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[CEDEC+KYUSHU]唐揚げ屋の社長とソーシャルゲームのプロデューサーには共通点が多い? プロデューサーの業務や考え方などが紹介されたセッションをレポート
ソーシャルゲームのプロデューサーの基本業務,プロジェクトの流れや運営を,唐揚げ屋の経営と照らし合わせて紹介するという,ちょっと変わった趣のあるセッションをレポートしよう。
そもそもゲーム開発におけるプロデューサーとは
セッションの冒頭で中山氏は,ここで紹介するプロデューサーについて「制作全体を統括する職務や役職」と定義した。そして,プロデューサー業は「自分で決めた発売日に,自信を持ったクオリティで製品を世に出す責任を負わされている」立場であり,「少し重たいなと思うが,それだけ自分の意思を作品に込められるポジションということで,非常にやりがいもある」ものだと語る。
さらにプロデューサーについて「最初からその立場にある人は少ない」と話す。中山氏自身の場合は,大元に映像のディレクションという仕事があり,その能力をベースにプロデューサーをやっている感覚とのこと。ほかにも,プログラミングやグラフィックス,チャットアクターデザインなど,ゲーム開発の各領域における成果や成功体験をもとに,プロデューサーを担当するようになった人が多いのではないかとの見解を示した。
プロデューサーが具体的に何をするのかというと,「マーケティング」「企画制作/プレゼンテーション」「予算確保(資金調達)」「全体計画/制作進行」「チームビルド/求人」「対外営業/宣伝」「運営」である。最後の運営は,会社やスポンサーに儲けを出して次につなげることだという。
唐揚げ屋さんとプロデューサー
続いて唐揚げ屋をオープンするまでのマイルストーンが,以下のスライドで示された。中山氏はこのマイルストーンを,ソーシャルゲームのそれに似ていると指摘。「今どきはDLCなども普通なので,コンシューマゲームも変わらないかもしれないが」と前置きしつつ,唐揚げ屋の社長の責務をゲームに置き換えると,「企画制作」全般,「量産準備」の人員準備,「品質保証」の最終判断,「βテスト」と「リリース」,そして「運営」における売上責任であると話す。
さらにそれらを,ソーシャルゲームのマイルストーンに置き換えたスライドや,唐揚げ屋と比較したスライドなどで説明した。中山氏はソーシャルゲームのプロデューサーの仕事を「大半は企画して,準備して,テストして,運営する」とし,「作り出す前に何を準備しなければいけないのか,困ったときにはどうしなければいけないのかを常に考えながら動いている」と語った。
唐揚げ屋さんとプロデューサーと予算と
次のテーマは予算について。まずゲーム開発で見込む予算の種類が示された。
項目は「人件費」「開発機材」「ソフトウェア」「サーバー費」「予備費」「福利厚生費」「利益」となる。なお人件費に関しては,実際の経理上では別項目扱いとなる備品や光熱費なども含まれているが,これは計算しやすくするためだそうだ。
また福利厚生費は,チームを盛り上げていくこともプロデューサーの仕事の1つなので,確保していると良いプロデューサーと言えるという。利益についても,たとえば大きな会社の1部署ならそんなに考えなくてもいいが,ゲーム開発を受託して行う会社であれば,存続のため必要になるとのこと。
続いて,唐揚げ屋で見込む予算の種類が示され,中山氏は「サーバー費以外,ゲーム開発とほぼ変わらない」と説明した。違うところと言えば,日々唐揚げを改善していくための「研究開発費」くらいだと話す。
さらに,ゲーム開発で見込む予算の種類の比率が,円グラフで示された。中山氏は,福利厚生費と利益を除くと予算全体の70%が人件費となるため,多くの企業がザックリと「人件費=開発費」と捉えているとし,「経済は,少し丸めて分かりやすく考えていくことが重要。開発機材やソフトウェア,サーバー費などが含まれていることを念頭に置きつつ,一番大きいところを水増しすることで,予算のコントロールが簡単になる」と話していた。
予算がどのように現場に下りてくるかについても説明された。それによると,予算は以下のスライドで示された「予算を意識したマイルストーン」の「試作予算審査会」で承認された段階で10%前後,「α予算審査会」で承認された段階で20〜25%,「β予算審査会」で承認された段階で残りが降りてくるパターンが多いとのこと。プロデューサーの視点だと,予算が下りてこなければ即プロジェクト終了,チーム解散となるので段階ごとの緊張感を常に持ち続けなければならないという。
簡略化したガントチャートで,予算がどのように消化されていくか,それに沿ってプロジェクトに投入していく人員はどう計画されるかが示された。この例では,試作段階では5人,量産準備段階では14人,量産・QA段階に入ると25人,そしてリリースしてからは10人となる。
たとえば試作段階の人員計画では,まずプロデューサーが必要な5人の職種を決めていく。絶対必要なのは,ゲームを考えるディレクターと絵を考えるアートディレクター,そしてプロデューサー自身である。またアイデアを実現できるかどうかを判断するプログラマーもほしい。そしてこのケースではソーシャルゲームを開発するから,サーバープログラマーも必要である。
また試作段階や量産準備段階では,「このディレクターを起用したら面白くなりそう」「このアートディレクターの絵なら勝負できる」といった,ゲームが売れることに説得力を持たせるポイントを作り出すのも重要だという。
そして量産段階では25人のチームとなるが,中山氏の見解では「1人で25人を管理できる人は少ない」とのこと。そのため,いかにして人員を管理できる体制を作っていくか考えることが楽しい人が,プロデューサーに向いているそうだ。
さらに運営段階になると,25人から10人と大きく人員が減る。さすがにこの人数ではリソースを作るのが大変なため,計画が破綻してしまうとのことで,中山氏は「人員計画をしっかり立てることで,予算獲得の段階で『こうなるから,このゲームを作れる』という保証を示せる」と話していた。
唐揚げ屋さんとプロデューサーと予算と運営と
続いてのテーマは運営計画である。ここでいう運営とは,売上から必要経費を抜いても儲けが出せるようにすることだが,以下のスライドの例では年間で約4.2億円の収益なので,開発費4億円を考えると約2000万円の黒字となる見込みだ。
どう考えても黒字額が少ないので,少し予算をかけて施策を打つことにしたところ,収益は年間で5億円まで上がったが,費用を考えるとやはり物足りない。
ここで何が問題なのかと言うと,上記の施策における宣伝費である。ユーザー流入のために宣伝費を使っているのだが,それで増えたユーザーから得られる利益がマイナスになっているのだ。現在,ユーザー1人を流入させるのに60円前後の費用がかかり,そこから実際に課金するユーザーが9%,平均課金額が約1万円といった調査結果に基づく計算をすると,この施策に1000万円かけても150万円しか返ってこないため,このプロジェクトはずっと赤字を繰り返すことになる。中山氏は,「こうした問題を解決するのがプロデューサーの一番大変な仕事」とし,「そのためIPや続編など認知度の高いものに頼りがちになる」と説明した。
その一方で,中山氏は「モンスターストライク」(iOS / Android)が何もないところから勝ち上がっていったことを示し,「世の中の常識を変えることによって,皆が喜んでくれて,なおかつ儲かる可能性があるところもゲームの魅力。この問題は,こうしたら解決できると考え出すのもプロデューサーとしての才能の1つ」と語った。
中山氏は運営について,「初期投資と経費がかかった分を収入で埋めて利益を出していく」とし,「それだけでは利益が足りなければ,さらに運営していく必要がある。どこで収入を上げるのか,あるいは初期投資や経費を抑えるのかといったことを,数字遊びではなく理由を付けてやっていくのがプロデューサーの仕事」とまとめていた。
唐揚げ屋さんとプロデューサーと予算と運営と逆境と
最後のテーマはマーケティングだ。マーケティングとは,ある商品がどういった状況でどれだけ売れるのかを数字化していくことである。
中山氏によると,ゲームの場合,たとえばあるシリーズタイトルについて,「知っている人は何人いるか」「新作が出たら遊びたいと考えている人は何人いるか」といったユーザー調査を行い,その結果をもとにマーケティングを進めていくとのこと。ここで,唐揚げ屋をオープンするときのマーケティングの例が示された。お題は人口がほぼ同じ東京・中野区と愛知・豊橋市のどちらに唐揚げ屋をオープンするかというもの。
人口がほぼ同じといっても,人口密度が大きく異なるため,生活様式も異なることが予想される。また,高齢者が唐揚げを頻繁に食べるとは考えにくい。そうなると親が25〜44歳,子どもが6〜18歳の家族がメインターゲットになりそうだが,その一方で唐揚げ弁当は単身の大学生や若手サラリーマンにも需要があると考えられる……といったことをデータに基づいて考えていくのが,マーケティングというプロデューサーの仕事というわけである。
またライバルの数も重要だ。たとえばソーシャルゲーム業界には,似たようなシステムで絵柄を変えただけのものでも,ユーザーが多かったためにものすごく儲かったという時代があったのだが,10年後に残っていたのはオリジナルだけという状態である。
中山氏は,中野区や豊橋市の唐揚げ事情でも,そういうことが起きていないかチェックする必要があるとし,「どんな特徴があり,何をしたら先達に勝てるだろうかということを考えながら企画をまとめていくのが,マーケティングと企画の関係性になる」と話していた。
話題は,以上を踏まえたうえで,ゲームに置き換えるとどうなるかと言うことにもおよんだ。たとえば中山氏は,60歳以上でもゲームをプレイする人は結構存在すると考えているとのこと。その根拠はファミコンが今から40年前の1983年に発売されたことで,当時ゲームをプレイしていた20代前半の人達が,今もプレイしている可能性があるからだ。そういったことを具体的な数字にして,経営者などゲームにあまり詳しくない人達にイメージさせていくことがマーケティングの肝であり,面白さや難しさであると,中山氏は語った。
セッションの最後には,中山氏がプロデューサーについて「プロジェクトを商売として成功させる人であり,責任を持っているからこそ,作品性について強い意志を示せる」と表現。中山氏自身,若い頃はプロデューサーの発言に反発することもあったそうだが,ある程度キャリアを積んでからは,「大きな責任を背負っているから,しっかり物事を言える立場なんだな」と理解できるようになったという。
またプロデューサーの仕事とは,「仕事を作り出して世に送り出し,お金を稼ぐこと」であるため,お金や数字にある程度強くなることが大事であることや,準備を重ねて何か問題が起きても対応できるようにしておくことの重要性についても強調していた。
「CEDEC+KYUSHU 2023」公式サイト
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