インタビュー
[インタビュー]新しいファンドで,世界のゲームシーンのほとんどを見てみたい―――ゲームへの投資は,もはや一般企業から集める時代へ。EnFiが語る,ゲーム投資の次の一手
遡ること2年前,「ゲーム投資」という珍しい看板を引っさげて登場したEnFiの代表,垣屋氏に話しを聞いて記事にしたことがある。
そのときの記事の冒頭にも書いたが,本来「ゲーム」は「投資」と相性が悪い。金融や投資の世界で普通に使われている,計算ありきの予測がほぼ成り立たない,成功/失敗が「運」でしか説明できないジャンルなのだ(もちろん運だけではないのだけれど)。
まぁそんなことは,日頃デベロッパーやパブリッシャーでタイトルと格闘している皆さんなら百も承知のことだろう。大きく投資しても失敗し,実験作で出したら馬鹿売れし……。業界にいる人だって,何が当たるのかを見極めるのは並大抵のことではない。
そんな状況で登場したのが,ゲーム投資特化のVCファンド※である「EnFiグローバルイノベーティブテクノロジー匿名組合」(EnFi)だ。
2年前にはすでに,再編やM&A,中国やサウジアラビアなど海外マネーによるチーム買収など,さまざまな変化が急激に進んでいた日本のゲーム業界だが,この2年で,その前ほどのドラスティックな変化ではないものの,また1歩状況が進んだ感じはする。
※VC=ベンチャーキャピタル。将来的に成長が見込める新しい企業(ベンチャー企業)に投資を行う,専門の組織。将来その会社が成功して上場するときに,株式を売却して莫大な利益を得る。多くのベンチャー企業は初期にお金に詰まることが多いので,そこをサポートしてくれる。
EnFiの1号ファンドはシーディング※メインだったので,2年で大きな結果が出ることはないが,そんな中新たに2号ファンドを立ち上げたようだ。次は一体,どこに目を付けているんだろうか。
※シーディング=起業前や起業直後に行う資金調達ステージを「シード(種)」と呼ぶ。この段階からお金を入れるのがシード投資で,将来化けるときの利益の上がり幅は膨大だが,結果が出るまで時間がかかる。
お久しぶりでございます。2年ぶりですかね。
垣屋氏:
そうですね,2年ぶりです。ありがとうございます。本当に,その節はありがとうございました。
4Gamer:
ええと……記事掲載は2021年12月29日か。でもインタビューは11月でしたよね。ちょうど2年か。
垣屋氏:
あのころは「ゲーム投資」というコンセプトも,まだ日本にはあんまりないよね,みたいな話で。それをまずは導入するんだという。
4Gamer:
そうですね,なんか業界へのお披露目的な。
デベロッパーが力を持つことが,今後とても重要になる―――ゲーム特化のファンドは,日本のゲーム業界に新たな道筋を示せるのか
長く我が世の春を謳歌した日本のゲーム業界は,いまなかなか厳しいポジションに置かれつつある。アメリカや中国などを筆頭に大挙して押し寄せる海外産ゲームや,インディーズの台頭,可処分時間の奪い合いなど,この状況を脱するキーは,どこにあるのだろうか。
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垣屋氏:
そうですね。あのころは日本にそういうのを紹介しよう,みたいな感じだったので,半分はトライアルみたいな気持ちでしたね。投資するのはフィンランドのファンド一つだけで,それプラスなんかほかにもちょっと個別企業にも投資していこうかな,という。
4Gamer:
わずか2年前ですが,確かにまだチャレンジと呼べる試みではありましたね。
垣屋氏:
でも記事にしてもらって,こういう試みも面白いよねというのを広める役割は果たせたかなと思ってます。その後,バンナムさんとかほかの大手パブリッシャーさんもゲームファンドを立ち上げたり。
4Gamer:
当時すでにそうではありましたが,この2年間で,ブロックチェーンゲームなんかの台頭以上に,何しろSteamの強さが半端ない感じになりました。
垣屋氏:
そう!
4Gamer:
パブリッシャーの皆さんは,既存のビジネスモデルがさすがに根底からぐらつき出してる気がするんですよね。
垣屋氏:
そうなんです。4Gamerさんの記事では,気を遣っていただいたのか(笑)ダイレクトな表現を避けて書いて頂きましたが,このままだとパブリッシャーさんは役割を失っちゃうよねみたいな話をしました。でもあの後ファンド立ち上げたりして,いろいろ各社さん頑張っているんだな,と。
4Gamer:
でも日本のパブリッシャーが作ってるファンドって,どこかこう,世界をターゲットにしていない気がするんですよね。ドメスティックなプロジェクトファイナンス※みたいになっちゃってる部分もあったりとか。
※プロジェクトファイナンス=特定の事業やプロジェクト(この場合は主にゲームタイトル)に対して融資をして,完成後にそのゲームタイトルが生み出すお金を返済原資にする手法。この場合は,そのタイトル自体も担保になる。
垣屋氏:
それは……(笑)。
やっぱり,目的が定まっちゃうと結構難しいと思うんですよね。「シナジーありき」みたいな進め方しちゃうとすごく難しいので。こういうのって,ある意味「知らないものを知るためにやる」みたいな部分も大事なんですけど,そういう話ができるフェーズにはなってきた感じがしますね。
4Gamer:
その「知らないものを知る」というのは,「EXIT※するために投資をする」とかそういうエコノミカルな意味だけじゃなくて,R&Dとかそういう意味合いですか?
※EXIT(イグジット/エグジット)とは,ベンチャーキャピタルなどの投資ファンドの投資先について,第三者に株式を売却したり,IPO(株式公開)したりすることで,資金を回収して同時に利益を得ること。
垣屋氏:
そうですね。今はシナジーとかではなくて,その一歩前の,世の中の新しい技術などを知るためにやるみたいな。単にばらまくわけじゃなくて,そういう意味でのリサーチ目的とか,研究開発の目的でやることも大事なわけで,そういう話ができる空気感が出来つつあると言いますか。
4Gamer:
まぁそもそも「ゲーム」は,もはや「ゲーム」の枠には収まってないですからね。
垣屋氏:
そうなんですよ!
4Gamer:
あえてゲーム業界から離れて見てみると,ゲームはもはやその外の領域にも出ていっているわけで,それがこの2年でさらに加速したなというイメージがあります。
日本のパブリッシャーさんだって,それを十分に分かっているはずなのに,なんかアクセル踏めてない感じがします。そういうのは,やっぱり外資がうまいですよね。ちゃんと踏むとこ踏んで。捨てるとこもさっさと捨てるので,痛し痒しですけど。
垣屋氏:
そういう部分もちょっとブレイクさせたいなと思ってまして,だから出資者の皆さんを連れてフィンランドに行ったりして。
4Gamer:
視察?
垣屋氏:
はい。フィンランドの投資先を実際に見てもらったんです。そうすると,なんか「下請け」じゃなくて,出資を受けてゲームを作っている人たちのメンタリティとか,そういう日本にはない部分も発見できたりとか。
4Gamer:
まぁそもそも普通のスタートアップ企業でしょうから,空気が違いそうですね。
垣屋氏:
そうですね。百聞は一見にしかず,みたいな感じで見ていただきました。
あと,我々が北欧のSisu Game Venturesに投資した理由が,大手のゲーム会社も一緒に入っているということなんです。例えばSupercellも投資しているファンドなので,Supercellの本社にも行かせてもらったりして。そうすると,海外の大手のゲーム会社がどんな雰囲気でやっているのかとか見られますしね。
4Gamer:
それは,あれですか。例えば日本のゲーム業界の重鎮の方々とかが来てるんですか?
垣屋氏:
えーと……たぶん想像してるような重鎮度合いじゃないです。良い意味で(笑)。経歴や役職や責任だけでみると重鎮ですが,想像していたより,新しいものを取り入れることにもっとオープンマインドというか。
4Gamer:
じゃあ,比較的そういうカルチャーにも馴染みそうですね。
垣屋氏:
でもやっぱり全然違うし,こんな風に会社を育てていくのか,みたいなそういうことを感じてもらったかもしれません。
4Gamer:
日本のゲーム開発事情って,やっぱりまだ“職人芸”なので,例えば西海岸的スタートアップ的な,お金を集めて「よっしゃ作るぜー!」みたいなそういうのじゃないと思うんですよ。
僕も何社か西海岸ゲームスタートアップにお邪魔したことありますが,元缶詰工場とかをそのまま借りてて,魚臭かったり工場の設備そのままむき出しだったりして,オシャレなヤル気の空気感がなにせすごい(笑)。
垣屋氏:
そうですね(笑)。今回の会社にも,元病院とかがありました。
あと,フィンランドから船で2時間くらいでエストニアに行けるんですよ。エストニアってSkypeの発祥地だから,ある程度技術者がいる土壌はあって,そこのゲームシーンってどんな感じだろうって思っていったら,VRがメインでした。
4Gamer:
あれ,ちょっと意外ですね。
垣屋氏:
全然違うんですよ。3時間くらいしか離れてないのにこれだけ違うんです。
4Gamer:
まぁでも日本と韓国でも結構違いますし,そういうものかな? でも北欧3国は陸続きだから,なんか似てるんじゃないかって勝手に思っちゃいます。
垣屋氏:
そうですね(笑)。まぁそんな感じで,投資をしてもらいながら,何か新しいことを知っていただく体験型投資みたいな感じで。ゲーム投資とは,お金を投資してそれで終わりっていうわけじゃないですよ,ということをお分かりいただけるようなファンドにできたかなと思ってます。
4Gamer:
なんかいま過去系になってましたけど,それは次の話をしようということですね。
垣屋氏:
はい(笑)。
国によって個性は違うし,ゲームVCだって世界にはまだいくつもあるので,そういうところにも投資をして,本当に「世界のゲームシーンを全部見よう」みたいなファンドを作ろうかなと思いまして。それで今回,新しく2号目のファンドを立ち上げました。
ゲーム特化の新ファンド「EnFiグローバルゲームファンド」が発表に。15億円規模のFoFで業界の成長を促進
ファンド運用会社のEnFiは,2021年の「EnFiグローバルイノベーティブテクノロジーファンド」に続く新ファンド「EnFiグローバルゲームファンド」を設立。新規投資を開始したことを本日(2023年9月14日),発表した。
4Gamer:
存じております。最初のやつって,何か結果は出てるんですか?
垣屋氏:
すごくシードな状態で投資したので,まだ結果は……。
4Gamer:
シードならまぁ仕方ないか……。2年じゃ無理かもですね。
垣屋氏:
でも面白い会社がいっぱい出てきてますよ。例えば,UnityとかUnrealの次って言われてるゲームエンジンがあって,結構前からあるんですけど「Godot」(ゴドー)というエンジンで,それとかにも投資してます。
4Gamer:
すみません,Godot知らなかったです……。
垣屋氏:
開発やってないと知らないですよね。でも結構使ってる人※いるんですよ。インディーゲームのデベロッパーが使ってたりとか。知らない人から見ると,ゲームエンジンなんてUnityとUnrealの独壇場だから新規参入は無理でしょう? みたいに思っているところに,スタートアップとして入ってきて,結構名が売れてきている。
※最近では「Slay the Spire」のMega Crit Gamesによる新作の,オートバトルのデッキ構築ローグライク「Dancing Duelists」が,Godotで開発されている。(関連記事)
Godot公式サイト
4Gamer:
ゲームタイトルに限った投資というわけではないんですね。
垣屋氏:
そうですね。あとSisuのゲームファンドが出来たのが,2020年とか21年とかそれくらいなんですけど,その頃ってスタートアップの業界の中ではクラウドゲーミングがちょっと注目されてた時期なんですね。それが今,出来てきています。
金銭的リターンっていう意味ではまだこれからなんですけど,新しいものが本当に見えてるし,モノができてきていて,いい感じに進んでると思います。
W4 Games raises $8.5 million to support Godot Engine growth(W4 Games)
Mainframe Industries raises $22.9M for cloud-native games(VentureBeat)
メタバースなどを筆頭に,一般業種からの「ゲームへの注目度」は,どんどん高まっている
4Gamer:
そういうタイミングで,2号目を。
垣屋氏:
です。トレンドも毎年ちょっとずつ変わってる,という理由もあります。
新しいファンドで,継続的にゲームトレンドを知るということもそうですが,もっとほかの国,ほかのファンドマネージャーのテイストも見られれば,ゲーム業界全体を見れるんじゃないかというのがコンセプトになります。
4Gamer:
トレンドは“毎年変化してる”とのことですけど,2号ファンドではどういうところに注力するか決まってるんですか?
垣屋氏:
今回は「バランスよく」がテーマです。新しくて知られてない,日本には入ってきてないようなファンドに投資することによって,日本では知られていない情報を吸い上げたりとか。
実際にもう投資は始めてて,スウェーデンのBehold Venturesという新しくできたファンドとかがそうです。スウェーデン発のファンドってあんまりなかったんですけど,そこのファンドマネージャーはそのあたりのエリアではかなりのネットワークがあるので期待してます。
極寒の地にゲームの熱気が沸く? 国民の2人に1人がプレイヤーのスウェーデンを,ゲーム産業を年次レポートから探る
キャンディークラッシュ,Minecraft,Cities:Skyline,Hearts of Iron,Goat Simulator,Valheim……ゲーマーであれば必ず耳にしたことのあるヒット作を生み続ける,北欧の一角がスウェーデン。ゲームでの収益や業界人数など,すべてにおいて過去最高記録を達成し,絶好調のようだ。
4Gamer:
さっきも言いましたけどあのあたりの3国って,正直に言って個人的にはちょっと似た雰囲気を感じるんですが,結構違うんですよね。
垣屋氏:
そうなんですよ。「北欧」っていうくくりには出来ないですよね。
4Gamer:
昔Funcomの人と話したときに「僕らはどの国も,結構特徴が違うんだよ」って言ってました。
垣屋氏:
ヨーロッパの人たちから見たら,韓国と日本と台湾は似た感じ,みたいなものですかね。そこにいないと違いが分かりづらい。
まぁそういうところに投資したり,あとはもうちょっとグローバルに拠点を持っているファンドとかにも投資したり,よりなんと言うか……。
4Gamer:
幅広く?
垣屋氏:
そう,幅広くですね。
4Gamer:
2号ファンドは,どの辺からお金集めようと思ってますか。
垣屋氏:
もちろん継続してゲーム会社のみなさんや,その関係者というのはあたってますけど,一般投資家さんとかも可能性を感じてます。実際海外の一般投資家とかは興味を持ってもらっているので。
4Gamer:
可能性を感じる理由ってなんですか?
垣屋氏:
EnFiはファンド・オブ・ファンズ(Fund of Funds)っていう,ファンドに投資するファンドなわけですけど,分散投資でリスクを分散させるという意味で,すごくよくある手法なのに,ゲーム界隈ではまだあんまりないんですよ。あんまり……というか,たぶん世界でEnFiだけじゃないかと思います。
4Gamer:
あ,ゲーム界隈にはないんですね。ちょっと意外です。やっぱりゲーム自体がリスク高いと思われてる感じですかね。
垣屋氏:
そうなんですよね。だから珍しいということで,海外のゲーム関係者の方も投資してくれたりしてます。なので日本に限らず海外も含めて集めたいというのと,あとは日本だと,それこそ一般の投資家の方から,もうちょっと広く「エンタメ領域」みたいな感じで集めるのもありでしょうし。
4Gamer:
まあでも,もはや最近では例えばIT大手とかなんならゼネコンとか,日本でもゲームを投資先として見始めてるんじゃないですかねえ。
垣屋氏:
いや,まさにそうなんです。最近とくにメタバースとか話題になってきちゃってるし,そこに5Gとかくっつくと,もうやっぱりゲームからスタートしなきゃいけない……みたいな。だからいま言ったようなノンゲームな人達も,そこの部分は見ているんですよね。
4Gamer:
そういう感じがします。
はい,そういうところは結構アリな領域です。
ゲームの投資先にしてもちょっと最近は面白くて,やっぱり最初はゲームとして超コアなところを攻めるんですけど,別にIPを持ってるわけでもないので,テクノロジーはすごくいいんだけどゲームとして成功しない……みたいなことは普通に起こるわけです。
4Gamer:
というか成功すること自体がレアですから,そういうことは普通にあるでしょうね。
垣屋氏:
で,そうなったときにどうするかっていうとピボットするんです。
4Gamer:
別ジャンル?
垣屋氏:
そうですね。ノンゲームのエンタメ事業になってる時があります。そしてそういうのが,実はいいマッチングを呼んだりして,うまくいったり。
4Gamer:
何か,言ってもいい例とかありますか?
垣屋氏:
そうですね……これはある意味ゲーム業界内でのピボットですが,フィンランドの投資先でReturn Entertainmentという会社があるんですけど,昔はクラウドゲームを作ってました。スマホでもPCでも遊べるようなやつです。
テクノロジーとかは良いものを持ってたんですけどなかなかちょっとブレイクしきれずにいたところで,ピボットしてSamsung Nextさんからも出資をもらいまして。
4Gamer:
Webゲーム的な?
垣屋氏:
いえ,ちょっと違います。コンテンツの画面にQRコードがあって,それをスマホでスキャンするとゲームが始まる,みたいなやつです。IPはクライアントが持っていて,そのIPを使って作るゲームはReturn Entertainmentが作るという。
Return Entertainment raises €5.3M to develop cloud-native games(VentureBeat)
Why we invested in Return Entertainment, a cloud-native gaming company(Samsung Next)
4Gamer:
あぁなるほど,そういう方向。
ピボットもそうですけど,たぶんゲームの軸足が動いていってるからだと思うんですけど,最近また違う業種からの参入も目立ちますしね。
垣屋氏:
TBSさんとか集英社さんとか。
4Gamer:
集英社は派手にやってますねえ。
垣屋氏:
やってますね。
4Gamer:
そういうのもそうですが,ゲームは今までのものとは違う,なにか別なものとして,別な産業として起きてきているという感覚がちょっとあります。
垣屋氏:
そうですね。となると,そんな過渡期に過去と同じビジネスモデルでやっていいのかっていう……。
4Gamer:
いやホントそこです。さっきもちょっと触れましたけど「それはただのプロジェクトファイナンスでは?」みたいな事案が多いですよねまだ。
垣屋氏:
それが“最新のビジネスモデル”かというと,そういうわけじゃないですし。
4Gamer:
となると,結局いままでの枠から出られないんですよね。何か新たな試みは必要かなと思います。
垣屋氏:
例えばそういう新しいビジネスモデルを学ぶというのも,ゲーム投資の醍醐味だと思いますね。
4Gamer:
もはやゲームをゲームとして売る時代じゃないですからねえ。そこ意外と見落とされがちな気はしてます。
日本のマーケットだけ見ても難しいから,世界の戦いがどんなものなのかというのは見ておく必要があります
4Gamer:
……というか,そもそもゲームがメディアなんですけどね。
そう! だから古いビジネスモデルに閉じ込めるのはちょっと無理があるわけで,例えば今後,さっき挙がったような新しい業種の方たちがゲームに入ってくるチャンスでもあると思うんです。新しいビジネスモデルが,いまなら比較的受け入れられやすいというか。
4Gamer:
そこは確かにそうです。
垣屋氏:
まぁそういう感じで,ノンコアゲームの人たちにも入ってほしいですし,コアゲームの人たちは,ぜひとも引き続きオープンマインドでいていただけると!
4Gamer:
JAPANスタジオを事実上解散したSIEの動きが一番端的だと思うんですけど,大手はやはりみんなああいう方向にシフトしていくんですかね。
垣屋氏:
やはり日本のマーケットだけ見ても難しいから,どう世界で戦うのかというときに,どう日本らしさを出すのかも大事ですけど,世界の戦いがどんなものなのかというのも見る必要ありますよ。
4Gamer:
世界はまずPCとモバイルですし,そこはこの先も覆らない気がします。
垣屋氏:
そうですね。コンソールの時のビジネスモデルをこのまま続けてると,世界がPCだモバイルだって言ってるときに,新しい人たちの方がやりやすくなっちゃうわけですよね。
4Gamer:
まぁオープンプラットフォームみたいなものですから。
垣屋氏:
オープンプラットフォームで戦うのって,かなり難しいんですよ。だからその戦い方っていうのを見て学ぶ必要があります。
4Gamer:
まだちょっとのんびりしてる感じはありますけど,日本もだいぶ変わったと思いますよ。
まだ小さいとはいえゲームファンドの存在なんかもありますし,まぁ最近はとくにTencentやNetEase,あとサウジアラビアの天下ですからね,日本のゲーム業界は。若干の焦りはあります。
垣屋氏:
そうですね。
4Gamer:
これを垣屋さんの前で言うのはアレなんですが,そもそもファンドのお金は,極論するならば返さなくていいお金ですから(笑)。
垣屋氏:
まぁそうですね(笑)。
4Gamer:
そのお金で余裕を持って,作りたいものを作れる,作りたいものにチャレンジするというのが,すごくいいと思うんです。今までの日本にはなかった概念なので。
前回のときにも話題に出ましたが,下請け屋にならない,いいように使われないというのは,すごく大事なことだと思いますし,そのためには絶対にお金が必要です。
垣屋氏:
そうなんですよね。そしてそういう“下請けにならない人たち”が作るゲームって,余裕があるせいなのか結構斬新だったりするわけです。
4Gamer:
今でもまだ「友達と4人で頑張って作りました」みたいな作品もいっぱいありますけど,流れはちょっとずつ変わってきているので,そのきっかけが,ファンドでさらに進化するといいんですけど。
垣屋氏:
なんかいいゲーム作って出して売れたら,どっか大手のパブリッシャーにヘッドハントされて入社しました,みたいなのはちょっと残念じゃないですか。
4Gamer:
すごくありがち事案ですね。業界としては何も変化がないという。
垣屋氏:
そうそう! だからそういう人達が,一発当てたいとか,これで会社を大きくしたいとか,大きくして売却したいとか,お金持ちになりたいとか,そういうのは正当な欲求だと思うんです。そして海外は,結構普通にそれが起きてます。
4Gamer:
日本でそれが起こると,なぜか“ゲーム業界”からいなくなっちゃうことが多いんですよね。
垣屋氏:
そうなんですよ。前も言ったんですけど,お金も物も人も循環したほうがいいし,そうすることでゲーム業界が大きくなっていくんですけど,残念ながら今はそういう環境にないんですよね。
4Gamer:
あれは何でなんでしょう。やっぱりまだゲームの地位って低いんですかね……。
垣屋氏:
ねえ? 本当に……。
4Gamer:
俺はこんなとこじゃ終わんねえぞ,みたいな?
でもゲームは,本当に日本が誇るアセットじゃないですか。だからもう自信を持って「ゲーム」だ! 言ってくれればいいのに。
4Gamer:
ゲームで一山当てると,なんかみんなゲームから外れて違う方に行っちゃうんですよね。
垣屋氏:
だからそういう意味でも,本当にゲームで再投資という考えを浸透させたいし,あわよくばその再投資の部分にEnFiを使ってほしいです。
4Gamer:
なるほど。
垣屋氏:
あと思うんですけど,ゲームってすごくハイレベルなことをやっている産業なので,ほかに行きやすいのかもしれません。
4Gamer:
それはありますね。普通のITからゲームってなかなか難しそうですけど,逆だと可能性ありそうな……?
垣屋氏:
逆だと出来ちゃうから行っちゃうのかもしれないですね。プレイヤーも変わるし戦い方も変わるから,また新しい挑戦になっちゃうわけで,それをするよりはもう一回ゲームでやっていただきたいです。
7つのファンドから,業界のレポートがそれぞれ違う視点で送られてくるのはかなりのメリットだと思います
垣屋氏:
しかしゲームに限らずIT周りはホントに進化が速くて……いまあるものをCOVID前に想像できたかというと,正直そんなことなかったと思うんです。
4Gamer:
確かに,時代の流れは加速してます。
垣屋氏:
出たときは大して便利そうに見えないんだけど,3年経つと「あーなるほどね」みたいな。ライフスタイルに合ってくるというか,なんというか。提供してるものがライフスタイルに沿っているものを提供してるからなのか,提供しているものにライフスタイルが合っていくのか,どっちなのか分からないですけど。
4Gamer:
後者ですかねえ。今なら5Gがそうですよね。現時点では,正直さほどありがたみはないですし。
垣屋氏:
確かに。
4Gamer:
5Gで映画が落ちてきますと言われても,別に……?
でもたぶんあと3年くらいしたら,5Gじゃないとやってらんない時代になると思います。
垣屋氏:
そういう,5Gと4Gの違いが分かる何かが出る,と。
4Gamer:
ええ。何かがきっと登場するんです。
そういう意味でも,ゲームはいつも早すぎるんですけどね。
垣屋氏:
確かにそうですね。
4Gamer:
昔のソニーみたいです。ソニーはいつも,5年から7年くらい早すぎるんですよ……。
垣屋氏:
今だとAIが騒がれてますけど,それもまだ何が解になるか分からないですけど,それも見えてくるんでしょうね。
4Gamer:
AIに関しては特に早すぎるので,「何が出来るのか」とか今議論すること自体が無意味だと思います。
垣屋氏:
でも,それが出来た時には,すでに事業会社としては遅いわけです。
4Gamer:
そうなんですよねえ。
垣屋氏:
だから投資して,自社で調べなくてもずっとモニターできるみたいなのが一番いいんです。
4Gamer:
いやでも確かにそうですよね。正直,全部を追っかけてられないですけど,油断するとアッという前に出遅れますし。
追っかけてられないし,調べる人材がいるのかという話じゃないですか。詳しい人材じゃないと調べられないけど,そういう人材確保って難しいわけで。
だから外でそういうことをやってるスタートアップをモニターできるというのは,すごくいいと思うんです。今後クラウドやWeb3,AIなんかがどんどん出てくる中で,それを全部自社の新規事業チームで追えるかと言ったら……。
4Gamer:
まぁ正直難しいでしょうね。AIでさえ各社ピーピー言ってるかもしれないですし。
垣屋氏:
で,出てきたときに「これだ!」って言っても,既にちょっと周回遅れなわけで。
だから海外の人たちが,そういうことを投資で処理してる……というか,投資を事業のツールとして使ってるというのは,本当に納得できます。
4Gamer:
サマリーの情報ってすごく価値がありますよね。これだけいろんなものが,どれが嘘か本当かもわからない状態でうじゃうじゃあるので。
垣屋氏:
例えば私たちのファンドだと,7つくらいのVCに投資する予定なんですね。そうすると,例えばGDCのレポートが7つのファンドから,それぞれ違う視点で送られてくるわけで,それを全部見られるというのはかなりのメリットだと思います。
4Gamer:
いいですよね。
実はこっそりEnFiのチケットサイズ※を見て,Aetas(4Gamer)で入っちゃおうかなとかちょっとだけ思いました。コンサルに頼むより全然いいんじゃないかなみたいな。
※1回の投資における投資額のこと。いわゆる「1口」というやつ。
垣屋氏:
ぜひ(笑)。
4Gamer:
我々もゲームでそれなりに専業ではありますけど,それでもやっぱりWeb3とかAIの最新情報をずっと追い続けるのは,結構厳しい。それがまとまって来るのはちょっと助かるなぁみたいな。まぁラクしたいだけなんですけど(笑)。
垣屋氏:
パブリックに会える会社じゃないところとも会えたりするし,かなりいいと思いますよ。
ウチで言うなら,今週も一社,a16z※のゲームファンドから出資受けてる会社さんが来日したので,出資者の皆さんにお声掛けしてミーティングを入れたりとか。
※a16z=アンドリーセン・ホロウィッツ:Andreessen Horowitz。2009年に設立された米VCの大手。FacebookやInstagram,Slack,Airbnb,IFTTT,GitHubなどへの投資はもちろん,最近では仮想通貨への積極投資で知られる。a16zの名前の由来は,名前の最初と最後の文字の間に16文字あること。
アンドリーセン・ホロウィッツが数十億ドルを失う中、仮想通貨支持を続けることを表明(Cointelegraph,2022)
4Gamer:
普通に正門から英語でメールしても返事くれなかったりしますしね。
垣屋氏:
知り合いって大事ですよね。海外はもちろんですが,日本でも紹介だったら会ってくれるようなところは多いので。
4Gamer:
アジアなんかはどうですか?
垣屋氏:
今度はアジアも投資したいと思ってます。シーンがちょっと違いますし。
4Gamer:
全然違いますよねえ。
垣屋氏:
欧米ばっかり見て「Web3はちょっと違うんじゃない?」みたいなことはしたくないですから。
4Gamer:
確かに欧米を見てたら,Web3はイマイチですね。
垣屋氏:
なので,まぁ中国はちょっと難しいと思うんですけど中国以外で,東南アジア,極東,インドとかも含めた感じで。
4Gamer:
アジア圏ということで,中東は?
垣屋氏:
中東もすでにちょっと見てます。だいたい北米,北欧,東欧,南欧,その中東,中国以外のアジア……ちょっと抜けてるのが南米ですかね。ロシアもちょっと見てはいるんですけど。
ロシアもゲーム産業が結構盛んですしね。
垣屋氏:
ちょっと投資できるかどうかが不透明ですね。
4Gamer:
いまはちょっといろいろ難しそうです。
垣屋氏:
でもだいたい目星はつけてあって,もうコミュニケーションを取り始めています。あとは何を選ぶかという。
4Gamer:
全部シーディングですか?
垣屋氏:
おっしゃるとおり,ゲームベンチャーキャピタルってだいたいシードが多いですけど,実は今回はレイターステージ※のファンドもあるんですよ。
※レイターステージ=一般的なスタートアップ企業における,成長ステージの最終段階。もう事業はバッチリ軌道に乗ってる状態なので,ここから先はIPOやM&Aを目指すようになる
4Gamer:
お,そんなのもあるんですね。
垣屋氏:
あります。
LP※の投資家さんとか,日本のゲーム会社さんとかだと,お付き合いしやすいのは実はレイターステージかもしれないなというのがありまして,そういうところもちょっと投資してみたり。地域だけじゃなくてステージも,という意味でバランスよくやりたいです。
※LP=Limited Partnershipの略で,訳どおりに有限責任を持つパートナーのこと。簡潔に言うと,出資者。
4Gamer:
確かにシードだと,文字通り“シード”(種)ですからね。いつ結果が出るのか……。
そういうのを嫌う人もいるかもしれない。
垣屋氏:
そうなんです。「いつ結果が出るか分かんないからいいや」っておっしゃる人もいるので。
4Gamer:
まぁシードだしそういうものですよね。それがいやなら,ミドルかレイターあたりに突っ込めばいいわけで。
垣屋氏:
ミドルとかレイターになると,それはたぶんIPOじゃなくて,M&A案件ですよね。自分たちが買える財力があれば買ってもいいわけだし。
4Gamer:
確かにそうですね。ただのM&Aだ。
ゲームがいろんなものを内包していて,みんながゲーム業界に参入したいわけなので,もっとゲームにプライドを持っていてほしい
垣屋氏:
だいたいファンドって10年くらいなんですけど,その10年の間,事業会社さんが継続的に同じ人で見れるかという問題は結構大きいです。退職もですが,社内異動とかもありますし。そうなると,そのコミュニケーションがずっと維持できるのかというのは大きな問題でして,そこは我々EnFiが担います。
4Gamer:
あぁ,なるほど。確かに10年ともなると同じ人は普通難しいでしょうね。
垣屋氏:
我々は,自分たちも10年のファンドを作ってるわけなので,絶対そこは変わらないわけです。だからコミュニケーション面については問題ありません。投資家さんとも,投資先の会社さんとも。
4Gamer:
ハブセンターみたいな?
垣屋氏:
ハブになって,投資部隊のアウトソースみたいな感じで。異動もないですし(笑)。
4Gamer:
この手の話はコミュニケーションコストも結構シャレにならないですしね。
垣屋氏:
もちろんどの会社さんも,人材も成長していかなければなりませんし仕方ないことだと思います。そういう,事業会社さんならではの“ペイン”は,我々が省けるかなと思ってます。
4Gamer:
とくに最近は,さっきの話ではないですけどゲーム会社以外の関心も高いでしょうし。
垣屋氏:
確かにこの2年間を見ると,ゲーム会社さんじゃない会社さんの,ゲームへの関心が高まった感じがします。
4Gamer:
先ほども述べたように,たぶんそれはゲームがほかのものを内包しちゃってるからだと思います。専業ゲームメーカーは,もしかしたらまだそんなに意識してないのかもしれませんけど。
垣屋氏:
そう。これだけゲームがいろんなものを内包してて,みんながゲーム業界に参入したいということを考えると,ゲームというものにプライドを持っていてほしいですね。
4Gamer:
ちょっともう既存の枠では収まってないですし。
垣屋氏:
でもゲーム専業で頑張るということを,いまどこまで出来るのかというのは……。
4Gamer:
難しい気もしますが,とはいえやっぱり,日本のゲームメーカーは作るのがとてもうまいので,まだまだいけるはず……と。
垣屋氏:
そうなんですよね。まだいけると思うから,ちょっとまだ宝の山みたいに見えているのかも。
今のうちに,まだが息できるうちに,何か新しい解が欲しいですね。
4Gamer:
あんまり外に助けを求めないですからねえ。
垣屋氏:
このあとは,日本のIPをどう海外に持ってくかというのが鍵になると思うんですよね,ゲーム業界は。
4Gamer:
そこは,ゲームと一緒に行くかどうかじゃないですかね。IPは概ね他社が持ってたりすることも多いですし。マンガとかアニメとかIPは海外に持っていけるんですが,それをゲームと一緒に行けるかどうかというのがなかなか難しそうな?
まぁ以前Jenovaも言ってましたけど,ゲームを基点にしてほかの産業へと広がっていかないと,結局は厳しい感じになっちゃう気はします。
垣屋氏:
どのみち,いまのんびり普通にしてたらやばいと思うんです。
4Gamer:
さすがに業界の方達も分かってるとは思うんですが,“how”が分からないのかもしれません。
垣屋氏:
そもそもどこに向かっていくかも分からないですし。
4Gamer:
コンサルの皆さんに頼んでも,そういうのは分からないと思うんですよね。そもそもこんな最先端な業界だし,ホントのところゲーム業界の人のほうが,コンサルの皆さんより肌感で分かってる気もしますし。
そうですよね。
だから,少なくとも世界でどんな動きをしてるかというのは見る必要があると思うんです。でも本当に大事な情報はパブリックには出てこないですし,とくに海外はそういう傾向があります。資本関係があるなら見られますけど。
4Gamer:
まぁコンサルの人だってGoogleしてるわけですしね。なんなら今だとChatGPTでも結構いい線いくのでは。
垣屋氏:
コンサルのジュニアの人たちが調べるのはパブリックインフォメーションですからね。それをキレイにまとめて,「御社はこういう風に動くべきです」と。でもいまおっしゃったように,業界の人のほうが本当に現場のことを分かってるわけで。
4Gamer:
では締めとしては「ゲーム業界はもっと焦ったほうがいい」ということでよいですか?
垣屋氏:
そうですね。EnFiを使っていただけるのが一番嬉しいですが,そうでなくても,もっと世界の情報を手に入れて,流れに乗って戦っていけるようになってほしいです。日本のゲーム業界は,まだまだ戦えるはずですから。
――――2023年10月13日
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