レビュー
WW IIの空挺部隊をテーマにした人気FPSシリーズの最新作
Medal of Honor: Airborne
» 一世を風靡したメダル オブ オナーシリーズの最新作「Medal of Honor: Airborne」。スクリプトを使いまくったドラマチックな演出に定評があった第二次世界大戦モノのFPSシリーズだが,今回は内容をバッサリ切り替えて再出発。スクリプトを使わない自由な戦場とはなんなのだろうか?
さて,もっぱらFPSとアクション,ときどきシムズを好んでプレイする私にとって,2007年後半の大作FPSラッシュはまさにそんなシンちゃん。話題作,問題作,注目作が「オレがオレが」という感じで次々にリリースされ,どこから手を付けていいやら全然分からないほどだ。「Crysis」「Call of Duty 4: Modern Warfare」「Enemy Territory: Quake Wars」,そして「BioShock」など,いずれも「年一本出ればそれだけでご飯三杯は行ける」ほどのクラスなのに,それらが一山いくらで市場に次々投入されるのだ。もちろん,どのデベロッパ/パブリッシャも(たぶん)狙ってやったことじゃないだろうから,これをシンクロニシティと呼ばずしてなんと呼ぶ,という感じだ。
そして,この怒濤の大作ラッシュの劈頭を飾るタイトルが,2007年8月に発売された「Medal of Honor: Airborne」(以下,Airborne)であることに間違いないだろう。そういうことにしてもらわないと,ユングまで持ち出した私の立場がないので,ぜひそういうことにしてほしいわけだが,Airborneは言うまでもなく2002年に発売されてスマッシュヒットを飛ばした「Medal of Honor: Allied Assault」(邦題 メダル オブ オナー アライド アサルト,以下MoH: AA)以来続く第二次世界大戦モノFPSシリーズの最新作である。
ちなみに,メダル オブ オナーシリーズは1999年,DreamWorks Interactive(当時)からPlayStation 2用に発売された「Medal of Honor」が実は初代。続編である「Medal of Honor: Underground」(2000年)ともども,それなりにヒットはしたけど,ブレイクしたのはやはりPC版のMoH: AA。その後,拡張パックや各種コンシューマ機向けタイトルが次々にリリースされ,一躍巨大フランチャイズを築き上げたが,MoH: AAのデベロッパである2015の主要メンバーが大挙離脱してInfinity Wardを設立。彼らのリリースした「Call of Duty」がたちまちメダル オブ オナーシリーズに追いつき追い越してしまったというのは,何度も書いているので知っているでしょ,キミ。
Airborneの開発はElectronic ArtsのLos Angelesスタジオ(EALA)が担当しているが,ここはもともとDreamWorksとWestwood StudiosをEAが買収して立ち上げた部門なので,ある意味,Airborneはかつてのデベロッパのもとに帰ってきたともいえるのである。折りよく,最新作であるCall of Duty 4は第二次世界大戦から現代戦にシフト。大戦モノFPSのスタンダードの地位を奪還すべくパブリッシャ,デベロッパともに力の入ったタイトルになっているのは間違いない。
ちなみに,本作の日本語版「メダル オブ オナー エアボーン」はXbox 360版とPLAYSTATION 3版が11月に発売予定となっているが,今のところPC版の発売予定はない。
押し寄せる大作ラッシュの陰に隠れがちだが
人気シリーズの最新作は見逃せない内容
さて,Airborne開発がアナウンスされたのは2006年1月のことである。その年の冬には発売されるという話を誰も信じていなかったのは言わずもがなだが,順を追って詳細が公開されるにつれ,いい意味でも悪い意味でもちょっと気になるタイトルになっていったのは間違いない。なにしろ,セールスポイントとして訴えられていたのが,「スクリプトを使用しないゲームシステム」だったからだ。
それ以外にも,複数のカメラを同時使用して作り出したという,表情までリアルなモーションキャプチャー「Ucap」(Universal Capturing System)や,光と影がどーしたこーした的な高度なグラフィックス(ゲームエンジンとしてはUnreal Engine 3を使用)などが挙げられるが,しかしやはりなんといってもスクリプトのない自由なゲーム性と,それによるリプレイ性の高さが本作最大のセールスポイントだったのである。
スクリプトとはつまり台本だ。例えば敵キャラクターの登場位置や動き,あるいはプレイヤーキャラクターがこの場所まで来たらこういうイベントが起きるというようなことがスクリプトによってあらかじめ決まっている。スクリプトを有効に使うためには一本道のマップが要求されるのはいうまでもない。ほとんどの場合,プレイヤーの位置がイベントのトリガーになるからだ。
かつてのFPSはだいたいがこのタイプだったのだが,これは別に悪いことでもなんでもなくて,Medal of Honor: Allied Assualtにしても初代Call of Dutyにしても,スクリプトの使い方の絶妙さが人気の秘密だったわけだ。また,「F.E.A.R.」のように,敵の登場位置やタイミングはスクリプトだが,高度なAIを実装し,出現したあとはそのつど状況に応じて戦闘行動を取るというやり方も最近のハヤりだ。
ミッションは輸送機内から始まる。普通に降りられるときもあるが,対空砲などに打ちのめされることもしばしば。エアボーン! |
やあ,ここは見晴らしがいいなあ,なんて言ってはいられない戦場上空。どこに降りるかは風の向くまま気の向くまま |
着陸直前にSpaceバー(デフォルト)をタイミングよく押下すれば,ふんわり降りて,すぐに戦闘状態に入れる |
グリーンスモークの周りには,弾薬箱とヘルスパックの詰まった箱がある。使用は一回限りなので,本当に減ったら使おう |
地面に降りたらもうそこは戦場。たいていの場合,見当識を喪失しているので,対応が遅れる。うう,ここはどこだろう? |
ぬわ,輸送機の後部が吹き飛ばされた! 吸い出される降下兵。現実にこんな事態に陥った兵士は少なくない |
パラシュート一枚,下は地獄。そんな戦場へようこそ
シチリア島,ノルマンディ,ナイメーヘン(マーケット・ガーデン作戦)など,第82空挺師団が担当した実際の作戦を元にゲームが作られている。大戦全期を通じて各国の空挺部隊兵士の損耗率は飛び抜けて高く,それはアメリカ軍も例外ではない。やってみれば分かるが,基本的に無茶な戦術なのである |
最初にその話を聞いたときは,ちょっと信じられなかった。それを実現しようと思ったら,まるで人間のように反応するAIを用意しなくてはならないし,スクリプトによるイベントがなければゲームのドラマ性は大きく削がれてしまうはずだ。ということをいろいろ考えたのであるが,まあ,なにはともあれ戦場に降下してみよう。ジェロニモー!※
Airborneのシングルプレイには6種類のマップが用意されている。シチリア島上陸「Operation Hasky」(ハスキー作戦),イタリア上陸「Operation Avalanche」(アバランチ作戦),ノルマンディ上陸の「Operation Neptune」(ネプチューン作戦)そしてオランダ侵攻「Operation Market Garden」(マーケット・ガーデン作戦)など,第82空挺師団が参加した有名な戦いがもれなく描かれているのだ。さらに,敗戦間際のドイツへ侵攻した「Operation Varsity」は,実はマーケット・ガーデン作戦をしのぐ史上最大の降下作戦だったが,もはや抵抗する余力がほとんどないドイツ軍が相手だったためか,あんまり知られていない。また,6番目のミッションである「Der Flakturm」についてEALAは「実際に行われた作戦だ」と言っているものの,私は知らなかった。これらのマップは,一度クリアすれば次から好きなものを選べるが,難度を変えたら最初からやり直しである。
とはいえ,難度による内容の違いはさほど感じない。登場する敵は10種類で,最初のマップの敵は弱く,ミッションが進むにつれて手強くなってくる。もちろん一番最初に出てくるのはイタリア軍で,最後のほうのマップになると,親衛隊の特殊部隊なども出てくるわけだが,個人的にはイタリア軍も侮れない。なにしろ,うっかりしてこっちがやられちゃった日にゃ,ドイツ軍より何倍も悔しいからである。なぜ,イタリア兵に……。
というわけで,なんだかしょっちゅう敵の対空砲に狙われている輸送機であり,ほぼ毎ミッション,味方の二,三人が被弾してうめき声を上げつつ倒れているという阿鼻叫喚の機内から,命からがら飛び出すTravers上等兵なのだが,なるほど,パラシュートを操作してマップのどの地点にも降りられるのは間違いない。もっとも,マップは開発当初のアナウンスから想像していたよりもはるかに狭い。こうした意見に対してEALAは「Airborneには乗り物の要素がないため,あまりに広いマップでは移動ばかりに時間を取られるおそれがある」とコメントしているが,だったらジープでも出してくればいいんじゃないの,という気がして,なんとなくひっかかる。せっかくJeepブランドの公認まで取ったというのにね(関連記事)。ややひねくれた見方をすれば,やはりマルチプラットフォーム展開によるメモリの制約に理由があるのではないかという気がしないでもない。こうした,マルチプラットフォーム展開の功罪についてはのちほどまた出てくるので,メモしておくように。しなくてもいいけど。
※アメリカ軍の降下兵が機から飛び出すときの掛け声。でもなんでジェロニモなんだろう
作戦前のブリーフィング。航空写真と降りたあとの戦場は驚くほど印象が異なる。地図ではすぐそばでも,地上には障害物がいっぱい |
武器の種類は非常に豊富だが,持って行けるのは3種類だけ。弾が切れたら,ドイツ軍のものを拾って使うしかない |
ゲームには計10種類の敵が登場するが,まあ,このSFチックな親衛隊員の姿は史実にやや反する。とはいえ,ちょっとどうかと思うほど手強い |
戦闘中,例えば「連続3キル」などを達成すると,“大型マガジン””ボルトアクション高速化”といったアワードがもらえる |
PhysX物理エンジンにも対応しているが,視覚的にはラグドール効果など,敵のやられっぷりがよくなる程度 |
画面左下のヘルスは四つのブロックに分かれており,一つのブロック内では減少しても自然回復する。 |
セールスポイントの斬新なシステムは機能しているのか
高いといわれるリプレイ性はどうだろう
輸送機が被弾し,過早に機を飛び出すことになったという設定のミッション。はるか遠くで本隊の降下が始まっている。これまた現実に何度も起きていることで,数Km四方にわたってばらまかれた部隊を一か所に集結させることさえ難事なのだ |
着地すると,そこはもう戦場である。マップは狭いが非常に入り組んでおり,高低差もかなりあるため,私のような極端な方向音痴には辛いかも。建物と建物がどうつながっているのか,この通りはどこへ続いているのかなどを熟知していなければ,そもそも目的地へたどり着くことさえ時間がかかる。ああ,闇夜に地図でしか見たことない敵地の奥深くへ降下した本物の兵士もそんな気分だったのだろうなあ,と思えてなかなか趣が深い。
屋根の上も走れるので,自由自在だ。たまには塔の上から狙撃しまくるのも面白いが,戦況に影響しないのが残念なところ。なぜなら,敵は次々に出現してくるのだ。
当然ながらスモークなんか無視してドイツ兵の蝟集する目的地に直接アタックも可能だが,どんどんやってくる無数の敵兵に矢尽き刀折れ,いずれやられてしまうのは必至。これはつまり,すべての敵兵があらかじめマップ上に配置されているわけではなく,プレイヤーキャラクターの周辺にリスポーンしてくるシステムになっているからだ。
このあたり「Call of Duty 2」をプレイした人ならよく分かると思うが,プレイヤーがどこかの見えないチェックポイントに到達するまで敵が次々に出現してくるため,一定の地域を掃討/確保して次のエリアに進むというやり方ができない。こうしたシステムは,自由度と戦場のリアリティを高めるにはもってこいだが,ゲームの難度は上がりがちとなる。
しかもAirborneの敵兵は,手榴弾もどんどん投げてくるし,弾もガンガン当ててくるしで非常に手強い印象。スニークの要素はなく,彼らは100%こちらを発見するうえ遮蔽物の影に隠れたり,仲間と一緒に攻撃してきたりとなかなか侮れないのである。戦線が形成されづらいため,背後から突然現れて攻撃してきたりなど,慣れないうちは私のようにやられまくるはずだ。したがってゲーム性としては,飛び出して敵を次々に倒すランボースタイルではなく,じりじり慎重に前進していくものとなり,爽快感にはやや欠けるかもしれない。
乱戦で頼りになるのが味方の兵士達だが,戦友達に指示は下せず,あるいは,こちらの移動を追って背後についてくるということもない。基本的に彼らは彼らの考えに従って行動しており,コントロール不能だ。どうやら,ミッションの目標地点に向かってあらかじめ決められたコースを辿っているようで,そのためプレイヤーがわざと迂回したり,変わったルートを選ぶといつの間にか一人になってしまう。つまり開発者が想定したコースに従っているぶんには味方が助けてくれて楽なのだが,それを外れるととたんに難度が上がってくるという雰囲気だ。おーい,みんなどこー?
ミッションの目標としては,「対空砲を三門破壊する」「燃料タンクを二つ破壊する」「ハーフトラックを三台破壊する」といった破壊系のものが多い。Eキー(デフォルト)で爆弾を仕掛けたり,銃を撃ち込んだりと,やるべきことはいずれも簡単だ。目標地点で何をしていいのか分からないということはまずないだろう。いくつかある目標はどの順番でクリアしてもかまわないが,基本的にすべてを終わらせなければならないため,リプレイ性にやや欠ける。つまり,何度マップを繰り返しても,行くべき場所は結局同じというわけだ。とはいえ,目標地点の順番によって攻略が簡単になったり,短時間でこなせたりといった発見があるので,そういう点からは面白い。
降下前に与えられた任務を終了しても,ほとんどの場合ミッションクリアではない。突然,敵の大軍が攻めてきたり新規の目標が発見されたりで,新たな目標を与えられるのだ。ふたたびさほど広くないマップを右往左往することになり,この点はやや辛いが,初期の任務を完了すると工兵が降下してきて,それまで開かなかったドアを破壊,これまで行けなかった別の場所に行けたりもする。というわけで,つまるところスクリプトは存在するのだ。前述のように敵兵はあらかじめ配置されているわけではなくプレイヤーの周辺にリスポーンする。これなら“人間なみ”というほどのAIはいらないし,ドラマチックな展開も可能になる。
ちょっとばかり「なーんだ」という気もするが,自由度とリアリティを高めつつ,現在の技術とゲーム性を折衷した結果,こうしたデザインになったのだろう。
オランダのナイメーヘンの街に白昼降下。セーブはオートで行われ,倒されると直前のチェックポイントから再スタートになる |
史実では強襲渡河を行って北側から橋を確保したが,ゲームでは南側から攻撃。ロケット弾を撃ち込んでくる敵がやっかい |
ドイツのある街に建てられたフラックタワーを攻める。タワーの内部は複雑で,高低差も大きく,敵もかなり手強い |
ローマ時代の遺跡に作られたドイツ軍陣地を舞台に激しい戦いを繰り広げる。敵の動きはよく,ゲームの難度は高めだ |
ドイツ兵器産業の心臓部,ルール工業地帯に降下してドイツ軍の補給線を絶つ。高所に陣取った狙撃手が困りものである |
目標達成と思った瞬間,カットシーンに切り替わり新たな命令が。やはりスクリプトは存在し,戦況は目まぐるしく動いていく |
起死回生の一本は,やはり遊び甲斐あり
降下兵の強敵はやはり重車両。中でも戦車は始末が悪い。味方の救援が来るまで,なんとか持ちこたえるのだ |
最適化が足りないため,やたらハイスペックなPCを要求したり,操作系の練り込みが不十分といったタイトルが散見でき,やや精神的な問題ながら,PCゲーマーとしては一抹の不安を感じないでもない。こうした作品のせいで実績が上がらなかった場合,当然ながらPC版は売れないなあというというコンセンサスがパブリッシャ/デベロッパに形成されてしまうおそれもなきにしもあらずで,心配になる。
もっとも,だからといってAirborneのグラフィックスや操作性が悪いといっているわけではない。虚心坦懐に見れば,それぞれのマップはかなり描き込まれ美しく,敵味方とも,兵士達の動きもいい。緑の美しいフランスの農園地帯,地獄のようなナイメーヘンの街の雰囲気,そして半壊したフラックタワーなど,後半にいくにつれマップも複雑になりゲームもどんどん面白くなってくる。
マルチプレイには,Team Deathmatchのほか,連合軍側が最初パラシュート降下してくるTeam Deathmatch Airborne。そしてマップ上に置かれた三つの旗を奪い合うObjectiveの三種類が用意されているが,Airborne以外,さほど「空挺部隊ならでは」というゲームモードがないのが惜しい気がする。具体的にそりゃなんだ,って聞かれると答えようがないんですけどね。パラシュート降下自慢(目標に近いプレイヤーの勝ち)かな?
Electronic Artsが第二次世界大戦モノFPSのリーダーシップを取り戻すべく市場に送り込んだシリーズ最新作,Airborneは,冒頭に書いた2007年の新作ラッシュのまっ最中にあって,やや小粒な感じは否めないものの,新しい試みに果敢に挑んだ一本であり,注目に値するタイトルだ。そうした新たな試みは,そのすべてが成功しているとはいえないかもしれないが,挑戦する姿勢は高く評価できるだろう。
というわけで,最後に最新情報。私は同作のクリエイティブ・ディレクターであるJon Paquette(ジョン・パケット)氏に二度ほどインタビューする機会を得たが,その中で「Airborneが終わってホッとしているでしょう」という私の質問に「そうでもないよ。なにしろ続編の制作が始まっちゃったからね……うっ!」とポロリ。あとは何をどう聞いても続編については語ってくれなかったが,どうやらそういう予定もあるようなので,そちらもお楽しみに。
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