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アドベンチャー&ノベル&学生ゲームオンリーの「東京ゲームダンジョン外伝」。特化型だからこそ見えてきた「潮流」とは?
協賛は,サイバーエージェントとColorful Palette,MicrosoftによるインディーデベロッパのサポートプログラムID@Xboxだ。また運営の協力を,Noteと東京工業大学デジタル創作同好会traPが行っている。
アドベンチャー&ノベルオンリーでも会場はかなりの盛況だった |
いつもとは少し雰囲気の異なる会場から,今回も筆者が会場で気になった作品を紹介していきたいと思う。
「東京ゲームダンジョン」公式サイト
特化型イベントだからこそ見えてきた潮流も
テキストアドベンチャーの「ナツノカナタ beyond」(PC / Mac,※Switch版は発売日未定)は,2022年にSteamで無料配信された「ナツノカナタ」の完全版ともいえる作品だ。
新規キャラクターとスチル,新たな挿入歌,BGMが追加されているほか,Unityによって作り直され,プレイ環境も向上している。
本作は,テキスト&静止画ベースの作品ながら,さまざまな場所でアイテムを拾ったり,感染者たちと戦ったり,装備をクラフトしたりするなど,目標条件をクリアしていくローグライト的な周回プレイ要素もある。また戦いの際には,弾薬などのリソース管理も必要になる。
アドベンチャーゲームとして,往年のゲーム好きにはどこか懐かしいスタイルなのだが,今の若いゲームファンには新鮮に感じる作りかもしれない。作者のKazuhide Oka氏(@nKTqcTFkvMEjKcX)は,小説を読むのが好きとのことで,物語面でもシステム面でも「テキストを読んで想像する楽しさ」を軸に作品を作っているのだそう。
次に紹介するのは,刺激的なタイトルにより界隈で話題となっている「よりそいデリバリー」。「PHRASEFIGHT」「ツキササリーナ」「限界OL海へ行く」といった,小規模で尖ったゲームを作り続けるデベロッパ「超OK」のクルステ氏(@col_ste_)の新作だ。
ゲームに内容は,夜中に女の子を部屋にデリバリーしてもらい“健全に”過ごすというもの。クルステ氏にタイトル名について聞いたところ,「限界OLもそうだったが,明らかに話題性を意識した。その代償は覚悟している」と返ってきた。
また「俯瞰視点の舞台を動き回り,お話を進めていくゲームはずっと作りたかったもの。これまでの作品で得たノウハウを組み合わせついに達成できた」そうで,嬉しそうに語る氏の様子が印象的であった。
個人的にはタイトルから連想される“それ”よりも,ディスコードなどを使ってオンラインで集まり,話したり話さなかったりしつつ,各自が思い思いに過ごすような時間が思い浮かんだ。
「東京ゲームダンジョン」を含む多くのインディーゲームイベントの取材をしてきた筆者だが,今回の会場では“新しい潮流”のようなものがあることに気づいた。
それは,「キュートアグレッション(カワイイものを攻撃したくなる心の動き)」や「わからせ」などのキーワードで語られることが多い,「プレイヤーキャラが相手の生殺与奪を握るゲーム」の台頭だ。これは,某“オーバードーズさせる”ゲームの影響なのだろうか。
そんなゲームのひとつが,72studio(@72studio_)が制作する「BatteryNote」だ。
ジャンクの中から拾ってきた3体のロボットを相手に,充電したり会話したりするアドベンチャーゲームなのだが,高電圧を流して反応を楽しむこともできる。
もちろん仲良くおしゃべりすることをメインとしてもいいのだが,このロボたちの性格がなんとも「壊してやりたくなる」感じ。物語的には,高電圧によって壊すことにも重点を置いて制作しているとのことで,「アンダーテイル」のようにさまざまな結末を楽しめるゲームになるという。
そろそろ壊していい? |
そんな「BatteryNote」にインスパイアされ,短期間のうちにものすごい勢いで制作したという作品が「でびるコネクショん」である。
作者のばやちゃお氏(@BAYACHAO)によると,“オスガキ”悪魔でびるん(悪魔なので真名は教えてくれない)に「わからせ」るゲームらしい。
ただ,よくよく話を聞いてみると,でびるんと一緒にモフモフしたケモノたちから精神エネルギーを搾取していくという展開になるそうだ。
筆者は悪女っぽい玉藻にトライ。だが見事に謀られた |
「そもそも何も着ていない子たちに,スク水などを着せるとなんだかドキドキしてしまう」というばやちゃお氏。本作は,そんな感覚を大切に作っているらしい。
お品書き。あるいはゲームに登場する搾取対象たち |
ドキドキといえば,「材料は水 コンブ あと…イカスミ」という妖しいフレーズが強烈に残った「イカスミポーション」も紹介しておきたい。
こちらは流行りのポーション製作販売ゲームではなく,店を訪れたお客にどのポーションをお勧めするかでお話が変化していくというもの。薬の効果の決め手は,店主のスミミが瓶にひとたらしするヨダ……ではなくイカスミだ。
お客も,ヒトと動物の中間のようなキュートな人外たちで,そんな彼や彼女たちに怪しげな薬を飲ませ放題となっている。これもまた,キュートアグレッションや生殺与奪の一形態と言えるかも。
同サークルの作品「プリンセス×オーディエンス」から,わびが登場する |
ちなみに,作者のつなきち氏(@tunatiki11)と「でびるコネクショん」のばやちゃお氏は,すっかり意気投合している様子だった。作風が近い作者同士はやはり“惹かれ合う”のだろうか。
らくがきスペースでもこんな感じ |
脱線した感も無きにしもあらずだが,生殺与奪ゲームをもう1本紹介しよう。
「イツカノヨル」は,Starlit Chronicles Studioによる作品で,ブースにいたIndigo Ingots氏(@Indigo_Ingots)にお話をうかがうことができた。
販売するバーションは,「Unity1週間ゲームジャム」で制作されたあと無料公開されていたものに,エンディングや立ち絵などを追加しており,わくわくゲームズ(@waku2games)がパブリシティを担当している。
与えられた5日の間,死刑囚である竜人の少女と対話することができるのだが,「死刑執行ボタン」はいついかなるタイミングでも押せる。
この少女は村を焼くなど,死に値する罪を犯しているようなのだが……なんとも悩ましい決断を迫られる感じだ。今年の夏か秋には,Switch版もリリースされるとのこと。
死刑執行ボタン型コントローラが展示されていた。もちろん非売品 |
ゲーム開発環境の変化がもたらしたのは,こうしたコンセプチュアルなゲームを個人で作れる状況になったことだけではない。以前ならフルプライスに近い価格で販売されていた高い水準の作品が,インディーゲームのくくりの中で並ぶことも珍しくはなくなっている。
そんな作品のひとつ「起業布武〜織田信長とスタートアップ!?〜」は,現代に現れた織田信長(の亡霊)がベンチャー企業のスタートアップについて教えてくれるアドベンチャーだ。
信長いわく「生前は武力で世の中をいい方向に変えようとしたが,現代なら武力よりスタートアップだろう」とのことで,奇抜なようでなかなか納得できるシチュエーションでもある。
TAM(事業が獲得できる可能性のある全体の市場規模)やSOM(事業が実際にアプローチできる顧客の市場規模)などから期待できる収益を想定し,イノベーティブなサービスを作りながら,投資家から資金を募りつつ実現する。
インディーゲームの制作もどこかスタートアップに通じるところがあるもので,己の作品で世に一石を投じる「野望」を持つ人であれば,本作はいろいろな意味で刺激になるのではないだろうか。
ちゃんとエンターテインメントでありつつも,学ぶべきところはしっかりしている |
気合の入ったブース作りで注目を集めていた「雑音系少年少女」は,イラストレーター&ゲームディレクターであるMYU氏(@myu060309)が,楽曲以外はほぼひとりで制作しているアドベンチャー&脱出ゲーム。
主要な登場人物たちはみな記憶を失ったまま,《雑音スクランブルシティ》に閉じ込められているという。彼や彼女たちが,心の奥底に抱えるトラウマとは──。これまた気になる内容だ。
セル画風のアニメーションまで挿入されるなど,ほぼ個人制作なのが信じられないクオリティの本作だが,作者の本業はスマートデバイス用ゲームの制作とのこと。
プロモーションの一環として,秋葉原でのティッシュ配りが認知を高める効果があるか実験するなど(外部:関連記事),氏の熱い志だけでなく冷静な一面も垣間見えるのが興味深い。
こちらが配布したティッシュ。SteamへのQRコードが印刷されている |
昨年末にリリースされた「マーダーミステリーパラドクス このひと夏の十五年」は,近年登場したアナログゲームの1ジャンル“マーダーミステリー”のエッセンスを取り入れたアドベンチャーゲーム。複数の手がかりからの推理,人物との協議で嘘を暴くといった独特の感覚を味わえる。人口数百人の離島「式音島」を舞台に,繰り返し発生する怪事件の謎を解き明かすというお話だ。
制作は,ディライトワークスで「Fate/Grand Order」のクリエイティブプロデューサーを務めた塩川洋介氏率いる213°F。シナリオを,マーダーミステリーの名作と名高い「ランドルフ・ローレンスの追憶」を代表作とする佐藤 倫氏が担当している。
こうしたゲームがインディーゲームとしてリリースされるところに,「今のご時世」の厳しさを感じなくもない。
難度は抑えめで,経験者でなくともマーダーミステリーの魅力や雰囲気を味わいつつ楽しめる |
「マーダーミステリーパラドクス このひと夏の十五年」公式サイト
まだまだ語りたい作品はあるが……
このほかにも,作り手たちの強い思い入れを感じる,アイディアが楽しい作品が多数あったのだが,時間的にそのすべてを詳しく取材することは叶わなかった。簡単ではあるが,そのいくつかを写真メインで紹介していこう。
「Find and return」は,化石を掘ってクリーニングする要素のあるポイントクリック型のアドベンチャーゲーム。haiiro_gameが開発中の作品だが,どことなく「カセキホリダー」シリーズが思い出されたので聞いてみたところ,やはり大好きな作品なのだそうだ。
haiiro_gameは元々は同人コミックのサークルとのことで,ブースにはさまざまな作品のグッズが並べられていた。408氏(左)とマリゴン氏(右)が着ているシャツもそのひとつ。
絵が見やすいように引っ張ってくれた。ありがとうございます |
408氏のサイト
このタクシーの運転席のような画面のゲームは,明治大学総合コンテンツ制作サークル(@CCC_sokon)による「ぼったくりタクシー」だ。
プレイヤーがすべきことは,タイトル通り,わざと回り道して乗客からぼったくることなのだが(スコアアタック要素もある),お客から話を引き出して,彼らの物語を知っていくことが主眼となるらしい。
「もちものチェック!忘れものはないかな?」は,サークル紫水晶(@KuolInstitute)の作品だ。ビジュアルが何とも不穏というか,心配になる感じだが,2人は他人とはいえ親子のような関係とのことでひと安心(?)。ゲームは,見下ろし視点で探し物をするアドベンチャーとなっている。
「もちものチェック!忘れものはないかな?」公式サイト
アドベンチャー「おはゆいちゃん 爆発」の主人公は,「爆発といえば,あいさつ!」……という一風変わったコンセプトを持つゆいちゃん。プレイヤーはゆいちゃんになって,さまざまな場所を訪ねて爆発する。
あいさつでパワーを貯め,爆発して謎を解く要素もあるそうだが,基本的には歩き回るだけでも楽しいゲームのようだ。
「スタジオゆいちゃん」公式サイト
同じブースで出展されていたブラウザゲームの「ヨルノカソウ」は,ROMなどに焼けばゲームボーイカラーの実機で動作させることも可能だという。
「ヨルノカソウ」公式サイト
こちらは,東京工業大学デジタル創作同好会traPが手がけた「OTK -Definitive Edition-」のブース。
本作は,敵をワンターンキルし「相手に手番を回さない」ことが勝利条件となるカードゲーム。デッキ構築やカード入手の機会をある程度まとめることで,1戦ごとにデッキ構築する煩わしさを軽減するなどの工夫がなされていた。
「東京工業大学デジタル創作同好会traP」公式サイト
ドラッグ&マジックな世界観の対戦型FPS「R.B.T」(@RoA_VRCRP)は,もともとVRチャットのロールプレイイベントから始まったという。
大学生の春白猫氏(@8Rshironeko)が,Unityでこのワールドを制作しており,毎週火曜,水曜,金曜に定期的に対戦会を行っているとのこと。氏の話を聞いていて,メタバース上の文化や表現はコミュニティによって主導され,発展し続ける進行形のものだということが再確認できた。
ワールドは公開されているので気軽に試すこともできる |
「Nectograph」は,ネコのネクロマンサーが写真機を使い,敵から魂を奪って倒すローグライトだ。作者である,大学生のカワセミ氏(@kawasemi_g)の「好き!」をいっぱい詰め込んだような,かわいくも手ごわい作品だった。聞けば「Vampire Survivors」が大好きらしい。
学生開発者おるむあるでひど氏(@wolumaldehyde)による「Typixie Typlops」は,ミニマルなデザインが目を引く。
一見するとタイピングゲームのように見えるが,じつはコンボの効果を覚えて素早く実行するプレイヤースキルと,ランダムな敵の行動へのアドリブ対応が要求される作品だ。
正直,初見では上手く遊べなかったのだが「こういうのを遊びこなせる自分であり続けたい」などと思ってしまった。
落ち物パズル「Tournamentris」。同じ数の書かれたダイスをトーナメント表の線でつなぎ,王冠でくくると消すことができる。
左右の数の総和が等しければトーナメント同士をつなげて階層化することもでき,これにより大規模な同時消しを狙うのがポイント。制作したのは,大学生のZef氏(@ZeF_games)で,見ての通りビジュアルセンスも素晴らしいものがある。
外伝といえどもまったく本編と遜色のないレベルの盛り上がりとなった「東京ゲームダンジョン外伝」。特化型イベントは普段より単調になるかと思いきや,むしろ記事化したい作品やネタが多すぎで困ってしまったほどだ。展示時間の終了後は,会場に残る出展者に向け,互いに作品をプレゼンする時間を設けるといった新しい試みもあり,こちらも大いに盛り上がっていた。
10月27日に開催される,次回「東京ゲームダンジョン6」の開催がすでに楽しみである。
「ロポコのことは忘れても,MZ-700のことだけは覚えて帰ってください」などと,多くの作者が楽しいネタを交えつつ自作を紹介していた |
「東京ゲームダンジョン」公式サイト
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