レビュー
ついにドイツ軍シナリオも収録,電撃戦をも再現するRTS
カンパニー オブ ヒーローズ:オポージング フロント 日本語版
» シングルプレイでドイツ軍,そして新たにイギリス軍がプレイできるようになった,「カンパニー・オブ・ヒーローズ」の拡張パック「カンパニー オブ ヒーローズ:オポージング フロント」。秀作ゲームとして海外での評価はつとに高いものの,日本ではなぜかぱっとしないこの作品を,ストラテジーゲーム全般に強いアトリエサード 徳岡正肇氏があらためて講評する。
マーケットガーデンといえばエリア制ですよ。あなた
スタンドアローン,つまりは単体で動作する本作であるが,前作に収録されたシナリオは再録されていない。前作に登場したアメリカ軍/ドイツ軍(こちらはマルチプレイのみ)をプレイするには前作が必要となる。
そうしたわけで,システムの概略については前作のレビューを見ていただくのがよいだろう。ここでは,RTSの進化史とは別の視点で,シリーズ最新作たるOFが持つ「ミリタリー・ストラテジーゲーム」としての魅力を,あらためて確認したい。
占領と補給線で,電撃戦をも再現
ではその資源はどこからやってくるかといえば,マップ上の占領地から自動的に流れ込んでくる。マップは複数のエリアに区切られており,それぞれのエリアにはFPSでいう「旗」が立っている。この旗を一定時間歩兵で支配すれば,そのエリアを占領できるという仕掛けだ。
問題は,占領したエリアから資源を得るためには,そのエリアと自陣営の司令部があるエリアの間が,連続した占領エリアで結ばれていなくてはならないということだ。おいしいエリアがあるからといって,ゲリラ的に突入&占領しても資源は得られないし,そういったエリア目指して細い占領地を伸ばしていっても,敵に根本を押さえられ,占領地の連続性を断たれてしまえばそこまでだ。
前者の目的は,自陣営の補給状態を改善し,長期的な優勢を確保すること。対して後者では,占領地から得られるものはないが,それ以上のものを敵軍に失わせられるかもしれない。
後者の思想は,いわば「電撃戦」である。これを有益なプレイメソッドとして採用し得るシステムがRTSに載っているというのは,非常に面白い。「土地の支配権を奪い合う」という,いわば戦争の基礎をゲームシステムに取り込んだことで,ゲームのストラテジー性は大幅(かつロジカル)に向上したといえる。
CoHというと,Havok物理エンジンを駆使したリアルで緻密なRTSという印象が強いが,おそらく本作最大の特徴は,陣取りというマクロな視点を取り込んだことではないかと思う。
全滅するまで戦う部隊など(普通)ない
本作のユニットはなかなかにしぶとく,また迅速な撤退の指示がショートカットキーでできるくらい,撤退の持つ意味が大きい。生産コストよりも補充/修理コストのほうが低いので,原則として部隊は使い捨てではなく,損害が大きくなった部隊は後方に下げて再編成(車両なら修理)し,再び前線に投入するのが最善手だ。部隊は経験を積んで強くなるし,戦場に遺棄された兵装を拾って強化できる場面が多いことも,「部隊を使い潰さない」ことの大切さを強調する。
イギリス軍のたこつぼ壕は,なかなかに凶悪である。もっとも,追い出されて敵に利用されるなんていう間抜けな状況も,ないではないのだが |
戦闘でユニットを破壊したりされたりすると経験点が入り,一定以上蓄積されると,特殊効果が利用可能に。AoE3のカードに近いニュアンス |
一方これはプレイヤーに,またしても重大な選択を迫る。質に優れた歴戦の部隊が守る拠点に攻撃が集中し始めたとき,部隊を守るのか,地歩を守るのか? 攻撃時とて同じことで,占領地の拡大を狙うのか,敵部隊への打撃を優先するのか?
いま自分が何を狙っていて,そのために,何をどこまで使ってよいかをきちんと認識しておかなくては,勝利はおぼつかない。これはRTSに限らずストラテジーゲーム全般に共通する課題だが,本作ではこの認識が,とくに厳しく問われるように思う。それが本作独特の難しさでもあり,また面白さでもある。
妙に人間くさい,ユニットの挙動
歩兵に遮蔽を取らせるには,遮蔽物となりそうな任意の場所をクリックしてやるだけでよい。ポインタを合わせると,そのオブジェクトが遮蔽物としてどれくらい有用かが表示されるので,あとは移動を指示すれば,AIが自動的に遮蔽を取って展開させてくれる。
このとき,歩兵は基本的に複数名を1チームとした,チーム単位で行動する(単独行動するスナイパーは例外)。彼らはちゃんとチームとして行動してくれるのだが,戦闘が過熱してくるなかでポジション変更を行ったりすると,ときどきそのうちの1名くらいが,どう見ても遮蔽効果のないところで立ち往生したりする。本作には,いわゆる「制圧状態」があり,激しい攻撃を受けると勝手に匍匐散開してしまうことはあるが,それとは別に,「なんでそっちに行くんだ!」と思うシーンも稀に発生する。
一見遮蔽効果を得ていないように見えるが,実際には得ているから大丈夫とか,理由はいろいろ考えられるものの,それはそうと,筆者的にはこれは格別不自然な挙動とは思わなかった。そも,戦場とはそういう行動を誘発しやすい場所ではないだろうか?
車両の扱いもしっかりしている。車両(および大型火器)にはきちんと「方向」があり,攻撃を受ける面によって装甲の厚さも異なる。なんの遮蔽もない野原では,文字通り戦車は戦場の王だが,建物が入り組んだ市街地となるとそうはいかない。対戦車装備を持って建物に潜んだ歩兵や,巧みに配置された対戦車砲は,いともたやすく戦車を食ってしまう。
では戦車が弱いかといえば,決してそんなことはない。戦車は迅速に移動可能な砲台であり,その主砲は歩兵が隠れた建物や,スナイパーが潜んだ塔を,その建造物ごと破壊するだけの火力を持っている。要は使い方次第である。
巨視的/微視的両方の視野が求められる
正直に言えば,本作はある程度まで予習が必要なゲームである。事前に自陣営の陣容の最終形を,ある程度頭に思い描けるようでないと,すさまじい泥沼に引きずり込まれるか,あっさりと突破を許しかねない。RTSにもいろいろあって,やりながらでもなんとかそのあたりが分かってくる作品もあるが,本作では「とりあえず死んで覚えた」あとで,多少頭の整理をするほうが楽だろう。
スカーミッシュの陣営設定画面。当然だが同じチームには,大戦中同じ陣営に属していた勢力しか参加できない |
スカーミッシュのプレイ風景。マップに個性がかなりあるので、マルチプレイの前に一度様子を見ておくことを強くお勧めする |
あくまでも個人的な感覚だが,本作は小さな勝利を積み重ねるだけでは,あまりにも最終勝利が遠い作品のように思える。戦場全体をきちんと把握し,その流れを掴んだうえで,どうしても必要となる細部の調整を行う……方針としてはこれが最も堅実なようだ。本作は,あくまでもストラテジーゲームなのである。
ただし,「この建物の2階に重機関銃を設置すれば,この街道を抜けようというヤツはみんな蜂の巣だぜ!」とか意気込んだあげくに,肝心の建物に通りに面した窓がなかったりすると,ミクロレベルの失敗が,きちんとマクロレベルでの崩壊につながるので要注意。こればかりは,射撃範囲を色分けとかして,もうちょっと精密に表示してくれる機能があってもよかったんじゃなかろうかと……。
RTSとしてまとめたがゆえの限界もあるが,プレイは快適
高度なグラフィックスエンジンで描き出された戦場には,非常にリアリティがある。例えば建物にしても,ただ壊れるのではなく,壊れた残骸を歩兵が遮蔽物として利用できる。建物の耐久力がなくなったから,その地域は「更地」データに置換される,というのとは,まるで話が違う。
このレベルのリアリティに引き比べて,ではいったい「資源」とは何なのか? 例えばそれは,その地域に保管されていた燃料や弾薬であるのかもしれない。だが本作においては,占領エリアが連続しているだけで,それらの資源が司令部へと運び込まれることになる。一体,誰がどうやって運んでいるというのか?
こういった現実的な側面と,ゲーム的な側面の間に,少なからぬ溝が生じているのは否定できない。そもゲームは,ゲームとして成立させるために,どこかである程度までの抽象化や省略を行わねばならないものだ。本作では,そこでなされたゲームのための抽象化が,際立った画面のリアリズムとの間に,微妙なミスマッチを生じさせている。
とはいえ,これが本作の大きな瑕であるとは言い難い。正直,そんなことをあえて気にするのは筆者ぐらいなんじゃなかろうか。仮に補給物資を本当に手で運ばなくてはならなくなったら,操作量的に破綻してしまう。理念上優れているがプレイ不可能な作品と,理念に若干の妥協はあってもゲームとして面白い作品とを比べるならば,筆者としては後者を推したい。そして,CoH/OPはそういう種類の作品なのである。
ついにドイツ軍をシングルでプレイ可能に
また個人的には,ドイツ軍なら1944年冬のバストーニュ前や1945年のレマゲン鉄橋あたりから始まって,ベルリンまで後退していく話とかいうのがぜひやってみたかった気がする。それくらい,本作は勝っても負けても楽しいゲームだと思うのだ。
いずれにしても,必ずしも対戦主体でない日本人RTSライトゲーマーにとって,シングルプレイシナリオが面白いかどうかは,第一に重大なポイントだと思われる。本作のシナリオは,いわゆるやりこみ要素も持っているが,それ以上にテーマの取り上げ方と演出方法において,とくにミリタリーファンには強くお勧めできる。
DirectX 10に対応したパッチが存在すると聞くと,いかにもハイスペックマシンで楽しむべきゲームであるように思えるが,AGP時代のグラフィックカード(GeForce 6800クラス)にPentium 4でも,ゲームを楽しむぶんにはまったく問題なかった。ハイスペック要求部分は,あくまでも「さらなるお楽しみ要素」と考えておいたほうがよいだろう。
マルチプレイのロビー。参加するにはまず腕を磨く必要があるものの,日々盛んに対戦が行われている |
プレイ画面そのままで戦場を見渡せる。まあプレイ中には,あまりこの角度に視点を持ってくることはないが |
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