レビュー
セントラル・パークに隠された秘密とは?
アローン・イン・ザ・ダーク
» 1992年に発売された初代「アローン・イン・ザ・ダーク」以来,シリーズ5作目となる2008年版「アローン・イン・ザ・ダーク」。あえてサブタイトルを付けず,また主人公も初代と同じ名前にするなど,下降気味の人気を挽回しようという意欲が見える一本だ。洋ゲーならではの理不尽な高難度もまた特徴の一つだったシリーズ最新作に,数々のゲームを「死んで覚え」てきた川崎政一郎氏がチャレンジする。
ホラーアドベンチャーの有名シリーズが装いも新たに登場
「アローン・イン・ザ・ダーク」は,エレクトロニック・アーツから発売されたホラーアドベンチャーシリーズの最新作だ。初代「Alone in the Dark」がInfogram(現ATARI)からリリースされたのは1992年のこと。ストーリーが連続しているわけではないが,本作はその5作目にあたる。これまで二度にわたって映画化もされている,人気シリーズである。
シリーズの特徴を簡単におさらいしておくと,初代作は(現在は常識となっている)キャラクターやオブジェクトの3D描画を,アクションアドベンチャーに本格的に取り入れた最初のタイトルとしてよく知られている。固定カメラで画面を俯瞰し,3Dで作られたキャラクターを操作してプレイするというスタイルは,本シリーズから始まったものだ。
本作ではそういったシリーズの特徴を引き継ぎつつ,ハイレベルなグラフィックスと独自の物理エンジンによって,ビジュアル的に大きくパワーアップしている。崩れ落ちるビルや,裂ける地面をはじめとしたダイナミックな演出の数々は,映画を観るのと同様のハラハラドキドキ感を与えてくれるだろう。
本作の舞台となるのは,ニューヨークはマンハッタンにあるセントラルパーク。19世紀にこの地に隠蔽された,とある秘密をめぐる攻防がメインテーマとなっている。この舞台設定を見る限りでは,過去シリーズとの関連性はないように思えるが,本作の主人公は私立探偵の“エドワード・カーンビー”。そう,過去のシリーズに登場したカーンビーと同一人物である。
しかし,かつてエドワードが活躍したのは(ゲーム内の設定で)1938年。現代を舞台にした本作とは70年余りの隔たりがある。そのわりには,エドワードの(年齢的な)外見に大きな変化は見られないが……。このあたりについても,ストーリーが進展するにつれ次第に明らかになっていく。
ゲームシナリオは八つのエピソードに分けられ,それぞれが3〜5程度のシーンに細切れされている。各シーンでエドワードは,ヒントらしいヒントがほとんど提示されないままピンチに突き落とされ,周囲を見回し,利用できる品物を探し,的確な判断ととっさの機転を頼りに冒険を進めていくことになる。
ワンミスが即ゲームオーバーにつながるという,シリーズ特有のシビアなゲームバランスは本作でも健在で,必然的にトライ&エラーを何度となく繰り返すことになり,ゲームにはなんともいえない緊張感が漂っている。ゲームとして高難度である一方,各シーンにおける攻略ルートは一つとは限らず,あれこれ試行錯誤する醍醐味が存分にある。ハードルが高いぶん,難局をクリアした際の達成感はなかなかのものだ。
そういったプロセスが,高品質のグラフィックスやサウンドで実現された状態で,クトゥルー神話をベースにしたホラーストーリーが楽しめる。ここが本作の最大の見どころといえるだろう。
ポリゴンで作られた3Dキャラクターを俯瞰視点でプレイするスタイルのアクションアドベンチャーは,本シリーズの初代作が初だと思われる |
多くの場面において,一人称と三人称の視点を切り替えてゲームを進めていく。銃などの武器を使う際は一人称視点のほうが命中させやすい |
基本的にはアドベンチャーゲームなので,謎解き要素はたっぷりとある。ゲームの難度は高いが,失敗時はその直前からやり直せる |
ジャンル的にはホラーアドベンチャーではあるが,内臓が飛び出したりといった極端にグロテスクなシーンはさほどない |
セントラル・パークを襲う謎の怪物
世界全体を巻き込むストーリー
各エピソードにおけるプレイ時間の目安としては,仮にノーミスで進められれば30分〜1時間程度。また,新たなエピソードが始まるときは,それまでのあらすじがムービーで紹介される。これは,本作の開発初期段階ではエピソード単位でのダウンロード販売が検討されていたが(関連記事),最終的にパッケージ販売に変更されたという経緯があるからだろう。
プレイする側にとっては,エピソード単位でちょうどいい長さで区切りがついており,欧米の連続TVドラマを見ているような雰囲気である。最初のシーンを振り返るダイジェストムービーをここに掲載するので,ゲームグラフィックスの雰囲気を含めて,とりあえずご覧いただきたい。
このムービーでまとめられたストーリーを,ネタバレしないように軽く解説していこう。とはいえ,どうしてもある程度は説明しなければいけないので,「絶対にネタバレはご遠慮します」という人はご注意を。まずは,いきなり自分がベッドに寝かされた状態からゲームは始まる。体調はかなり酷く,数秒毎にまばたきをして意識を集中し続けないと,視界がすぐにぼやけてしまうほどだ(まばたきをすることで意識が少しハッキリする)。
落ち着いて周りを見回すと,少しずつ状況が掴めてくる。どうやら自分は,とある老人と一緒に,ビルの中に囚われているようだ。捕らえた連中は,特別な力を秘めた「石」を探しており,それにカーンビー達が関与していると考えているらしい。そのあと,ほかの場所に連行される途中,正体不明の怪物の襲撃に遭ってビルの中に一人取り残されてしまう。
ここまでの間,客観的な状況説明は何もない。それどころか,主人公は名前を含めて記憶喪失に陥っており,驚きと戸惑いの連続だ。この感覚はプレイヤーにとっても同じで,ストーリーの冒頭における没入感はかなりのものだ。
何はともあれ,この不可解なビルから脱出したほうがよさそうだ。しかし現在いるフロアは20数階という高所で,しかも自分達を襲った怪物がこれまた厄介。詳細は分からないが,床や壁などに亀裂を生じさせ,あらゆる物体を吸い込んでしまう怪物である。
ビルの内部ではモンスターが徘徊しているほか,火災なども起こっており,しかもビル全体が次第に崩壊しつつあるというかなりの苦境。主人公はそれらの難局を一つずつ切り抜け,最下層を目指し進んでいく。
命からがらビルを脱出すると,セントラルパークの周辺が地獄絵図と化していることが分かる。
この町から脱出する過程で,主人公は,名前をはじめとしたさまざまな記憶を少しずつ取り戻し,いま起こっている災害に自分が深く関わっていることを知る。その後,助け出した美術商のサラ・フローレスや,かつて自分と密接な関係にあったというテオ・パディントンらと共に,この不可解きわまりない謎に立ち向かっていくことになる。
すべての発端となった賢者の石や,「光の道を進め」という謎の言葉,美術館の943号室,そしてエドワード自身の過去の秘密。物語は次第にニューヨークだけでなく,世界全体の命運を分けるまでに発展していくのだ……。
クリアルートが一つではなく
自らの機転を頼りに先へ進めていく楽しさ
先述したように,このゲームでは各シーンにおいて事前に提示される情報や,ヒントといったものがかなり少ない。しかし周囲をじっくりと見回すと必ず糸口が見えてくる。このひらめきの瞬間が,本作をプレイしていてとくに面白いところだ。
例えば,ゾンビのようなモンスターと戦うシーンだが,通常の打撃では仮に倒したところで,しばらくすると再び起き上がってきてしまう。ではどうすればよいか? 周囲では炎が燃え盛っており,そこへモンスターを突き落とせばいいのだ。また,周囲に散らばっている木材に火をつけ,それで殴ってもよい。あるいは,あらかじめ入手した缶スプレーとライターを手に持ち,簡易式の火炎放射器で攻撃するのもアリだ。プレイヤーがこれらのどれを選んでも,ゲームは問題なく進む。
また,駐車場に停めてある他人の車を盗むシーンでは,エンジンのケーブルを引き出してショートさせれば運転できる。とはいえ,そんな荒っぽいことをせずにサンバイザーを開けば,そこにはキーが挟まっていたりする。
さらにこのゲームでは,複数のアイテムを組み合わせて新たなアイテムを作り出すことが可能だ。ガラスのビンに燃料を入れ,そこにハンカチを芯として差し込めば火炎瓶が出来上がる。もしガラス瓶の代わりにペットボトルを使えば,それは「跳ね返る」という属性を持った火炎瓶になる。さらに両面テープを貼り付ければ,仮に対象が動き回っていてもピッタリくっついてくれるだろう。
そうやって作ったアイテムによって新たな攻略ルートが出来たりするし,場面によってはアイテム合成が必須になったりもする。いずれにせよ,クリア方法が一通りしかないアドベンチャーにありがちな,「そんなの思いつくかよ!」といった理不尽さを感じることは少ない。
ドアの鍵が見つからなければ,鍵穴に銃弾を撃ち込むか,手頃な物で破壊してしまおう。町が崩壊しつつあるためか誰も気にしない |
亀裂に飲み込まれた人間は,モンスターとなって襲い掛かってくる。殴り倒すと気絶させられるものの,しばらくするとまた襲ってくる |
どのような状況に陥っても,落ち着いて周囲を見よう。よく探せば,きっとピンチを切り抜けられる手段やアイテムが見つかるはず |
ジャケットの内部がインベントリーになっている。手持ちのガラクタからアイテムを作り出すのは,「冒険野郎マクガイバー」にも似た面白さが |
拳銃の弾丸に薬品をまぶして「火炎弾」を作る。同じアイテムでも,組み合わせ方次第でさまざまな用途に使えるのだ |
火炎弾を使ってモンスターを仕留めた瞬間。炎を用いる攻撃手段は重宝するので,常に頭の片隅に入れておこう |
ただし,本作は映画にも通じるスリリングなシーンを追求しすぎたせいか,アクションに関してはあまりにもシビアである。仮に失敗してもその直前から再開でき,ゲームが進行不能に陥るといった“ハマり”の状況はないが,もうとにかく難度が高い。
その例として,序盤から中盤にかけてのクライマックスシーンである,崩壊するセントラル・パーク周辺から車で脱出するシーンをムービーで紹介しよう。
凄まじい轟音と共に車が吹き飛び,地面が引き裂かれ,頭上からビルが崩れ落ちてくる。激しく揺さぶられるカメラワークや,ときにはスローモーションも交えられた派手な演出には驚かされる人も多いのではないだろうか。繰り返すがこれはインゲームムービーではなく,実際のプレイを録画したものである。
しかし実際には,仮に道を1本間違えたり,少しでも停車したりするとたちまち地の底へと落ちてしまう。このシーンでは収録時間の都合上あえて途中でゲームオーバーにしているが,本来はもっともっと長く続いている。ヒントはなく,必然的に,シーンごとに数十回のトライ&エラーは当たり前になる。
このあたりはどちらかというと「覚えゲー」に近いものがある。こういった作業を強制させられることについては,プレイヤーによって評価が分かれるだろう。
本作の演出に対するコダワリは一見の価値がある。しかしその代償として,ゲームの難度が大きく跳ね上がってしまった |
ロープを伝ってそのまま降りると,感電してゲームオーバーに。中央のスイッチを体当たりで動かし,左の障害物にひっかけるのが正解 |
多くの場面で,ヒントはないものと考えたほうがよい。怪しそうな場所に対して片っ端からトライ&エラーの繰り返しとなる |
20数階という高所で,ビルの壁伝いに移動中。今にも崩れ落ちそうなビルなので,上から瓦礫が次々に降り注いでくる |
ここまで死にやすい主人公は久々に見た気がする。「次はどのような倒され方をするのだろう?」と,自虐的な心も芽生えてくるかも |
どうしてもクリアできなければ,シーンをスキップするという手も。ただし一部はロックされているので,結局すべてクリアせねばならない |
アクは強いものの,アドベンチャーの
コアゲーマーであれば要チェック
ビジネスモデルが変更されたことも影響していそうだが,ところどころ操作性の悪さが気になる。好きなシーンから再開できるのはいいとしても(一部を除く),セーブスロットが一つしかないのは,さすがにちょっと厳しい。
また,これは初代作からの伝統とはいえ,俯瞰カメラは臨場感をアップさせることと引き換えに,操作性を損なってしまう。例えば地面にあるオブジェクトを引きずったりといったシーンなど,思いどおりにカーンビーを動かしにくいと感じることがあった。
グラフィックスだけでなく音響効果も凝っており,ホラーアドベンチャーとしての演出は上々。それだけに難度のあまりの高さが惜しい |
これらは,単体で見る限りそれほどの問題ではない。だが,もともと難度の高い謎解きを要求される本作に,上述のシステム的なぎこちなさが加わることで,ゲーム中にストレスを感じることがどうしても多くなってしまう。近年のアドベンチャーゲームは,適当にクリックしていれば先に進める絵本のようなタイトルが増えている。なにもかもお膳立てされた環境が当たり前だと感じているゲーマーに対しては,本作はあまりオススメできない。
では,筆者にとってどうだったのかといえば,確かにかなりツラいのは否定しない。しかし,絶壁のように立ちはだかる難度に,昔の洋ゲーアドベンチャーの面影を感じ,ひどく懐かしい気持ちにさせられてしまったのも事実だ。
それに,クリア方法が一つではなく,理不尽さを感じることが少なかったせいか,ツラいというよりも,先のストーリーを見てみたいという気持ちがプレイ中は勝っていた。
各シーンにおける演出は優れており,しかも吹き替えのクオリティも高い。本稿で紹介したムービーもそうだが,ピンチを見事に切り抜けたあとは,何度も繰り返しプレイしたくなってしまう。「ほかにはどんなクリア方法があるのだろう?」と,あれこれ試したくもなってくる。まぁ,そうやってクリア後もゲームオーバーを繰り返すはめになるわけだが。
本作の評価は,これらの難度の高さをどのように受け止めるかで,大きく変わってくるはずだ。かなり人を選ぶ,アクが強いゲームなのは確かだが,不思議な魅力を持ったタイトルでもある。
本稿で紹介しているのはPC版だが,日本語版はXbox360とPLAYSTATION 3向けにも発売されている。内容に大きな違いはないようなので,お好きなプラットフォームでどうぞ |
筆者の環境だと,キーボードの入力方法を英語に切り替えないと,一部のショートカットキーが使えなかった。細かな部分でストレスを感じることが多め |
主人公からチョイ役のNPCに至るまで,吹き替え担当の声優は素晴らしい演技力を見せている。本作をプレイするなら,ぜひとも日本語版で |
難度の高い謎解きは最近のゲーマーには受け入れられないかもしれない。ゲーム誌に掲載されるヒントを心待ちにしていた時代もあったのだ |
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