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[CEDEC 2023]AIは既にゲーム開発を変えており,この変化は今後も進んでいく。「AI時代がビデオゲーム開発に与える影響」レポート
■AIの進歩が,ゲーム開発を大きく変えていく
AIによる「超知性」が10年以内に達成されようとしている現在は,すべてのプレイヤーとデベロッパーにとって良い時代である,と語るマーセロン氏。新しいテクノロジーを使った楽しさを享受したり,創作上のチャレンジをしたりすることができ,そこにはこれまでに起こった以上の変化とダイナミクスがあるという。AIによる変化はゲーム開発の現場にも及んでおり,まずは身近なPCでAIを活用してゲーム開発を変える3つの例が紹介された。
●ChatGPTにゲームをプログラミングさせる
ChatGPTがプログラムコードを書けるのは有名だが,マーセロン氏はビデオゲームのハシリである「ポン」風のプログラムを書かせてみることにした。
ChatGPTはプログラムを書けるものの,生成できる行数に限界がある。そこで氏は「Windows10のVisual Studioでビルドできるよう,C++でポンのコードを書く手順は何か?」と尋ねたところ,ChatGPTは必要なソフトとそのURLを教えてくれた上,プログラムの作り方を「パドルとボールを表すSDL_Rect構造を作成し,初期位置と寸法を設定。定数か変数でサイズと速度を定義し……」と解説してくれた。
この解説自体をコピー&ペーストすることでChatGPTがコードを作ってくれる。また,エラーが出た際もChatGPTに相談すれば謝罪とともにアドバイスをもらえると至れり尽くせり。マーセロン氏は「自分でルールを決めてChatGPTに指示すればコードを書かせられる。これまで我々が学んだプログラミングのルールは,ChatGPTのAI時代にも通用する」と語った。
●手持ちの写真でAIをトレーニングする
マーセロン氏は自分の写真を集め,Dream Boothを使ってStable Diffusionに追加学習させた。必要となる時間は,画像の量や学習させる際のパラメータによって変わってくるが,今回の試みでは2時間ほど。準備と学習が終われば,「夕日を眺めるジュリアンの写真」「日の出のベンチに座るジュリアンの写真」「円卓の騎士のジュリアンの肖像画」などと指定するだけで,マーセロン氏自身が入ったフォトリアルだったり油絵風だったりする画像を生成してくれる。氏に3本の足が生えているなどのAIならではの間違いはあるものの,自分で選んだ写真でAIをトレーニングし,自分が欲しいタッチの画像を作れるというわけだ。
氏はBlizzard Entertainmentが自社ゲームのアセットでAIを学習させ,キャラクターやコスチューム,環境のコンセプトアートに用いていることに触れ「ゲームデベロッパがこうした取り組みをするなら,大きな進化が実現できるのではないか」と語った。
●自分自身のLLM(大規模言語モデル)をトレーニングする
次いでマーセロン氏が行ったのは,LLM(大規模言語モデル)を自分専用にトレーニングし,これをラップトップに入れてローカルで使用するという試みである。ここで使われるのは,スタンフォード大が公開している「Stanford Alpaca」。Metaの「Llama」を微調整したもので,小さく,安価で再現できることが特徴になっている。
マーセロン氏は,個人がGPUを貸し出す「vast.ai」でファインチューニングを行ってみたところ,RTX4090を使って5時間ほどかかり,コストは約3ドル程度で済んだという。
こうした自分専用のローカルなLLMはゲーム開発において,プログラムコードの生成や改善,複雑なコードの簡略化,代替案の検討,ドキュメントの作成,バグの追跡,自動テストの作成など多岐に利用でき,プログラマーにとって非常に役に立つという。他人のコードや,自分が書いた古いコードを読むのは時間がかかるものの,AIの支援を受けることで効率化を図れる。
また,変数名やコードのコメント,ドキュメントにおいてもAIに規則を学習させることで,規則に則ったものを生成することで作業の助けになるという,マーセロン氏。一方,ユーザー側が特定のテストを忘れたり,AIが出した代替案すべてを試す充分な時間がなかったりといった定性的なところに弱点があると氏は指摘した。
こうしたAIを使えば「○○風」というロゴを作ったり,指定する画風の画像を見つけて同様の画像を作ったり,そうした画像を描くアーティストを探したりも可能だという。
「AIの進歩について,脅威を感じるべきか否か?」というのは現在我々が持つ疑問である。マーセロン氏は「(3Dアニメーションと競合すると懸念された技術である)モーションキャプチャが普及したら3Dアニメーターが増えたし,AIによって医師がいなくなることもない」(=だから,脅威を感じる必要はない)と回答。
しかし,AIが進歩する上では国際的な規制が重要であり,社会のすべてがこうした変化に対応できるわけではないものの,ゲーム開発者は準備をすることができる,と氏は語る。これまでのAIはテキスト専門,画像専門であるが,マルチモーダル(複数種の情報を処理できる)なAIが発展することにより,AIの可能性は拡大していくという。
ゲーム開発におけるAI活用については,「ランタイムのための機械学習」「プロダクションのための機械学習」という2つの方向性があるそうだ。前者については,ゲームのNPCをChatGPTに喋らせたり,「Morrowind」においてAIが合成した音声を使ったりといった取り組みがされている。遅延や志向性(個人が持つ価値観)の欠如はあるものの,今後の改良が期待できると氏は考えている。
また,戦闘バランスの調整や,プレイヤーの行動予測などにもAIが使えるという。後者については,人間のようにプレイするAIにバグを発見させたり,「Promethean AI」のような制作補助的にも役立てられると語った。
マーセロン氏は,AIが普及した未来における,プロジェクトのライフサイクルについての予想も語っている。
まずはコアチームが編成され,トレーニング用のデータを集めてマルチモーダルAIの学習を開始。ゲームの概要動画やサンプルキャラクター,マーケティングポジションについての資料などを作成していく。ミーティング中のメモについてもマルチモーダルAIのツールがサポートしてくれるという。そしてプロジェクトはバーティカルスライス(一部を実際に遊べる試作)を作る段階に入り,学習したAIを用いた各種のデータ製作が進行。そしてAIによる自動テストやボイス作成が行われ,βテストの段階へと移行していく……とあらゆる部分でAIが活用されていくようになる,というのが氏の予想だ。
AIによりゲーム開発はブーストされ,この恩恵は開発チームの大小に関わらず受けられる。より広大なオープンワールドを作れるようになったり,インタラクティブ性やディテールも向上, UGCの可能性も上がるのではないか,とマーセロン氏は話す。開発チーム内のスキルに差があってもAIのサポートにより良い結果が出せるようになり「想像力だけが制約の状態」になるという。こうした変化は既に起こっており,今後も指数関数的なスピードで続いていくだろう,とマーセロン氏は講演を締めくくった。
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