業界動向
Access Accepted第589回:エピソディックゲームをメジャーにした老舗デベロッパTelltale Gamesが閉鎖へ
「The Walking Dead」など,エピソード単位でゲームをリリースする「エピソディックゲーム」というサブジャンルの基礎を築いたTelltale Gamesが現在,深刻な経営危機に陥っており,ほとんどの従業員を解雇したという。今週は,矢継ぎ早に新作をリリースし,成功を収めていた感のあったTelltale Gamesに何が起きたのかを探ってみたい。
アドベンチャーゲームを再生したTelltale Games
東京ゲームショウ2018にゲーマーの目が向いていた北米時間の2018年9月21日,カリフォルニア州サンラファエルに本拠を置くゲームメーカー,Telltale Gamesが公式FacebookおよびTwitterで声明を発表し,同社が閉鎖に向けた作業に入ったことを明らかにした。200人から250人ほどいたと思われる従業員はほとんど解雇され,現在,コアメンバーの25人だけが残っているという。
声明文に書かれた同社のCEOピート・ハウリー(Pete Hawley)氏のコメントは以下のようなものだ。
「この1年は,新しい方向に進もうとしていたTelltale Gamesにとって非常に難しい年でした。そして,残念なことに分岐点に到達する前に時間がなくなってしまいました。今年,我々の歴史において最良のコンテンツを送り出し,多くのポジティブなフィードバックを得ることができましたが,結果的にセールスに結びつけることができませんでした。重苦しい雰囲気の中,多くの仲間達が会社から離れ,ストーリーテリングのブランドをゲーム業界全体に広めるべく旅立って行きました」。
— Telltale Games (@telltalegames) 2018年9月21日
LucasArts Entertainmentについては,2009年10月16日に掲載した本連載の第236回「連綿と続くLucasArtsアドベンチャーのDNA」でも詳しく紹介したとおり,1980年代から1990年代前半にかけて,コミカルなアドベンチャーゲームを次々に発表して,黎明期のゲーム市場で一世を風靡したメーカーだった。しかし,大きなヒットを生むことができないまま,1990年代後半からゲームデザイナー達が次々に退社していくことになった。Telltale Gamesの創業者も,そうしたLucasArts Entertainmentの中堅メンバーだった。
2005年には,モランダー氏が個人で制作していたゲームエンジン「Telltale Tool」を使ったアドベンチャー,「Bone: Out From Boneville」がリリースされ,翌2006年にはUbisoft Entertainmentから発売された「CSI:3 Dimensions of Murder」を開発を担当した。これらの作品で注目されたのが,1つのゲームを複数のエピソードに分けてリリースする「エピソディック形式」だった。
乏しい予算と,開発期間の短縮を図るために採用されたエピソディック形式については,本連載の第488回「再注目されるエピソディックゲーム」も合わせて参照してほしいが,とくにエピソディック形式はTelltale GamesのDNAと言えるアドベンチャーゲームとの相性が良い。2007年にはLucasArts EntertainmentのIP(知的財産権)を買い取る形でリリースした「Sam & Max Save the World」がヒットし,「エピソディックアドベンチャー」というサブジャンルを確立させた。
エピソディック形式はもう限界なのか
Telltale Gamesは,2010年から2011年にかけてリリースされた「Back to the Future: The Game」以降,ハリウッド映画やテレビドラマ,コミックス,さらには他社のゲームを対象にしたライセンス作品を積極的にリリースするようになる。
2012年の「The Walking Dead」は,原作の世界観を活かしつつ,独自のキャラクターや物語を巧みに盛り込んだことで高く評価され,「アドベンチャーゲームというジャンルを復活させた」として,いくつもの賞を受けている。ゲームを進めていくことはさほど難しくないが,プレイヤーの選択によってサブキャラクター達との人間関係や運命が変化し,物語に影響を与えていくというシステムはエピソディックアドベンチャーのスタンダードとして定着し,DONTNOD Entertainmentの「ライフ イズ ストレンジ」シリーズなどでも採用された。
Telltale Gamesはその後,「The Wolf Among Us」「Tales from the Borderlands」「Game of Thrones」,そして「Minecraft: Story Mode」など,驚くようなスピードで新作や新シーズンをリリースしていった。これは,2007年に投資会社から600万ドルにおよぶ資金提供を受け,ライセンス獲得に用いることのできる資金に恵まれたという事情もあるようだ。
しかし,投資を継続してもらうには,Telltale Gamesのゲームが売れ続ける必要がある。そのためタイトルの量産に走ったようで,最盛期の2015年頃には,450人ほどの従業員を抱えるまでに膨れあがっていた。
北米のIT系ニュースサイト「The Verge」は,2017年に100人ほどの従業員が解雇されたことから取材を行い,関係者の証言で同社の過酷な労働ぶりを伝える記事を2018年3月に掲載している。
エピソディックゲームというビジネスモデルは,最初のエピソードをリリースしても,次のエピソードにすぐに着手しなければならないため,「クランチタイム」(時間外労働。転じてデスマーチ,修羅場といった意味で使われる)が連続して発生する。The Vergeの記事では,1週間で100時間の労働を強いられたケースもあったとのこと。1年以上かけて開発することが一般的なゲーム開発者にとっては,6週間ごとに訪れるクランチタイムは耐えがたいものだったろう。
エピソディック形式にはまた,第1エピソードのセールスが低迷すると職場の士気も下がるデメリットがある。Telltale Gamesの経営陣は,売れていないシリーズから人を割いて新規プロジェクトに回すなど,弥縫的な人員調整も行っていたようだ。
ここ数年を振り返ってみると,Telltale Gamesの経営陣は揺れていた。2014年には,長らく同社を率いてきたダン・コナーズ氏が辞任し,創業メンバーの1人であるケビン・ブルーナー氏がCEOに就任したものの,2016年春に突然解雇されている。このことでブルーナー氏はTelltale Gamesを訴えており,今回の大量解雇についても,自身のブログでいち早く伝えている。
ブルーナー氏を引き継いだのがZynga出身のピート・ハウリー氏だったのだが,経営を立て直すことはできなかったようだ。噂だが,ハウリー氏は映画製作で有名なLionsgateと資金援助の交渉を行っており,それが決裂したことで,今回の大量解雇が起きたという。
上記のように,Telltale Gamesには現在,ハウリー氏を含む25人のメンバーが残り,「残された義務をまっとうするため」(発表より)の職務に従事している。詳細は分からないが,第2エピソードが9月25日にリリースされた「The Walking Dead: The Final Season」を終わらせるためなのだろうか。Netflixと提携した「Stranger Things」のゲーム版や,「The Wolf Among Us」の第2シーズンなど,予定されていたプロジェクトはすべてキャンセルされた。現在,解雇されたスタッフがTelltale Gamesを告訴するなど,経営も混乱しているようだ。
エピソディックゲームをメジャーな販売形式に引き上げ,プレイヤーごとに異なる物語が楽しめるゲームシステムを確立させたTelltale Gamesだが,おそらく年内には完全に閉鎖されるものと思われる。一時代を築いた同社のレガシーは,どのような形でゲーム業界に引き継がれていくことになるのだろうか。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
- この記事のURL: