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「スーパーモナコGP」や「ダーツライブ」を生み,セガの社長も務めた小口久雄氏が考える“ゲームの面白さ”とは ビデオゲームの語り部たち:第37部
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印刷2024/04/27 11:00

連載

「スーパーモナコGP」や「ダーツライブ」を生み,セガの社長も務めた小口久雄氏が考える“ゲームの面白さ”とは ビデオゲームの語り部たち:第37部

日本のゲームが一番面白かったのは,チャレンジできた時代


 小口氏のゲーム開発に対するアプローチも語ってもらった。

 「企画でセガに入ったこともあって,どっちかって言うと企画で差別化したいと思っていた。もともとセガの開発の進化の過程って,ハードの進化。それまでスプライトで表現していたところに,ポリゴンが出てきて,そこにテクスチャを貼ることができて……。
 こういう進化は全部,裕さんのところに任せていた。裕さんが最先端のものを作って,うちはそれを次に使わせてもらう。だから企画で勝負しないと差別化できないから,より企画に凝っていた」

 実際AM3研は,スプライト描画の疑似3Dグラフィックスを使った3D格闘ゲーム「ダークエッジ」を,ポリゴン描画を使った「バーチャファイター」に先駆け,1993年1月にリリースしている。

クレイジータクシー
画像集 No.013のサムネイル画像 / 「スーパーモナコGP」や「ダーツライブ」を生み,セガの社長も務めた小口久雄氏が考える“ゲームの面白さ”とは ビデオゲームの語り部たち:第37部
 「個性のある企画マンがいっぱいいたんだよね。亙(亙 重郎氏)の『バーチャロン』にしても,菅野(菅野顕二氏)の『クレイジータクシー』(クレタク)にしてもさ。でも,ゲームの面白さを構築するところがちょっとズレたりしてくるんだよ。それを,俺が統括プロデューサーとして助けてあげる。
 たとえば『クレタク』なら,自分の中ではこういうゲーム性で,こんな世界観で,こういう仕上がりといった感じで出来上がっている。でも,現場でやるのは菅野じゃん。それで俺が『北に行け』って言ったら,もう菅野のゲームじゃなくなるし,『だったら小口さんが全部やって』って話になる。
 だから俺が北と決めたら,菅野が南に行くのは絶対ダメだけど,北東から北西の範囲に進んでるんだったら,『ここのスピード違うな』『このキャラ違うな』と思っても任せる。そこに俺が口を出すと,たぶんダメなゲームになっちゃうんだよね」

 「電脳戦機バーチャロン」のときも,ロボット要素に関しては口を出さなかったそうだ。

 「『電脳戦機バーチャロン』は,亙がカトキさん(カトキハジメ氏)と一緒に始めたんだけど,俺はロボットのことをそんなに知らないから,『知らないことには一切口出ししません』と。だけど,面白い面白くないの判断はできるので,たとえば『ロボットから打ち出された弾が瞬時に当たるんじゃなくて,自分が避けるためのタイムラグがある程度あったほうがいいよ』といった指導ができる。俺のやっていることは,ゲーム性そのものに関する指導。
 『クレイジータクシー』のときは,『カッコいいことは捨てないで』と言っていた。そのゲームをやることやゲーム性,そしてやっている姿がカッコいいってことが基本コンセプトなので。だからタクシーの止め方も,こうなったら得点を高くするということは絶対譲れない。
 そういった口出しはするけれども,『このゲームはこういうコンセプトで作られている』というところがある程度守られていれば,トンチンカンなゲームにはならないから。菅野がBGMにオフスプリングを選んだときも,完璧って思ったし」

電脳戦機バーチャロン
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 そうした小口氏の導きに助けられた開発者やゲームも多かったようだ。

 「ゼロから全部できる人って意外と少なくて,ある程度道を敷いてあげるとできる人が多いんだよね。それは,たぶん映画でも音楽でもそうだと思う。人々がゲームに対して求めているものが,もう確立しちゃっているんだよね。
 FPSだったら,いかにリアルに表現して,弾が当たったときに痛い感じにさせるかを追求してる。あとは,プレイヤー同士のコミュニケーションをいかに円滑にさせるか。それがFPSの面白さにつながっている。そこに変なストーリー性は要らない。
 RPGにストーリーは要るけど,FIFAのサッカーには要らないでしょ。それよりも,いかに本物っぽくパスを出せるかのほうが重要だよね」

 開発者の指導や育成には,小口氏独自の考え方で臨んでいたという。

 「『作っている人間が面白くなかったら,面白いゲームなんてできないだろう』『セガが死んでも,自分達は生きるんだ』って部下を教育してきたから,態度がでかい連中が多いんだよ。自分がすごくできる人間だと勘違いしちゃってるんだよね。俺もそうだけど。自分が一番偉い,一番できるって思っていた」

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 そんな小口氏は,今のゲーム業界を見渡して,若手開発者に目立った人材がいないと感じているとのこと。

 「セガだけじゃなくて,国内大手を見渡しても若手のゲームクリエイターのリーダーみたいな存在がいない。今のゲームの作り方が,もう映画のそれみたいになっちゃってる。分業制になってるよね。
 俺らの頃はさ,自分で企画作って,自分で調整して,自分でドット打ってキャラ作って。1チーム7〜8人しかいないから,1人1人の個性が際立つし,特徴も出る。でも今ってそうじゃないから,優秀な人がいても個性がそこまで際立たない。映画も,有名な映画監督が1人でストーリーやキャラクター,世界観とかを全部作ればその人の個性が出るけど,今のゲームの作り方は違うもんね。ゲームの有名プロデューサーがいるかって言うと,日本にはなかなかいない。売れているゲームもリアルを追求したものが多いし」

 また,かつての日本は世界のゲーム業界を引っ張っていたのに,いつの間にか後進国になったとも感じているそうだ。

 「日本で一番売れているのはSwitchのゲームだし,イギリスならサッカー,アメリカならFPSっていうことになってしまっている。だから,クリエイティビティを追求するような感じがない」

 それは,日本から新しいゲームが生まれにくくなったことと関係しているというのが小口氏の見解だ。

 「ゲームメーカーが大企業になった。俺がセガの社長をやっていた頃は,上がってきた企画を独断と偏見で『これ面白い。やろう』ってことが,まだできた。でもその一方で,毎年毎年右肩上がりの成長を続けなきゃいけないような企業になっていたので,なかなかチャレンジができないんだよね」

 チャレンジできない理由を,小口氏は「当たるか当たらないか分からないから」と説明する。そうなると当たったもの──たとえば前作が100万本売れたタイトルのナンバリングが,ラインナップの半分を占めるような事態になっていく。

 「ドリームキャストのときなんて,まったく新しいゲームがいっぱいあったじゃない。穴から部屋を覗く『ROOMMANIA#203』とかさ。そういうのが,もうないんだよね。そんな企画,絶対通らない。当たるか当たらないか以前に,今は倫理観とかを求められて,『そんなの出していいのか』みたいになるから。やりづらくなったよね」

ROOMMANIA#203
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 またゲーム1タイトルあたりの規模が大きくなったことも,チャレンジできない理由だという。

 「当然予算も大きくなるから,会社の上層部が決済するじゃない。たとえば予算30〜50億円のゲームを作るとなったら,『上層部が決済します,取締役会にかけます』ってなる。でも上層部はゲームのことなんてよく分からないから,説明しなければならなくなる。そうなったときに『覗きのゲームです』って言っても,誰も30億円もの予算を付けたがらない。でも,上層部が分かるようなゲームの企画だったら通るんだよね。『AとBとCを足して3で割ったようなゲーム』なら上層部も想像できる。
 昔はそれでも俺がいて,中がいて,裕さんがいて,名越(名越稔洋氏)がいて,それぞれが自分達の責任でやっていた。それぞれに決裁権があって,外したら自分達の責任。だからセガが分社化して子会社を連立させた時代,赤字の会社は淘汰されていった。昔はそういう仕組みがあったけど,今はないからね」

 いろいろチャレンジできた当時が,日本のゲームが一番面白い時代だったと小口氏は振り返る。

 「消えちゃったけど,ドリームキャストだって面白いゲームがいっぱいあったんだよね。作り手それぞれにポリシーがあった。たとえば俺は,AM3研やヒットメーカーでは絶対にナンバリングをやらないと決めてた」

 そんな小口氏は,ここ10年来「にゃんこ大戦争」を毎日プレイしているそうだ。ゲーム内のキャラクターはほとんど集まっているが,惰性で毎日起床時と就寝前に10分ずつプレイしているという。

 「もうそんなに長くゲームを遊べないから(笑)。長く遊んだと言えば,『ウルティマ オンライン』は4〜5年やったね。始めた頃はまだ英語版だった。ああいうのがあれば,またやりたいよ。もっとリアルなバージョンで,同じような仕組みのやつがあったらいいんだけど」


面白いゲームを作ることは,脳科学の研究と同じ


 小口氏が現在取締役を務めるユードリームは,高校時代の同級生4人で創業したコンテンツ制作会社で,2011年の創業時には東京にオフィスを設けていた。

 「最初の仕事は,赤坂にあるプルデンシャルタワーの落成記念でモザイクフォトを作った。プルデンシャルの社員の顔写真を並べて,ビルを再現した画像を作ったんだ。『この人とこの人を並べてください』みたいな細かいリクエストに1つ1つ応えてね。そうすると,役員さんが喜ぶんだよ。そういう,心のこもった事業も儲かるんじゃないかと思ってやっていた。でも俺がセガの社長やっていて忙しかったり,いろいろ事情があったりしてその1件だけやって休眠していたんだよね」

 ユードリームは,メンバーが還暦を迎えるということもあり,2019年に地元である長野・諏訪地区に拠点を移している。

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 「俺,岡谷市の産業大使だからね。もういい歳なんで,少しでも田舎に貢献しようと思って。コンテンツ会社ってなってるけど,蓼科でレストランもやっている。まだ全然収益は上がってないけど,まあそんなに大儲けしようと思ってないから」


 その一方で,遊びの「楽しさ」に関する研究もしていると小口氏。何に楽しさを感じられるかは,時代によって変わるものと考えているという。

 「たとえば『スペースインベーダー』は,背景なしで左右に動くヤツを撃って倒すだけ。昔はそれをクリアするためのいろんなやり方があって,すごく面白いと思っていた。でも今,そういうのに触れる機会があっても,あんまり面白くないよね。『何で,こんなの100円玉積んでやっていたんだろう』って思う。時代が違うから。時間の経過に対する感覚もそうだし,何より今は遊ぶものがありすぎる。昔は学校の帰りに遊ぶものなんてそんなになかったから,『インベーダー』の名古屋撃ちが共通の話題になったけど,今はLINEの設定のほうが大事だよね。『名古屋撃ち? それ知って何か得するんですか? 無駄じゃないですか?』ってなっちゃう。でも遊びには,『無駄なこと』って意味があるじゃん」

 そして遊びには,制限や困難が重要であるというのが,小口氏の考えだ。

 「制限の中でゲーム性が構築されるんだけど,今のリアルな表現には制限がない。制限がないということはゲーム性がない。制限の中で,目的地に到達することがゲームじゃん。人間って本来,制限──つまり困難を克服したときに,楽しさを感じる。でも今の時代には,そこで楽しさを感じる必要がない。ゲームであっても『何でわざわざ困難に立ち向かわなきゃならないんだ』ってなるし,困難を早くクリアするためのガチャを用意してお金を使わせる」
 ただ,そうしたお金の使わせ方がダメだとは思っていないそうだ。

 「今,そういう時代だから,その中でどうやって楽しさを構築していくかを考える。自然の流れに任せていけばいいと思う。今は皆がコンシューマゲームをやっている時代じゃなくて,クラウドもあればスマホもあればPCもある。そうやって自由で多種多様ではあるんだけど,求められているものが昔のような困難を克服するようなゲーム性じゃなくなっている。そういうゲームは,これからあまり生まれてこないんじゃないかな。皆,困難を避けるからね。
 どちらかと言うと,『直接的に自分を脅かしてくるものを一瞬で消し去って気持ちいい』みたいなゲームのほうがたぶん多くなる。『暑いから冷房入れる』みたいな,人間の本能的な楽しさに訴えかけるゲームのほうが受け入れられる。RPGは,レベル上げないと次のシーンをクリアできない。それってまさに修行だけど,かつては楽しかった。でも今,そんなの楽しくないじゃん。だから,時代に合わせて楽しさを作っていく必要がある」

 とくに,人間は「自分が生き残ること」を楽しい,気持ちいいと感じるようにできているというのが,小口氏の持論だ。

 「謎が解けたり,知識が増えたりすると楽しいじゃん。あるいは敵を倒すことや,暑いのを涼しくすることは気持ちいいじゃん。それって,全部生き残ることにつながっている。とくに,日々変わる環境の中で人間という種を保っていくには,その環境に耐えうるような新しい知識を持ってないと,人間という種が終わっちゃう。だから人間は,新しい知識を得ることを楽しく感じるようにDNAに組み込まれている。生殖もそうだよね。あんなに楽しいことはない。だから永久に続く。『人間という種が終わらないようにすること=楽しさ』だと,俺は思っているんだよ」

 もちろん,人間以外の動物にも「種を終わらせないこと=楽しさ」という部分はあるが,人間の場合は少々事情が異なるという。

 「動物も暑ければ涼しいところに行くとか,ちょっとした道具を使ってクルミを割るとかに楽しさを感じるんだけど,人間はとくに大脳が発達しているから独特な楽しさを感じるれる。たとえば,社会に貢献した結果,勲章をもらって嬉しいっていうのは人間だけ」

 この考えで,なぜ人間がゲームを面白く感じるかも説明できる。

 「たとえばRPGを何で面白く感じるのかというと,目の前の敵を倒すという本能的なところと,ストーリーを終えてエンディングに到達したときに祝福されるみたいな大脳で考えるところが,うまく配合されているからじゃないかな」

画像集 No.019のサムネイル画像 / 「スーパーモナコGP」や「ダーツライブ」を生み,セガの社長も務めた小口久雄氏が考える“ゲームの面白さ”とは ビデオゲームの語り部たち:第37部

 こう語るように,今もゲームの楽しさについて考え続けている小口氏だが,現在の自分を「ビジネス&人生アドバイザー」と自称している。

 「楽しさ=人間の行動の原点じゃん。人間って,お金を使うことであっても全部楽しい方向にしか行かない。ビジネスにしても人生にしても同じで,何をしたら楽しいかを考えてアドバイスすればいい。結局,『面白くすることが世の中のすべて』。これが人間に組み込まれているDNAそのものの仕組み。俺はセガでずっと楽しさをクリエイトする仕事をやってきて,そういうことなんだって境地に至った」

 小口氏は,「面白くすることは,すべてにつながる」と思い至ってからは,失敗することがなくなったという。

 「仕事でも社長でもできると思っていたのは,『面白くすることは,すべてにつながる』に立ち返れば,絶対失敗しないから。男女や家族の関係でも問題が起きるときは,相手が楽しくなってないんだよ」

 もちろん,「面白くする」「楽しくさせる」だけでは解決できない局面もある。それは「人間は最終的にどちらが得か考えるから」と,小口氏は説明する。

 「すごく分かりやすい例を出すと,『ゲームばかりしてないで,勉強しなさい』と親に言われたときに勉強するじゃん。そのときゲームを続けたらもちろん楽しいんだけど,何となく『ここで勉強して,いい学校に入ったほうが将来的に得かな』と思っているはずなんだよね。俺だって大学時代にはビンゴインに行きたいけど,長い目で見たら勉強しておいたほうがたぶん得だなってチョイスしたし(笑)。
 人間って,常にどっちが楽しいかチョイスしている。その中には,苦しさから逃げることも含まれている。いずれにしても,皆,必ず楽しいほうに行こうとする。そうしないと死んじゃうから」

 そうやって考えていった結果,たどり着いたのが「人間は,どこで楽しさを管理しているのか」という疑問だ。

 「心──つまり脳ですよね。だから一時期,脳科学の本を読み漁っていた。それで最終的に分かったのは,結局,脳内物質なんだろうと。脳の中のアドレナリンとかノルアドレナリンとかセロトニンとかが,楽しさを作っている。それで脳科学をすごく勉強したら,面白いゲームを作れるって結論になった。『面白いゲームを作ることは,脳科学の研究と同じ』なのは間違いない。でも逆に言うと,『俺が人生懸けてやっていたのは脳内物質?』みたいなことだよね(笑)」

 小口氏は,あらためて「ゲーム業界は,人を楽しくするという人間の本質そのもの」と語る。

 「セガの入社式で,いつも『ゲーム会社に入ったことを誇りに思ってください。世間には遊びやゲームを仕事にすることに偏見を持っている人もいるけど,楽しむことは人間の本質なんで自信を持ってください』って新入社員に話していた。それは,脳科学の裏付けを持っていたから。楽しむことは人間の本質なので,そこは否定するものじゃないよ」

写真提供 ©SEGA/小口久雄


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著者紹介:黒川文雄
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 1960年東京都生まれ。音楽や映画・映像ビジネスのほか,セガ,コナミデジタルエンタテインメント,ブシロードといった企業でゲームビジネスに携わる。
 現在はジェミニエンタテインメント代表取締役と黒川メディアコンテンツ研究所・所長を務め,メディアアコンテンツ研究家としても活動し,エンタテインメント系勉強会の黒川塾を主宰。
 プロデュース作品に「ANA747 FOREVER」「ATARI GAME OVER」(映像)「アルテイル」(オンラインゲーム),大手パブリッシャーとの協業コンテンツ等多数。オンラインサロン黒川塾も開設

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