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RTA in Japanはどのように生まれ,どんな影響を与えたか。RTAの現場から見たゲームコミュニティの“今と昔”[CEDEC 2024]
同セッションはメーカー主導ではない,プレイヤー側から自発的に生まれてきたコミュニティがどのように活動し,どんなことを考えているかを紹介するもの。スピーカーは「RTA in Japan」をはじめとした,さまざまなRTAイベントの主催・運営を手がけている中村圭宏氏だ。RTAコミュニティを間近で見てきた,“RTAのゲンバ”を深く知る中村氏の発表を紹介しよう。
「RTA in Japan」公式サイト
「RTA」とは何か?
中村氏は,「RTAとは何か?」という基本的な説明から講演をスタートした。
RTAとは「Real Time Attack」の頭文字を取った略称であり,さまざまな条件の元,実時間でどれだけ早くゲームをクリアできるかを競う遊び方(競技)だ。なおこれは和製英語であり,海外では「Speedrun」の呼称が一般的だそうだ。
基本的にはコンピュータゲームを対象しており,過去にはルービックキューブ(の早解き)の応募があったものの,氏としては“これは違うな”と感じたとのこと。
ジャンルとしてはアクションやRPGに挑戦する人が多いが,あえてアドベンチャーゲームの「ときめきメモリアル」や,テーブルゲームの麻雀といった“一見タイムアタックに向いてなさそうなもの”を選ぶ人もいる。また目隠しなどの“縛りプレイ”要素を加味するケースもあるそうだ。つまりチャレンジするゲームのジャンルには,基本的に制限はないわけだ。
また一言にRTAといっても色々なルールがあり,手段を問わず最速クリアを目指す,王道の「Any%」があれば,グリッチ(バグ)利用の禁止などの制限をかける場合や,特定のボス撃破やアイテム入手を目指すといった目的を設定する場合もある。細かいルールはタイトルごとに定められているので,気になる人は調べてほしいとのこと。
なお勘違いされることが多いそうだが,ルールの制定はRTA in Japanが行っているわけではない(ルール作りに参加していない)。なので,問い合わせを受けても答えようがないらしい。
ではどうやってルールが決まるかというと,基本的にはそのゲームのRTA走者(参加者)達の協議によって決定される。実際にそのゲームのRTAに参加し,さまざまな技術や知識を持った人達が決めるので,公平性があるものになるという。ただし競技の最初期においては,最初に挑む人を中心にルールが策定されるとのことである。
ちなみに中村氏自身も,最初の参加者としてルールの策定に関わったことがあるそうだ。そのときは海外のプレイヤーとやり取りしながら,ルールの修正に参加したと振り返っていた。
そんな氏の考えるRTAの魅力とは,「タイム」という非常に分かりやすい基準によって,プレイ内容が明確に数値化されることにあるという。それが結果としてプレイスキルの向上につながり,記録の更新時には大きな達成感が得られるとのこと。
またレースゲームなどの例外を除き,「タイムを縮める」という目的をゲームに加えることは,通常のゲームプレイにはないユニークな側面を攻略にもたらしてくれる。それを構築する戦略的な楽しみが大きいとのことだった。
「RTA in Japan」の現状と近年の動き
次に,中村氏は自身も運営に関わる「RTA in Japan」の説明に入った。
RTA in JapanはRTAが好きな人達の結束を高め,その発展と促進を図るために活動しているコミュニティだ。元々はアメリカで2010年からおこなわれている「Games Done Quick(GDQ)」というイベントを参考にし,年2回のRTAイベントを開催している。
RTA in Japanの開始は2016年だが,近年はチャリティイベントとしての活動にも力を入れており,運営スタッフ,走者(参加者),ボランティアスタッフなど,それに関わるすべての人で作り上げるコミュニティイベントを標榜しているとのこと。
運営スタッフは現時点で8名だが,それを専業にしている人はおらず,誰しもが別の本業を持っている。そのため1週間に及ぶイベントを運営するにはマンパワーがまったく足りず,毎回200名を超えるボランティアスタッフを公募して,なんとか開催してるとのことだった。ボランティアの役割も,配信の管理や機材のセットアップ,会場の受付など,多岐にわたっているそうだ。
前述のチャリティイベントとしての活動は,2018年開催の「RTA in Japan 3」からすでに実施しており,当時は自主制作グッズの売上額の3割を「平成30年北海道胆振東部地震災害義援金」として寄付したという。ただし,グッズの作成予算は運営メンバーのポケットマネーから出していたので,とても十分な数は用意できなかったとのこと。
そのため2020年の「RTA in Jpan Online 2020」からはグッズ作成を専門とする企業と協賛し,生産数とバリエーションを充実させたうえで,「国境なき医師団」への寄付をスタートしている。
さらに2021年の「RTA in Japan Summer 2021」からは,Webサイトを通じた直接寄付の仕組みを導入。これにより一層寄付を募れる環境が整ったほか,寄付額に応じて「より困難なテクニックに挑戦する」など,RTA中の行動を変えるインセンティブ機能が可能になった。
なおRTA in Japanへの利益は“ゼロ”が基本であり,可能な限り寄付額を増やすこと目指している。結果として,2023年までの約3年ほどで国境なき医師団への寄付額は1億1300万円を超え,大きな効果が出ていると話していた。
またチャリティイベントとして活動する理由としては,前出のGDQといった海外のRTAイベントでは当たり前の仕組みなので,それに追従した形とのこと。また,これがゲームを通した社会貢献のモデルケースとなり,ひいては日本にチャリティ文化を根付かせるきっかけになるのではと期待しているとのことだった。
中村氏は「マリオが速く走って社会貢献ができ,さらにみんなが楽しみつつ寄付ができるのは(社会貢献として)新しいやり方ではないか」と話しており,そこは筆者としても頷ける考え方だと感じられた。
RTAコミュニティの今と昔を知る
続いて中村氏は,RTA in Japanが開催されるようになり,RTAコミュニティにどのような変化が起こったかを語った。
まずRTAコミュニティはDiscordやSNSを中心に活動しており,ゲームシリーズごとに独立しているものの,特徴としては一般的なスポーツ(野球やサッカーなど)のコミュニティと大きく変わらないという。○○が好きだから仲間と語りたい……といった,ごく普通のコミュニティなのだそうだ。
ただその様相は昔と今でかなり異なり,以前はニコニコなどの配信サイトごとにできていた集まりが,現在はDiscordを中心に一つに集約されるようになってきた。またゲームタイトルや配信サイトごとで区切られていたコミュニケーションが,ゲームの垣根を越えて行われるようになり,オフ会が開かれることも増えてきたそうだ。
結果RTAの裾野が広がり,RTAプレイヤー同士で刺激を受けることも増えて,更なる盛り上がりを感じているとのこと。以前は「各ゲームシリーズごとの個別のプレイヤーの集まり」だったのが,垣根が取り払われて「大きなRTAコミュニティ」に変化した……というのである。
またRTA in Japanを皮切りに,地方でもさまざまなオフラインRTAイベントが開催されるようになった。RTAを披露したり視聴したりできる場面が増えたので,全体的なUX(ユーザー体験)が向上しているのも実感しているとのこと。またRTA in Japanのボランティアに,ほかのRTAイベントの運営の方が参加してくれて,トラブルの解決を手伝ってくれた……といったこともあったそうだ。
近年はメーカーとRTAプレイヤーのコラボレーションも行われるようになり,RTAを意識したゲーム機能が一部のタイトルで実装されるなど,RTAプレイヤーに対する環境が整った。そういった流れは,氏としても嬉しいとのことである。
RTAの現場ではこんな声が
最後にRTAの現場からの生の声が一部紹介された。
まず視聴者からメーカーへの要望として,イベントで披露された古いゲームが入手できないことを悔やむ声が一定数あるという。近年はNintendo Switch Onlineでファミコンやスーパーファミコンのゲームがプレイできたりするが,それでもプレイ環境が用意できないタイトルが少なくない。
RTAコミュニティとしても,新規プレイヤーの増加や機材故障時のケアにつながるので,難しいことは理解しつつも,(現行機でもプレイできるなどの)プレイ環境を整えてもらえたら嬉しいとのことだった。
またRTA in Japan側からの希望として,イベントの品質をより高めたいので,それに協力してくれる企業を募集しているとのこと。会場確保の点では,より多くの人が視聴できる会場を確保したいし,DGQなどの海外イベントで行われているホテルを借り切っての開催なども,いずれは行いたいと展望を語っていた。
また機材ではモニターが不足する場合が多く,この提供を受けられると嬉しいとのことだ。そして最後には,2024年12月に開催される「RTA in Japan Winter 2024」を紹介が行われ,講演は締めくくられた。
RTAというゲームの遊び方は,現在では非常に多くのゲームファンに認知されるようになった。目隠しプレイなどがときおり話題になることもあり,4Gamer読者にとっても馴染み深いことだろう。
RTA in Japanの社会貢献に熱心な姿勢にも共感でき,ときに悪役としてやり玉に挙げられることもあるゲームカルチャーが,多くの寄付金を集める切っ掛けになっているのにも大きな意味がある。今後も更なる発展に期待したいところだ。
「RTA in Japan」公式サイト
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