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Access Accepted第530回:GDC 2017に見るオンラインハラスメントや多様性の問題
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印刷2017/03/13 12:00

業界動向

Access Accepted第530回:GDC 2017に見るオンラインハラスメントや多様性の問題

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 世界最大規模のゲーム開発者向けイベント,Game Developers Conference 2017が閉幕した。今年も,ゲーム開発のノウハウからケーススタディなど,ゲーム開発現場におけるさまざまなテーマについてのセッションが多数,行われたが,その中には,欧米ゲーム業界の関係者があまり声高に語ろうとはしないながらも,次第にコンセンサスが生まれつつある,「オンラインハラスメントへの対策」を扱ったものなどもあった。今週は,GDC 2017で取り上げられた,そうした“微妙な問題”についてお伝えしたい。


新しい人材が次々に参加する欧米ゲーム産業


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 2017年2月27日から3月3日,カリフォルニア州サンフランシスコのモスコーニ・コンベンションセンターにおいて,31回めを迎えた世界最大規模のゲーム開発者会議,Game Developers Conference 2017(以下,GDC 2017)が開催された。昨年同様,ゲームデザイン,プログラミング,ビジュアルアート,オーディオといったゲーム制作に直接関わることから,マーケティングやチームマネジメント,マネタイゼーションなど,ビジネスの話題まで,さまざまなテーマでセッションが行われた。
 初日からの2日間には,教育,インディーズゲーム開発,ユーザー体験(UX),VR/AR,人工知能といった専門分野を扱うコースが用意され,さらには,ディスカッションを中心としたラウンドテーブルやスポンサーセッションなど,多いときには1時間に26本もの講義が同時に行われていた。
 30分間のショートセッション(通常は60分)や,休憩時間に行われるものも多く,5日間で700という,とてつもない数のセッションがあったのだ。

 2万7000人を記録したという参加者にとって,かなり情報過多な一週間だったかもしれないが,全体としては,欧米ゲーム業界のVRへの期待の高さが感じられた。「PlayStation VR」のSony Interactive Entertainmentや,「Rift」のOculus VR,そして「Vive」のHTCという御三家が,スポンサーセッションや専用ブースを用意するなど開発者向けにアピールを行っており,またGoogleも「Daydream」のデモを大々的に展開していた。そのほか,ショーフロアにもさまざまなVRデバイスや関連技術が展示されていた。

 ニュースとしては,大手エレクトロニクスメーカーのLGが,Viveに次ぐ新たなVR対応ヘッドマウントディスプレイを発表したことが挙げられる。スペックはViveとほぼ同じだが,表示部分が溶接用マスクのようなバイザー式になっていて,デバイスを装着したまま表示部分だけを跳ね上げることができる。これまで,HMDの脱着を繰り返してPCと向き合わなければならなかったゲーム開発者には,かなり好評だったようだ。

LGがアナウンスしたSteamVR対応のヘッドマウントディスプレイ。コントローラにいたるまで,HTCのリップオフと言えないこともないが,ディスプレイ部分がバイザー式になっているのが面白い
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4Gamer「GDC 2017」記事一覧


 個人的には,若い来場者が増えたという印象を強く持った。相対的に筆者が年を取ったという事実は無視できないが,GDCに「教育(Education)サミット」が加えられた2008年は,若い学生の参加も増えたが,それでも年配の教育者や研究者のほうが圧倒的に多かった。
 この傾向はやはり,ゲームエンジンやツールの低価格化(あるいは無償化)が進み,ゲーム開発の専門家と非専門家の垣根が低くなったことが理由だろう。今や,大学や専門学校に行かなくとも,やる気さえあればゲーム開発ができるようになったというのは,筆者も感じるところだ。
 実際,人気のセッションに向かう列に並んでいたときに話しかけてきた男性は,現在,医学部に在籍し,月に一度,ゲームジャムに参加して,即興的なゲーム開発を行うことを趣味にしているというツワモノだった。彼のように,若くしてゲーム開発の経験を積んだ20代前半の人々が,大学や企業をスポンサーに得てGDC 2017に参加するようになってきたのだ。

再開発が進むサンフランシスコ。GDC会場のモスコーニ・コンベンションセンターも,なにやら新しい建物が増える様子だ
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女性が増えるゲーム開発現場


 ゲームを作るためのツールが簡単に入手できるようになり,以前は“テクノクラット”などと呼ばれていた専門家の独壇場だったゲーム開発が,もはや誰でも,どこでも,いつでもできるようになった。そこにあるのは,情熱とアイデアだけ。2007年,ウクライナのGSC Game Worldから「S.T.A.L.K.E.R Shadow of Chernobyl」が,そしてポーランドのCD Projekt REDから「The Witcher」が発売されたが,そのときは,「へえ,東欧ってゲーム開発が盛んなんだ」と思っていた欧米のゲーマーも多かった。しかし現在は,バルカン半島や南アメリカ,そして東南アジアからも,注目せざるを得ないゲームが生まれている。

GDCには,多様な国籍やバックグランド,性別や年齢,キャリアを持つ人が参加する
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 こうした多様化は開発者にもおよんでおり,かつては男性ばかりだったゲーム開発現場に若い女性がどんどん進出してきた。今年のGDCを見る限り,女性開発者は確実に増えている。
 これに関連して,2014年頃から話題になってきたのが,「フェミニズム」の問題だ。これについては本連載の第440回「北米ゲーム業界を揺るがす“ゲーマーゲート”問題」で詳しく紹介したが,本来の目的はメディアとゲーム業界との癒着に対する批判にあったものが,発端が女性ゲーム開発者へのオンラインハラスメントであったことから,「フェミニズム」や女性ゲーム開発者に対するハラスメントなどへ議論が発展している。議論はしばしば紛糾して社会問題にもなり,オンラインハラスメントも継続的に行われているようだが,こういう行為におよぶ人達の多くは“トロール”などとも呼ばれ,ゲーマーゲート論争とは明確に区別されていると思える。

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 GDC 2017では,新たに「アドボカシー」(Advocacy/弁護,支持,唱道といった意味)と呼ばれるセッションの枠組みが追加された。一連のセッションでは,女性のゲーム業界への進出や,LGBT(レズ,ゲイ,バイセクシャル,トランスジェンダー)に対するゲーム内での扱いやビジネスなどが議論されたほか,ゲーム業界で働く黒人,ユダヤ系,イスラム教徒によるラウンドテーブルや,高齢者や障がい者のアクセシビリティなど,広いテーマが扱われた。
 700ものセッションの中,時間の都合から参加できないもののほうが多かったが,GDC 2017の最も興味深い話題の1つだったかもしれない。

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オンラインハラスメントというネット社会の暗部


4Gamerで何度も名前の出てくるラフ・コスター氏は現在,コンサルタントとしてゲーム業界の啓蒙にあたっている
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 「オンラインハラスメントについて,ゲーム業界はなんの対処もできていない」と語るのは,「Ultima Online」のリードデザイナーを務めた経験を持つラフ・コスター(Raph Koster)氏だ。アドボカシーセッションの1つ「Still Logged In: What AR and VR Can Learn from MMOs」(ずっと接続中: AR/VRのクリエイターたちは,MMOゲームの歴史から何を学べるか?)と題されたセッションでのこと。
 現在でもゲーム界の論客として活動を続けているコスター氏はこのセッションで,まだグラフィックスのないMUD(テキストベースのアドベンチャーゲームやソーシャルゲーム)時代の1993年,「LambdaMOO」というゲームで起きた「サイバーレイプ事件」を例に挙げた。そして,ゲーム業界は25年もオンラインハラスメントと格闘してきたと述べた。

 「LambdaMOO」には,ブードゥードールと呼ばれる,別の人物に特定の言動を行わせるゲームメカニズムがあったのだが,これを利用して別のプレイヤーに成りすまし,卑猥なテキストを発信するプレイヤーが出現したのだ。
 コスター氏によれば,当時3万人ほどだったコミュニティの運営者や主要メンバーが3時間近くにおよぶ協議を続け,犯人と思われる人物のアカウントを削除するという方針を打ち出したという。これが,アカウントバンの最初の事例になったという話もあるが,物理的な行為ではないサイバーレイプが犯罪に当たるのかどうか,また,犯人として名指しされたプレイヤーの権利はどうなるのかなど,さまざまな議論が持ち上がったという。サイバー法学者として名高いスタンフォード大学のローレンス・レシッグ教授も,この事件の記事を読んだことが彼の道を決めることになったと話していたそうで,産声を上げたばかりのネット社会に与えた影響の大きさがうかがえる。

 2014年のGDCにおいて,「League of Legends」で知られるRiot Gamesのジェフリー・リン(Jeffery Lin)氏が,「トキシティを経験したプレイヤーが,そのことを理由にゲームをやめてしまうのは,ほかの理由の3.2倍に達する」と述べたという。トキシティ(Toxicity)というのは,毒性を示す科学用語だが,ゲーマーの間ではオンラインハラスメントの俗称として使われている。

これは,リサーチ会社EEDARのパトリック・ウォーカー(Patrick Walker)氏が,「VR Market 2017: Data and Insights」というセッションで提示したスライド。ゲームがカジュアルになるほど,女性プレイヤーの数が増えていることが分かる
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 興味深いのは,GDC 2014のセッション「Trolls: Cost of Doing Nothing」(トロール: 何もしないことの代償)において,Two Hat Securityのクリス・プリーブ(Chris Priebe)氏が,「トキシティは当初,ゲームに対する興味を引き上げる」と述べたていたことだ。
 これは,ネット掲示板「Reddit」におけるゲーマーの活動を調査した結果で,オンラインハラスメントを見た人自身はそのゲームに興味を持つことが多いというわけだ。しかし,これをそのまま放置していれば,嫌気がさした多くの人々が離れ,中・長期的にはビジネスにとって大きな損害になる。
 プリーブ氏はそのセッションで,「傷口からちょっとした毒が入れば,最初は何も感じないかも知れないが,そのまま放置しておくと体中に広がってしまう」とし,トロールの活動を抑止する方法を,ゲームメーカーは真剣に考慮すべきだと訴えたという。

 こうしたことを踏まえてコスター氏は,「ゲームコミュニティは“コミュニティ”ではない。何百万人もの,世間の常識を知らない赤ん坊のような人たちが次々に参入してくる社会なのです」と述べた。1998年に正式にサービス開始した「Ultima Online」ではローンチ初日,釣った魚を,男性器のように並べるという行為が確認されたそうだ。ある意味,プレイヤーは常に,どんな言動が,どこまで許容されるのか試しているような状態なのだという。
 コスター氏は「ハラスメントを受けて自殺する人もいる。単に人を集めて金儲けする程度の目的しかないならゲームを作るべきではない。皆さんは,オンラインゲームという世界の,1つの政府であることを覚悟してください」と述べた。


「オーバーウォッチ」に見る多様性と寛容性


性的表現が問題視された,トレーサーのアートワーク
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 GDC 2017の最終日である3月3日の,さらに最後の枠である15:00からのセッションを担当したのが,Blizzard Entertainmentで「オーバーウォッチ」のリードライターを務めるマイケル・チュウ(Michael Chu)氏だ。「Thinking Globally: Building the Optimistic Future of Overwatch」(世界規模で考える: Overwatchにおける楽観的な未来の作り方)という講義では,ゲーム世界の作り方やチーム内での意識共有について述べられた。

 このセッションについては,3月4日に掲載した記事で詳しく紹介しているので、合わせて参照してほしいが,ここで取り上げたいのは,リリース直前の2016年4月,ヒーローキャラクターの1人であるトレーサーの,お尻をカメラに向けたようなショットが「キャラクターの個性と関係なく,必要以上に性的な描写をしている」としてフェミニスト団体に問題視され,Blizzard Entertainmentがアートワークの使用を中止した一件だ。ただし,この一件で同社がハラスメントの対象になったり,不買運動が起きたりと行った事例は確認されていない。

 チュウ氏はセッションで,Blizzard Entertainmentの開発チームの指針として,「我々はゲームが世界規模で,かつリアルなものと感じられるように作り上げます。世界中の土地と,さまざまな人種によって多様性を表現し,文化的・人種的なステレオタイプに挑戦します」と述べたが,このことが,12月に配信されたコミックス第10巻「Reflections」で,トレーサーが実はレズビアンだったというカミングアウトにつながっていく。
 パッケージにも使われるほどの,「オーバーウォッチ」にとっては看板キャラクターとも言える彼女が性的マイノリティだったというのは,Blizzard Entertainmentの意思の現れだ。

モバイルゲームメーカー,King.comの企業奨学金制度「Women in Gaming」を得て,GDC 2017に参加した学生達
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4Gamer「GDC 2017」記事一覧


 「Blizzard Entertainmentの世界観は,庭師のようです」とチュウ氏は述べており,これは,おそらくアートワークが問題視されたあとでトレーサーのバックストーリーが考えられたことを意味しているのだろう。しかし,同社はそれ以前から「複数のキャラクターがLGBT」だとしていた。こうしたキャラクターの多様性は今後も続いていくはずであり,今後の欧米ゲーム業界の1つのスタンダードにもなっていくはずだ。
 「オーバーウォッチ」がGame Developers Choice Awardの大賞を受賞したのも,この作品が2500万人ものアカウントを持つ大ヒット作であることはもちろん,こうした微妙な問題についての批判を恐れずに受け止め,真摯に対応したBlizzard Entertainmentに対する,ゲーム開発者達の敬意によるものだと思う。こうした欧米ゲーム業界の多様性や寛容性への取り組み,そしてオンラインハラスメントとの格闘に感心しつつも,「果たして誰も傷付けないようなゲームが作れるのだろうか。そして,それは面白いのだろうか」という疑問が頭をよぎったGDC 2017だった。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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