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膨大なコンテンツの中で埋もれないために。ゲーム開発者のためのメディア活用ノウハウとは[CEDEC 2024]
ご存じの人もいると思うが,氏はゲーム開発者としてキャリアをスタートし,「真・三國無双 Online」ではカナダにおける現地責任者として経営にも携わる。その後,いくつもの新規事業の立ち上げや戦略アドバイザーなどを経て,現在はTBSの事業責任者として幅広い事業に取り組んでいる。
氏はまず,Steamでのゲームのリリース数のグラフを示しつつ,これが年々増加していることを指摘する。せっかくいいゲームを作ったとしても,この中で埋もれてしまう危険性は否定できない。
そんな中,TBS GAMESなどの出版社や放送局などのメディア企業がゲームに本格参入する事例が増えてきている。これはライバルが増えたというより,メディア企業との協業の可能性が広がっていると捉えてもらいたいそうだ。
そこでこのセッションでは,ゲームのプロモーションにメディアを活用する場合のノウハウや注意点を伝えたいという。
視聴率1%につき100万人に届くテレビ
テレビCMを使う場合,テレビCMは大別するとタイムCMとスポットCMの2つがあり,いわゆる「番組スポンサー」になって流すCMは,タイムCMと呼ばれる。視聴者に深く訴求でき,番組内容が良ければそのままスポンサーのイメージ向上効果も期待できるのが特徴だ。
提供形態は1社提供,例えばキヤノンの「世界遺産」,アサヒビールの「ベスコングルメ」のようなパターンもあれば,複数のスポンサーで提供する共同提供という形もある。
放送エリアは全国に放送するネットタイムと,特定放送局エリアのみのローカルタイムに放送するものがあり,前者のほうが影響力は大きいが,かかるコストも大きくなる。
これらを購入できるタイミングは春の改編時期と,秋の改編時期の年2回。基本的には新製品のセールスのためではなく,企業のブランディングのために使う位置づけとなる。
もう一方のスポットCMは,複数の番組や系列局を横断,特定の期間内に流すCMだ。新製品の発売時にはこちらを使うことが多い。
放送エリア,購入タイミングは自由だが,出稿のたびに作業や手間がかかる形態でもある。基本的には放送したいタイミングの2か月から4か月前に広告代理店に話を持ち込めば,広告代理店が出稿に向けてのプランや,CMそのものを作ってくれる。
価格は,時間帯,地域,シーズン,残っているCM枠などに影響されて大きく変わる「時価」なので,案件ごとに相談してもらうのが良いそうだ。
またCMを流すだけでなく,番組を制作して放映することも可能である。例えばeスポーツの番組を作り,プッシュしたいゲームの大会を盛り上げていく形などが考えられる。
視聴率1%につき100万人に届けられると言われるテレビ。その番組を制作してプロモーションに活かすのは,テレビの使い方としては究極の形と言える。ただ,なんでも可能というわけではなく,さまざまな条件をクリアしなければならない場合がある。
蛭田氏はここでテレビ局のビジネスモデルについて説明する。スライドのとおり,広告主からの広告料が代理店を経て,キー局の収入となる。一方で,ローカル局はキー局から番組(の放送権)を購入するが,番組を流す時間枠についてはキー局側が買う立場になる。
そういった関係であるため,全国ネットの番組を流すのはなかなか調整が大変なうえ,ネット局によってはeスポーツ番組を放映する理由が弱いと感じるかもしれない(地域の視聴者が求めておらず,スポンサーがつかないなど)。その場合はネット局のCM枠を買うことで放映自体は可能だが,費用も莫大になってしまう。ニュースやドラマが全国放送できるのは,それだけローカル局にとっても魅力的な番組なためだ。
ただ関東一円だけのローカル番組であれば,TBSの場合は1社との契約で済むため,実現はしやすいということになる。そしてテレビによる認知拡大を活かしつつ,同時にWeb広告のような獲得系の広告を出稿することで,相乗効果を生んでいくのがセオリーとなる。
15分以下のミニ番組を制作することでコストを抑えるといったこともできるが,放送枠の調整が思いのほか難しい場合もあることを理解してほしいそうだ。
また,情報番組での露出もテレビの活用法の1つだ。ただ,これら情報番組で扱ってもらうには相応のニュースバリューが必要となる。というのも,あくまでテレビとは公共の電波を借りて放映しているものなので,番組の私的利用は厳しく制限されているからだ。しかし,そこにニュース性があれば,情報番組に取り上げられる可能性が高まる。
・多くの人に影響を与えるもの
・起きたばかりの出来事
・これまで知られていなかった新情報
・多くの人にとって身近な出来事
・異例な出来事
・有名人や有名企業が関わっていること
こういった事柄はニュース性が高いため,情報番組内で取り上げられやすくなる。これらを作品のプロモーションチームだけでなく,開発側でも意識することで取り上げられるケースが増えるため,メディアを活用する場合はぜひ意識してほしいポイントだそうだ。
各メディアの有効な使い方とは
次はラジオやポッドキャストについて。サウンド面や人気声優がウリの作品であれば,当然相性のいいメディアである。またコストに関してもテレビと比較して安価に済み,放送枠の調整も比較的簡単という長所がある。
ちなみにポッドキャストのユーザーは,より深い情報発信や,新しい発見につながるような情報を好む特徴がある。オリジナリティのあるゲームであれば,番組内でいかに「普通ではない作り方」になっているかをアピールすると,案外深く刺さってくれるかもしれない。
続いてはWebマンガの活用だ。TBSグループ内にもスマートフォン用アプリでマンガを配信するマンガボックス,漫画そのものを制作してLINEマンガなどに提供する会社があるそうだ。
ただ,Webマンガ周りのビジネスモデルはかなり特殊で,Web小説で人気を得たものがWebマンガになり,その中の人気作がアニメやドラマ化され,さらに人気が出たものは映画やゲームになるという「売れる作品」だけが生き残るピラミッド型のモデルになっている。
プロモーションのためにマンガの内容をコントロールしすぎると漫画家の持ち味を損ないがちなので,Webマンガによるプロモーションは難しい面がある。それでも活用したい場合は,4コママンガのようなライトな取り組みに寄せるか,あるいはWebマンガではなく,思い切って人気少年マンガ誌などに話を持ち込むのが良いそうだ。
新しいメディアの中では,オンデマンドの動画サービスにとくに注目してほしいとのこと。こちらにもCMを出稿でき,画面をクリックすることで商品を扱うサイトに飛ばす「クリッカブル広告」を打つこともできる。
例えば番組前(プリロール)と途中(ミッドロール)のCMでゲームを知ってもらい,番組終了後(ポストロール)の広告をクリックし,購入サイトに誘導するという,広告出稿側のコスト的にも無駄がなく,番組を観るユーザーにとっても好ましい流れを作ることが可能だ。
ちなみにTVerの広告は,オーディエンスターゲティング広告を打つこともできる。これはユーザーの興味関心や属性に合わせたターゲティング配信のことで,ユーザーの見ている番組,興味関心,ライフステージ,個人属性に合わせた広告が可能だ。
またアンケートデータと掛け合わせて効果的な相手にだけ広告を出せるデモグラフィックターゲティング広告というものもある。
CMは出稿量を増やすほど多くの人に見てもらいやすいが,ターゲット以外に届いても直接的な販売促進としては効果が薄い。狙った対象にしっかりと広告を届けられることがオンデマンド型の優れた点だ。
そしてアニメや舞台など,ほかの表現媒体を使った横展開や同時展開も考えられる。例えばゲーム原作のアニメを制作・放映するといった手法だ。これらはすでにノウハウを有しているメディア系のゲーム会社と協業することで,より実現しやすくなる。
一方で,番組の放映期間とゲームの発売がずれると大きな影響が出てしまうことに注意が必要だ。アニメやドラマを企画し始めてから放映までに2年以上かかることも珍しくない。いかに商品とタイミングを合わせるかが大事になってくる。
最後にアナウンサーによるプロモーションについて。昨今はYouTubeやSNSなどでインフルエンサー的に活動するアナウンサーも増えている。TBSの宇内梨沙アナなどゲーム好きを公言している人も多く,コラボの機会は今後増えていくはずだ。
ただ注意点もある。あるアナウンサーに特定の企業のカラーが強くなるようなことがあると,ライバル企業がスポンサードしている番組に出演が難しくなるなどの制限ができてしまうことだ。また,放送局は社会にとって公正である必要もある。アナウンサーは局の顔としての意味合いもあるため,単純な商品PRは難しいらしい。
ただこれもケースバイケースで,公共性が高いものや,多くの企業が協賛するような大イベントなど,問題がクリアできる場合も多々あるので,ぜひ案件ごとに問い合わせてほしいそうだ。
このようなノウハウや注意点を活かせば,企業側にとって有効な情報発信が可能となり,メディア側は良質な番組を放映できる,WIN-WINの関係性を築けるとのこと。以上をもって本セッションは終了となった。
なおゲームのプロモーションに関することならTBS GAMESなどと協業することで,ユーザーに情報を届ける方法を一緒に考えられるという。「まずは声をかけてみてほしい」とのことだ。
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