮路洋一氏。セガでソニック・ザ・ヘッジホッグのキャラクターデザインを手掛け,現在はアーゼストの代表取締役社長COOとしてゲーム制作に関わる大島直人氏。「シーマン」「ザ・タワー」といったシミュレーションゲームを開発し,現在は人工知能を活用したロボット・機械用にライセンスするための会話エンジンを手掛けているという斎藤由多加氏。「RELICS」の開発者で,渡米後にElctronic Arts,帰国後にカプコン,Microsoftと所属,現在はメタバースゲームプラットフォームのCretaを運営する中里英一郎氏と錚々たるメンバーだ。
最初の話題は,それぞれがブロックチェーンとどのように関わっているのかというもの。
宮路氏は,中国の友人にブロックチェーンゲームに興味がないかと言われ,進化にいち早く対応してゲームを作ってきた自負がある氏としては新技術に触れたかったそうだ。その後,1年間ほどいろいろと見てきた宮路氏は,今年になってプロジェクトを立ち上げたという。
大島氏は,中里氏からCretaを立ち上げるためにブロックチェーンゲームを作りたいとの話があったそうだが,当初はブロックチェーンに対して,ゲームの中身よりも儲かりそうといった匂いだけが感じられ,怪しい印象を持っていたのだとか。その後,勉強を進めていくと面白いことができそうだと分かり,今はアイデアがいくつか溜まっているので早く(Cretaと)ミーティングをしたいと話していた。
斎藤氏も同様に,ブロックチェーンに対して楽しみではあるが,怪しさも半端ない印象だったという。ただ,面白いものはだいたい怪しい(と最初に感じる)と話す氏は,街作り系のゲームを制作するのが好きで,買った土地からいろいろなものが生まれて,それと別のものを交換したいとずっと思っていたそうだ。そのため,中里氏のプロジェクトは面白そうで,渡りに船だったという。
そんな斎藤氏だが,ブロックチェーンゲームについて,ゲームそのものが変わっていく気がしていると話す。(自分でシークしたりページをめくれたりする)映像作品や本とは異なり,ゲームは時間をかけないとエンディングを見ることはできない。しかし,先に見られてもいいのではという課題を解決する1つの方法がブロックチェーンなのだという。
さすがにエンディングをいきなり見られるといったものは極端な例だと思うが,例えばある条件を満たしていたら,そこを通過できるといった,あるゲームで積んできた努力を別のゲームに持ち越せてもいいのではないか,ということだ。
中里氏は,(ブロックチェーンゲームの)会社を作ったものの暗中模索なところもあるそうだ。キッカケは韓国で20年近く前に一緒にやってきた仲間が5〜6年前からブロックチェーンの研究をしており,レイヤー1のブロックチェーン技術ですごいものを発明したので,うまく活用できるプラットフォームを作りたいと相談を受けたことだという。それが昨年末のことなので,まだ勉強中といったところなのだとか。
そんな中里氏は,ブロックチェーンに対して,やはり怪しいと思うこともあったようだ。ただ,新しい潮流であり,これが大きなインフラになっていくという感じはあったそうで,怪しいからこそ真摯にゲームを作っていけば生き残っていくだろうと述べた。
それぞれの関わりを聞いたところで,そもそもブロックチェーンゲームはどれくらいの開発費で,収益は見えているのかという話題に。
それに対して宮路氏は,ブロックチェーンゲームは,パブリッシャがいて(資金を)調達して開発するといった,これまでの中央集権的な考え方ではないと最近は思っているそうだ。というのも,ブロックチェーンの本質はDAO(分散型自律組織)――ある企画に対してブロックチェーン上で人々が協力して管理・運営していく組織――であり,ゲームや投資の規模はあまり関係がないという。応援で投資するクラウドファンディングとも違い,ブロックチェーンは応援と同時に,トークンで経済コミュニティができてしまうことから,一緒にプロジェクトを作るというイメージを持っていると話す。
中里氏もそれに近い意見だとし,テレビドラマシリーズに例えて説明した。まず,第1話だけを作ってそれが面白かったら人が集まる。集まった人の意見を聞きながら第2話ができる。盛り上がってくればより大きな規模の続きができるといった感じで,これまでの予算感やビジネスプランはあまり適応できないという。
これを受けて,DAOを作るとき日本がターゲットなのか,海外がターゲットなのかというMCの質問に対して宮路氏は,日本でも(DAOは)作るけれど,DAOでやる限り言葉の壁は突破しないとダメだと話す。そのために,各国のコミュニティで日本語の分かる協力者を作る必要はあるが,むしろ,それだけで済むという。
たしかに,これまでも個人で翻訳などローカライズを行う熱量の高いファンは海外でも少なくないわけで,そうした異なる言語を持つ各国のファンがDAOで参加するようになれば,ローカライズのあり方そのものが変わっていきそうだ。そうしたこともあり,全世界にコミュニティを作るのがキモになると氏は述べた。
続けて,同世代のゲーム開発者もブロックチェーンに興味を持っているのかという質問について,コンシューマゲーム開発者の9割ぐらいはブロックチェーンが危ないと思っているといったレポートがあると宮路氏は話す。自身もそういったところはあったそうだが,ブロックチェーンの本質がDAOにあるというところで腑に落ちたのだという。
アーゼストでは若い人に(ブロックチェーンが)危ないかをチェックさせているのかという質問に対して大島氏は,マーケティングを調べる人間はいるが,若いか年寄りかは関係なく,自身も新しいことが大好きだと話していた。なおブロックチェーンについては,YouTubeで動画を上げて,スターがどんどん生まれ,新しい仕事が生まれるというようなものを最初はイメージしていたそうだ。
斎藤氏は,ブロックチェーンには2つの見かたがあると話す。1つは投資としてのブロックチェーンで,氏に投資の相談があったときは「やめておけ」と止めていたそうだ。もう1つがゲーム制作の方法としてのブロックチェーンで,それは面白くポジティブであり,周りもそう見ているという。
セッションの最後は,ブロックチェーンとは何なのか,この業界はどうなっていくのか,もしくはどう攻めていくべきなのかといったメッセージをもらうことに。宮路氏は,DAOによって確実にゲーム業界のストラクチャーは変わり,別レイヤーの産業が生まれてくると確信していると述べた。
続く大島氏は,映画「レディ・プレイヤー1」の世界が10年後,20年後くらいには訪れ,その中で楽しいことがいっぱいできそうだなと感じているという。そして,ブロックチェーンはその第1歩だと感じているそうだ。
その話題を受けてか,ブロックチェーンがメタバースと切っては切れない関係であると斎藤氏は述べ,メタバースは環境を作って自由に動ければいいみたいに思っている人も多いけれど,それだけだとつまらないのでゲームクリエイターの居場所は絶対にあると話す。そうした中で,新しい環境になったときに開発者が面白いものを考えられるかが試されるとした。
中里氏は,80年代のPCやアーケードゲーム,90年代のコンシューマゲーム,2000年代のオンラインゲーム,2010年代のスマートフォンのソーシャルゲームというようにゲーム業界と言ってもパラダイムは変わっており,ブロックチェーンは,そのパラダイムの大きな変化の時期で(ゲーム業界も)ガラッと変わるだろうと話す。また,最初こそ前世代の物づくりの手法を当てはめるけれど,ブロックチェーンならではの新しい手法をきっと誰かが作るだろうと述べた。
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