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学生たちのフレッシュな発想で,ほうきやおみくじ,鼻,食器がゲームに変わる。愛知工業大学ブースレポート[TGS2024]
鼻に指を突っ込んでロケットを操作する「とべ!はなロケット」
筐体にはイケメンの顔と大きな鼻。鼻は飾りではなく,本作の主人公「はなロケット」を操るコントローラである。ゲームをスタートするにも,まずは鼻をつまむのだから徹底している。
はなロケットは,鼻の穴からの噴射で宇宙を飛ぶ。旋回するには,鼻の穴に指を突っ込めばOK。右の鼻の穴に指を突っ込むと噴射は左の鼻の穴のみになるので,はなロケットは右へ旋回。左旋回したければ,左の鼻の穴に指を突っ込めばいい。文字にするとややこしいが,実際にやってみると直感的に理解できる。
はなロケットの目的は,宇宙に浮遊する物体に体当たりして破壊し,その時飛び出す花粉を集めること。しかし,加速が足りないと弾かれてしまう。そんなときは鼻をつまむor両方の鼻の穴に指をしばらく突っ込み続けてパワーをチャージ。指を抜けば強烈な噴射で加速する。
一定条件下で鼻をつまみ続ければ「くしゃみパワー」が発動し,一定時間加速しっぱなしの状態になる。この間に体当たりしまくり,スコアを稼ぐのだ。
本作の面白さは,リアルに鼻をつまみ,指を突っ込むという圧倒的な分かりやすさだ。自分の鼻でも,片方ならともかく両方の穴に指を突っ込むなんて機会はそうそうないが,本作ならやり放題なのである。
なんともユーモラスなゲームだが,チームリーダーが“鼻の模型を使い,指を突っ込むゲームを作りたい”という明確なビジョンを持って開発がスタートしたという。
チームリーダーには,東京ゲームショウへの出展を狙うも,出したアイデアが没になってしまったという過去があった。このときの学びから「鼻をコントローラにする人はあまりいないだろう」ということで,インパクト重視の本企画を考えついたのだという。
鼻の模型はシリコンで作られており,基部にはレーザーを用いた測距センサーが仕込まれている。鼻の“天井”との距離を測ることで,指が突っ込まれたり,つままれたりしている状態を検知しているという。最初は光センサーを使っていたものの,外部環境の影響を受けて安定しないため,現在の形に。鼻の模型も前バージョンでは小さかったことから“鼻の穴に指を突っ込む”コンセプトが理解されず,出展までにサイズを大きくしたのだそうだ。
おみくじの箱をガラガラと振り,参拝客の願いを叶える「神様のおみくじ通り」
「神様のおみくじ通り」の舞台は,参拝客が訪れる神社。参拝客たちは「金運」「恋愛運」「勉強運」といった様々な願い事をするため,適切におみくじを配って叶えてあげよう。
プレイヤーは神様ではなく,その手伝いをする存在であるため,運勢を自由に操作することはできない。ここで使うのがおみくじだ。六角柱の形をしたおみくじの箱(御神籤箱)をガラガラと振ると,中からは金運,恋愛運,勉強運,いずれかのおみくじ(みくじ棒)が出てくる。おみくじをストックしておき,参拝者が詣でた場所に対応した箱に差し込めば,見事願いが叶ったことになるのだ。
おみくじの箱もおみくじも,デジタルではなくリアルのアイテムであるため,どの運勢のおみくじが出てくるかは分からない。目の前には金運を望む参拝客がいるのに,おみくじの箱からは勉強運や恋愛運のおみくじしか出ないといったことも起こる。
さらに,参拝客がどの願い事をしているかの表示は一定時間で消えてしまうため,記憶力も重要になる。もちろん,間違った運勢のおみくじを差し込んでも,ポイントにはならない。
すべてのおみくじを先に引いてストックし,適切に配るという手もある。しかし,おみくじを引くのに熱中していると,参拝客の確認がおろそかになり,誰が何を願っているのか分からないなんてことにもなってしまうのだ。
大きなおみくじ箱を振ると,中でおみくじがガラガラと音を立てるのが気持ちイイ。身近だがあまり触らないアイテムと,前述したリアルアイテムならではの運の揺らぎが面白い。
愛知工業大学では,変わったデバイスを使ってゲームを作り,東京ゲームショウなどに出展するという取り組みが行われている。このチームでは,たまたま割り箸が余っていたことから,割り箸をみくじ棒にする本作を思いついたという。
本作では,前述した通り,参拝客の望みに応じた正しいみくじ棒を箱に差し込んで渡す。箱の基部にはカメラが備え付けられており,みくじ棒の色を認識することで正誤の判定を行っている。当初は色認識が上手くいかず,校内で行われたデモでは色を手入力していたようなこともあったという。割り箸をみくじ棒にする関係上,おみくじ箱も既存のものを使うことができず,自作することに。その他の小道具も百均ショップなどを活用し,予算内に収める工夫をしたのだそうだ。
色つきシートを使って,宇宙人の言葉を翻訳する「COLOR TALK」
「COLOR TALK」の世界では,宇宙人がUFOで襲来し,地球侵略を開始した。これを阻止するには,宇宙人の言葉を翻訳するしかない。
しかし,宇宙人の言葉にはノイズが入っている。赤・青・緑の色つきシートを使ってノイズを取り去り,相互理解を目指していくのだ。
勉強の際,赤や青の色が付いた半透明のシートや下敷きを使った人も多いだろう。文字と同じ色のシートをかざすと,文字が消えたようになるので,これを暗記に用いるというアレだ。
本作ではこれが言葉当てのゲームに使われている。画面上では宇宙人が赤・青・緑という色とりどりの文字でしゃべるが,ノイズ(無駄な文字)が混じっている。例えば「たたパたソたコたンた」だと「た」の字がノイズであるわけだ。宇宙人の発言を見て「どの文字がノイズであるか」を判断。分かったらノイズの文字と同じ色のシートを筐体にかざす。すると,画面上では先の暗記シートを被せたように,シートと同じ色の文字が消えて意味の通る単語になり,得点が加算されるのである。
限られた時間の中で宇宙人の発言から言葉を探し出し,シートをかざすと画面内でノイズが消える。頭を使うパズル的な要素と,画面の内と外が連動しているのが面白い本作だが,勉強用の暗記シートから発想されたのだという。
筐体にはWEBカメラが仕込まれており,シートをかざすと色を検知して画面内に反映させる。初期段階では緑と青の色が似ていることから誤認識が多かったものの,プログラム側のしきい値を調整することで正常にプレイできるようになったという。
色というのはデリケートらしく,東京ゲームショウ2024の会場では周囲の照明を誤認識してしまい,シートをかざしていないのにかざしたものとして扱われることもあったそうで,この辺りからは実地テストの大切さが分かる。
当初は“暗記シートと同じ色の障害物を壊しながら進む”というシューティングゲーム的な内容を構想していたものの,発想のベースが暗記シートにあるのであれば,そこから離れない方がいいということで,文字列の中から単語を探す現在の形に。
暗記シートを筐体ではなく画面にかざすと表示が変化するという仕掛けも考慮されたが,プレイヤーの衣類も認識してしまうという問題があり,WEBカメラを用意することになったのだという。
リアルほうきを使って,リアルに掃く「お掃除ゴルフ」
「お掃除ゴルフ」で使うのは,リアルのほうきとゴミ。ほうきを持ってゴミを掃くと,画面内のゴミも同じ方向へと動く。こうしてゴミを掃いていき,ゴールであるちりとりに入れるのが目的だ。
コースには小さなゴミが落ちているので,自分のゴミをぶつけてこれを巻き込んでいく。するとゴミは少しずつ大きくなっていき,ちりとりに入れた際も大きいほど高い得点が得られるのだ。
しかし,コースには小さなゴミだけでなく爆弾も落ちている。うっかりこれに触れると爆発し,せっかく大きくしたゴミも元に戻ってしまう。逆に,ぜひとも触れたいのが黄金のゴミ。これを回収すれば自分のゴミが一定時間パワーアップ。爆弾を無効化できるのに加え,茶色い壁を破壊でき,ちりとりまでショートカットできるのだ。
タイトルに“ゴルフ”とあるように,ゴール時の打数が少ないほど高得点を得られるが,安全策を取るのであれば小さくコツコツと掃いていくといいわけだ。
また,本物のほうきを使用しているのでけっこう柄が長い。この“長物”を小さく動かしてゴミを掃いていく感覚はリアルお掃除のそれで,黙々とプレイしてしまう面白さがある。打数に制限がないのもポイントだろう。いくらでもゴミを掃いていいので,ほうきとゴミによるフィードバックを存分に楽しめるというわけだ。
お掃除をゲームにしようとしたきっかけは,東京ゲームショウ出展に向けた会合後に掃除をしたこと。ほうきを使ってゲームをすれば面白いのではないか,と考えて本作が生まれたという。
最初は箸を使ってハエを掴むゲームを考えていたのだが,掴む実体が存在せず,プレイヤーの身体にフィードバックが伝わらないことから,ほうきを使う現在の企画になったのだそうだ。
こうしたゲームはほうき側に何らかの仕掛けをしていることが多いのだが,本作のほうきは愛知工業大学で実際に使われているタダのほうきである。では,どうやってゴミの動きを検出しているかというと,実はゴミの基部にジョイスティックが仕掛けられている。言い換えれば,ジョイスティックのヘッドにゴミの装飾が付けられており,これをほうきで上下左右に掃いて(動かして)いるわけだ。
当初はほうき側にマイコンを仕込んで加速度をチェックする手法を考えたが,実際のほうきの動きと検知された動きに誤差が出るドリフト現象が発生したという。誤差はほうきを動かすごとに大きくなってしまい,最終的にはプレイヤーが掃いている方向と画面内のゴミの動きが全く別になってしまった。マイコンを2台積み込んで誤差を少なくする方向性も模索されたものの,最終的にはジョイスティック式になったという。
プロジェクションされたランチをリアルフォークとナイフでいただく「逃がさず食べろ! カトラリー!」
本作のプレイフィールドは,木製のプレートで,美味しそうなハンバーグプレートがプロジェクションされている。
そこからブロッコリーやゆで玉子などの食べものたちがあちこちへ飛び出してくるので,手にしたフォークで突っついて食べていく。ハンバーグを食べるには一手間が必要。まずはナイフで触れると切り分けられるので,これをフォークで回収していくのだ。
ハンバーグプレートこそプロジェクションされた映像だが,ナイフとフォーク,そして木製プレートはリアルのアイテムなので,飛びだしてくる食べ物を捕まえるたび,手には木製プレートのフィードバックが伝わってくるのが本作の楽しさ。食べ物はフォーク,ハンバーグはナイフという使い分けも,リアルハンバーグプレートのようで直感的に理解できる。
そして何より,ハンバーグプレートを表現する上で,本物の映像ではなく,イラストを使っているところが面白い。白い木製プレートとあわせ,空想上のカフェのメニューを食べているかのような,ゲームならではの体験ができるというわけだ。
とにかくユニークな本作だが,愛知工業大学のカフェで実際に食べられるハンバーグプレートがモデルになっているという。ゲームにするのであれば,忙しくハイペースなものがいいだろうということで,食べ物が飛び出してくるゲームデザインが完成した。
木製プレートは愛知工業大学のメニューで使われているものを模したデザインで,こちらは自作。この上にプロジェクターでゲーム画面を投影することで,不思議なプレイフィールドが実現している。
料理のデザインには特にこだわったそうで,苦労した甲斐のある,印象的な体験になっていると感じられる。タブレットを使う案もあったものの,プレイヤーが勢いよく突くことになるため断念したという。
ナイフとフォークの位置を調べるのに使われているのは,「LiDAR」という,光で測距を行うセンサー。先端にパッドが刺さっているのは,LiDARで認識するには対象に厚みが必要であること,そして金属製のナイフやフォークだけでは光を反射してしまうため,検知ができないからであるという。ナイフとフォークの側にセンサーを仕込む案もあったが,センサーのサイズがそれなりにあるのでプレイ体験が損なわれると判断して断念したそうだ。
ナイフとフォークのどちらを使っているかをチェックするのは,WEBカメラの役目。プレイヤーの骨格を認識し,右手の方が下にあるならナイフ,左手ならフォークが使われていると判断する。LiDARで調べた画面上でのナイフとフォークの位置と合わせ,食べ物を捉えられているかどうかを判定するわけだ。
制作する上では,プロジェクターとLiDAR,WEBカメラの連携に苦労したという。ナイフとフォークのチェックも手首の位置だけを調べていたが,これではプレイヤーが素早く動くと検知が難しくなるため,全身をチェックする現在の形にしたのだそうだ。
愛知工業大学には,もの作りに挑戦する生徒を支援する「学生チャレンジプロジェクト」制度があり,希望した生徒は様々なバックアップを受けられる。東京ゲームショウ2023でも,和傘にプロジェクションして遊ぶ「和傘之陣」や,将棋の駒を盤面に叩きつける「ミリ知ら将棋」といったゲームが出展されていた(関連記事)。
東京ゲームショウ2024の出展に際しては100人以上の希望者が集まり,約3か月で21本のゲームが完成。会期は4日間しかないため,日替わりにしなければ出展できない状態になったという。出展できたからといって単位をもらえるわけではないものの,学生たちのモチベーションは高く,脱落者もほとんど出なかったのだそうだ。
決められた予算の範囲内で来場者の印象に残るような面白い企画を考え,納期内に仕上げて東京ゲームショウという大舞台に出展し,老若男女,幅広い層の来場者たちからフィードバックを得る。ゲーム開発に限らず,人間として成長できる,得がたい機会といえるだろう。来年はどのような出展がされるのか,楽しみに待ちたい。
4Gamer「東京ゲームショウ2024」記事一覧
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