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[AGC 2006#01]Blizzard副社長ロブ・パード氏が語る「World of Warcraft」成功の秘密
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印刷2006/09/07 18:00

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[AGC 2006#01]Blizzard副社長ロブ・パード氏が語る「World of Warcraft」成功の秘密

■ゲーム開発者達の熱意が生んだ基調講演
Blizzard Entertainmentのゲームデザイン部副社長ロブ・パード氏。同社の代表としての,誇りと余裕を感じる内容の講演だった
 Blizzard Entertainmentが2004年末にリリースした「World of Warcraft」は,プレイヤー数が全世界で700万人を突破したといわれる空前のヒット作。公式サポートのない日本では,本作がなぜ成功しているのかを感覚的に掴みにくい。これまでBlizzardが門戸を閉ざしてきたこともあり,アメリカの開発者の間でも同様だったようだ。
 AGC(Austin Game Conference)のオープニング基調講演に同社のゲームデザイン部副社長ロブ・パード(Rob Pardo)氏が選ばれたのも,そんなゲーム開発者達の探究心の産物といえる。

 パード氏がBlizzardに入社したのは1997年のことだ。1998年にリリースされた「StarCraft」のリードデザイナーとなり,その後「WarCraft III」を手掛けることになる。しかし,当時,親会社のVivendi Universal Games(現Vivendi Games)は,業績悪化や社長の逮捕などで内部から揺れており,コミュニケーション不足を不満に感じたBlizzardの主要開発者の多くが退社していくことになった。
 そうしてα段階まで開発の進んでいたプロジェクトを引き継いだのが,パード氏というわけである。他企業の開発者やメディア関係者たちが元Blizzardメンバーに同情したのは無理もないが,辞職した面々が退社後に「Vivendiはイエスマンしか必要としていない」などとコメントし,古巣に批判的だったことから,パード氏ら残留組は相当不快感を募らせていたといわれる。
 ところが,引き継いだプロジェクトである,World of Warcraftは期せずして大ヒットしてしまう。しかし,前述のような経緯ゆえに「英知を共有し,業界全体が潤うよう取り組もう」というGame Developers Conferenceの理想がBlizzardに伝わるはずもなく,Blizzardとほかの企業との間には,明らかに“見えない氷壁”が存在していた。このような背景を考えると,パード氏が基調講演をするだけでも非常に価値のあることだ。氷が溶け出すまで,2年という月日を必要としたのだから。



■World of Warcraft成功の秘密とは!?
 パード氏の基調講演の内容は,World of Warcraftが成功した理由を,ゲームデザインの見地から独自解析したもの。同氏は,その要因を“デプス”“アクセシビリティ”“ペース”の三つに分け,事例を加えながら分かりやすく説明した。

●デプス
 ゲームの“深み”というのは,ゲームプレイを左右する重要なものである。Blizzardではゲームの根本であるコンバットシステムの仕様を入念に設計し,クラスやダンジョンの基本設計,PvP,モンスターレイドなどを企画段階から考察していたという。対戦モードやゲームバランスの良さで知られる,同社らしい作業手法といえる。
 パード氏は,World of Warcraftのグラフィックエンジンはリリース当時から最高レベルではなかったことから,メディアでのウケは良くなかったと語り,「グラフィックスでなくゲームプレイがゲーマーの注目するところであるのは,Blizzardの作品が証明していると思う」と語った。確かに,「Diablo」や「StarCraft」も,グラフィックスの質よりも,アーティスティックな見せ方で際立つソフトといえるだろう。

●アクセシビリティ
 Blizzardの作品に共通していえることだが,PCの推奨環境が低めに抑えられているために,頻繁にハードウェアをアップグレードできないゲーマーが多い後進国などでも,大きな支持を得ている。これが,パード氏の言うアクセシビリティ,つまり“手の届きやすさ”である。
 World of Warcraftでは,これまでMMORPGをプレイしたことのないようなプレイヤー層も楽しめるように設計されていると,パード氏は続ける。使いやすいインタフェースや,1人でも複数でも楽しめるようなクエストを提供したこと,ゲームの進め方が分かりやすいように,NPCの頭上にエクスクラメーション・マークをつけるといった,「Diablo II」で培ったノウハウが生かされたのだと説明した。
 また,スタート地点の都市が,迷わないようにと意外なほど簡素だったり,プレイヤーが引き受けるクエスト数が,ログを圧迫しない程度に制限されているなど,細かい配慮がなされている。
 パード氏は,飾りばかりでゲームの本質が見えなくなってしまうことを“クリスマスツリー効果”と表現。有能なクエストデザイナーは,誰でも楽しめる旅を演出できる“クルーズ船の航海ディレクター”のような,重要な役目であることを認識するよう促した。

左:キャラクタークラスを増やすだけが能ではない,とパード氏。World of Warcraftでは,「WarCraft III」の三つのキャラクター要素を合わせ,Warriorの一つにまとめた 右:ホワイトボードの上に即興で書かれたようなマップが,スライドの背景に利用されているのが興味深い


●ペース
スライドに利用されているのが,Blizzardが“Winged Dungeons”と呼ぶ,ゲームのペースを高めるためのダンジョン構造
 パード氏が最後に挙げたのが,ゲームの“ペース”である。テンポ良くゲームが進み,デプスとアクセシビリティの掛け橋として,誰でも満足できるようなゲームに仕立て上げるのが“ペース”であると表現する。
 実際,パード氏はWorld of Warcraftの一番の成功要因が,この点だったのではないかと強調した。「入社試験で必ず聞くことなので,ここにいる皆さんにバラしちゃうのもなんなんですけど,WoWの成功した理由がレベル・カーブ(レベルの上昇と難度の上昇)がよくチューンナップされていること,って答えると100点満点あげちゃいます」と笑いを取るパード氏だが,幾ら遊んでもレベルが上昇しないようなことにならないよう,細心の注意を払ったようだ。
 それでいて,ランチ時間に30分で終わらせることのできるようなミニクエストや,数十人が数時間かけて楽しむ大型のクエストなどをまんべんなく用意しておくことで,プレイヤーの“身勝手な”スケジュールにも対処できるようにしたと話す。
 ダンジョン内を枝分かれさせて,ボスキャラを分散させるWinged Dungeonsと呼ばれる形式のダンジョンを作ったことも,ゲーマーの負担にならずテンポ良く進めていけるという結果につながったようだ。



 パード氏は,このほかにも“The Blizzard Polish”(Blizzardの磨き方)と表現した,β段階に入るまでの入念な内部調整を説明した。「制作過程において何が微調整されていったのか,プレイヤーが気付くことはないだろうが,ゲームを続けていくうえで,その恩恵を受けることになる」と語り,細かいところでも妥協せず調整を行い,βテストはストレステストとしてのみ活用すべきだと話す。

 今回の講演はゲームデザインに絞ったものだったが,当然のようにWorld of Warcraftの成功は,その一点のみで語り尽くせるものではない。リアルタイム戦略ゲームのコアファンという重大な基盤があったことや,中国市場にうまく参入できたことなど,数々の外部的な要因もある。とはいえ,主要メンバーが抜けてしまった後のBlizzardにも,まだまだ「100万本売れないようなソフトは出さない」という気概が残っていることを,今回のパード氏の基調講演は示しているようだった。(ライター:奥谷海人)

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