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運営やメーカー,印刷所が語るイベント事情。「ゲームマーケット2023秋」スペシャルステージレポート
そんな企画の中から,2日間にわたって国内外の多彩なゲストが登壇し,トークを繰り広げたスペシャルステージの模様を,いくつかピックアップして紹介していこう。
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「SPIEL ESSEN スペシャルステージ inゲームマーケット」
まず一つ目は,9日の午後から開催されたステージ「SPIEL ESSEN スペシャルステージ inゲームマーケット」を紹介しよう。
毎年10月に,ドイツのエッセンで開催される世界最大のボードゲーム展示会「SPIEL Essen」(以下,SPIEL)。このステージでは,同イベントにてコミュニケーションディレクターを務めるRobin De Cleur氏が登壇し,現ゲームマーケット事務局長の草野彰宏氏とトークを繰り広げた。
まずは,前回のゲームマーケットで発表されたSPIELとゲームマーケットのコラボレーションについて聞かれたCleur氏は,「ドイツのゲームを日本で,日本のゲームをドイツで宣伝するために協力しようという話になりました。日本のゲームには新しいアイデアが多いので,今後が楽しみです」と回答。コラボレーションの狙いを語った。
続けて草野氏は,「2023年10月のSPIELでは,ゲームマーケットのためのスペースを用意していただけるとのことなので,日本のゲームをしっかり紹介したい」といい,またそれだけでなく,海外のクリエイターがゲームマーケットに出展しやすいプランも用意していきたいと,来たる次回SPIELへの展望を話していた。
その後に行われた会場の参加者からの質問を受け付けるコーナーでは,なかなか鋭い質問があったので,いくつか紹介しておこう。
まず最初の質問は,「国際的イベントであるSPILEには多くの国からゲームが出展されているが,(ブース不足で参加できないメーカーも出ている)狭いゲームマーケットの会場でどのように紹介していくのか」というもの。
これに対し草野氏は,出展者の皆さんに無理を強いている現状を謝りつつ,次回「ゲームマーケット2024春」では,ビッグサイト側の協力でより広い会場が確保できたことを報告。結果,一次募集に応募した出展者は,すべて出展可能になったとのことである。
一方Cleur氏からは,「SPILEの“形”よりも雰囲気を持ってきたい」との回答があった。実際どんな出展になるのか,今から楽しみだ。
次の質問は,「ドイツに持ち込んだゲームの内容が,民族・宗教的タブーに触れるものだった場合はどうなるのか」というものだ。
これへのCleur氏の回答は,「クリエイションの心があれば,相談しながらきちんと紹介できるようになると思いますので,ご心配なく」という心強いものだった。
草野氏も,「クリエイターのとんがったクリエイティブな部分はプラスの評価だと思っています。ですのでSPILEのポリシーに触れない限り,可能な限り原形のまま紹介したいと思っています」と話している。ただし商品化する場合はまた別で,クリエイターと相談しながら,多くの国で受け入れられるよう,アークライトがサポートしていくとのことだった。
こうしてステージは終わりを迎え,最後にコメントを求められたCleur氏は,「この会場の雰囲気は,SPILEにも似ていて,とても嬉しく思いました。皆さんがSPILEにも来てくださるのが楽しみですし,知人のクリエイターにもゲームマーケットに足を運ぶよう,伝えたいと思いました」と話,ステージを締めくくった。
「自作のゲームをメーカーに見てもらうには?」ゲムマ座談会 第1部
翌日10日の昼過ぎから開催されたのが,ボードゲームに携わる企業の担当者による座談会ステージだ。「ボードゲームに関わる疑問を解決!ゲムマ座談会」と題されたこのセッションではタイトルどおり,会場に居合わせたクリエイターからの疑問に,出演者達が回答していくというもの。
まずメーカー関係者が揃った第1部では,アークライトの野澤邦仁氏,オインクゲームズの佐々木隼氏,そしてホビージャパンのねいじまとうこ氏が登壇。YouTuberであるHAL99氏をMCに,「自作のゲームをメーカーに見てもらうには?」というテーマでトークを繰り広げた。
最初の質問は,「自社にインディーゲームが持ち込まれたとき,どのような点に注目するのか?」というもの。
アークライトの野澤氏は,「一つがすごく尖っていて,それ以外がシンプルにまとまっているとありがたいし興味を持ちやすい。こだわりがいっぱいあると,面白さにたどり着くのに時間がかかるので」と,これに回答。一方,佐々木氏は「まずほかに似ているタイトルがないのが第一」としつつ,オインクゲームズは小さい箱のタイトルが多いことについて,「箱に収まるかは気にしなくて大丈夫です(笑)」と会場の笑いを誘っていた。
佐々木氏によれば,個人では解決できない問題をオインクゲームズなら解決できるような場合に,そのクリエイターと組む場合が多いという。メーカー側としても,クリエイターにメリットを提示できるかどうかが重要なのだという。
続いての質問は,「ゲームマーケットの前にインディー作品を遊んでいるか」だ。
野澤氏は,事前に体験会があれば積極的に参加しているとこれに回答。ゲームマーケットの当日は時間が限られるので,そうした機会はかなり貴重だと話していた。
一方,オインクゲームズの佐々木氏は,人員と時間の限界から試遊会に参加はしていないそうだ。またイベント会場での持ち込みにも対応しきれない状況なので,ゲームを見てもらいたいならアポイントを取ってほしいとのことだった。
これはホビージャパンのねいじま氏も同様で,むしろ多いのは人づての口コミだという。また佐々木氏と同様に,イベントやアポイント経由での持ち込みは歓迎しているそうである。
なおアポイントの取り方としては,公式サイトのお問い合わせから連絡したり,イベントや体験会で声を掛けるのが良いそうだ。「イベントに行くので会ってください」とか「ブース出展しているから来てください」といった内容なら対応しやすいそうで,いずれの担当者も対面でのやり取りが好ましいとのことだった。
そして第1部の最後の質問は,「インディーゲーム制作者への要望は?」だ。
草野氏は「既存のボドゲファンの外にも広がるような,業界を広げてくれるゲームに期待しています」,佐々木氏は「僕らは値段やプレイ時間,収納スペースなどすべての要素が大事だと思っています。ただ面白いだけではダメなので,そういう視点と自信を持ってほしい」,ねいじま氏は「“これをこのまま出してほしいです”と言われると厳しい。むしろ改善点や変更点など,次のバージョンにつながる提案が用意されているとありがたい」とそれぞれの思いを語り,第2部の登壇者へとバトンをつないいだ。
「ボードゲームの印刷事情を知りたい!」ゲムマ座談会 第2部
第2部では,「ボードゲームの印刷事情を知りたい!」をテーマに,制作を支える印刷所の担当者達によるトークが繰り広げられた。登壇したのは盤上遊戯製作所の森川聡宏氏,萬印堂の山口真司氏,タチキタプリントの西山昭憲氏だ。
ここでは,実際に印刷所に持ち込まれたボードゲームの印刷データを元に,製品が作られていく過程や,それにまつわる苦労が語られていった。この辺りは「前日入稿はやめて余裕を持って入稿してほしい」「初心者は半分近くがデータミスをしている」など,とくに初心者が陥りがちなミスについての指摘が多かったので,本稿では割愛する。
その後も印刷や原価についてのさまざまなエピソードが登場したが,とくに印象に残ったのが西山氏の次の発言だ。
西山氏曰く,「僕らは面白いゲームを一緒に作りたいんです。”ゲームマーケットに出たいからゲームを作る”とか”スケジュール的に作らないといけないから作る”なんてのは,正直止めた方がいい。仕事だったらそれも仕方がないかもしれないですが,趣味で作るのであれば余計なプレッシャーに負けず,“面白いものができた”ときにこそ相談してほしい」とのこと。
つまり楽しんでゲーム制作に向き合ってほしいということで,イベントに出るかどうかは,その次の話ということなのだろう。
ゲームマーケットの開催中,スペシャルステージではこのほかにもさまざまなステージイベントが開催され,多くの観客で賑わっていた。ゲームマーケットでは,アナログゲームの世界をより広げるため,今回のようなステージは続けていくという。次回はどんな登壇者がどんなトークを繰り広げてくれるのか,今から楽しみだ。
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