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どこへ行っちゃったんだい,サム? 激変した内容に賛否両論の「Splinter Cell:Conviction」
事の起こりは,2006年3月のGame Developers Conference(GDC)におけるHavok物理エンジンのセッション(関連記事)でのことだ。スピーカーのEddy Boxerman氏が「実はこれ,Ubisoft Entertainmentの新作ソフトに使われる予定なのですが……」と紹介したビデオには,髪を伸ばしたむさ苦しい男が,警官と思しき数人の男達を相手に格闘している姿が映し出されたのである。
だが待てよ,ちょっと変だ。サムはこんな戦い方はしない。彼は闇にまぎれて敵の背後に忍び寄り,掌底を打ち込んであっさり気絶させたり,羽交い絞めにして落としたりするのだ。ワン,バイ,ワン。ワンショット,ワンダウン。そんな彼が多くの警官に囲まれて立ち回りを演じるなんてのは,実に“らしくない”ではないか。しかもトレードマークの三つ目ゴーグルもなく,ハイテク多目的ライフルも持たず,素手で戦っているのは長髪で浮浪者同然の男ではないか。まさか,これがサムなのか?
サムだったのである。
Ubisoftのモントリオールスタジオが開発中のSplinter Cellシリーズ第5作,Convictionは,その内容のあまりの変わりようにファンの間でも賛否両論の一本だ。激変したゲーム性については後述するが,2007年5月に公式サイトがオープンしたあと,同月にパリで行われたプレス向けイベント,「Ubi Days」では華々しい紹介が行われ,2007年冬の発売を目指して開発が順調であることが自信満々に告げられた。だが,それからちょっと雲行きが怪しくなってきたのだ。
2か月後,サンタモニカで開催されたE3 Media and Business Summitにサムの姿はなく,さらにその1か月後,ライプチヒで開催されたGames Convention 2007においては,同作のカンファレンスが用意されていたにもかかわらず直前でキャンセル。無理に割り込んだ私の立場はどうなるのだ,という状況だった。当初2007年11月16日と告知されていた発売日も”未定”に変更されてしまうという有様(2008年の1月という非公式なアナウンスもある)。かくして,GC会場の巨大なポップに描かれていたむさ苦しい男は黙して語らず,なんとなく悲しげでさえあったことを思い出すのである。いやまあ,気のせいでしょうけど。
GDC 2007に登場したサム |
ちょっと寂しそうなサム(矢印の人物) |
びっくりするほど大きく変わったゲーム性とは?
というわけで,そんなConvictionとはなんなのか? について今分かっていることをちょっとまとめてみた。もちろん上記のような状況なので,リリースされた製品がまったく違ったものになっているという可能性は,割といっぱいあったりして。
ともかく,Convictionに登場するサムはなんと,もはやNSA(アメリカ国家安全保障局)内部に組織された隠密工作チーム,「サードエシェロン」の職員ではない。かつてグルジア大統領の陰謀を暴き,インドネシアのテロリストを闇に葬り,ムニャムニャをムニャムニャし(カオスセオリーの場合はネタバレになっちゃう),そしてまたアメリカ国内のテロリストを始末してきた彼はNSAを引退し,最愛の一人娘を失った傷心の身を休めているのである。「前作,評判いまいちだったなあ……」とか言いながら池に石を投げているサムの姿が想像できるが,そんなわきゃないか。
登場人物もまた大きく変わってしまう予定だが,過去4作にわたって彼をサポートしてきたアンナ・グリムスドッティア女史はどうやら健在らしく(おめでとうございます),ある日,そんなサムの前に突然現れて彼の復帰をうながすのである。なにやらNSAの内部,それもかなりハイレベルな場所で巨大な陰謀が進んでおり,その証拠の一端を探り当てたグリムが協力を求めてきたのだ。
サムはこの危険な任務を引き受けてNSAに復職するが,敵は先手を打ち,サムを犯罪者として追いかける。かくしてサムは,かつての職場のかつての同僚に追われる身となりながらも,NSA内部で進んでいる邪悪な企みを追求しなくてはならないのだ。
……というのが大雑把すぎるストーリーの概略。なので,サムは前作までのように国家による全面的な情報サポートや,数々のハイテクガジェットの助けを借りることはできない。頼れるのは鍛え上げた自分の体と頭脳,そして正しいことを正しいと信じ,報酬や名誉を目的とすることなく行動する信念(Conviction)だけなのだ。うーん,かっこいいぞ,オヤジ。
暗視装置やサーマルビジョンが使えないため,暗闇はもはや彼の隠れ場所ではない。では,どこへ隠れるのかというと,それが“群衆”だ。サムは人混みに紛れ込んで標的に近づき,人々の間に隠れることで危機を脱出し,銃を撃って群衆にパニックを起こし,そのスキを突いて目指す建物に侵入したりするのである。
したがって,Convictionでは冒頭に書いた物理エンジンによる格闘のほか,群衆のリアリティが開発の最大目標の一つに置かれている。多数のNPCが登場するアクションゲームとしては,Grand Theft Autoシリーズなどが挙げられるが,そういったゲームの群衆はたいていごく単純なリアクションしか返さないし,その目的はもっぱら雰囲気作り。だが,本作では街を行くNPCの一人一人が自分の行こうとしている場所や,するべき目的(単純なものだが)を持っているのだ。
群衆は彼の味方にも敵にもなりうる。誰かの使っているノートPCを奪うと,奪われたNPCは怒って彼を追いかけてくるか,最寄りの警察官に通報する。そして警官が彼を追い始めると,サムを目撃したNPCがサムの逃げた方向を警官に告げるのである。
サムはこうしたNPCの群衆を巧みに利用して任務を遂行しなくてはならない。
そろそろサムも我慢しきれないはず
こうした大胆な変化のため,「これはもはやSplinter Cellではない」という強硬な意見から,面白そうであるというものまでファンの意見はさまざまのようだ。公式サイトのフォーラムも百花繚乱状態で,書き込みをするほとんどのプレイヤーは「完成するまではなんとも言えない」というごく常識的な見方をしていたが,個人的な印象では,最近「素晴らしいアイデアだ。待ちきれない」という意見が増えつつあるような気がする。このへん,ファン心理の微妙なところで,「全然ダメ」みたいな書き込みが増えると,デベロッパが開発をストップしてしまうのではないかという危惧があるのかもしれない。
とはいえ,GDCで公開されたものや公式サイトのムービーを見る限り,確かにその完成度はまだ低いようだ。Havokのデモムービーでは感心したものの,それはあくまでテクニカルデモの域であり,そのままゲームに,それもSpliter Cellという人気シリーズの最新作に使えるレベルではなかったような気がする。戦闘シーンの迫力は乏しい。
同時期にUbisoftからリリースが予定されている「アサシン クリード」が同趣向の内容を持っていることが問題になった可能性もある。あちらも,群衆を使ってこっそり目標に接近したり逃げおおせたりというところがゲームのキモの一つであり,Ubisoftが全力を挙げてプロモーション体勢を敷いている一押しタイトル(PC版の発売は2008年にずれ込んでしまったようだが)であるところから,競合を避けた可能性もある。
なにせUbisoftの2007年上期の業績はきわめて好調であり,アサシン クリード以降,「HAZE」「Far Cry 2」「Tom Clancy's EndWar」といった期待作が列をなしているし,カジュアル系のタイトルも充実している。弾はいっぱいあるのだ。
なんにせよ,2002年の初登場以来,我々を楽しませてきたあのシニカルでしなやかな中年男が人生の岐路にさしかかっていることは間違いなさそうだ。無数の難局を軽々と乗り越えてきた男だけに,熱烈なファンの一人としては彼の鮮やかな復活を期待したい。新しい動きがあれば速攻でお伝えするつもりだが,うーん,動きがあってほしいなあ。
- 関連タイトル:
Tom Clancy's Splinter Cell: Conviction
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