レビュー
同時押し対応を実現したLogitechのゲーマー向けキーボード新モデルを試す
Gaming Keyboard G510
Logitech(※日本ではロジクール)が展開するゲーマー向け周辺機器ブランド「G-Series」(Gシリーズ)。その最新作であるフルキーボード「Gaming Keyboard G510」(以下,G510)が2010年10月1日に発売された。
G-Seriesのフルキーボードといえば,2006年に発売された多機能モデル「G15 Gaming Keyboard」(以下,G15)もしくはその第2世代製品を思い出す人も多いと思われるが,G510は,これら“G15シリーズ”の後継として,やはり多機能を志向しつつ,Logitech製のゲーマー向けフルキーボードとしては初めて,「最低5キー」という同時押し対応を実現したのも大きな特徴だ。
従来製品の方向性を踏襲しながら,イマドキのゲーマー向けキーボードに求められるポイントにもフォーカスした製品というわけだが,完成度はどの程度か。今回は,その点をチェックしていきたい。
GamePanel LCDやGキーが目立つ
G-Seriesキーボードならではの外観
GamePanel LCDの表示例。ここではカウントダウン機能付きのストップウォッチを表示している |
本体を見てすぐ目に留まるのは,本体上部に搭載された液晶パネルだろう。これは「GamePanel LCD」といい,システムのステータス情報や再生中の音楽情報,対応ゲームのパラメータなど,さまざまな情報をリアルタイムで表示できる小型モノクロディスプレイだ。
また,日本語109キーの左隣に,[G1]〜[G18]までの18キーが整然と並んでいるのも目を引くが,これはG510でサポートされるマクロ機能を実行するキーで,「Gキー」と呼ばれている。
もっとも,いま見ると少々やぼったい印象が否めないG15と比べると,G510はずいぶんと精悍な印象になっている。
着脱式パームレストを取り付けた状態。奥行きが265mmまで長くなる |
GamePanel LCDを無視して計測すると,キートップの高さは本体手前側,奥側とも30mm程度。傾斜がなく,ステップスカルプチャー仕様でもない(=横から見たときキートップが湾曲した配置になっていない)タイプだ |
そんな大きなG510だが,製品ボックスには標準で着脱式のパームレストが用意されており,これを取り付けると,GamePanel LCDを含んだ奥行きの長さは265mmにまで伸びる。ただでさえ横幅が500mmを超えているのに,奥行きも長いとなると,設置スペースの確保には難儀しそうだ。
公称の高さは36mmながら,キートップを除いたキーボード本体の高さは手前側,奥側とも23mm程度と低いため,パームレストを取り付けずとも,特別使いにくくはなかったのが救いか。
高さの話が出たので続けると,G510にはほとんど傾斜がなく,加えて,キートップはいずれも7mm前後の高さが設けられているため,全体として,非常に平べったい印象になっている。本体裏面のチルトスタンドを立てると,奥側の高さは28mm程度にまで持ち上がるものの,傾斜の緩さは変わらない。ここまで傾斜が緩いと,角度の付いたキーボードを好むユーザーは違和感を抱くかもしれない。
側面からキーの高さを見た状態。ほぼすべてのキーが同じ高さになるようにデザインされている |
底面のチルトスタンドを立てると奥側が5mmほど持ち上がる。この状態でも傾斜は緩やかだ |
滑り止めのゴムは手前左右の2か所にある。本体の重量が十分あり,ゴムの形状にも配慮されているため,チルトスタンドを立ててもしっかりと固定可能 |
キー表面はつや消し仕上げで,触り心地も上質。本体の質感はなかなかのものだ。右と左の底面でネジ穴から光が漏れるのは,意図しているのかどうか分からないが,面白い |
見た目の仕上げや質感にも触れておこう。本機はキートップのつや消しの仕上げや,ツートンカラーの本体など好みが分かれそうなポイントはあるものの,細かな部分もかっちりと仕上がっているのが好印象で,いい意味でのLogitechらしさが感じられる。
全体的な仕上がりは,G-Seriesの左手用キーパッド「G13 Advanced Gameboard」(以下,G13)と似た印象。少なくとも,価格相応の高級感は得られると言っていいだろう。
機能的にはG15シリーズを継承しつつ
USBサウンドデバイスを新搭載
続いて,G510の特殊機能について見ていこう。これらの機能は,上述したようにG15シリーズやG13から継承されたものが多い。ただし,本機で強化された点や,削除された点もいくつかあるので,先に本機とG15シリーズ,そしてG13の機能の差をまとめておきたい。
●G15とG13から強化された機能
- ヘッドセット接続用のUSBサウンドデバイスを搭載し,専用のミュートキーが搭載された(初代,第2世代G15とG13では未搭載)
●G15からは強化,G13からは変更された機能
- フルキーボードとしては初めて,最低5キーの同時押しをサポートした(G15では初代,第2世代とも未公表。G13はすべてのキーの同時押しをサポートするが,キーパッドのためフルキーボードとしては使えない)
- 第2世代G15と比較した場合,Gキーが増加した(初代G15とは同等。G13は29個)
- 初代G15と比較した場合,メディアキーとミュートキーが搭載された(第2世代G15から継承。G13は非搭載)
●G15からは強化,G13からは継承された機能
- GamePanel LCDとキーのバックライトが最大16万色から選択できるようになった(G15初代はブルー,第2世代はオレンジの単色)
●G15およびG13から変更された機能
- USB接続モードがUSB2.0 Full Speedモードになった(G15ではUSB1.1 Full Speedモード。G13は未公表)
- キー入力のレポートレートが500Hzと公表された(G15の初代,第2世代,G13とも未公表)
- 第2世代G15にあったボリュームは,ボタン式からローラー式に変更された(G13は非搭載)
●G15から削除された機能
- G15の初代,第2世代ともにあったUSB 1.1ハブ機能が削除された
とくに同じフルキーボードであるG15シリーズと機能を比較してみると,実は大きな変更点は少ない。本機の目玉ともいえる同時押し対応を除けば,違いはUSBサウンドデバイスの内蔵と,バックライトの多色化ぐらいだろう。
下に示したのは,以上のポイントを,キーボード上のレイアウトともどもチェックしたものだ。
クラスドライバで動作するため,特別なドライバは不要で,ざっと使ってみた限り,音質も十分にクリアだが,バーチャルサラウンドのような機能は何もないので,オマケ的に理解しておくのが正解だろう。
G510のUSBサウンドデバイスをWindows 7のデバイスマネージャから確認した状態。USBクラスドライバで動作する |
キーボードに加えてサウンドデバイスを持つG510だが,USBケーブルの接続は1本だけでよい。なお,ケーブル長は実測で180cm強だった |
バックライトの多色化もトピックだ。付属ツールであるロジクールG-Seriesキープロファイラを使って,最大16万色から設定できる。さらに,マクロ機能の[M1]から[M3]のバンクと連動して色を変える設定も可能だ。連動設定でバックライトを点灯すれば,どのバンクが選択されているのかが一目で分かるため,マクロ使用時に便利というわけである。
見た目も良好で,オンにした状態ではキーボードの刻印が浮かび上がり,なかなか美しい。そのうえ,暗い場所でもキーの視認性が上がるため,実用性も兼ね備えている。
バックライトをオンにした状態では,キートップの文字やG510のロゴが美しく浮かび上がる。見栄えだけでなく,暗い場所での視認性も高い |
バックライトの色はロジクールG-Seriesキープロファイラ上で変更可能。カスタムを選択すれば,16万色のカラーパレットから任意の色を選べる |
G-Series伝統の機能ともいえるGamePanel LCDとマクロ機能だが,本機のそれを率直に言ってしまうと,G15やG13と基本的に同じだ。というわけで,GamePanel LCDの機能と使い方については,このあたりを詳しく紹介したG13のレビュー記事を参照してほしいと思う。
GamePanel LCDで注意が必要な点は,「ゲームに関連した詳細な情報を表示するためには,アプリケーションに対応したGPAをインストールする必要がある」ということ。プレイするゲームに対応したGPAがなければ,GamePanel LCDは威力を発揮しないのだ。
GPA自体は,GamePanel LCDの公式Webサイトや,そこからリンクされている関連サイトから入手できるので,興味のある人はぜひチェックしてほしい。ただ,筆者がチェックした限り,GPAの数自体はG13のレビュー時から増えているのだが,ゲーム用GPAはあまり増えていなかった。
そもそも,アクション性が高いかどうかにかかわらず,ゲーム中にディスプレイから視線を切ってわざわざGamePanel LCDをチェックするというのは現実的でない。
例えば「G15 Forums」といった海外のユーザーフォーラムで,非ゲーム時の普段使いで面白いGPAやGamePanel LCD関連の情報を手に入れることができれば,ゲーム以外で何か使い道があるかもしれない,といったところである。
タスクトレイなどから起動できる「ロジクールLCD Manager」。このツールを使ってGamePanel LCDに表示する情報を設定できる |
GPAはG13のレビュー当時より増えたものの,残念ながらRSSリーダーなどゲームに関係ないものが中心だ |
……と,ここまでで気づいた人も多いと思うが,実のところ,キーの数こそ異なるものの,「Gキー」周りもG13と同じだ。なのでこちらの詳細も,G13のレビュー記事を参照してもらえればと思う。今回,あらためて解説することはしない。
ロジクールG-Seriesキープロファイラ。キーボードのグラフィックスはG510に合わせてあるが,設定できる機能などはG13付属版と同一だ |
規約によって外部ツールの利用を禁止しているオンラインゲームでは事実上利用できず,場合によってはアンチチートツールから弾かれる可能性もある。この点はくれぐれも気をつけてほしい。
このように,G510はその特徴的な機能の大半を,G15シリーズやG13から継承している。その意味では,2010年秋時点におけるG-Seriesキーボードの集大成的なモデルである,ともいえるかもしれない。
気になる同時押しの実力は
「最低5キー,最高6キー」
ここまでは,G510の外観と機能に注目してきた。いよいよ,ゲーム用キーボードとしての実力を見ていくことにしよう。
まずは「最低5キー」とされる同時押し周りだが,4Gamer独自のキーチェッカ「4Gamer Keyboard Checker」(Version 1.00 Beta)から確認したところ,[Shift]や[Ctrl]といった修飾キーを除き最高6キーまでだった。この6キーという値は,同時押しに対して特別な工夫をしていないUSBキーボードでは最大値なので,ある程度予想できた結果,といったところだ。
となると,6キーから最低5キーに減ってしまうのはどのようなケースかという点が気になる。この組み合わせを厳密に調べるのは非常に難しいが,今回調べたところでは,下の画面のように,上下に隣り合ったキーの組み合わせを含めて6キー以上を押すと,5キーになってしまうケースがあった。詳細な理由は不明だが,おそらくキーマトリックスの設計上の都合だろうと思われる。
いずれにせよ公式仕様通り,同時押し対応が最低5キーという点は確実であることが確認できた。
ところでロジクールは,G510について,「高速500Hz(2/1000秒)レポートレートにより、レイテンシーのない入力を実現」(※製品情報ページより原文ママ)という表現を用いている。Razer USAなど,競合他社は1000Hzのレポートレートを謳う製品を投入していたりもするので,珍しい仕様ではないが,「(レポートレートがとくに謳われていなかったG15やG13からは)高速化しましたよ」と謳いたいのだろう。
ただ,それを人間が関知できるかはかなり微妙に思える。というのも,理論上のレイテンシは,レポートレート125Hzの一般的なUSBキーボードでもワーストケースで数ミリ秒にしかならないためだ。125Hzから500Hzになっても,ベストケースで2ms改善するだけである。
本機は一般的なメンブレン式のスイッチが採用されており,キー押下圧は公称では65±20gとされている。錘(おもり)を使った実測では最も軽い[Enter]キーで50gほど,その他のキーでは55g程度の錘を載せると沈み込んだ。
また,公称のキーストロークは3.6mmとされているが,実測では,キーの可動範囲――キーを強く押して底に突くまでの距離は約5mm程度で,キースイッチが反応する深さが3.5mm前後だった。
データ転送の高速化とレイテンシの低さを謳っているのに,肝心なキースイッチのほうがG15とあまり変わらないというあたり,筆者はどことなく違和感があったことを付記しておきたい。
最近のゲーマー向けキーボードでは,押下圧40g前後,キースイッチが2mmほどで反応する“軽くて浅い”キーを採用し,キーの反応を良くしている製品が多い。それらに対してG510のキースイッチは,前述したように重くて深いため,キーを押すまでの時間がそれだけ長くなる。
これは言い換えれば,ユーザーが反応してからキーが入力されるまでにそれだけの時間が必要になってしまうということでもある。率直に言って,このようなキースイッチを使っている限り,データ転送で数ミリ秒を稼いでも意味が薄いと思われるのだ。
もっとも,キーの重さやストロークには人それぞれの好みがあるため,重くて深いキーが好きというゲーマーもいるだろうが……。
「LunaticRave 2」のβ3版も試遊している。
まず紹介したいのは,ETQWとLeft 4 Dead 2で,同時押しの効果が大きかった点だ。これらのタイトルは,斜め移動するときに[W]と[A],あるいは[W]と[D]の同時押しを必要とする。筆者もほとんどクセのようにこの2キーを同時に押しているが,G510では斜め移動しながら難なくリロード([R]キー)や武器チェンジ(筆者は数字キーを使用している)が可能だった。通常のキーボードでこの操作をすると,[A]や[D]から一時的に指を離さないと反応しないケースがままあるため,この差は大きい。
LunaticRave 2では,ゲームシステム上,プログラムが認識しているキーを画面で常時確認できるが,そこでも同時押しは有効に動作した。
総じて,同時押しは非常に有効性が高い。同時押し対応キーボードの恩恵である「操作中の煩わしい引っかかりがない」というありがたさを,あらためて感じさせてくれた結果といえる。
ここで気になるのが,前述した「キーの組み合わせによって同時押し制限が5キーになってしまう現象」の影響だが,少なくともETQWとLeft 4 Dead 2ではこの問題には当たらなかった。LunaticRave 2の場合は若干シビアで,プレイする曲によっては5キー以上をほぼ同時に押すケースもある。ただし,G510の5キーに減る組み合わせの影響があった場合でも,LunaticRave 2側でキーアサインをカスタマイズして制限のない組み合わせに変えることで,ほとんどの曲でプレイに問題のない状態までは持って行けると思われる(※キーカスタマイズとプレイを繰り返し,どのキーが同時に押せるかを確認する作業は必要となるが)。
キーボードそのものの使用感以外では,「ゲームモードスイッチ」が便利に感じられた。これはゲーム中に意図しないタイミングでWindowsキーに触れてしまう“誤爆”を,[Windows]キーと[アプリケーション]キーを無効化して防ぐ役割を持つ。この機能は,ドライバのインストールなども不要で,スイッチを右側にスライドさせるだけで対象のキーが無効になる。
ゲームモードスイッチ自体はG15シリーズからあった機能だが,キーボードのベースに埋め込まれているような形だったため,操作がしにくかった。対してG510ではノブが取り付けられおり,スライドしやすくなっている。地味ながらここは嬉しい改良点だ。
また,サウンド関連では,ローラーになったボリュームコントローラが,意外に(?)使いやすかった点を特筆しておきたい。ボリュームコントローラとミュートボタンで操作が完全に異なるため,キーボードに視線を落とさなくても,ある程度ブラインドで操作できるのは,なかなか実用的だ。
一方,減点材料は,一にも二にもキーが重いこと。キースイッチにそれなりの力を加えて押し込まないと反応してくれないというのは,ゲームプレイ中で,かなり気になった。
同時押しにはメリットがあるものの
特殊機能を使わないゲーマーには厳しいか
外観や仕上げなどは,価格に見合った高級さを備える。さすがLogitechと言えるレベルである |
G510のパッケージ。やはり基本性能よりも,多機能性を訴えるデザインだ |
また,普段使いのキーボードとして評価した場合にも,十分高い評価が与えられる。とくに各所の質感などはさすがLogitechと言えるほど上質で,GamePanel LCDとキーのバックライトや,キー表面の仕上げなども満足感が高い。ただ,それゆえに気になるのがキースイッチの重さだ。筆者にとってはもうちょっと軽ければ,それだけでさらに評価を高くしてよいほどである。
一方で判断が分かれるのは,GamePanel LCDやマクロ機能だ。GamePanel LCDなどは,Logitechが初代G15から搭載を続けているが,GPAのゲームタイトルへの対応はあまり進んでいないことから,熱心なのかそうでないのか,今ひとつはっきりしないように見える。
要するにG510は,キーの重さが気にならず,GamePanel LCDやマクロといった,ゲーム用途ではまずもって使い道のない機能に意義を見い出せる人にとって,コストに見合ったキーボードだ,ということである。
純粋なゲーム用キーボードとしてのG510は,基本性能面にイマイチな部分を抱えながらも,直販価格で1万2800円(税込,2010年10月19日現在)もする,価格帯性能比のよろしくない選択肢になってしまう。もっとはっきり書けば,同じコストをかけるなら「SteelSeries 6Gv2」のほうが,ゲーム用途でのコストパフォーマンスに優れている。
「キーボード製品」としての完成度は十分に高いのだが,ゲーマー向け周辺機器としては,どうしても厳しい評価にせざるを得ないのが残念だ。G-Seriesには高い完成度を備えたG13があるだけに,フルキーボードでも,よりいっそうゲーマーにとっての完成度を高めた製品の登場を期待したい。
- 関連タイトル:
Logitech G/Logicool G
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