業界動向
Access Accepted第387回:MicrosoftはXbox Oneで何を目指すのか
例年以上の盛り上がりを見せたE3 2013だが,その立役者はもちろん,2013年末に市場投入される2つの据え置き型コンシューマ機「PlayStation 4」と「Xbox One」だ。E3における次世代機対決の結果について一概に言えないものの,E3で発表されたMicrosoftの方針に対して,否定的な意見が続出したのは事実。それを受けたMicrosoftは,プレスカンファレンスから1週間ほどで,方針転換することとなった。
なぜこうなったのか,今週はMicrosoftがXbox Oneで目指したものについて考察してみたい。
世論のプレッシャーで方針を転換した,Microsoft
Sony Computer Entertainment(SCE)の「PlayStation 4」と,Microsoftの「Xbox One」という次世代の据え置き型コンシューマ機が発表されたこともあり,今年のE3に対するメディアや関係者の注目度はきわめて高かったのだ。
E3の開催に先だち,プラットフォームホルダーのプレスカンファレンスが行われるのはもはや恒例だが,今年も現地時間6月10日,SCEとMicrosoftが相次いでカンファレンスを行った。詳細については4Gamerに掲載した多数の記事を参照してほしいが,個人的な印象をいえば,ハードウェア,著作権管理システム,そして価格などで消費者から大きな支持を得たのはPlayStation 4のほうだった。対するMicrosoftは,常時接続や中古販売の禁止など数々の施策について,大きな反対意見を生んでしまった。
Microsoftのカンファレンスはファンだけでなくアナリストや投資家に対してもアピールできなかったようで,カンファレンス開始直前の株価は,次世代機に対する期待感から過去5年で最高となる一株35ドル前後だったが,カンファレンス終了後から徐々に値を下げ,先週は33ドル台になっている。
そんな評価を受けてか,MicrosoftはE3閉幕から1週間ほど経った6月21日,24時間ごとのオンライン認証や,転売/レンタルの禁止処置など,批判を受けた仕様に対して180度方向転換した,新たな方針を打ち出したのだ(関連記事)。
欧米では「自分で購入したゲームディスクをどうしようが,消費者の自由」という意識が強く,反発の強さはMicrosoftの予想を超えていたようだ。この転換により,Microsoftが描いていたロードマップも変更を余儀なくされることになるのは間違いない。
常時接続の本当の理由
Microsoftが当初描いていた“オールウェイズオン”(常時接続)というスキームが,ゲームのレンタルや中古ソフト販売などの二次マーケット排除を狙うものであった可能性は高い。ゲームレンタルには,年商100億円を超えるGameflyなどが存在し,年間の売り上げが3600億円に達するゲーム小売チェーン大手のGameStopは,収益の40%が中古ゲームの販売によるものだ。これらの莫大な収益がパブリッシャやデベロッパに還元されることはなく,新作タイトルの価格が下がらないのもそのためだと言われている。
5000万人のアカウント登録者を集める「Steam」や,その10倍の登録者数を誇る「iTunes」に中古市場やレンタル市場は(今のところ)存在しないが,それがとくに問題になることはない。もしゲームがデジタル配信に完全移行すれば,人気の落ちてきたタイトルをSteamのサマーセールのように80%オフといった価格で柔軟に販売することも可能になり,メーカーにはその売り上げが直接利益として入ってくる。ならば,次世代コンシューマ機でそれと同じシステムを採用してみようという発想は出てくるだろう。
現在まで,Xbox 360は世界累計で約7700万台が販売されており,Xbox LIVEの会員は4600万人と発表されている。数字の信憑性はさておき,概算でXbox 360ユーザーの約60%がオンラインに常時接続できる環境にいるわけであり,ここでMicrosoftは「ゲームの完全デジタル化を促そう」と考えたようだ。
5月の発表以降,ダメージコントロールに追われ,いろいろなことが後手に回っている雰囲気のMicrosoftだが,価格発表においても戦略的なミスを冒したという印象が残る。Xbox OneにはKinectという周辺機器が同梱されており,SCEに価格競争で優位に立てないことは明らかだ。したがって,Kinectの持つ「テレビが便利に試聴できる」以上の先進性をゲーマーに十分にアピールしたあとで,価格を発表することもできたと思う。
インディーズゲームに関するMicrosoftの動き
PlayStation 4およびXbox One対応タイトルのラインナップについては,2013年5月21日に掲載した記事でも触れているが,エクスクルーシブタイトルが多いXbox Oneに対し,PlayStation 4はインディーズゲームやFree-to-Playといったジャンルの多さで対抗しており,2014年前半までにリリースされると思われるゲームについては,20本ほどリードしている。
Xbox 360でインディーズゲームの充実したラインナップを謳歌していたMicrosoftだったが,最近は,2600タイトルにもおよぶインディーズタイトルを生み出した「XNA Game Studio」のサポートを中止したり,「広報や開発サポートに熱心ではない」というインディーズゲーム開発者の声が聞こえてきたりなど,インディーズゲームについてあまり良い話を聞かなくなった。
真偽のほどは分からないが,筆者もE3 2013会場でインディーズ開発者から興味深い話を耳にした。それによると,Microsoftがインディーズゲームメーカーに対して「2本のパッケージソフトを開発/販売すれば,1本のデジタルダウンロード専用タイトルのリリースを許可する」という不思議なルールを通達しているというのだ。もし,この話が真実だとすれば,これまでXbox LIVEでゲームをリリースしてきたインディーズゲーム開発者にとっては高いハードルになりそうだ。
前述の記事に掲載したラインナップを見ても,Xbox Oneで明らかに独立系メーカーのタイトルだと分かるのは,「Minecraft: Xbox One Edition」,Twisted Pixelの「LocoCycle」,そしてCapybara Gamesの「Below」ぐらいで,Microsoftがメーカーを慎重に選んでいる雰囲気がある。
一方,PlayStation 4でリリースすることを選んだ「The Witness」のジョナサン・ブロウ(Jonathan Blow)氏は,具体的なことは隠しつつも「PlayStation 4のビジネスモデルが魅力的に見えた」と語っている。SCEがPlayStation 4のローンチに当たって早くからインディーズゲーム開発者達にアプローチしていたことについては,いくつかの証言があり,実際,ラインナップは増え続けている。Microsoftがなぜ,このような方針を選んだのかは分からないが,欧米のインディーズゲーム開発者の多くが現在,PlayStation 4に向かっているようだ。
Xbox Oneの大きな武器としては,Kinectとクラウドゲーミングが想定できるが,具体的にこれらがどのような形になるのかは,今のところ明らかになっていない。クラウドゲーミングに関しては,発売までに世界に30万台の専用サーバーを用意するとされており,ゲームのストリーミングやセーブデータの管理だけでなく,AIや物理効果など,ゲームの処理を部分的に行うといった,かなり踏み込んだ利用も行われるようで,本体の性能を超えるゲームプレイが可能になるのかもしれない。
「リビングルームへの進出」を夢見てきたMicrosoftが,初代Xboxの登場以来,10年の歳月をかけて築き上げた実績を元に生み出したXbox One。リビングにあるただ一つのエンターテイメント機という意味合いを込めて“One”と名付けたといわれているが,当初の方針は消費者に受け入れられず,発売前に方針転換を迫られることになった。
今後,この状況をいかに脱しローンチに弾みをつけるか,Microsoftの手腕が問われることになる。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
- 関連タイトル:
Xbox One本体
- この記事のURL:
- Xbox One S 500GB Ultra HD ブルーレイ対応プレイヤー Minecraft 同梱版 (ZQ9-00068)
- ビデオゲーム
- 発売日:2017/01/26
- 価格:¥55,000円(Amazon) / 35980円(Yahoo)