連載
「キネマ51」:第12回上映作品は「パシフィック・リム」
グラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一氏が支配人を務める架空の映画館,「キネマ51」。この劇場では,新作映画を中心としたさまざまな映像作品が上映される。第12回の上映作品は,日本の特撮・アニメ愛に溢れたメキシコの映画監督ギレルモ・デルトロの「パシフィック・リム」だ。
「パシフィック・リム」公式サイト
関根:
さて,話題の「パシフィック・リム」ですよ。
須田:
告白しますと,実は僕,3D映画って,苦手なんです。
関根:
えっ! そうだったんですか。
須田:
なぜかというとですね,最初に観たのが,「ジャッカス3D」(2010)[1]なんですよ。初めての3D体験で僕が観たのは,飛び散る〇〇コだったんです。
関根:
最悪ですね。
須田:
なので3D映画ってあんまり良くないなって。だから3D映画の代表格である……
関根:
「アバター」(2009)[2]ですかね。
須田:
そう,アバターですら2Dでしか観てないんです。
関根:
超偏見ですね(笑)。
須田:
はい。……という経験があったんで,3D映画への偏見に満ち満ちていた僕だったんですが,あ,これが3D映画だったんだと,この作品を観て,思いました。
関根:
だいぶ回り道しましたね。
でも,確かにザ・3D映画といった作品でした。
須田:
でしたね。飛び出してきました。もの凄く近かったですよ,字幕が。
関根:
字幕ですか! でも支配人,それ,最前列で観てたからじゃないですか。
須田:
それもありますね,うん。ところで。
関根:
なんですか?
まず,存分に良質な3D映画を楽しんだわけなんですが,いやぁ,噂どおり,日本に対する愛が満ちている映画だなと。デルトロ監督も日本に来て,さまざまな愛情プロモーションをされていったようですし。
関根:
日本の特撮,アニメ全般に対する愛をぶちまけていったようですね。
須田:
ですね。特撮ラブということでいったら,佐竹選手[3]にも負けていないくらいの愛に溢れていますよ。
関根:
無理やりそっちに持っていかなくてもいいと思いますが……。
須田:
そんなことないですよ。ねぇ,TeTさん。
4Gamer:
佐竹選手の完敗だと思いますけどね。
須田:
あれ,佐竹選手,完敗だそうです。
関根:
聞こえてました。
4Gamer:
選挙でも……?
須田:
うまいなぁ。わははは。
関根:
格闘技ネタ,やはり一つは入れないと気が済まないようですね,お二人とも。
須田:
冷たいなぁ,部長は……。
かっこよかったですね
関根:
とにかく,この映画について話したいことはいっぱいあると思うんですけど,まず,映像面で「これヤバイな」と思ったシーンはありましたか?
須田:
そうですね。最初に「これはっ!」と思ったのは,基地の中とか,イェーガー(ロボット)の中ですかね。「ガンヘッド」(1989)[4]を思い出して。
関根:
ガンヘッド,懐かしいですね,高嶋兄ですね。
須田:
東宝特撮の映像の質感が出ていたような気がしたんですよ。
関根:
確かに基地は「スターウォーズ」というより,「宇宙防衛軍」とか,「ゴジラ」シリーズの雰囲気がありました。
須田:
戦いのところは,しっかり平成「ガメラ」シリーズを思わせるアングルでしたし,まあ,なんというんですかね,日本映画を観ているような気分でした。
関根:
思い込みかもしれないんですけど,確かに子供のときから観てきた一連のアニメや特撮と同じように,自然に受け入れている自分に気付きました。
須田:
そうなんですよ。昭和の東宝,円谷特撮があって,そのあとしばらくして,平成ガメラシリーズで樋口真嗣さんが特撮をやって,さらに平成「ウルトラマン」シリーズもあって,僕らはそれらをずっと見てきたわけです。
でも,大々的に劇場サイズで作られた特撮って,最近はめっきり少なくなってしまったので,パシフィック・リムを日本の怪獣特撮映画史の新しいシリーズかな? なんて思っちゃいました。だからもうこれ,ハリウッド版ガメラって言っちゃっていいんじゃないんですか。
関根:
いやいや,ガメラじゃないでしょ。
須田:
ないですね。でも,怪獣がガメラ系だった気がします。ギロンとか,ギャオス[5]みたいな。決してゴジラ系じゃないんですよ。
関根:
それは感じました。あと,僕はウルトラ怪獣の雰囲気も感じました。
須田:
あ,そうですか? 平成ウルトラマン?
関根:
いや,エース[6]あたりですかね,先が尖り系っていうんですかね,あの位の時期のウルトラ怪獣のイメージというか。
須田:
ああ,確かに。実は,昭和のウルトラマンシリーズの中で僕が一番好きなのは,エースなんですよ。そのせいかもしれませんが,新マン[7]に影響を受けてきた庵野秀明さんや,いわゆる第一世代の方々に対して,「みなさんが新マンだったら,俺はエースで行くぞ」という太平洋デルトロ宣言にも聞こえたんですよね。
4Gamer:
葉巻を燻らせながら,「みんなが新マンに走るので,私,エースを独占させていただきます」と。
関根:
……妄想って,時には美しいものなんですね。
須田:
妄想って言われると切ないですけど。
関根:
あ,でも,だからこその男女ペアということなんですかね,主人公ロボの操縦は。
須田:
そう! 男女ペアですよ,北斗と南ですよ。完全にそうですよ。
関根:
いいアシストできましたかね。
須田:
はい。だからエースイズムに満ちているんですよ。このあたりのものを本気で作ってしまいましたね。
関根:
本気度は相当なものでしたね。
須田:
ハリウッドの本気ってすごいですね。もともと巨大ロボットものって,日本のお家芸だったはずじゃないですか。アニメと特撮の世界では。ところが,「トランスフォーマー」(2007)を観て,僕らは,ひっくり返ったわけですよ。あれ? 巨大ロボットって,ハリウッドが本気出したら,こんなことになっちゃうんだ! っていうくらい,ビックリして。
しかも3作目なんて,もう自然だったじゃないですか。凄すぎて,凄いことに慣れちゃったみたいな。
関根:
“クール・ジャパン”なんておこがましいなんて感じですよね。そもそも言葉自体が恥ずかしいんですけど。
須田:
パシフィック・リムは,レイ・ハリーハウゼン[8]と本多猪四郎[9]に捧ぐとクレジットされていて,きちんと特撮の先輩達をリスペクトしているからこそ,余計に本気が感じられるんですよね。恥ずかしいものは作れないという。
デルトロ監督のように佐竹選手を超える特撮ラブな人が,本気で作った瞬間にどえらいことになっちゃったという。
関根:
その話はまだ引っ張るんですね。でも,確かにそのとおりだと思います。
須田:
今作の戦闘シーンって,多分ミニチュアを使っていない,まるまるCGだとは思うんですけど,どれだけ映像が凄かったかっていうと,途中でロボットと怪獣の戦う市街地がセットに見えてきたことなんですよ。
あれは,特撮ラブのパワーというか。特撮アングルが完璧すぎてそう見えてしまったんだと思うんですよね。
勝手に元ネタ探し
須田:
全編が面白くて,ほんと,文句の付け所がないんですよ。全部好き過ぎちゃって。
自分が今まで観てきたものとのシンクロを感じたりすると,一層気分が盛り上がりますよね。
須田:
そう,勝手にシンクロさせて,勝手に盛り上がっちゃってました。まずは,あの操縦方法,イェーガーの。Gガンダムスタイルというか,ライディーンスタイル[10]というか。
4Gamer:
あ,歩くんだっていう。
須田:
そうそう。ライディーンですら歩かなかったじゃないですか。歩行まで自分達でやる。Gガンダムも観ていたんですかね,監督は。
関根:
観ていてほしいですね。各国代表のロボットがいるのも,Gガンダムと同じだし。
須田:
操縦するときに二人の心をシンクロさせなきゃいけないっていうのとか,「ヱヴァQ」のカヲルくんとシンジくんの連弾を彷彿とさせるところもあって。
4Gamer:
TVシリーズでいうところの,第七話「瞬間、心、重ねて」というか。
関根:
エヴァの影響は受けてると感じますね。あるシーンで,イェーガーが倒れるときに,ウォーって叫ぶような音をさせるんですよ,ロボットなのに。うわ,エヴァだって思って。
須田:
イェーガー射出のシーンとか,あと,ガチャーンて,カタパルトにロックされたりするところなんかも,系譜としては,新マンであったりとか,昭和特撮の基地の感じだとは思うんですけど,最近でいったらエヴァですよね。
あの映画を観て思ったのは,これで,ハリウッド版エヴァは厳しくなったなと。だってもう,すべてをパシフィック・リムが内包しちゃいましたから。
関根:
なるほど。
4Gamer:
イェーガーの攻撃を学習して怪獣の形態が進化してくるあたりも,エヴァとシンクロしますよね。クローンに全部の情報が記録されている感じとかも。
関根:
そうですね。
須田:
いやぁ,日本のアニメや特撮のロボット&怪獣の系譜ですよね。その時間軸すべてをハリウッドで,イェーガーのように力技でズドンッとまとめちゃった。
関根:
怪獣って日本語が使われるのに対して,ロボットのことをイェーガーってドイツ語で呼ぶあたりも,マッハバロン[11]なんかを思い出しました。
須田:
なるほどね。
関根:
あと,ロボットが決して万能ではないところもいいですよね。ガンダムを見て何をカッコイイと感じたかって,“量産型”とかの言葉の響きも含めて,架空の世界の中に“リアル”を感じられるところだったりしましたから。
須田:
そうそう。特別に1機だけスーパーなのがいて,でも,それは試作機で,みたいなね。その設定だったり。しかも,ガンダムは飛べないじゃないですか。
関根:
そうそう,イェーガーも飛べないんですよね。
須田:
ね,そうなんですよ。イェーガーがヘリコプターで戦地に運ばれていくシーンを観たときに,こいつ分かってんなと思いましたよ。先輩だけど。
関根:
思いました。そうそう。あれ,見た目完全にダグラムですよ。ダグラムも移動専用ヘリがありましたよね。
須田:
ダグラムですね,はいはい。高橋良輔作品[12],やっぱりいいですよね。
関根:
そうですよ! 高橋良輔作品リスペクトは,もう一個あって,あの剣ですけど,鞭のように動くものがワイヤーで引っ張ることによってまっすぐな剣になる。あれ,ガリアンの剣と同じなんですよね。
須田:
印象的でしたよね。「ソードだ」って叫んだら,なんかシュシュシュシュってクネクネしたものが出てきて,シュッって引っ張られてシャキーンみたいなね。
4Gamer:
なんで最初から使わないんだ! と,あえてツッコミたくなるような。
関根:
そこが必殺技らしさというか。
須田:
そうそうそうそう,溜めに溜めてね。シャインスパークと一緒ですよ。
話が終わらない……
4Gamer:
武器関係で馬鹿馬鹿しいなって思ったのが,道場で棒術の組手をやるじゃないですか。それがロボットに応用されると,タンカーなんだって。しかも,そんなに使ってない。
一同:
爆笑
4Gamer:
そのあたりは「ゴジラ FINAL WARS」(2004)[13]を思い出しながら観てましたね。
須田・関根:
あーー。
4Gamer:
なぜか中の人の格闘シーンが満載で。
須田:
うんうんうんうん
4Gamer:
戦闘シーンが多かったじゃないですか,嬉しいくらい。ドン・フライ[14]まで出てくるし。
須田:
あー出てた出てた。
関根:
それにしてもゴジラって凄いですよね。戦後すぐ,約9年後に,1作目が作られているんですよね。
須田:
そうですよね。チャップリンと同じくらいですよね。あれ,無声映画でしたっけ?
関根:
違います。“適当すぎる支配人”とか言われるようになりますよ,いずれ。
パシフィック・リムでも怪獣が海からやってくるというところをはじめ,初代ゴジラを思い出させるようなシーンやセリフが随所にあったような気がします。ネタバレ要素が強いのであんまり言えないんですけど。
須田:
登場するイェーガーもそれぞれ個性的で,しかもカッコイイ。日本のコヨーテ・タンゴなんてガンキャノン[15]ですよね。
関根:
ロボットの肩に砲台をつける感覚。日本のアニメって凄いですよね。
4Gamer:
あ。オーストラリア代表メカの名前はストライカー・エウレカって言うんですね。
須田:
ほんとだ。確かにデザインはエウレカセブンぽいですよね。ニルヴァーシュ。よーく見るとニルヴァーシュぽさが……まったくありませんね。
関根:
映画の宣伝スタッフの方が言ってましたけど,監督達が100体位のシルエットを書いて,そこから消去法でカッコイイのを残していったそうです。
須田:
イェーガーにも,第一世代から,第五世代まであるんですけど,段々スタイリッシュになってくるんですよね。
関根:
第一世代の無骨さもカッコよかった。
須田:
第五世代は,ガンダムSEED系というか,マクロス系というか,そんな丸みがあるんですよね。
関根:
確かに,バルキリー[16]ですよね。
4Gamer:
アメリカのジプシー・デンジャーは,メトロイド感がありましたね。
須田:
確かに。
関根:
ロボットはやっぱり見た目ですね。
須田:
ただねぇ,部長,一つ残念なことが。
関根:
なんですか?
須田:
今回のロボットたち,ドリルが無いんですよ。ゲッター魂が抜けているんです。
関根:
ドリルが無いのはつらいですね。
須田:
ここは,「パシフィック・リム2」に期待したいですね。
関根:
ぜひドリルをお願いします!
須田:
いやぁ,話が尽きませんねぇ。
関根:
尽きませんね。
4Gamer:
ネタバレを回避してもこれですからねぇ。
須田:
そうそう,デルトロ監督はメキシコの人なんですよね。
関根:
そうですね。子供のときにメキシコで,日本のものに限らず,さまざまな特撮やアニメを観て育ったそうです。メキシコでも,アメリカでも,日本でも,同じコンテンツに共感した人達が世界中にいたということですよね。
だから,僕らが子供のときに感じたロボットや,怪獣に対するワクワク感みたいなものが,そのまま映画に反映されていたし,その事実に興奮しましたよ。
須田:
そのワクワク感,今の子供にも体験してほしいですよね。
関根:
そうですね。最新の怪獣とロボットに触れれば,きっと大人になるまで心に残ると思いますよ。
須田:
4Gamerの読者の人達なら,間違いなく大好きな要素が詰まっていると思うんですけど,やっぱり,子供にも見てほしいですね。
関根:
絶対ワクワクすると思いますよ。子供が好きな要素だらけですから。
ゲーム
4Gamer:
あっという間に,時間が経ってしまったんですが,そろそろゲームの話を。
須田:
これ,吹き替え版もちょっと観たいですよね。ヒロインの菊池凛子さんの声を林原めぐみさんがやっているんですね。
関根:
綾波レイですね。日本人の声を別の日本人がやっているってちょっと不思議な感じありますよね。
4Gamer:
あのー……。
須田:
あ,玄田哲章さん。イェーガー部隊の司令官やってるんですね。
関根:
コンボイ,オプティマス・プライムですよ。
須田:
そうだ,あー司令官,最高じゃないですか。オプティマスが司令官。
関根:
それ,そのまんまじゃないですか。でも玄田さんの声で,観てみたいですね。
4Gamer:
ゲームの話を!
須田:
ま,これで決まりましたね,「コンボイの謎」ですね。
4Gamer:
はい?
須田:
「トランスフォーマー コンボイの謎」です。
関根:
「パシフィック・リム」の吹き替え版を見ながら,「コンボイの謎」をやるってことですね。
4Gamer:
玄田さんが声やってるていうだけじゃないですか!
須田:
でも,映画会社さんも,玄田さんを起用するってことは,当然コンボイ司令官を意識してるでしょう。
4Gamer:
とは思いますが……。
須田:
ちなみに,パシフィック・リムのゲームもあるんですよね。
4Gamer:
ありますね。Xbox 360のダウンロード専用タイトルで,ユークスが作ったものです。イェーガーをカスタマイズして,殴り合うゲームですね。
須田:
うわ,楽しそうですね。怪獣と戦えるのはもちろん,イェーガー同士でも殴り合えるんですね。ユークスさんのゲームですから,きっとプロレスエンジンを使ってるんじゃないですか? ユークスの格闘アクションといったら世界トップクラスですから。
4Gamer:
プロレスゲームをこれだけ作り続けている会社は,ほかにありませんしね。
須田:
ええ。プロレス,総合格闘技,ロボット格闘といえば,ユークスですから。
4Gamer:
ちなみにユークスは,映画「リアル・スティール」(2011)[17]のゲーム(PlayStation 3 / Xbox 360)も作っていて,これも実は世界中でヒットしたんですよね。パシフィック・リムも,それに続くか……? といったところでしょうか。
須田:
楽しみですね。
関根:
あの,コンボイの謎の話は……?
須田:
それはまぁ,謎は謎のままということで。
関根:
いい雰囲気のオチをつけたと思ってるんでしょうけど,何もオチてませんからね!
グラスホッパー・マニファクチュア広報担当者:
すいません,もう時間です。
関根:
会社ぐるみでスルー!?
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