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1週間で1タイトルを完成させるスピードと,徹底したプレイヤーデータ分析。ハイパーカジュアルゲームの開発手法とは
ハイパーカジュアルゲームは,その名前の通り,シンプルで誰にもプレイできる内容とともに,広告を利用するビジネスモデルにも大きな特徴がある。具体的には,開発したゲームの広告をほかのゲーム内に出してプレイヤーを呼びこみながら,自分たちのゲーム内にもほかのゲームの広告を表示させ,支払った分以上の広告料を受け取るといった感じだ。
今回のセッションでは,広告面も含めた,さまざまなノウハウが語られたので,本稿でレポートしよう。
最初に登壇した金子氏は,まずGOODROIDのアプリ開発事業を紹介した。2014年に設立された同社は,これまでに100本以上のアプリを開発し,累計ダウンロード数は3億以上と,ともにサイバーエージェントグループで最多となっている。
同社には既存IPを使用したソーシャルゲームを主に開発するアプリ事業部と,IPを使わない全世界向けのハイパーカジュアルゲームを開発するHyper Casual Studioがあり,金子氏と加来氏は後者に所属している。
金子氏はまず,「ハイパーカジュアルゲームの開発にはスピード感が大事」と語ってから,開発ノウハウの紹介に入った。
●企画
Hyper Casual Studioでは,企画段階で「ペライチコンペ」と「ブレスト5」を行っている。ペライチコンペは,全職種が混合されたチームが,1ページの企画書を作って行うコンペのこと。ハイパーカジュアルゲームは全世界の幅広い層にプレイしてもらう必要があるため,1ページにまとめられるシンプルさが必要になる。
ブレスト5は,全職種で行う5分間のブレインストーミングで,これによって「アイデア」を発散させるとのこと。
どちらも全職種が参加するのは,企画の質と量を上げる狙いがあるとのことだ。
●テスト開発
よさそうな企画が出たらすぐに開発に入り,1週間程度で完成させる。このペースなので,1か月で30本近いアプリを出すこともあるという。
仕様書も数枚程度で,細かい部分はプランナーとエンジニアが実装しながら詰めていくそうだ。
●獲得テスト
実際にゲームの広告を出稿して,CPI(Cost Per Install。1人にインストールしてもらうためにかかる金額)を計測する。
15秒ほどの広告でゲームの面白さやルールを伝えるのだが,広告を見た50%の人が,冒頭の3秒で離脱してしまうそうで,多くのアプリは目標のCPIを達成できず,ここで開発が終わるとのこと。金子氏は「『絶対に行ける』と思っていても,実際に出してみたら全然ダメでした,みたいなことも多々あります」と,その難しさを語った。
●広告のポイント
広告動画については,「冒頭で興味を引く」「成功よりも失敗パターンを入れる」「5秒以内にゲームプレイを明確にする」「幅広く受けるモチーフを選ぶ」といったところを意識しているとのこと。
「冒頭」「5秒以内」というのは,広告を見た人の約半数が3秒で離脱してしまうデータを受けてのものとなる。失敗パターンを入れる理由は,動画を見た人に「どうすればクリアできるか」を考えさせ,興味を引けるからだそうだ。
●本開発
シビアな獲得テストをくぐり抜けたアプリだけが本開発に入れる。エンジニアやデザイナーが追加でアサインされるが,開発期間は2週間から1か月程度と,やはり短い。
本開発では,メインとなるゲームシステムの面白さや中毒性を高めることが大きな目標となり,それ以外の部分でもデザインなどでブラッシュアップが行われる。
●改善運用
正式リリースの後も徹底的なデータ収集と分析は続き,1週間に1回のペースでアップデートを行う。アップデート後のプレイヤーデータを見て,それまでの方針がガラッと変わることもあるそうだ。
金子氏は,最後に改めてスピード感の重要性を強調して,自身の講演をまとめた。
代わって登壇した加来氏は,ハイパーカジュアルゲーム開発の裏側を紹介した。
金子氏も語っていたように,ハイパーカジュアルゲーム開発ではスピードが何より重要なのだが,それに役立っているのが自社開発基盤の「Omega」だという。
OmegaにはSDK(ソフトウェア開発キット)や,ユーザーインタフェースのテンプレート,ベースの設計などが含まれており,これによって開発速度は20〜30%アップして,「面白さと中毒性」の創出に集中できる時間が増えたとのこと。
加来氏は,ハイパーカジュアルゲーム開発の問題点として,多数のタイトルを開発することによる弊害を挙げた。タイトルの数が増えると,過去タイトルのクラッシュ増加への対応や,広告動画の作成といった作業が膨大になり,コストも増加するためだ。
加来氏は,以下のような対策を取っていることを説明した。
長期間アップデートがない過去タイトルのクラッシュ増加は,端末やOSシェア率の変化によって起こる場合が多く,開発側では気づきにくい。そこでHyper Casual Studioでは,クラッシュ率の監視情報をコミュニケーションツールのSlackと連係させ,増加したらアラートが通知される仕組みをととのえたそうだ。
広告動画の作業負担軽減については,ヒットした過去の広告動画を再現可能な状態にしているという。もともと,ハイパーカジュアルゲームでは大量の広告動画を作成する必要があるうえ,ヒットした動画のキャラや背景など,一部を変えることでさらにヒットするケースもあるため,撮影時のパラメータを共通ファイルとして保存するシステムを構築したそうだ。
続いて加来氏は,ハイパーカジュアルゲームの開発では,「フィーチャーフラグ」と「A/Bテスト」の活用が重要になると語った。
フィーチャーフラグとは,コードを書き換えることなく,動的にシステムの振る舞いを変更できる開発手法のこと。A/Bテストは,プレイヤーごとにAとBいずれかのパターンを配信し,広告の視聴回数やプレイ時間,継続率といった数値にどれだけ差が出るのかを計測するものだ。
金子氏が話していたように,テストでは「絶対に行ける」と思っていた仕様が期待外れに終わることも多いが,それだけにうまくいった場合の喜びは大きいという。
A/Bテストは長いものになると1か月以上になるが,テスト開始から集計までを自動化し,工数をかけずに多くのテストを回せるようにしているそうだ。
最後に,最近のトレンドとして,ハイパーカジュアルからハイブリッドカジュアルへの流れがあることが紹介された。ハイブリッドカジュアルゲームとは,広告に加えてゲーム内課金でもマネタイズを行うもので,ハイパーカジュアルに比べて高い継続率,長いプレイタイムが必要になる。加来氏は「ハイパーカジュアルで勝負しつつ,ハイブリッドカジュアル領域でもヒットを出したい」とアピールして,セッションを終えた。
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