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Access Accepted第707回:“ビジュアル・アイデンティティ”が光るインディーズゲームたちを紹介
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印刷2021/12/06 10:30

業界動向

Access Accepted第707回:“ビジュアル・アイデンティティ”が光るインディーズゲームたちを紹介

画像集#004のサムネイル/Access Accepted第707回:“ビジュアル・アイデンティティ”が光るインディーズゲームたちを紹介

 2021年も残すところ数週間。振り返ってみると,新型ゲーム機の供給難による影響もあってか,どこか盛り上がりに欠けた印象だ。PCゲームを含め,高度なグラフィックス描画能力を活かした作品が増えるかと思いきや,そのアンチテーゼなのかインディーシーンからは,独特のビジュアルスタイルを持つ作品が多くリリースされている。小粒ながらもアートフルで小粋なゲームに食指が動くというゲーマーならチェックしてみよう。


ゲームとしての個性を引き出すアートディレクションの重要性


 ゲーム開発をする上で,重要な要素と言われるのが“ビジュアル・アイデンティティ”だ。スクリーンショットやキーアートを見るだけで,どんなゲームなのか,どんなキャラクターなのかをぼんやりと理解できるだけでなく,他のゲームとは異なる個性がしっかりと感じ取れるようなことがあるだろう。特に,シリーズものではない新しいIPにとっては発売前に公開したトレイラーやスクリーンショットで,どれだけユーザーの興味を惹き付け,購買意欲を掻き立てることができるのか,もしくはメディアにどれだけ注目されて取り上げられるかは,広報力やタイミング同様に,ゲームディレクターのアイデアやアーティストの力量が大きく左右する部分だろう。

 3Dグラフィックスはリアルさを追求することで,そうしたビジュアル・アイデンティティを失いがちだ。2020年に「Halo: Infinite」のゲームプレイが初めて公開された際には,Xbox Series Xのパフォーマンスを上手く生かし切れていないような,カートゥーン調のグラフィックスが逆に批判され,大きく軌道修正が図られた,ということもあった。アートディレクションの“落としどころ”の難しさが,よくわかる事例とも言える。

メジャータイトルの中で,スクリーンショットだけを見てもアートスタイルやゲームの世界観が引き立つほどのビジュアル・アイデンティティを持つ2021年作品と言えば,Bethesda Game Studios / Arcane Studioの「DEATHLOOP」を思い浮かべるゲーマーは多いだろう
画像集#002のサムネイル/Access Accepted第707回:“ビジュアル・アイデンティティ”が光るインディーズゲームたちを紹介

 開発リソースの少ないインディーズデベロッパは,は,リアルさよりもアーティスティックなビジュアルがひとつのトレンドになっている。もちろん,そこのアイデアを乗せてうまく合わせる能力と,ビジュアルにマッチしたゲームプレイの実現が大前提になるだろうが,1940年代のセル画アニメが動いているような「Cuphead」が2017年に登場して以降,スクリーンショットだけを見るとキーアートなのか実際のゲーム画面なのか区別するのが難しい,独特の雰囲気を持つ2Dアートワークをフィーチャーした作品が,増えてきている。
 今回は,今年リリースされたゲームタイトルの中から,そうしたビジュアル・アイデンティティが色濃く強調されている作品群に注目し,今年のインディーズシーンを振り返っておきたい。どれも単なる雰囲気ゲームとして見過ごすのはもったいないほどの良くできたゲームばかりなので,年末セールにリストアップされることに期待しつつ,この冬の要チェックタイトルにしておくと良いだろう。

気になるアートディレクションを擁したインディーズゲームは,今後も続々と登場する。左上から時計回りで,今週9日にもリリースされる予定の「Wytchwood」,中世ヨーロッパの装飾写本風な「Inkulinati」,ゴシックアートが炸裂する「Nadir」,そしてサイケなビジュアルが特徴的な「A Musical Story」。それぞれに本誌記事があるので,合わせてチェックしてみてほしい
画像集#003のサムネイル/Access Accepted第707回:“ビジュアル・アイデンティティ”が光るインディーズゲームたちを紹介

Genesis Noir

プラットフォーム:(PC / MAC / Xbox One / Nintendo Switch
開発元: Feral Cat Den
発売元: Fellow Traveller
発売日:2021/3/26

画像集#006のサムネイル/Access Accepted第707回:“ビジュアル・アイデンティティ”が光るインディーズゲームたちを紹介

 「Genesis Noir」は,宇宙創造の“ビッグバン”を恋の破局に見立て,主人公である時計の行商人No Manが,恋敵のGolden Boyが放った凶弾によって愛するMiss Massの命が奪われるのを阻止するために奔走する。厳密には3Dスペースに2Dキャラクターやオブジェクトを配置した2.5Dグラフィックスのポイント&クリック型アドベンチャーだが,モノクロの線画風アートがイタリアの幻想作家イタロ・カルヴィーノの“コスミコミケ”を彷彿させる作風になっているとともに,時間の概念や宇宙の爆発的エネルギー,そしてジャズ調のサウンドを前面に押し出したゲームに良くマッチしている。


「Genesis Noir」公式サイト

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Sable

プラットフォーム:PC / MAC / Xbox One(日本語未対応)
開発元: Shedworks
発売元: Raw Fury 
発売日:2021/9/23

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 「Sable」は,砂漠が広がるどこかの惑星で,少女セイブルが大人になるための儀式として,ホバーバイクにまたがって各地を旅してさまざまなパズルを解きながら,自分を表現するマスクを探し求めていくというオープンワールド型アドベンチャーゲーム。モービウスを筆頭にするバンド・デ・シネ風のビジュアルスタイルに強く影響を受け,独特のカラーチョイスによるフラットなシェーダーが昼夜の移り変わりとともに,その色彩を微妙に変化させていく。Shedworksの2人組が,ゲームの構想を練るよりまず先に,このアートスタイルで何が表現できるのかを考えていったという,とことんビジュアル重視ながらも,オープンワールド型ゲームのエッセンスをうまく引き出した作品として高い評価を受けている。


「Sable」公式サイト

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The Amazing American Circus

プラットフォーム:PC / PS4 / Xbox One / Nintendo Switch(日本語未対応)
開発元: Klabator / Juggler Games
発売元: Klabator
発売日:2021/9/17

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 「金ぴか時代」(Gilded Age)と聞くと,拝金主義的な時代を想像してしまうが,19世紀後半の工業化で資本家が登場し,鉄道網の拡大と西部開拓によって人々の希望がアメリカ中に広がったという,アメリカにおけるノスタルジアを感じさせる時期でもある。「The Amazing American Circus」は,そんな時代の一大エンターテイメントであったサーカスをテーマにして,旅を続けながら希代の興行師として成り上がる姿が描かれ,演目の構成をカードバトルにすることでユニークなゲームシステムに仕上げた。どこか人形芝居の人形のように関節部分だけでぎこちなく動くキャラクターが,この時代に登場した“コミック・ストリップ”風のアートワークとうまくマッチしている。


「The Amazing American Circus」公式サイト

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Potion Craft: Alchemist Simulator

プラットフォーム:PC
開発元: niceplay games
発売元: tinyBuild
発売日:2021/9/22

画像集#009のサムネイル/Access Accepted第707回:“ビジュアル・アイデンティティ”が光るインディーズゲームたちを紹介

 まだアーリーアクセスの段階ではあるものの,「Potion Craft - Potion Craft: Alchemist Simulator」は,中世ヨーロッパの指南書に描かれる挿絵をイメージさせた,独特の2Dアートスタイルが光る作品だ。薬草を釜の中に入れて煮込んだり,乳鉢に入れて細かくしたりといった実際のゲームの中の道具を動かし,より貴重な材料を探し求めながらも,客が求めるさまざまなポーション作りの試行錯誤を繰り返しながら続けていく。もちろん,現時点ではまだコンテンツ量は多いとは言えず単調なことの繰り返しもあるが,今後は新しい道具やポーション,プレイヤーの錬金術師としての評価に合わせて訪れる訪問客など,密度の濃いアップデートが計画されている。


「Potion Craft: Alchemist Simulator」公式サイト

「Potion Craft: Alchemist Simulator」Steamストアページ


Book of Travels

プラットフォーム:PC
開発元: Might and Delight 
発売元: Might and Delight
発売日:2021/10/12

画像集#010のサムネイル/Access Accepted第707回:“ビジュアル・アイデンティティ”が光るインディーズゲームたちを紹介

 こちらもまだアーリーアクセス版として,“チャプター0”が公開されたばかりの「Book of Travels」。基本的には1人で遊ぶことを目的にしたRPGだが,開発元のMight and Delightは“タイニー・オンラインRPG”(TORPG)と呼んでおり,ゆるいオンライン要素がある。未知なるブレイデッドショアを旅しながら,めったにすれ違うことのない他のプレイヤーたちとの出会いを楽しんだりもできるが,エモーティコン(顔文字)などをやり取りし合うだけという,やわらかいソーシャル性を持っているのもユニークだ。一見すると,水彩画のようにも見えるアートスタイルは,全てのテクスチャーを手描き風にすることで生み出されたもので,まるで絵本の世界の中を放浪しているような気になれるはずだ。


「Book of Travels」公式サイト

「Book of Travels」Steamストアページ


著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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