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もっと世の中に,とくに日本の人には注目されてよい作品。小島秀夫氏が語る思い出の一本「クラッシュ・バンディクー」――ゲームアーカイブス700本突破記念! 特別インタビュー第7弾
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印刷2012/04/05 00:00

インタビュー

もっと世の中に,とくに日本の人には注目されてよい作品。小島秀夫氏が語る思い出の一本「クラッシュ・バンディクー」――ゲームアーカイブス700本突破記念! 特別インタビュー第7弾

創り手の発想の仕方が変わったPlayStation時代


4Gamer:
 しかし,「クラッシュ・バンディクー」や「メタルギア ソリッド」もそうですが,PlayStation時代というのは,本当に挑戦的な作品がたくさん出た時期でしたよね。

画像集#005のサムネイル/もっと世の中に,とくに日本の人には注目されてよい作品。小島秀夫氏が語る思い出の一本「クラッシュ・バンディクー」――ゲームアーカイブス700本突破記念! 特別インタビュー第7弾
小島氏:
 クリエイターが好きなものを創っているという部分は昔から変わらないんですけど,あの時は,ゲームはゲームでも作家性が強い作品が結構ありましたよね。

4Gamer:
 確かに。

小島氏:
 飯田和敏さんの「アクアノートの休日」や「太陽のしっぽ」なんかは典型だと思うんですが,一発ネタだとしても,切り口が従来のゲームとはちょっと違ったんです。

4Gamer:
 どう違ったんでしょう。

小島氏:
 たぶんそこが,「開発者からクリエイターに変わった節目」だったと思うんです。アーティストっていうとちょっと言い過ぎかもしれませんけど。

4Gamer:
 作家性というのは,コンセプチュアルなという意味ですか。

小島氏:
 んー……,これは,さっきの「動詞を見つけるだけでゲームになった」という話にも通じることなんですけど,それまでのゲームって,それこそ「ゲームデザイン」から入っていくものが多かったというか,工業的な考え方で創り始めるものが多かったと思うんですね。ルール(ゲームデザイン)ありきというか。でも,「アクアノートの休日」や「太陽のしっぽ」って,もう一つ上の大きなビジョンというのかな。そういうものがあって,それをゲームに落とし込みたい。その後で「じゃあゲームデザインどうしよう」みたいな流れが顕著になった時代だったと思うんです

4Gamer:
 あ,なるほど。

ゲームアーカイブス「アクアノートの休日
(C)1995,1996 ARTDINK All Rights Reserved.
画像集#020のサムネイル/もっと世の中に,とくに日本の人には注目されてよい作品。小島秀夫氏が語る思い出の一本「クラッシュ・バンディクー」――ゲームアーカイブス700本突破記念! 特別インタビュー第7弾 画像集#021のサムネイル/もっと世の中に,とくに日本の人には注目されてよい作品。小島秀夫氏が語る思い出の一本「クラッシュ・バンディクー」――ゲームアーカイブス700本突破記念! 特別インタビュー第7弾

小島氏:
 例えば,僕の「メタルギア ソリッド」という作品も,「大脱走」という映画をリスペクトして創っている部分がありますが,「大脱走」自体はゲームじゃないじゃないですか。でも,あのスリルや緊張感をなんとかしてゲームに落とし込みたかった。
 だから「メタルギア ソリッド」は,元々は「大脱走」のような「逃げるゲーム」がコンセプトでした。そのうえで「逃げるゲーム」とはどういうことかと考えを進めて,「見つかったら捕まってしまう」「見つからないように進むゲーム」という部分を後付けで付け足したんです。それが,さらに「逃げる」だけじゃなくて「攻める/潜入」という発想につながっていく。要するに,表現したい何かが先にあって,あくまでゲームデザインは後なんです。PlayStationの頃というのは,そういう作品が多かったように感じます。

4Gamer:
 あの時代,従来の枠を飛び出した作品が多かったのは,そういう背景があったからこそなんですね。

小島氏:
 まぁいろんな作品/ジャンルの興りがあったのは確かですよね。結果,面白いゲームもしょうもないゲームもあったと思うんですけど,発想の仕方が随分変わった時期だったのは間違いないと思いますよ。

4Gamer:
 発想といえば,「メタルギア ソリッド」もいろんなアイデアが詰め込まれた作品でしたよね。本筋には影響しないような小ネタも凄くたくさんあって。プレイしながら「ここまでやるか!」と感じたものでした。

画像集#008のサムネイル/もっと世の中に,とくに日本の人には注目されてよい作品。小島秀夫氏が語る思い出の一本「クラッシュ・バンディクー」――ゲームアーカイブス700本突破記念! 特別インタビュー第7弾
小島氏:
 いや,あれは大変でした。だってデザイナーとかプログラマーに提案しても,冗談だと思われて取り合ってくれなかったり(笑)。

4Gamer:
 そうだったんですか?

小島氏:
 そうですよ。制作の途中から「冗談じゃない」ことが伝わったみたいなんですけど,それでもサイコマンティスの精神攻撃(※)なんかは,スタッフのみんなから反対されたものです。

※メモリーカードのデータを読み取ってプレイヤーの趣味を当てたり,画面を暗転させてビデオ入力画面を真似したりする演出で,当時のプレイヤー達を驚かせた

4Gamer:
 今でもまざまざと記憶に残っている人が多いくらいですから,かなりのインパクトがあった演出だったのは間違いないですよね。

小島氏:
 でも,スタッフはみんな怒ってましたけどね(笑)。「こんなカッコ悪いメタルギアは作りたくない!」って言って。ダンボールを被るのすら,最初はみんな嫌がってました。

4Gamer:
 ダンボールなんかは,今やメタルギアの代名詞的な印象すらあります。

小島氏:
 当時は,周りから「アホちゃうかあのオッサン……」とか思われていたと思うんですけど,最近は“ソッチ方面”の評価が多少は上がって,周りの反応も違ってきました。

4Gamer:
 ソッチの評価ですか(笑)。

小島氏:
 でも,それこそ「メタルギア ソリッド」が出た当初では,「小島の創ったメタルギアは要らん!」って言われましたから。ギャグが多すぎる,こんなのメタルギアじゃないってね。……まぁ,僕的にはギャグじゃなくて,イギリス人のブラックな考えを取り入れた感覚だったんですけど。

4Gamer:
 無線通信のやりとりとかが,ですか? あれはむしろ「メタルギア ソリッド」の面白い部分だと感じていましたが……。

ゲームアーカイブス「メタルギア ソリッド
(C)Konami Digital Entertainment
画像集#023のサムネイル/もっと世の中に,とくに日本の人には注目されてよい作品。小島秀夫氏が語る思い出の一本「クラッシュ・バンディクー」――ゲームアーカイブス700本突破記念! 特別インタビュー第7弾
小島氏:
 現在のスネーク像って,ルパン3世やジェームズ・ボンドに近いキャラクターじゃないですか。でも最初のMSXの時は,あんまり喋らない,口数の少ない,いわゆる70年代的な「昔のヒーロー」だったんですよね。
 でも,CD-ROMをメディアとして使うことになったとき,凄く悩んだんですけど,大塚明夫さんにも出てもらう事だし,姉ちゃんを口説くセリフをいっぱい言わせたんです。

4Gamer:
 それで反発が……

小島氏:
 ええ。もう昔のファンの方から凄い怒られて。「スネークはそんなお姉ちゃんに媚を売らない!」っていう。まぁ確かに,スネークは出会うお姉ちゃんをみんな口説いていましたから,ファンの方の言いたいことも分かるんですけど(笑)。

4Gamer:
 (笑)。

小島氏:
 でも,最初こそ「やめてくれ!」という声が目立っていたんですが,「メタルギア ソリッド2」以降になると,それが「もっと言ってくれ!」に変わって。その後,みんなが知っている今のスネーク像が出来上がっていったわけです。

4Gamer:
 スネークというと,大塚明夫さんの台詞をセットで連想しますもんね。

小島氏:
 ただ僕としては,そういう“固まったイメージ”があるなら,またそれを裏切りたいという気持ちも出てくるんですよね。

4Gamer:
 裏切る?

小島氏:
 いや,なんて言うか,文句を言いながらも「おっ」っとなるようなことであったり,「こんなんもあるんだ」と思えるような何かであったり。そういうものを盛り込みたいじゃないですか。

4Gamer:
 形はどうあれ“驚き”を与えたいと。

小島氏:
 僕は,エンターテイメントってサービス業だと思っているんですが,怒らせたり,ちょっと外してみせたりするのも,サービスの一つだと考えているんですよね。寒いギャグがないと,本当のギャグが伝わらないじゃないですか。そんな「すかしっぺ」みたいなものも,僕は大切にしたいんですよね。

4Gamer:
 小島監督のゲームは,昔から本当にサービス精神が旺盛だと感じられるのですが,その原動力はどこから?

小島氏:
 やっぱり関西育ちだからじゃないですかね。まぁそんなこと言うと,東京の人に怒られるんですけど(笑)。

「メタルギア ソリッド 3 スネークイーター」
(C)Konami Digital Entertainment
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夢破れてゲーム業界なれど


4Gamer:
 いまさらこんなこと聞くのは失礼かな……と思いつつ,お聞きできればと思うんですが,小島監督は,どうしてゲームを創り続けているんですか?

小島氏:
 いやぁ,特別な理由なんて何もないですよ。息を吸って吐くのと変わらないというか。ずっと吸っていると破裂してしまうので,吸収したいろいろなものを吐き出すためにモノを創るんです。それがなぜ「ゲーム」なのかというと……僕の場合は,“夢破れてゲーム業界”なんですけどね。でも,ゲーム創りって実際にやってみると,こんなに面白くて,難しくて,最先端なメディアはないわけですよ。

4Gamer:
 そういえば,どこかのインタビューで「映画を創りたくても,昔はどうしようもなかったんです」と,小島監督がお話をされていたのはとても印象的でした。

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小島氏:
 はい。僕は子供の頃,映画を創りたいだとか,本を書きたいだとか,あるいは何か音楽をやりたいだとか思っていました。でもバンドを組むにしても周りに仲間がいなかったし,映画を創るにもお金が無かった。今みたいにビデオカメラは安くないですし,編集もデジタルでできる時代ではなかったですから。結果として,一人でできるのは小説を書くことだけだったんですが,ただそれも小説をやりたいから書いていたわけじゃなくて,とにかく「なにかモノを創りたい」という一心からなんですね。

4Gamer:
 その小説をどこかに応募したりみたいなことはされたんですか?

小島氏:
 いや,書いても周囲で回し読みするだけでしたね。でもそう考えると,今はインターネットを通じて世界中の人に見てもらえる環境があるし,ずいぶん恵まれているなぁと思います。昔は,とにかくコンクールなりに出して賞を取らないと,その門(クリエイターになるための)すらくぐれなかったものでしたが,今なら,ショートのアニメーションとかを創ってYouTubeに上げれば,評価してもらえるわけじゃないですか。

4Gamer:
 実際,そういう場から活動の幅を広げている人も出てきています。

小島氏:
 今の若い人はそういうものを使っていろいろやってみればいいと思います。逆に僕らみたいに企業にいると,それができないというジレンマはありますけど(笑)。

4Gamer:
 しかし,やっぱり根っこの部分の熱量というか,情熱が大切なんでしょうか……。

小島氏:
 まぁそこは,ほかの業界でも同じだと思うんです。例えば,映画監督/俳優のクリント・イーストウッドなんかは,あの年齢でもまだ映画を撮ってますよね。彼になんで?と聞いたって,答えなんか返ってくるわけがないんです。きっと気持ちがいいから撮ってるだけなんですから。そして彼は,1日24時間のほとんどを撮るということに費やしていると思うんです。それがきっと「クリエイター」の生き方なんでしょう。……まぁ,それが良いのかどうか分かりませんけれど,そこに疑問を感じる人はモノ創りには向いてないんじゃないでしょうか。

4Gamer:
 なるほど。

小島氏:
 あと,業界がそんなに評価されてない(ゲーム業界自身からも)っていうのも,僕がゲームを創る大きな理由の一つですね。むしろ,個人的にはそこが一番良いところかもしれません(笑)。

4Gamer:
 どういう意味ですか?

小島氏:
 いや,しょーもないものが「コレは最高!」と言われるようになっちゃったら,そんな業界はもうダメだと思うんです。知ったかぶりしてる人達が「これは最高!」なんて言っちゃったりするようなね。そういったものが出来上がってないのも,ゲームというメディアの良さだと思っています。

画像集#012のサムネイル/もっと世の中に,とくに日本の人には注目されてよい作品。小島秀夫氏が語る思い出の一本「クラッシュ・バンディクー」――ゲームアーカイブス700本突破記念! 特別インタビュー第7弾


ゲームばっかりやってても「立派な大人」と言われたい


4Gamer:
 しかし,今回お話を伺った「クラッシュ・バンディクー」や,それこそ「メタルギア ソリッド」や他の名作と呼ばれる作品もそうだと思うんですが,10年,20年後でも「ずっと記憶に残っている作品」には,どういった要素が必要になるんでしょうか。

小島氏:
 なんなんでしょうねぇ。
 
4Gamer:
 でも小島監督のゲームって,いろいろな驚きや面白みだけじゃなくて,「テーマ性」や「メッセージ性」が盛り込まれているのも大きな特徴ですよね。そしてだからこそ,多くのプレイヤーの記憶にずっと残っているというところがあると思うんです。

「メタルギア ソリッド 3 スネークイーター」
(C)Konami Digital Entertainment
画像集#024のサムネイル/もっと世の中に,とくに日本の人には注目されてよい作品。小島秀夫氏が語る思い出の一本「クラッシュ・バンディクー」――ゲームアーカイブス700本突破記念! 特別インタビュー第7弾
小島氏:
 そこはやっぱり,僕が映画で受け取ってきたようなものを,今度は僕がゲームで皆さんに与えたいからなんですよね。だから僕が創るゲームには「テーマ」があるし,「メッセージ」を込めたりもするんです。もちろん一方では,それを説教臭くてうざったいと感じる方もいるのかもしれませんが,でも僕は,そういうゲームを創り続けたいんです。

4Gamer:
 そこが小島監督のゲーム創りに対するこだわりというか,“芯”なんでしょうか。

小島氏:
 なんというか,やっぱりね。勉強なんかしないでゲームばっかりやってても,「俺は立派な大人や!」とか言ってほしいわけですよ。僕なんかも,全然勉強をしないで,映画ばかり観て,本ばかり読んで育ったわけです。

4Gamer:
 ああ……。

小島氏:
 それでも,ちゃんと家族をもって,収入もあって暮らしていけているわけです。僕も,ゲームで“そういうもの”を皆さんに与えられたらなと思うんですよね。

4Gamer:
 はい。

小島氏:
 だから,周りから何を言われても,僕はこのスタンスを変える気はありません。
 これは著書の中でも少し書かせてもらったことなんですけど,例えば映画を2時間見て,面白かったとか,うさが晴れたとか,スカッとしたとか,いろいろな感想があるとは思うんです。だけど,それだけでは僕は嫌なんですよね。

4Gamer:
 ただの暇つぶしじゃなくて,ということですか。

小島氏:
 もちろん,暇つぶしにすらならないのは最悪なんですが,「面白かった」という感想だけではなくて,さらにプラスで,ほかでは知りえない情報だったり気持ちだったりが,そこにあるべきだと思うんですよね。そして,そういうモノが含まれてはじめて,それは単なる「商品」というだけではない,「作品」と呼ばれるものになると思うんです。それが「エンターテイメント」であり「文化」と呼ばれるものになったりすると思うんです。

4Gamer:
 そうしたこだわりが,「メタルギア」シリーズの面白さに繋がっているんですね。
 では最後に,小島監督の今後の活動について少しお聞きしてもよろしいですか?

小島氏:
 さっきのサイレント映画の話に戻ってしまうんですが,今,僕がやろうとしていることは,実はチャップリンと同じなんですよね。それを映画でなく,デジタルでやってやろうと考えていて。

4Gamer:
 チャップリンと同じ,ですか?

小島氏:
 彼は,トーキー(音声)映画の時代に入っても,サイレント映画の良さにこだわり続けた映画人でした。チャップリンがトーキー映画に出演するとき,「絶対に喋らない」と言ったのは,別に歌が下手だったわけでも,演技に自信がなかったからでもないんです。チャップリンは歌手の息子で,むしろ歌はめちゃくちゃうまかったと言われていますし。

4Gamer:
 そういう意味ですか。

小島氏:
 ゲーム業界は今,ハイエンド機とSNSの到来で“第二のトーキー時代”を迎えていると思います。そんななか,僕は僕で,自分の信じるやり方――時代を逆手に取った自分らしいタップダンスを踊る(映画アーティスト風にいえば)――を貫くしかないなと。そんなことを考えていますよ。

4Gamer:
 小島監督の次回作が,今からとても楽しみです! 本日はありがとうございました。

小島氏:
 ありがとうございました。

画像集#004のサムネイル/もっと世の中に,とくに日本の人には注目されてよい作品。小島秀夫氏が語る思い出の一本「クラッシュ・バンディクー」――ゲームアーカイブス700本突破記念! 特別インタビュー第7弾

小島プロダクション公式サイト

「PlayStation Store」公式サイト

 
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