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6月27日,待望の日本語版が発売される「バイオショック」のプレビューを掲載
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印刷2008/06/24 12:01

レビュー

世界中で大ヒットした「BioShock」の日本語版登場

バイオショック 日本語版

Text by 松本隆一


「BioShock」の待望の日本語PC版がついに発売


画像集#036のサムネイル/6月27日,待望の日本語版が発売される「バイオショック」のプレビューを掲載
 バイオショックといっても,「買ったばかりなのに,もう新しいモデルのVAIOが出た。うーん,ショック」というのとは無関係で,2K Gamesが2007年にリリースしたFPS,「BioShock」のことである。
 登場以来,メディアやプレイヤーの本作に対する評判は非常によく,「Official Xbox Magazine」をはじめ,いくつものレビューで満点をマークし,Metacriticの平均点も96点と,きわめて良好だ。何度も書いているような気がするが,発売当時,上層部の内紛と,期待作である「Grand Theft Auto IV」の発売延期で経営危機が伝えられていたTake-Two Interactive(2K Gamesの親会社)を本作の大ヒットが立て直したと,まことしやかに伝えられている。また,続編どころか「BioShock 3」の制作,さらには映画化の話も出てくるほどエポックメイキングなタイトルとなったのである。

画像集#001のサムネイル/6月27日,待望の日本語版が発売される「バイオショック」のプレビューを掲載

 そんなBioShockが,「バイオショック 日本語版」(以下,バイオショック)として6月27日にズーから発売される。英語版については,筆者も発売と同時に購入したクチだが,面白さを感じる前になんとなく中断してしまった。理由はまあ,忙しいとかいろいろあったが,最大のものは「英語だから」かな,てへへ。
 本作は基本的にFPSなのだが,「プラスミド」と呼ばれる遺伝子改造アイテムによるスキルアップ要素に加え,手がかりを集めて謎を追いかけるアドベンチャー風味が加わったジャンル縦断的ゲームシステムが特徴の一つ。さらに,二転三転するストーリーラインと,複雑な設定などから,多量の会話/テキストをリスニング/リーディングしなければならないのである。ありがちな話だが,テキスト/会話にはムード作りのための「ほのめかし」も多く,懸命に読んでも,つまりどういうこと? というモヤモヤが残ったりする。英語は不得意でないつもりだが,やはり日本語はいい。すごくいい。したがって今回の日本語版は非常に嬉しい話であり,嬉しさ余って,ここにそのプレビューを書いてみようって,実はまあ,仕事なんですけどね。
 それになにより,ここまで高く評価されると,かえって「そんなにすごいの」というアマノジャクな気持ちになるのは私だけではないはずだ。満点だなんて,そこまで無謬なゲームがあっていいのだろうか?

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堕ちた楽園「ラプチャー」を舞台に,
恐るべき物語が幕を開ける


 バイオショックの舞台となるのは海底都市「ラプチャー」。そこは,煩わしい政治や宗教に背を向けた科学者達によって作られた理想郷であり,科学と芸術の完全な自由が保証されたこの楽園で,住民達は思う存分才能を発揮できるはずだった。だが10数年後,ラプチャーは,狂気に陥った住民達が徘徊する不気味な廃墟に姿を変えていた。果たしてここで何が起こったのか? そして,自らの意志とは関わりなくラプチャーに足を踏み入れることになった主人公は,そこで何を見,何を知ることになるのだろうか?

画像集#011のサムネイル/6月27日,待望の日本語版が発売される「バイオショック」のプレビューを掲載

 というのがザックリしすぎなストーリーだが,なにはともあれ,ラプチャーの造形と世界観は見事である。ラプチャーが築かれたのは1946年という設定(ゲームは1960年の話)だが,ラプチャーの内部は1920〜1930年代のアール・デコ調に統一されており,その意匠がイメージするのは,第一次世界大戦の終了と特需バブルによるアメリカの浮かれ騒ぎ,そして直後に襲ってくる大恐慌の闇と,遠いが確実な第二次世界大戦の足音だ。これはまさしく,ラプチャーの運命と軌を一にしており,狂った住民である“スプライサー”の多くは着飾って仮面を着け,大声で叫びながら踊るような足取りで襲ってくる。物憂げなブルース,陽気なマンボ,はるかなビッグ・ダディの咆吼。デザインとサウンドのセンスの良さは抜群であり,プレイヤーは開幕早々からラプチャーの世界に引き込まれていく。

 ゲームの目的はシンプルで,すなわち「ラプチャーから脱出すること」だ。アトラスと名乗る謎の人物が無線であれこれ指示を出して脱出の手引きをしてくれるのだが,「孤立した状況からの脱出」というテーマは,本作の“精神的な前作”にあたる「System Shock」および「System Shock 2」を継承したもの。宇宙の彼方だった前作までに対し今回は海底都市が舞台となり,狂ったコンピュータの役は,エキセントリックな言動がいかにもという雰囲気のアンドリュー・ライアン(ラプチャーの創造主)が担当している。
 したがってマップは閉鎖された空間で,全体的に狭め。昨今のFPS/アクションゲームが広大なマップを自由に移動できるゲーム性をセールスポイントにしているのに対し,バイオショックは古典的なアプローチを採用したわけだ。それが主人公,つまりプレイヤーの孤独感を深めることに役立っているのは間違いない。とはいえ,同じような場所を何度も行き来することも多く,建物の構造が「F.E.A.R.」ばりに複雑怪奇なので,フダつきの方向音痴である筆者にはやや辛いものがある。ロケーションはあまり豊富ではない。

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いたるところで目にする異様な光景。そして不気味な人物。アンドリュー・ライアンとはいったい何者なのだろうか
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 ゲームの進行においては「探索」が重要になる。なぜ重要なのかといえば,それはこういうことだ。
 ラプチャーの短い歴史における最大の科学的金字塔はテネンバウム博士によるADAM(アダム)の発明だ。ウミウシから得られた遺伝物質ADAMは人体の改造を可能にし,数々の特殊能力を発揮させるプラスミドやジーントニックの発現を促すと同時に,ラプチャーを争乱を招いた元凶でもあった。行きすぎた人体改造は人間を狂気に陥らせ,争いの中で,ADAMを生産するウミウシはすべて採り尽くされてしまう。今や,それを生み出せるのはウミウシを体内に寄生させたリトル・シスターだけだ。
 エレクトロボルトやインフェルノといったプラスミドによる特殊能力は戦闘に不可欠であり,ジーントニックによるサポート機能も,それなしではゲームの進行が辛くなる。だが,ADAMはリトル・シスターからしか手に入らない。というわけで,まずはリトル・シスターを探さなくてはならない(これは比較的簡単だが)。
 また,プラスミドやジーントニックはイベントで手に入ることもあるが,そのへんに落ちてもいるため,これも拾っておきたい。トータルとしてけっこうな数が手に入るこれらの物質だが,いつでも使えるわけではなく,体内に3〜6個あるスロットに入れておく必要がある。スロットの中身の入れ替えは「遺伝子バンク」と呼ばれる自動販売機みたいな機械を使って行い,またスロットを増やしたり,EVE(特殊能力を発揮すると消費されるもの)の限界値を上げたりと,遺伝子をアップグレードするアイテムを買うにはギャザラーガーデンと呼ばれる機械を使う。ギャザラーガーデンでかかる費用はADAMによって払うことになる。

特殊能力が購入できるギャザラーガーデン(左)と,拾ったアイテムを組み合わせていろいろなものを作り出せるクラフトステーション(右)。それ以外にも,さまざまな種類のマシンが存在している
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 銃などの武器は地面に落ちているが,弾は倒した敵から回収するほか,「弾薬販売機」で購入する。EVEやライフなどは「ベンディングマシン」で買える。弾薬販売機とベンディングマシンでの購入には現金を使うが,お金は落ちているのを拾ったり,倒した敵をあさったりして入手する。「クラフトステーション」では集めた素材を使ってさまざまなアイテムを作り出せるのだが,ここでしか作れないものもあったりして,見つけたらともかく立ち寄りたい。さらには,ライフを補充してくれるステーション(有償)や,セキュリティボットを無効にするステーション(こちらも有償)などもある。

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このミニゲームに挑戦することで,自動販売機やセキュリティ装置,ナンバーロックなどのハッキングができる。ハッキングによって,アイテムの値段が安くなったり,敵を自動的に攻撃してくれたりするのだ
 と,上記のダンドリを一発で理解できた人は,かなり血のめぐりがよい方だ。
 実は,私もまだよく分かっていないところがいくらでもあるのだが,このようなシステムを持つバイオショックは,ともかくどこに何があるかを把握しつつ,スプライサーの死体や机や棚や灰皿など,いたるところを探索しまくらなければならないという探索系のゲームだ。位置関係の把握は非常に重要になるのだが,えーと,ここはどこだっけ?

 各種マシンの使用方法や目的など,詳しい情報については,今週から掲載を予定している週刊連載で,ちゃんと表にしたりして説明するつもりなので,今は「ふーん,そうなんだ」程度でぜひ納得していただきたい。

 マップを表示することも可能だが,方向音痴の私はそもそも地図を見るのがたいそう苦手なのである。がっはっは。
 とはいえ,このあたりのシステムはRPGを好んでプレイする人にとっては,とりたてて難しくはないはずだ。プラスミドによる効果をシンプルに「魔法」に見立て,EVEをマナだとすれば,同じである。ドルとADAMの二本立ても,現金および経験値と考えれば分かりやすい。むしろクラスの概念がなく,遺伝子バンクさえあれば好きな能力を自由に付け替えられる点で,通常のRPGよりも自由度は高いともいえそうだ。探索は面倒だが,探索好きな人は楽しめそうで,文字どおり意外な拾いものがあったりする。

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人体改造による多彩な特殊能力が
個性的な戦闘を演出する


 FPSのキモとなる戦闘では,武器だけでなく敵や状況に応じたプラスミド/ジーントニックの特殊能力が重要なため,いろいろな戦略を立てる楽しみがある。むしろ武器は従で,特殊能力が主となる印象だ。そのため,さまざまなアイテムが揃ってくるゲーム後半ほど戦闘は容易になってくる。特殊能力は,敵の種類に応じて的確に使えば非常に強力。むしろ強力すぎるほどで,そのせいか,ゲームの不満点として「戦闘が易しすぎる」というのがよく挙げられている。だがそれはちゃんと考えているプレイヤーの話であり,私のようにヤマカンでプラスミドを選んでいたり,アイテムを衝動買いしたり,持ちきれないほど作ってしまったりするようなプレイヤーにとって戦闘は結構難しく,たいへんよく死ぬ。

画像集#016のサムネイル/6月27日,待望の日本語版が発売される「バイオショック」のプレビューを掲載

 だが,ゲーム中で死んでも即ゲームオーバーとはならず,「ヴィタチャンバー」というマシンの内部に復活する仕組みで,これがまた「易しすぎ」という批判に理由を与えているようだ。ヴィタチャンバー内部にはノーペナルティ(体力は半分)で蘇生されるうえ,状況はやられる直前と変わりはない。敵に与えていたダメージもそのままなので,やられる→復活→やられる→復活を続けていけば,体力回復アイテムを消費することもなくたいていの敵に勝ててしまう。むろん,弾を使い果たしていれば苦労するだろうし,戦闘地点とチャンバーが離れていれば移動が面倒だが,勝てるのはほぼ間違いなく,Xbox 360版ではその点に不満が寄せられていた。PC版ではオプションでヴィタチャンバーを使うか使わないかが選べるが(Xbox 360版でもパッチで対応したらしい),問題はヴィタチャンバーを前提にゲームバランスが取られていると思われる箇所で,そこでは難度が上昇する。
 FPSビギナー救済策としてはそれなりに効果的だろうが,ヴィタチャンバーがあることで戦闘の緊張感が削がれるのは間違いない。PC版ではクイックセーブが可能なので,ヴィタチャンバーがイヤならこまめにセーブしながら探索すればいいだろう。私は大変死にやすいが,そうしている。

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ゲームに深みを与える二人,
リトル・シスターとビッグ・ダディ


 バイオショックをバイオショックたらしめている最大の要素はなんといっても「リトル・シスター」と「ビッグ・ダディ」の存在だ。
 そもそもラプチャーの内部にはADAMを中心とする独自の生態系が作られるはずだった。ADAMを生産するウミウシを最下層に,ウミウシからADAMを抽出する者がおり,さらにそれを襲う者や,反対にそれを守ることでADAMを分けてもらう者がいるという生態系のピラミッドが形成されているのである。スクリプトに頼らず,モンスターが独自の目的を持って勝手に動き回る中にプレイヤーを投げ入れ,ランダムに起きる戦闘を楽しんでもらおうというシステムは,「S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chernobyl」の「A-Life」などと同趣向で,軽くブームにもなったが,結果として成功例は皆無に近い。バイオショックの開発でもあまりうまくいかなかったらしく,その初期のアイデアはだんだんと語られなくなる。

画像集#008のサムネイル/6月27日,待望の日本語版が発売される「バイオショック」のプレビューを掲載

 ビッグ・ダディとリトル・シスターの関係を“父と娘のアナロジー”に再定義するという判断がいつ下されたのかはよく分からないが,この変更により両者は単なるモンスターから独自の存在に格上げされた。最初はクリーチャーそのものだったリトル・シスター(当然だが,この名前はあとから付けられたものだ)のラフスケッチの変遷を見ると,そのあたりのことがよく分かる。またこの設定変更により,予定されていたさまざまな種類のクリーチャーは一掃され,敵はスプライサーの眷属のみと,よりシンプルになった。
 既述のようにリトル・シスターはラプチャー内で唯一ADAMの再生産が可能であり,ビッグ・ダディは彼女を保護してADAMを分け与えてもらう。こうした利害関係はあるものの,リトル・シスターはビッグ・ダディに無条件の信頼を寄せ,ビッグ・ダディはリトル・シスターを命がけで守る。狂気と死が横行する陰惨なラプチャーにあって,この二者の関係は唯一,人間性を感じさせるものだ。

 プレイヤーはここで最初の判断を迫られることになる。必要不可欠なADAMはリトル・シスターからしか得られず,そのためにビッグ・ダディと戦って倒す必要があるのだ。FPS的視点から見れば,強大な戦闘力を持つビッグ・ダディとの戦闘は面白いイベントである。だが,やっていることは狂ったスプライサーどもと大差ないわけで,倒れたビッグ・ダディの死体にとりすがって泣く少女を見るのはなんともいえない。ヴィタチャンバーの件もあり,ビッグ・ダディといえど勝てない相手ではないのだ。

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 ここで我々は第二の決断を迫られる。リトル・シスターからADAMを取り出す際,「ハーベスト」(収穫)と「レスキュー」(救済)の二者択一になるのだが,ハーベストを選べば多くのADAMを獲得できるものの,リトル・シスターは死んでしまう。レスキューではリトル・シスターは死なないが,ADAMはハーベストの半分しか得られない。リトル・シスターの数はマップごと(つまりゲーム全体)で決まっているのため,すべてレスキューした場合,トータルでもハーベストの半分の量のADAMしか手に入らないのだ。ADAMは喉から手が出るほどほしいが,泣いている小さな女の子を冷酷に殺せるだろうか? というわけである。
 現実に生態系システムが作られていないので比べようはないのだが,こちらのほうがより面白そうであり,実際に評判もよい。どちらを選んでも,(エンディングのムービー以外に)ゲーム展開にそれほど変化はなく,しかも後半,リトル・シスターがストーリーに深く関係してくるため,迷いもさらに大きくなる。ごく個人的な話をすれば私にハーベストはとても無理。もっとも,すべてのADAMを集めなくてもなんとかなるゲームバランスになってはいるようなので,気弱な人も安心してほしい。

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 というわけで,世評の高いこのバイオショック,ミニゲームの単調さなど,気になる部分はさすがにあるが,細かいところまでちゃんと作り込まれているという印象。コンシューマ機と違い,PC版には環境の違いによるバグの問題などもあって,私もDirectX 10環境での不安定さなどを体験したりもしたが,プレイヤーをエンディングまでつかんで離さない訴求力はさすがに高い。英語版を途中で止めてしまった私も,今回は息つく暇もなく最後までプレイしてしまったのだ。
 カジュアルゲーマーでも進行に詰まらない親切な仕掛けがあちこちにあり,FPSが得意でないという人にも勧められる。今回の日本語版の登場でさらにハードルが低くなったのは間違いないので,世界中で高い評価を獲得したこの作品をぜひ日本語でプレイして,ヒットの理由を確認しよう。

「Bioshock」体験版(英語版)


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※画面写真はすべて開発中のものです

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