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[GDC 2018]“AIとの会話をゲームにする”ことの難しさとは。「EVENT[0]」の開発者が登壇した講演をレポート
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印刷2018/03/24 15:17

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[GDC 2018]“AIとの会話をゲームにする”ことの難しさとは。「EVENT[0]」の開発者が登壇した講演をレポート

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 「これからはAIの時代」などと言われるようになって久しい。GDCにおいてもAI Summitは大盛況だし,ゲームのコンテンツだけでなく,開発や検証にもAIを活用しようという試みがあちこちで始まっている。

 そんな中,2016年に「AIと会話をすること」を核とするゲームがリリースされた。Ocelot Societyが開発したインディーズゲーム「EVENT[0]」である。GDC 2018では,同作の開発に携わったEmmanuel Corno氏が,「CHATBOT GAME MANIFESTO: GOLDEN RULES FOR MAKING A NEW KIND OF GAME」と題した講演でその過程(およびその後)を語ったので,レポートしよう。


チャットボットゲームとしての「EVENT[0]」


 Corno氏は最初に,「EVENT[0]」を「チャットボットゲームである」と定義した。

 「EVENT[0]」では,宇宙空間を漂流していた宇宙船にやむを得ない事情で乗り込んだ宇宙飛行士(=プレイヤー)と,その宇宙船を管理しているAI(KAIZEN-85)が繰り広げる物語が描かれる。
 本作においてプレイヤーは,AIであるKAIZEN-85とうまくコミュニケーションして,難局を乗り切らなければならない。その手段は,宇宙船内部のコンソールを使ったテキストチャットだ。選択肢を選ぶなどといった方法ではなく,実際にテキストチャットを行うのである。Corno氏がこの作品を「チャットボットゲームだ」という理由は,まさにこれだ。

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 さて,これだけ聞くとなんとも斬新なゲームに思えるかもしれないが,実のところチャットボットゲームは「EVENT[0]」が史上初というわけではない。1998年には「Starship Titanic」,2005年には「Facade」,2013年には「A small talk at the back of beyond」がリリースされている(「Facade」は一部でかなり話題にもなった)。

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チャットボットゲームの特異性


 Corno氏はチャットボットゲームを「かなり先に進んだゲームである」とする。
 というのも,氏の分類によれば,コンピュータゲームのほとんどは「Systemic Games」であるという。つまり,プレイヤーがゲーム世界に関与するためには,ゲームが提供するアクションを使うしかないゲームだ。

 この枠を1段階押し広げたのが「Semantic Games」で,この代表例が「Scribblenauts」だという。これはプレイヤーが単語を入力すると,その単語が示す物体がゲーム内に現れるので,それを用いて課題をクリアするというゲームだ(例えば「紙を切れ」という課題に「ナイフ」「はさみ」「カッター」のどれを入力してもいい,といった具合)。
 単語が指し示すオブジェクトはゲーム内部にデータとして存在するものではあるが,「クリアする方法」は極めて広い幅を持つし,「プレイヤーがどのようにして世界とインタラクションするか」をプレイヤーの側がある程度まで決定できる。

 そこからさらに一歩進んだのが「チャットボットゲーム」である。チャットボットゲームもまたデータベースに基づいたSemantic Gameではあるが,世界とインタラクションする幅はもっと広い。世界に向かって「単語」ではなく「自然言語」で投げかけを行うのだ。

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 従って,チャットボットゲームと,クラシックなテキストアドベンチャーは大きく異なる。
 そもそも,チャットボットゲームは自然言語で会話するのが大前提だ。クラシックなテキストアドベンチャーのように,ゲーム側に隠された「正しい単語」があるわけではない。
 また,チャットボットゲームにおいては,会話の相手として擬似的な人格が存在する。そこで発生するエモーショナルな働きが,チャットボットゲームの重要なポイントとなる,というわけだ。

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 加えて,チャットボットゲームは,プレイヤーごとに異なる物語性を提供するという。
 プレイヤーはチャットボットに対して自由に質問し,要請する。そしてチャットボットはそれに対して適宜返答・対応していく。当然ながらプレイヤーごとに「どのような会話をしてゲームを進めていったか」は異なるし,「あるプレイヤーにとってチャットボットはどういう存在だったか(どういう人格として認識したか)」は,プレイヤーごとに異なる印象として残るわけだ。

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チャットボットゲームならではの難しさ


 なかなかに興味深いチャットボットゲームだが,特有の難しさもあるという。

 中でも大きな問題となるのは,「自然言語をきっちりと解析し,理解して,デザイナーが望むような反応として戻してくれるAI」を作るのが非常に難しいということだ。昨今では,音声入力に反応してさまざまな機能をON・OFFしたり,あるいは人間の代わりに各種検索を実行してくれたりするAIがスマートフォンなどに搭載されているが,このクラスのAIを作るのが至難の業であるのは言うまでもないだろう。

 しかもチャットボットが「登場人物」となるゲームを作るということは,デザイナーはそのゲームにおけるチャットボットの特性を完全に理解していなくてはならない。これまた,とても困難な仕事だ。

 Corno氏はこの問題に対する解決策として,「既存のシステムを利用するよりは,自分で簡単なシステムを作って,そのシステムに対する理解を徹底的に深めたほうがいい」と語った。
 そして,「自分で簡単なシステムを作る」にあたっては,まずはペーパープロトタイプが望ましいとした。自分でフローチャートを書いて,そこに言葉を投げ込むとどんな反応が起きるのかを,紙の上で確認するというわけだ。

 こうやってプロトタイプをしっかり作り,そのフローチャートをプログラマに渡して,実際のコードにしてもらうという手順で「EVENT[0]」は作られたそうだ。確かに,「ゲームデザイナーが隅々まで挙動を理解しているAI」を作るために,ゲームデザイナー自身がそのAIロジックを作るというのは,手早い方法だ。

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 また,このようにしてAIロジックを作り,またゲームの骨格となる「仕込み」を組み込んでいく中で,Corno氏は「AIに感情があるかのように感じさせる」部分を強めていったという。
 例えば「ドアを開けろ(Open the door)」ではKAIZEN-85は知らん顔をするが「ドアを開けてください(Open the door, please)」だとドアを開けてくれる,といった具合である。「Please」がついていると命令が通りやすいという構造は,KAIZEN-85の「感情」を感じさせるスパイスとなる。

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 このようにして「チャットボットに感情があるかのように振る舞わせる」ことには,もうひとつ大きな理由があるという。
 チャットボットゲームは「プレイヤーがゲーム世界(およびチャットボット)に感情移入する」ところまで行かないと,うまく機能しないのだ。ある意味,これは「ロールプレイングゲーム」なのだとCorno氏は指摘する。パズルゲームのように最短距離で「正解」を探すゲームとは違うのだ。

 このように特殊なゲームであるため,「万人に受け入れられるものではない」とCorno氏は語った。筆者個人としても,このスタイルのゲームは,いわゆる「雰囲気ゲー」に限りなく近いと感じる部分がある。

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ローカライズは越えられない壁か


 人を選ぶゲームジャンルではあるが,それだけに開発側としては,「面白い」と思ってくれたプレイヤーには,しっかりと満足できるものを提供したい。つまり,ただ「斬新」なだけでなく,質を高めねばならない。

 チャットボットゲームの質を高めるためにデザイナーができることとして,Corno氏は「良いデータを作ることに尽きる」と語った。データベースの良し悪しは,ゲームの出来に直結するのだ。

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 とはいえ,Corno氏は「完璧を目指す必要はない」と語る。
 星座占いを聞いて「当たってる!」と感じると,占いに対して信頼感を持てるように,「このAIはプレイヤーが言わんとすることを(ある程度まで)理解している」とプレイヤーが感じる限り,プレイヤーにとっては「なかなか賢いAI」なのだ。

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 だが,この信頼を破壊してしまう「悪夢」がある。それはチャットボットとの会話がループしてしまうことだ。
 極端な話をすれば,プレイヤーが「何だって?」と入力したのに対してチャットボットが「はい?」と返答し,それに対してプレイヤーが「だから何だって?」と入力したら,チャットボットが「はい?」と返答……この類のループは,まさに最悪の事態と言えるだろう。
 この問題については,基本的にはデータベース側に可能な限り多彩な反応を用意するのが,最も望ましいようだ。

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 このほかにも専用の管理(あるいは執筆)ツールの必要性や,テストプレイにおける注意点などが語られたが,チャットボットゲームにおける最大の難点は,講演の最後に指摘されたポイントに尽きるかもしれない。それはローカライズである。

 チャットボットは自然言語を処理して反応を戻すシステムが組み込まれているため,言語とゲームの関係が密接になるが,それだけに,言語が変わることで生まれる影響が大きくなってしまうのだ。
 実際,「EVENT[0]」にはオリジナルである英語版以外にフランス語版を作ったそうだが,制作に携わったCorno氏自身,フランス語版の完成度にはまったく納得していないそうだ。

 また,さまざまな国のローカライザーが「EVENT[0]」に興味を示したそうだが,打ち合わせの場で各種実装を見せると,みな提案を取りやめたという。これまでいくつもの作品を手がけてきた企業がその時点で諦めてしまうということは,相当に困難なのだろう。もしかしたら「不可能に近い」という表現が適切なのかもしれない。

 この高くそびえるローカライズの壁は,チャットボットゲームが広まっていくにあたって,強烈な阻害要因として残っていくかもしれない。

 一方で,この問題を抜本的に解決するアイデアも,既に作品として存在する。
 例えば1988年リリースの「Captain Blood」は,異星人とのコミュニケーションを行うゲームで,アイコンを並べて「会話」をするという手法を採用している。
 2016年の「Sethian」は,人類にとって未知の言語(デザイナーが文字も文法も作った)を解読していくという作品で,これまた言語依存がない(というのが適切かどうか微妙だが,地球人としては「ない」と言っていいだろう)。

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これからのチャットボットゲーム


 さて,このように現状ではかなりマニアックな側面が強いチャットボットゲームだが,今後AIがさらに発達していけば,また違った発展をする可能性も高い。
 「技術的に未熟なチャットボットなので,あまりきちんとした反応ができない」といった問題は,Corno氏が最後に指摘したような「まったく異なる言語体系を持つ相手と会話する」ことで解消できる可能性もあるだろう。この場合,うまく意志疎通できなかったり,たどたどしい表現になったりすること自体が,リアリティになり得る。

 そう考えると,このジャンルは「明らかな発展の方向性」以外にも,まだまだ探索の余地が残るジャンルであるように思える。「EVENT[0]」のような尖ったゲームが,今後もリリースされることに期待したい。

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