連載
「そうだ アニメ,見よう」第76回は“なろう”発の異世界アニメ「盾の勇者の成り上がり」。裏切られた勇者と亜人の少女の物語
多数のアニメ化作品を輩出し,もはやひとつのジャンルとして確立した感のある「小説家になろう」発の,いわゆる“なろう系”作品。今回紹介するアネコユサギ氏の「盾の勇者の成り上がり」(MFブックス/既刊21巻)も,そうした“なろう系”のタイトルで,2012年に発表されたのち,書籍やコミックなど多方面のメディアで展開中の異世界ファンタジーだ。
というわけで,「そうだ アニメ,見よう」第76回のタイトルは,同作をアニメ化した「盾の勇者の成り上がり」。制作はキネマシトラス,シリーズ構成は小柳啓伍氏,監督は「NORN9 ノルン+ノネット」を手がけた阿保孝雄氏が務めている。
「盾の勇者の成り上がり」
尚文達に与えられた使命は,勇者として世界に混沌をもたらす災い「波」から人々を守ること。大冒険の期待に胸を膨らませる尚文は,仲間とともに旅立とうとするが,攻撃ができない盾は人気がなく,従者はマイン(CV:ブリドカットセーラ恵美)1人だけという有様。
しかも,そのマインも尚文を裏切り,全財産を盗み取ったうえに,尚文に襲われたとほかの勇者達に嘘をつく始末。婦女暴行の冤罪をかけられた尚文は,勇者としての名声や金銭,信頼を失い,異世界での生活に絶望する。1人で旅に出ることを決めた尚文は,パーティの攻撃役として,奴隷商人から亜人の少女ラフタリア(CV:瀬戸麻沙美)を買い,あてのない旅を始めるのだった。
異世界に召喚された勇者の冒険譚というと,古今東西,類似の物語は枚挙にいとまがないが,本作ほどネガティブなスタートを切った勇者は,そうはいないはずである。攻撃が苦手な盾専門の勇者として召喚されたうえに,物語冒頭で裏切られ,仲間達からの信用も装備を整える資金も奪われるという,なんともトホホな状況で異世界に放り出された,主人公の尚文。他人を信用できなくなった尚文と奴隷の少女・ラフタリアの異世界サバイバルを描いたのが,本作「盾の勇者の成り上がり」だ。
尚文の唯一の従者マリン。しかし、彼女の申し出には裏があった |
舞台となるのは,レベルやヒットポイントといった,いわゆるゲーム系の概念が存在する世界。孤立無援となった尚文は,冒険を重ねるうち,盾には防御だけでなく,薬品の効果を上げる能力があると知り,その力で困った人を救い始める。「感謝はいらない。金をよこせ」と露悪的な言葉を口にする尚文だったが,次第に民衆の間で“聖者”と呼ばれるようになっていく。
役に立たないはずの勇者が,自分を見捨てた仲間達や民衆を,地道な活動で“見返していく”のが本作の醍醐味なのだ。
親娘の関係からステップアップ
魔物達への有効な攻撃手段のない尚文(一応攻撃はできるが最弱の魔物に数分かかる)は,ラフタリアを攻撃役にするが,いかんせん彼女は10歳程度の少女。恐怖で戦えない彼女に,尚文は不器用なりに優しく接し,そんな尚文にラフタリアも心を開いていく。
両親を魔物に殺されたラフタリアに尚文は優しく接する |
この2人の心の交流がしっとりと描かれ,「擬似親娘の愛情劇か,いいなあ」としんみりしていたら,第3話あたりで彼女がいきなり17,8歳ほどに成長して現われた。「なぜだ,突然時間が飛んだのか」と驚いていたところ,亜人であるラフタリアの種族は,レベルの上昇に合わせて急成長するとのこと。なんてこった。
ともかく,親娘のようだった2人の関係が,男女のものになっていくのがなんとも面白い。尚文にほのかな思いを寄せるラフタリアと,鈍い尚文の関係がどうなっていくか気になるところだ。
3勇者との確執の行方は?
物語の焦点となるのは,尚文達のパーティだが,残る3人の勇者の動向が,2人を振り回すこともある。たとえば,剣の勇者・錬が退治したドラゴンの死体が腐って,付近の村に疫病を起こしてしまったり,槍の勇者・元康の一行が与えた植物が村を壊滅状態にしてしまうなど,本人達は良かれと思ってしたことが,思わぬ結果を招くのだ。
死んだはずのドラゴンがドラゴンゾンビとして復活。尚文達に襲いかかる |
その尻拭いを尚文達がすることになるのだが,これはこの世界をゲームだと思っている3人と,現実として受け止めている尚文との意識の違いから生じた悲劇。死体を放置したら腐るのが,現実では当たり前ということだ。今後,彼らの関係は改善されるのか。
原作のアネコユサギ氏は「この物語は4人の自分なりの正義を持った主人公達の物語なんです」と語っている。それぞれの正義がぶつかりあっているだけで,必ずしも誰かひとりの正義が正義なのではないのだとか。今後,この3人がどう行動するのか,見守りたい。
パーティに強力な攻撃役であるフィーロ(CV:日高里菜)が加わり,尚文達の旅も安定してきたかに見えたが,新たに登場した王女メルティ(CV:内田真礼)によって,再び王国のきな臭い争いに巻き込まれそうな気配。彼らはなぜ尚文達を迫害しようとするのか,その謎が明らかにさなるのだろうか。今後の物語の展開に目が離せない。
なお,本作のスピンオフとして,元康が主人公の「槍の勇者のやり直し」が小説・コミックスで刊行されている。時間遡行能力を手に入れた元康の姿がコミカルに描かれたもので,本作の世界観が気に入ったという人はこちらもオススメだ。
TVアニメ「盾の勇者の成り上がり」公式サイト
TVアニメ「盾の勇者の成り上がり」公式Twitter
放映データ |
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2019年1月〜 |
キャスト | |
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岩谷尚文:石川界人 | |
ラフタリア:瀬戸麻沙美 | |
フィーロ:日高里菜 | |
天木 錬:松岡禎丞 | |
北村元康:高橋 信 | |
川澄 樹:山谷祥生 | |
メルティ:内田真礼 |
スタッフ |
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原作:アネコユサギ(MFブックス『盾の勇者の成り上がり』/KADOKAWA刊) |
原作イラスト:弥南せいら |
監督:阿保孝雄 |
シリーズ構成:小柳啓伍 |
キャラクターデザイン・総作画監督:諏訪真弘 |
デザインリーダー:高倉武史 |
デザインアシスタント:和田慎平 |
モンスターデザイン:森 賢(ぎふとアニメーション) |
アクション設計:黒田結花 |
プロップデザイン:杉村絢子 |
色彩設計:岡松杏奈(キネマシトラス) |
ビジュアルアドバイザー:増山 修(インスパイアード) |
美術:木下晋輔(インスパイアード)、西口早智子(インスパイアード)、明石聖子(スタジオ・ユニ) |
3DCGディレクター:越田祐史(オレンジ) |
2Dアーティスト:hydekick |
モーショングラフィックス:上村秀勝(サブリメイション) |
撮影監督:梶原幸代(T2スタジオ) |
編集:須藤 瞳(REAL-T) |
音響制作:グロービジョン |
音響監督:郷文裕貴(グルーヴ) |
音楽:Kevin Penkin |
音楽プロデューサー:飯島弘光(IRMA LA DOUCE)、植村俊一(日本コロムビア) |
アニメーション制作:キネマシトラス |
■Blu-ray&DVD情報
Blu-ray BOX / DVD BOX 第1巻
2019年4月24日(水)発売
本編DISC 2枚組 ・ 第1話〜第7話収録
Blu-ray品番:KAXA-7701 / 本体価格:18,000円+税
DVD品番:KABA-10671 / 本体価格:16,000円+税
BOX特典
1.キャラクターデザイン諏訪真弘描き下ろしアニメイラスト使用BOX
2.原作イラスト・弥南せいら描き下ろしジャケット
3.特製ブックレット
・原作・アネコユサギ書き下ろし小説
・コミカライズ・藍屋球描き下ろしショートまんが
・設定資料集 など掲載予定
4.キャストオーディオコメンタリー
5.ノンテロップOP/ED
(C)2019 アネコユサギ/KADOKAWA/盾の勇者の製作委員会
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