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[CEDEC+KYUSHU]「グラブル」「ウマ娘」などをヒットさせたCygames渡邊耕一社長がモノ作りや組織作りを語った基調講演をレポート
作り直しを躊躇しないCygamesの歴史
基調講演に先立って行われた「CEDEC+KYUSHU 2022」の開会式には,レベルファイブ代表取締役社長/CEOの日野晃博氏が登壇。「CEDEC+KYUSHUもあっという間に8回目。3年ぶりにリアル開催できることを感謝しています。ゲーム作りには,絵を描いたりプログラムをしたりといった手順1つ1つに試行錯誤が必要。こうした試行錯誤は業界に入って30年経った今も飽きないものだし,もっと業界が発展してほしいです」と,久々のリアル開催についての喜びと,ゲーム作りの魅力を語った。
基調講演は,Cygamesの歴史おさらいからスタートした。
渡邊氏は佐世保高専時代にプログラミングを独学で身につけ,広島大学では西洋哲学について学んだという,ゲーム業界人としては風変わりな経歴を持つ。
高専時代,ロボコンに出場した際にはリーダーを務め,チームで何かを作ることの楽しさに開眼したとのことで,同じようにチームでモノ作りをするのはゲームだと思い,ポリゴンマジックに入社したという。
渡邊氏はその後シリコンスタジオにてゲーム開発部門を立ち上げ,2011年5月にCygamesを設立した。この独立には同年3月に起こった東日本大震災の影響が大きいという。この震災での被害を目の当たりにして,渡邊氏は「自分だって,明日死ぬこともあるかもしれない,だったらやるだけのことはやろう」と決意し,その後2か月でCygamesを設立したそうだ。
Cygamesのプロジェクトにおける特徴の1つはスピード感にある。
設立からわずか4か月後に「神撃のバハムート」を配信してヒットを記録。その後も「戦国SAGA」「アイドルマスター シンデレラガールズ」など,さまざまなゲームで実績を積み,2014年には同社の代表作ともいえる「グランブルーファンタジー」をリリースした。同年にはアニメ「神撃のバハムート GENESIS」の放送があり,2015年にはアニメ事業部を発足させている。
2016年には漫画サービス「サイコミ」を立ち上げ,「Shadowverse」の配信がスタート。2018年に「プリンセスコネクト!Re:Dive」をリリースし,アニメ「ウマ娘 プリティーダービー」の放映が開始された。2021年にスマホ向けゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」でヒットを飛ばすなど,怒濤の快進撃を続けている。
作り直しを厭わない妥協なき姿勢もCygamesの特徴だ。Shadowverseでは3回も作り直すことで高クオリティを実現した。
「ウマ娘 プリティーダービー」も,ゲームの全面的な作り直しを行った。中でも,もともと横画面で作っていたものを,開発チームの提案で縦画面に変更した影響は非常に大きいものだったという。
横画面のレースシーンは,テレビの競馬中継を参考にした引きの視点だった。縦画面になると奥行きを活かした新たな演出を自分たちで開発しなければならなくなるが,これを承知での作り直しだったというから実に妥協がない。
出せといわれて出すようなものはアイデアじゃない
基調講演はいよいよ本題に入り,渡邊氏は「最高のコンテンツを作るためのプロデュース術」「最高を目指すためのモノ作り」「最高を目指すための組織作り」というテーマについて語った。
●「最高のコンテンツを作るためのプロデュース術」
切れ者のブレインたちが,論理的プロセスを経て緻密な戦略を練る……といった図を想像しがちだが,渡邊氏いわく「なんとなく」やっているという。自社ラインナップの中に「しっくりくる」ものを作っており,「なんとなく作り始め,なんとなくできたら出そうかな……」ということで,戦略的にやっているわけではないのだと語る。いわば天才肌なプロデュース術であり,さすがの松山氏も「参考にならない」と嘆息した。
●「最高を目指すためのモノ作り」
ゲームのユーザーインタフェース(以下,UI)作りについては,お客様視点,自分の視点と特に区別することなく「とにかく,イヤなものを直そう」という意識で取り組んでいるのだと語る。“イヤなところ”と文字にすると漠然としているが,渡邊氏の指摘は小さなラグや導線の不足,目的のボタンが出てくるまでに何画面遷移するか……と実に細かい。CygamesでサービスするゲームのUI回りは,社長自らがチェックしているというわけで,スマートフォンゲームでいかにUIが大事であるかが伺える。
こうした姿勢はスタッフの士気や意識も高めているようで,「ウマ娘 プリティーダービー」では高クオリティなものが作られてきた。渡邊氏もいろいろなところをチェックする度に「ここもいいのかよ!」と驚くことしきりだったという。リリース1年前には完成していたものの,アイコンの分かりやすさをはじめとした「ちょっとしたところ」をひたすらチューニングし続けていたそうだ。その甲斐あって,同作は松山氏が「サービス開始の時点で安定感が高い」と賞賛するほどの出来映えに。そして,こうした作り込みも戦略的に行っているわけではなく「たまたま」だとのこと。
Cygamesのモノ作りでは“作り直し”が重要キーワードの一つとなっているのは前述の通りで,スタッフにも「作り直しを躊躇するな」と繰り返し言い聞かせているという。
完成したものを作り直すのは誰にとっても辛く,特に現場にとっては面白くない。しかし,渡邊氏はこうした一時の感情に拘泥することなく,躊躇なく作り直しを命じるという。
それは「売れなかったときはみんな辛くなる。地獄のようなもので,それと比べたら(作り直して)売れる方がいい」という大局的な視点によるものだ。そのかわり,どこまで作り直すべきかの最終決定は渡邊氏自身が行い,何が起こっても現場の責任にはしない,と語った。非があった際も「絶対に俺が悪い。判断が間違っていた」と認めるそうで,こうした姿勢があるからこそ,スタッフも繰り返される作り直しについてくるのかもしれない。
●「最高を目指すための組織作り」
渡邊氏は「(このテーマについて)未だに答えはないと思いつつ進めている」と前置きしつつ,Cygamesを「できるヤツ,頑張ってるヤツ,真面目なヤツがいやすい組織にしよう」ということで組織作りを進めているという。「万人にとっていい組織では絶対にないと思います。ダラっと流そうという人にとっては最低の組織」だそうだが,既に東京,大阪,佐賀をあわせて3500人が所属しているとのこと。
新規タイトルをリリースする際,既存タイトルからメンバーを引き抜かないのも特徴的だ。エース級の人材は,さまざまなタイトルの立ち上げに投入し,運用は専門スタッフに任せたくなるところだが,Cygamesではそうしたやり方はしないという。
さまざまな新プロジェクトを打ち出すCygamesだが,渡邊氏は「(その企画を)やりたい人ありきで考えることが多く,アニメとマンガは勝手にやっている」と,社員の自主性を重んじていると明かした。新たなゲームプロジェクトを立ち上げる際は,そのスタッフの普段の行いにも着目し,普段から頑張っている現場のエースが出してきた企画は通すが,「今やっているこんな仕事は続けたくない。この企画をやらせろ」というような,ネガティブな理由で出されてきた企画にはNOを突きつけるという。
ポリゴンマジック時代はひたすら企画書を書き続け,入社2年目にして新プロジェクトを立ち上げた渡邊氏の持論は「出せといわれて出すようなものはアイデアじゃない。あふれ出て来ないでどうするのか」。社会人ともなると,自信がない,機会がないと新しいチャレンジを渋りがちだが,それは結局やりたいことではないからだ,と氏は喝破する。渡邊氏は「ディレクターは人間力。今の現場から抜けたらマズい(という位に,他のスタッフから頼りにされる)人間にこそ,新プロジェクトをやらせたい」と語る。
つまり,渡邊氏が普段からの社員の行いを見るのは,ネガティブな理由で作られた企画をふるい落とすためでもあり,ディレクター適性試験のようなものだといえるだろう。
質疑応答で渡邊氏は,ゲームのエンジニアを目指しているという学生に対し,「(難しい注文は)俺に持ってこい!」というくらいの安心感ある人材を目指せとアドバイス。ゲーム業界に入ってみると面食らうことも多いだろうが,「お客さんが(自分のゲームを)触っていることをどれだけ想像できるか」「絶対にヒットさせてやる! とどれだけ思えるか」を,どこまで強くイメージできるかで将来は変わってくると語った。
そして同じようにゲーム業界を目指す人に向けて「ゲーム業界に入ること,ゲームを作ることを目標にするのではなく,絶対にヒットさせてやると思える人が,この業界で活躍できるのではないかと思います。できるだけリアルにイメージして頑張って下さい」と意識改革を促し,講演を締めくくった。
「CEDEC+KYUSHU 2022」公式サイト
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