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[CEDEC 2023]ゲーム業界の今,そして未来に求められるテクノロジーとは。業界人が語る今後の予測とビジョン
このセッションでは,東陽テクニカの岩﨑健太郎氏を進行役に,セガの粉川貴至氏,バンダイナムコスタジオの吉田卓哉氏,サイバーコネクトツーの松山 洋氏が登壇。ゲーム業界に今求められる最先端の技術やスキル,それに伴う人材ニーズの変化,業界の今後に対する予測やビジョンといったトークテーマに対して,それぞれの視点からディスカッションを行った。
なお,本公演はスポンサードセッションということで,セッション開始に先駆けてスポンサーである東陽テクニカの紹介が行われた。東陽テクニカは“デベロッパーに世界最高の開発環境を提供する”をミッションとして“はかる”技術を磨き,多くの事業セグメントに展開。ゲーム業界ではバージョン・アセット管理の「HelixCore」というツールで知られている。
ディスカッション最初のテーマは「現在のゲーム開発で重要な必要なツールとは?」というもので,まずは粉川氏より意見が述べられた。
粉川氏は現在,社内において自動テストに関わる技術サポートなどを行っている。ゲーム開発が大規模化していく一方で,自動テスト用のツールセットは必要なときにすぐ導入できるものではないため,その辺りの技術に注目しているという。
自動テスト(テスト自動化)ツールとは,簡単に言うとアプリケーションやソフトウェアの開発において様々な動作テストなどを自動化するツールのことで,ゲーム開発の自動テストツールは他の分野とは少々異なる仕組みも多いようだ。
吉田氏によると,Perforceのユーザーの増え方が,ゲームエンジンの使用増加とほぼ直結していたそうで,今後もゲームエンジンを決めたあとで,必要となるツールチェーンを見るのがよいのではと述べた。
松山氏は,開発時に一番使用するであろうチャットツール(コミュニケーションツール)を挙げ,各社が使用しているツールが別々であることや,ローカルルールのようなものがあることなどを指摘。それらをゲーム業界の中で最適化していけないのだろうかと投げかけた。
そこで吉田氏が,バンダイナムコホールディングスではMicrosoft Teamsを使用し,バンダイナムコスタジオではSlackを使用していると明かすと,松山氏はツールが増えることによる煩雑さを懸念。粉川氏もチャットツール増加によるコミュニケーションの断絶を危惧し,松山氏と同様,可能であればひとつのツールで統一したほうがいいのではと述べた。
続いてのテーマは「今後のゲーム開発で必要になるツールとは?」について。
松山氏は3つほどあるとし,クラウド,AI,そして自社のメインツールとして使用しているというUnreal EngineとMayaのLive Linkを挙げた。
粉川氏は,松山氏が挙げたAIツールについて,重要になりえるツールだと同調。現在流行しているChatGPTや生成系のAI以外にも,自動テストや開発効率化といった方面で,現在予想できていない新たなツールが登場するのではないかと話し,中でも開発の効率化については,AIによる解決は実現しやすいのではないかとも話していた。
3つ目のテーマは「近年のゲーム開発における技術変化や進歩をどう思いますか?」というもの。粉川氏はあくまで個人的な意見であることを前置きしつつ,これまで盛り上がっていたモバイルのプラットフォームにおける様々な技術発展は現在少し落ち着きを見せているとコメント。大規模ゲームやマルチプラットフォーム(家庭用やPC,場合によってはモバイルも)を運営するためのGame as a Serviceのような形が最先端なのではないかとの見解を示した。
吉田氏も同様に自身の視点から,コンソール系のゲーム開発における話と前置きし,以前のゲーム開発は開発速度を重視して社内で完結している印象があると話した。そのため,開発インフラとしてのクラウド利用は少なかったが,協業の増加とコロナ禍による在宅勤務への移行により,クラウドの利用が増加。今後は更にクラウド利用と技術の進歩が進んでくるのではと述べた。
ここで岩﨑氏より,クラウドに関してインフラ技術と運用技術,またはクラウドを利用した効率化の技術など,ゲーム開発にはどんな技術が必要なのかと質問が投げかけられた。
これに回答した吉田氏は,社内でもクラウド開発は進めているが,自身がゲーム開発の経験がないため,開発側でどういったシステムが必要なのかが不透明だという。ゲーム開発側の人間がクラウドの知識を持ち,実現したいことを共有できるのが最適だというが,ゲーム開発者はゲーム開発が目的であり,インフラ開発が目的ではないため,では誰がやるのか? という部分に頭を悩ませているという。
結果,現状としては汎用性を重視してある程度パターン化したものをクラウド上で構築し,その中から必要に応じて選択しているが,難しい問題だと話した。
次は“スキル編”として「技術の進歩が人材ニーズにどのように影響を与えていますか?」とのテーマが出された。
松山氏は,AIによる画像生成や着彩,さらにはネームからマンガにするようなものもあるが,では今後それまで絵を描いていた人材がいらなくなるのかというと,そんなことはないと断言。現在いる人材がそのAIを駆使してより生産向上を図るようになるとした。結局物を作るのは人であり,道具の使い方次第であることから,不必要になって切り捨てられる人がいるとは考えられないとの見解だ。
とはいえ,今までよりも多くのことが求められるようになるのは必然であり,ゼロベースでの提案はAIの活用も必須だと続けた。また,松山氏によるとサイバーコネクトツーではAI研究室のようなものを立ち上げており,研究成果から開発側に役立つものものも出始めているという。
ここで吉田氏から,バンダイナムコ研究所もかねてよりAIの研究に注力しており,生成系AIが流行するはるか以前から研究を行い,その成果も様々なところで出始めていることが明かされた。一方で,社内(各スタジオやグループ会社など)でもそういった成果の共有を行う場はなかなかないとも話していた。
粉川氏は自身の立場であるクオリティエンジニアからの視点として,例えばAIを使用して大規模なコンテンツが制作可能となった場合,粉川氏のような製品品質に関わるような人材が必要になり,そういった役割の人材が求められるようになると述べた。
続いては“開発環境編”として「他部門連携やコラボレーションはどのように行っていますか?」とのテーマに。
吉田氏は他部門連携について,先のMicrosoft TeamsとSlackのほか,プロジェクトごとに必要であれば別途違ったツールを使用していると話し,ナレッジの共有には社内のコンフルエンスを利用し,そこに集約しているという。だが,プロジェクトごとに決まっているものも多いため,吉田氏としてはまとめたいがまとまらないという印象のようだ。
一方で,チャットなどではなく直接対面して会話するような機会も設けられているとのことで,その際は部署なども関係なく話が可能なため,チャットよりも気軽に話せることも多いという。
そこで吉田氏より松山氏に,現在使用しているツールより機能の優れたツールを提案された際,どのようなルールで対応しているのかと質問が投げかけられた。
これに対して松山氏は,ツールの使い方に関するルールは統一しているが,プラグインなどに関する部分はプロジェクトごとに違うこともあるという。しかし,提案されたプラグインがとても優秀なものであるならば,強制的にでも全員に一度使用させ,体験させると返した。
次のテーマは「次世代ゲーム開発インフラでは,何を重視していますか?」というもの。岩﨑氏はその中でもデータサイズをピックアップし,開発のデータサイズは今後も肥大化していくだけなのか? と質問。
松山氏は,総データ容量は間違いなく肥大化していくと断言。ただし,無駄なものはいらないとし,昨今の制限(主にデータ制限)を気にせず作りたいものを作っていいと言われるような空気感に異を唱えた。「NowLoadingで人は1秒も待てない」という松山氏の言葉には大いに納得できる。
また,松山氏によるとサイバーコネクトツーでは無駄な読み込みや描画負荷を減らすために,プログラマー数名が必ずデータ容量のチェックを行っているが,こうした作業は今後AIができるようになっていくだろうと話した。
吉田氏は自身のバックエンド側の立ち位置から,すべてのファイルを取得せず,使用するものだけを適宜取得するFlexCache(NetApp社)などの活用を挙げた。粉川氏はそれと類似するシステムがPerforceにも存在する(Perforce VFS:Virtual File Service)とを続け,今後活躍していくだろうと話した。当の岩﨑氏は今後Unicodeに対応した際は紹介する場を持ちたいとしていた。
ディスカッションの最後は本日の総括も含め「5年以内に直面しそうな技術的課題は何だと思いますか?」というテーマでそれぞれが意見を述べた。
粉川氏は,開発が大規模化していくことで内部で扱うデータも肥大化していくことをどう効率的に扱うかということが課題だとした。
吉田氏も粉川氏と同様にデータ容量の肥大化を挙げ,開発期間や運用期間が長期になっているタイトルも多く,それに伴って蓄積されていくデータの総容量も大きくなってきていることを指摘。インフラでそれを管理する側としても頭の痛い問題だと話し,ストレージやクラウド,スピード面ではキャッシュなどを活用していかないと難しいのではないかと話した。
松山氏は,大容量で大規模開発になるとやはりスピードが求められるとし,その際は自動化していく部分も必要であり,そのためのAIの活用は必須。そして次のステップは,業界全体で成功例・失敗例といった成果を共有し,ゲームに最適化した状態で成果をあげられる使い方につなげていく必要があると,見解を強く示した。
岩﨑氏は3名の意見を聞いた上で,各企業で非競争領域の共有を行う意識について質問すると,粉川氏はCEDECなどの大々的な場で話す前段階の試行錯誤中に,小さな集まりでも共有できる場があればと述べる。これに松山氏も,大切なのは結果に至るまでの道のりだとし,2〜3社でも互いの成功例・失敗例などを共有し合える場があれば変化が起こるのではないかと話し,パネルディスカッションは終了した。
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