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Logicool G「G533」レビュー。1万円台中後半で買えるワイヤレスヘッドセットは,恐ろしく強力な「競合製品キラー」だ
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印刷2017/01/26 00:00

レビュー

強力な「競合キラー」か。1万円台中後半で買えるヘッドセットを試す

G533 Wireless DTS 7.1 Surround Gaming Headset

Text by 榎本 涼


G533 Wireless DTS 7.1 Surround Gaming Headset(国内製品名:G533 Wireless DTS 7.1 Surround Gaming Headset)
メーカー:Logitech International
問い合わせ先:ロジクール カスタマーリレーションセンター
電話:050-3786-2085
実勢価格:1万5700〜1万7500円程度(※2017年1月26日現在)
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 「Logicool G」(日本以外では「Logitech G」)の新しいワイヤレスヘッドセット「G533 Wireless DTS 7.1 Surround Gaming Headset」(国内製品名:G533 ワイヤレス DTS 7.1 サラウンド ゲーミング ヘッドセット,以下 G533)が,いよいよ,2017年1月26日に発売となる。

 国内における“初値”が1万5700〜1万7500円程度という,ゲーマー向けワイヤレスヘッドセットとしては破格の安価さで登場する新モデルは,上位モデルである「G933 Artemis Spectrum Wireless Surround Gaming Headset」(以下,G933)譲りの入出力音質とワイヤレス性能の搭載がウリだ。では,その言葉はどこまで真実で,そしてゲーマーは,この新製品に何を期待できるのか。

 例によってねちねちと検証してみた結果を,発売日というこのタイミングでお届けしたい。


LEDイルミネーションを犠牲に(?)低価格と軽さ,高スペックを実現したG533


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 G533の見た目は,一言でまとめるなら「シンプル」である。
 最近のLogitech G/Logicool Gは,中上位モデルだとLEDイルミネーションを採用するのが当たり前のようになっているが,G533で光るのは,エンクロージャの側面にある小さな電源インジケータと,マイク部のミュート有効/無効インジケータだけだ。このあたりは,北米市場におけるメーカー想定売価149.99ドル(税別)という価格に抑えるための努力の跡が感じられる,と言っていいのではなかろうか。

G533で光る要素は,電源とマイクミュートのインジケータのみ
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写真正面に見える,このツヤあり部分に埃が付着しやすい
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 結果としてG533の外観は,ツヤ消しの黒とツヤありの黒による組み合わせという,基本的には落ち着いた組み合わせになっている。
 ただ,それだけにちょっと気になるのは,エンクロージャの“表面”側,「G」ロゴのある部分が,ツヤあり加工になっていることだ。別に,それ自体に安っぽさはないのだが,しばらく使っていると,静電気で埃(ほこり)が付き,ちょっとみすぼらしい感じになってくる。指先で触れると指紋も目立つので,ここはちょっと好みが分かれそうだ。

G533専用ワイヤレスアダプター。2.4GHz帯を使って通信する
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 ただ,それ以外の仕様は,「コストダウンの影響」をうまく隠蔽できている印象を受ける。たとえば,USB接続型の専用ワイヤレスアダプターは,G933だと左耳用エンクロージャ部へ収納できるのに対し,G533の場合,本体のどこにも格納できないのだが,その代わりに,本体の実測重量はG933の約375gに対して約351gと軽量化を実現できている。
 付け加えると,バッテリー駆動時間は最大15時間と,LEDイルミネーションを無効化したG933よりも3時間長い。1日,朝から晩まで充電なしにプレイし続けられる安心感はなかなかのものだ。

製品ボックスを開けた時点で(当たり前だが)G533の本体とワイヤレスアダプターは別扱い。右はボックスから充電ケーブルともども取り出したところである
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 先ほどLEDインジケータがあると紹介したエンクロージャには,左耳側のみに電源スイッチと出力音量調整用ノブ,そして「G-key」(Gキー)と呼ばれるカスタマイズ可能なボタンを搭載している。G933だとボタンだけで4個あったので,ここも大幅なコストダウンということになるが,Logitech G/Logicool Gに言わせると,「G933に対し,着脱時にエンクロージャ側ボタンを“誤爆”しやすいというフィードバックが多く,それに対策した」結果だそうだ。
 筆者も,G933のG-key配置はいまいちだと思っていた1人だが,G533では1ボタンになったため,確かに押し間違えのリスクは減った印象がある。

 なお,G533は,左耳用エンクロージャ部にあるケーブル接続端子経由で給電した状態でも,使用を継続できる。ただし,G533はあくまでもワイヤレス接続型ヘッドセットであり,G933のように,ワイヤードヘッドセットとして利用できるわけではない。

エンクロージャ側の接続端子はUSB Micro-B互換。充電中はバッテリー状況に応じてLEDインジケータの色が赤・橙・緑と変わる仕様だ
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 イヤーパッドはメッシュ生地で,G933と比べると,目が多少粗くなった印象だ。とくに新リビジョンとされる「Pro-G」スピーカードライバーを覆っている部分でそれが顕著だが,これにより,装着したときの肌触りはよくなった。また,通気性が増している分,より軽い装着感が得られる感覚もある。
 ただ,その分,音漏れというか音抜けも増している可能性はあるだろう。

着脱可能で洗浄できるイヤーパッドの素材はG933から変わったようで,厚みが1〜2mm減っている。イヤーパッドを実際に外してみると,Pro-Gドライバーは顔の側面と平行ではなく斜めに取り付けられており,耳の方向を向いているのが分かる。凝った作りだ
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 エンクロージャ周りではもう1つ,ブームマイクについても言及する必要があるだろう。
 先ほど,マイクにはミュート時のインジケータLEDがあると述べたが,マイクは跳ね上げるとミュートに,下ろすとミュートが解除になるという,最近流行の仕様だ。跳ね上げるときと下ろしたときにはビープ音も鳴る仕様になっている。

 マイク部分はブームを下ろした状態で引っ張り出して使うことになる。外装ががらっと変わっているためイメージしづらいが,引っ張り出すと,伸びた部分がある程度の自由度を持って曲げられるという,G933と同じ設計だ。見た目は変わったが,マイクの設置しやすさは変わっていないという理解でいい。
 もっとも,G933だとマイク部分は実測値で全長約30mmだったのが,G533では同45mmと大型化しているので,口元に設置したときの感覚は異なる。

マイクブームは先端のマイク部分を引くと中に曲がるブームが仕込まれていて伸びる仕組み。自由自在とはいかないものの,必要な場所にマイクを設置できる程度の自由度はある
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 アーム部は,いわゆる「魚の開き」にできるタイプで,アーム上に刻んである目盛りの数を自分で覚えておけば,動かしてしまってもすぐに戻せるタイプだ。
 ヘッドバンド内側のクッションはG933と同等か,それよりもしっかりとした厚みがあり、装着した時も頭頂部に硬い素材が当たる嫌な感じはしない。

ヘッドバンドを伸ばすと,金属地の中央にゴム素材が通っている延長ヘッドバンドが現れる。目盛りは刻んであるが,G933のような数字入りではない
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ヘッドバンドの表側はLogitech G/Logicool Gの「G」ロゴだけ。エンボス処理自体もG533でここだけだ。典型的なコスト削減の跡と言えるだろう
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ゲーム用途と直接は関係しないが,G933から引き続き,右耳用エンクロージャ部にあるバッテリーパックを取り外せるようになっている。目盛りに沿って,カバーを回せばアクセス可能だ。この意図をLogitech G/Logicool Gに尋ねたところ,「将来的に使わなくなり,処分するとき,各地の法令に従ってバッテリーパックを別にできるように」とのことだった
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ソフトウェア周りは上位モデルとほぼ同じながら,採用するサラウンド技術は「DTS Headphone:X」のみに


PlayStationにワイヤレスアダプターを接続したところ,何ごともなく認識され,2chステレオ出力対応のヘッドセットとして利用できるようになった
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 G533は,いわゆるドライバレスで動作するタイプのヘッドセットなので,USBワイヤレスアダプターをPCと接続すれば,とりあえずヘッドフォン出力とマイク入力は行える。また,Logitech G/Logicool Gが公式に対応を謳っているわけではないが,4Gamerで確認した限り,PlayStation 4でも利用することができた。

G533を認識した状態のLGS
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 PCで製品の固有機能を使いたい場合に,「Logicoolゲームソフトウェア」(日本以外では「Logitech Gaming Software」,以下 LGS)を導入する必要があるというのは,Logitech G/Logicool G製品の常だが,G533も,もちろんその仕様を採用している。
 メインウインドウの下ペインが機能群のメニューで,G-keyアイコンからは[G]ボタンに対する機能割り当て(※標準ではマイクミュートのオン/オフ切り換え),バッテリーアイコンからはバッテリー残量確認,板のアイコンからは音量やイコライザの調整,そして「7.1」と書かれたアイコンからはバーチャルサラウンドサウンド関連の設定が可能だ。

メインウインドウ下部のアイコンを押して,機能を切り替えたところ。バーチャルサラウンドサウンドは,利用したいなら,まず有効化する必要がある
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G533のバーチャルサラウンドサウンド設定メニュー。DTS Headphone:Xのみとなった
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 仕様で大きく変わったのは,G533がLEDイルミネーション機能を持たないため,G933や「G633 Artemis Spectrum Surround Gaming Headset」(以下,G633)のような電球アイコンがなくなっている点と,G933とG633で利用できた「Dolby Audio」のサポートがG533では打ち切られて,バーチャルサラウンドサウンドとしては「DTS Headphone:X」のみを利用する仕様に変わったことだろう。

 DTS Headphone:Xを有効化して,バーチャルサラウンドサウンドの利用時に選択できるルーム設定が,「DTS 7.1」「First Person Shooter」「Logitech Signature Studio」の3つだという点は,G933およびG633から変わっていないので,純粋に,サポート対象の技術がDTS Headphone:Xのみになったという理解でいいと思われる。

サラウンドソースに対する設定プルダウン「ルーム名」,ステレオソースに対する設定プルダウン「DTSスーパーステレオモード」とも,選択肢はG933およびG633から変わっていない
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なおもテスト方法は試行錯誤中だが,G533の遅延はおそらく歴代最小


 G533はワイヤレス接続型ヘッドセットなので,「Razer ManO’War」(以下,ManO’War)で用いた手法を踏襲しつつ,遅延(latency,レイテンシ)検証を行ってみよう。

 ただし,先の記事でも指摘したとおり,遅延周りではまだよく分からない部分が多く,手法を確立できたとは言いがたい。使う機材やソフトウェアこそ共通ながら,テスト設定は前回と異なっている,というか変更しているため,テスト結果の数字を横並びで比較することはできないことを,まずは強くお断りしておきたいと思う。今回の結果は,あくまでも今回のテストにおける相対的なものである。
 また,確固たる証拠があるわけではないのだが,テストした立場から言わせてもらうと,2017年1月のWindows Updateでサウンドミキサー周りかPCI Express,あるいはその両方の挙動に変化が生じているようだ。

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 そもそもの話をしておくと,先の記事でもテストに使っているDirectSoundは,いまとなってはレガシーに属するAPIで,それこそDirectSoundを立ち上げたMicrosoftは現在,XAudio2を訴求している。ならXAudio2を「掴める」音楽制作ソフトウェアがあるかというと,筆者の知る限り存在しないといった具合なので,当面は今回のように,試行錯誤を繰り返していく必要があるだろう。
 ひょっとすると,ゲームで使われているAPIではないことを覚悟のうえで,Windowsオーディオミキサーを通さないWASAPI排他モードを利用したテストも行ったほうがいいのかもしれない。

 と,悩み続けていても仕方がないので,今回はRazer ManO’Warのレビュー時と同じく,フリーソフトウェア「Audacity」とDirectSound APIを用いる。前回と同じく,

  1. Audacity経由で「時間的に等間隔で並んだクリック音を30回再生するサウンドファイル」で再生し,同時に録音しつつ,ヘッドセットへ出力
  2. ヘッドセットで音を出力し,ダミーヘッド「SAMREC Type2700Pro」のカスタム版で集音
  3. ダミーヘッドからRME製オーディオインタフェース「Fireface UCX」へ入力
  4. 入力した音をAudacityで録音
  5. 1.と4.の録音データをミリ秒(ms)で比較

することになる。これであればオフセット(offset,ここでは再生するサウンドファイルの開始時間と,録音時における開始時間の差分のこと)が揃うので,Audacity上での信号再生からどれくらいの遅延が生じているかを相対的に掴めるというわけだ。
 実際の計測にあたっては,上の流れにおける1.と4.のデータを,精度と信頼性が高い「Pro Tools 12.7 Software」上で読み出してから行っている。

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 なお,前回のテストだと,Fireface UCXの遅延設定は筆者の業務用設定に合わせたものになっていたが,ゲーム用途を前提に,以後は48 sampleで固定する。また,同様の理由からサンプリングレートは48kHzとする。これにより,Fireface UCX側の遅延設定は一貫性を確保できることになる。

 以上,今回も説明もしくは言い訳が長くなったが,計測結果を見てみよう。Fireface UCXにSennheiser Communications製のアナログ接続型ヘッドセット「GAME ONE」を接続した状態で得られた遅延値を基準として,G533と,その上位モデルであるG933,そして先ほどから何度か名前が出ているManO’Warを比較してみると,以下のとおりのスコアが得られた。

  • G533:約8.5ms
  • G933:約21.4ms
  • ManO’War:約58.6ms

 見てのとおり,ManO’Warの遅延は前回のテスト時よりずっと小さくなっているのだが,G933はその半分未満の遅延で,さらにG533はそんなG933を圧倒している。
 前回も書いたとおり,実際のゲームにおける遅延がこの数字をそのまま反映したものになるかは何とも言えないが,少なくとも,デバイス間の相対的な違いがおおむねこれくらいだろうということは言える。つまり,G533は,G933より10ms強速く,ManO’Warと比べると約50ms速いということだ。

 Logitech G/Logicool Gは,G533で,G933と同じワイヤレス技術の新リビジョンを採用したとしているが(関連記事),その新リビジョンは,速さを改善したという理解でいいのではなかろうか。
 は30回の結果をまとめたものだが,いずれにせよ,G933より遅延状況が優れているというのは,見事だ。

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 ただ,しつこいようだが,筆者は今回のテスト方法について,前回よりベターだとは思っているが,ベストとは思っていない。引き続き検証や情報収集を行っていくので,今後もしばらくお付き合いを願いたいと考えている。


出力はG933を踏襲。非常にきれいな周波数特性


 ここからは,ヘッドフォン出力とマイク入力のテストに入っていこう。ダミーヘッドの導入後,4Gamerでは,

  • ヘッドフォン出力テスト:ダミーヘッドによる測定と試聴
  • マイク入力テスト:測定と入力データの試聴

により評価を行うようになっている。ダミーヘッドによる測定法はいずれ別記事にまとめるつもりだが,現時点においてはヘッドセット46製品一斉検証記事,そして「G231 Prodigy Gaming Headset」テストレポートにある説明を参照してほしい。また,マイク入力テスト方法は解説ページを用意してあるので,そちらを参照してもらえれば幸いだ。

出力テストに用いたリファレンス波形
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 というわけでまずはヘッドフォン出力からだ。G933やG633と同じ,Logitech G/Logicool G独自の「Pro-G」スピーカードライバーを採用しつつ,G933以上の音質強化が図られているというG533だが,実際のところはどうだろうか。
 右に示したとおりのリファレンス波形をG533から出力し,ダミーヘッドから入力した音の周波数特性を取得した結果が下のスクリーンショットだ。

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 さらに,「得られた波形がリファレンスとどれくらい異なるか」を見たものが下の画像だ。これは4Gamer独自ツールでリファレンスと測定結果の差分を取り,リファレンスに近ければ近いほど黄緑になり,グラフ縦軸上側へブレる場合は程度の少ない順に黄,橙,赤,下側へブレる場合は同様に水,青,紺と色分けするようにしてある。
 差分画像の最上段にある色分けは左から順に重低域(60Hz未満,紺),低域(60〜150Hzあたり,青),中低域(150〜700Hzあたり,水),中域(700Hz〜1.4kHzあたり,緑)中高域(1.4〜4kHzあたり,黄),高域(4〜8kHzあたり,橙),超高域(8kHzより上,赤)を示す。

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 端的に述べて,リファレンスとの乖離が少ない,非常にきれいな周波数特性だ。G933&G633の直系らしい結果と言い換えてもいいだろう。
 低域では40Hz付近,高域では4kHz付近をそれぞれ頂点とし,谷が1.5kHz付近にあるドンシャリ傾向で,低域のほうが高域よりやや強いため,聞こえ方としては右肩下がりに近い。また,20kHz以上の帯域でも信号は維持できている。左右スピーカードライバーの音量差は0.6dBなので,音量差もほぼないと考えていい。

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 以上を踏まえての試聴テストだが,まず音量は「大きい」まではいかないものの,ワイヤレス接続型ヘッドセットとして必要十分なレベルは確保できている。よほどの大音量マニアでもない限り,音量面に不満を覚えることはないと思う。
 次にステレオ音源の試聴印象だが,聞こえ方は比較的柔らかめだ。G933のような,強めの「ドンシャリ」感はまったくなく,むしろもっと品のよい,「右肩下がり」の音質傾向に近い。低域の頂点と中域にある谷の差分は20dB弱くらいあるが,G933の約30dBと比べると大きくないためか,「低域はしっかり存在し,同時に,必要以上に主張していない」感のある,落ち着いた音質傾向だ。プレゼンス帯域(※)の波形が暴れていないので,長時間のリスニングには,むしろG933よりG533のほうがいいのではないかとさえ思うくらいである。

※1.4〜4kHz程度の中高域。プレゼンス(Presence)という言葉のとおり,音の存在感を左右する帯域であり,ここの強さが適切だと,ぱりっとした,心地よい音に聞こえる。逆に強すぎたり弱すぎたりすると,とたんに不快になるので,この部分の調整はメーカーの腕の見せどころとなる。

 G933とG633のレビュー時に筆者は,「ステレオ音源に対してDTS Headphone:Xを有効化するのは止めたほうがいい」と書いたが,G533ではどうか。
 こちらは,従来製品における反省を踏まえてか,だいぶ落ち着いた音質傾向になっており,ヘッドフォンというより,スピーカーを聴いているときのような「スピーカーと耳の距離感」に近い感覚が得られる。
 一方で低域も広がったように聞こえ,好き嫌いは分かれそうだ。筆者はG533でも,ステレオ音源に対するDTS Headphone:X適用は勧めないが,少なくともG933とG633よりは,試してみる価値はあると感じた。

 続いてはバーチャルサラウンドだが,前述のとおり,DTS Headphone:XのバーチャルルームはDTS 7.1とFirst Person Shooter,Logitech Signature Studioの3種類で,いずれも,G933&G633のときと基本的には同じという理解でいい。なので,詳細はG633のレビュー後編をチェックしてもらえれば幸いだ。

 というわけで,まずは「Fallout 4」で聞いてみると,音源が回転するようなシーンにおける音源移動のスムーズさはDTS 7.1が一番だった。これは部屋の残響が一番多く,その分スピーカーのチャネル間で音が途切れないからだろう。逆にFirst Person Shooterだとドライなので,音源の移動はしっかり把握できるものの,つながりのスムーズさはDTS 7.1やLogitech Signature Studioには及ばない。

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 DTS Headphone:Xお得意のLFE(Low Frequency Effect,低域効果音)でも同じで,いずれの設定でもLFEチャネルの押し出しは優秀だが,どちらかというと低域の出方はDTS 7.1が一番たっぷりしていて,低音感も一番強い。First Person Shooterだとそこまでの低音感はないが,重低域はしっかりいるといった具合だ。DTS 7.1はMMORPGやアドベンチャーなどで,サラウンドコンテンツをリッチかつゴージャスに体験したい場合,First Person Shooterはもっとストイックに音源の位置を把握したい場合に有効で,Logitech Signature Studioは両者の中間といった感じである。
 ただ,これはG933およびG633のときと同じだが,Logitech Signature Studioを選ぶと,ちょっと変調がかったような,金属的な響きがするので,好みかどうかは確認したほうがいいだろう。筆者個人としては,本気でゲームをするなら,バーチャルルームはFirst Person Shooterを選択するのがベターだと考えている。

 次に「Project CARS」でも聞いてみたが,傾向自体は基本的に同じ。後方で「ガヤノイズ」的に鳴っているエンジン音はきちんと後方に定位し,敵車を追い抜くとき,エンジン音が左右どちらかで聞こえて過ぎ去っていくのも把握しやすい。縁石に乗り上げたときの音も,効果音ではっきり分かる。
 低域だけでなく,高域の音もしっかり聞こえ,ゲーム世界の音再現性は非常に高い。

Razer Surround Proを有効化しようとしたところ,G533は選択できなかった
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 なお,バーチャルサラウンドサウンドということで,アナログ接続型ヘッドセットなどのテストに用いている「Razer Surround Pro」も試そうと思ったのだが,LGSを導入した状態だと,G533はグレーアウトして選択できなかった。先のレビュー時には,LGSを導入した状態でも選択できたG933もできなくなっていたので,Razer Surround Proの仕様が変わったのかもしれない。
 さすがに,「G533のユーザーが,Razer Surround Proを使うためにLGSをアンインストールする」というのは考えづらいため,今回はテスト対象から外していることをお断りしておく。


マイク入力特性は右肩上がりで低レート


 一方のマイク入力特性だが,こちらもなかなか興味深い結果が得られた。計測結果は,100Hz付近から6kHzの信号までの差分が大体30dBくらい存在する,ほぼ直線状の右肩上がりだ。

 周波数が大きく落ち込むのは,低周波だと100Hz付近,高周波だと6.5kHz付近で,100Hz〜10kHzとされる公称値には,とくに高周波側で届いていない。
 高周波の鋭い落ち込みは,G533における入力側のサンプリングレートが12〜13kHz程度に制限されている(から,サンプリングレートの半分である6〜6.5kHzまでしか再生されない※)ということなのだろう。

黄緑がリファレンス波形,橙がG533のテスト波形。G533は,下は100Hzくらいより低い帯域で大きく落ち込み,上は6.5kHzあたりより高い帯域で急峻に落ち込む,直線状の右肩上がり波形を示した。スピーカーのクロスオーバー周波数である1.8kHzで凹んでいるのを除くと,この間はかなりきれいは直線状だ。マイク波形でこういう特性なのは珍しい。位相は非常にきれいなので,シングルマイクと見てまず間違いないだろう
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※「あるオーディオ波形を正確にサンプリング(=標本化,データ化)するためには,当該波形の周波数成分よりも2倍以上高い周波数を用いる必要がある」という「サンプリング定理」に基づいた解釈。

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 実際録音してみると,搭載するというノイズキャンセリング機能と,指向性マイクを採用する効果は確かにあるのだが,6〜6.5kHzという高周波が一番強いこともあり,「シー」というヒスノイズは聞こえてしまう。ただ,低弱なので低周波ノイズはもちろん聞こえないうえ,周波数に変な凸凹がなく,「人間が何をしゃべっているのか聞き取るため」のプレゼンス帯域が相対的に強めのため,聞き取りやすくはある。

 USB接続型ヘッドセットのマイクによくあるサンプリングレートの低さではあるのだが,周波数バランスを完全な低弱高強に振ることで,「高周波がなくてもそれほど残念な音に感じさせない」という,他に類を見ない面白いアプローチを選択し,実用的なところに落とし込んでいるのは見事だ。

 注意すべき点があるとすると,コンデンサ型マイクである分,ダイナミックマイクより大音量で歪みやすいので,大声でしゃべるプレイヤーは,あらかじめマイク入力レベルを下げ気味にしておいたほうがいい,というところか。


価格を含め死角が見当たらない。1万円台のキラー製品


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 G533が発表になり,仕様と,メーカー直販価格で1万7420円という価格が明らかになったとき,筆者がまず思ったのは,「ああ,Logitech G/Logicool Gは本気で競合を殺しにきたな」ということだった。

 ご存じのとおり,Logitech G/Logicool Gは,ゲーマー向け周辺機器ブランドのなかでも最大手の1社でありながら,誤解を恐れずに言えば,最近は「大人げない」戦い方をしている。発売日である2017年1月26日現在の実勢価格は1万5700〜1万7500円程度で,1万円台中後半で,この品質のワイヤレス接続型ヘッドセットが買えてしまうのは,衝撃的と言うほかない。
 おそらくLogitech G/Logicool Gは,G533がG633をも“喰う”ことを覚悟のうえで,G933より短い遅延のワイヤレス接続と,G933より長いバッテリー駆動能力,落ち着いて万人向けの出力音質傾向と,ワイヤレス接続の限られたサンプリングレートでも周波数を低弱高強とした「何を言っているのか分かりやすい」入力品質をG533に詰め込み,本気で1万円台中盤,より正確に言えば100ドル台中盤の市場を制圧しに来たのだろう。

 光らないゲーマー向けデバイスになんて価値はないとか,見た目が気に入らないとか,そう思う人はいるかもしれないが,こと,実用性と価格のバランスという観点からすると,G533には本当に死角が見当たらない
 今回も「榎本はロジの回し者」と言われることは覚悟しているが,そう思っている人にこそ,店頭などで実際にG533を使ってみてほしい。

 相当批判的にチェックしても深刻な問題が見当たらないのが最近のLogitech G/Logicool G製ヘッドセットであり,そのなかでもとくに完成度が高いのが,今回のG533だ。今後,1万円台の市場に投入される他社製品はG533と勝負ができるのか,筆者は本気で心配している。

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