インタビュー
“プロ野球ファンに向けたコミュニケーションツールでありたい”開発者が語る「プロ野球チームをつくろう!ONLINE」とは
今回,プロデューサーであるセガ スポーツデザイン研究開発部 部長 瀬川隆哉氏,第2企画セクション ディレクターの三木洋之介氏にインタビューを行い,野球つくONLINEの開発経緯や今後の方向性など,質問をぶつけてみた。
PCでのリリースが必然だった,野球つくシリーズのオンライン版
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずは,お二人の経歴と野球つくONLINEでの役割を教えてください。
セガ スポーツデザイン研究開発部 部長 瀬川隆哉氏 |
セガサターンのころからスポーツゲーム,とくに野球のゲームをひたすら作っていました。野球つくONLINEのベースとなっている,プロ野球チームをつくろうシリーズを開発し,今回はプロデューサーという立場で,野球つくONLINEに関わっています。
三木氏:
ゲームデザイナーとして,ファンタシースターオンラインシリーズや「ジャイアントエッグ 〜ビリー・ハッチャーの大冒険〜」などを開発し,その後プランナーとして「プロ野球チームつくろう!3」「プロサッカークラブをつくろう!ヨーロッパチャンピオンシップ」,そして野球つくONLINEにはディレクターとして携わっています。
4Gamer:
コンシューマで続いてきたシリーズをPCへと移し,かつオンライン化した狙いはなんでしょうか?
瀬川氏:
いままでの進化の延長線上にはない,新しい「野球つく」を作りたいという考えがあったのが一点。そして,単純にプレイヤーとして,ほかの人と選手をトレードしたり,競い合ったりしたいなと思っていました。オンライン化すればその願いが叶うし,いいものに仕上がると思い,企画をスタートさせました。
4Gamer:
オンライン化ということだけであれば,コンシューマでも出せると思いますが,あえてPCでサービスを開始したのはなぜでしょうか。
従来作はシミュレータに近いゲームで,NPCと戦っていかに自分のチームを強くするかという要素がメインでした。オンライン化するのであれば,違った面白さを提供できる。とくにコミュニケーションの部分が重要になってきますので,プロ野球が好きだという人達がゲームを介してコミュニケーションできる場を提供したいと考えたときに,PCしかないと判断したのです。
三木氏:
スポーツシミュレーションと聞くと難しく考えてしまい,敬遠していた人達がいたと思うんです。自分でプロ野球チームを作るというベースは変えずに,ハードルを下げたのが野球つくONLINEです。
瀬川氏:
もちろん,従来作のファンの方にも楽しんでもらえますが,野球好きの忙しい現代人/社会人を,メインターゲットにしています。最近の社会人は,だいたいPCを持っていますからね。
4Gamer:
ゲーム起動時に聞こえてくる,ちょっと懐かしさを感じるセガのジングルも,ターゲットの年齢層が高めなことに関係していますか?(笑)
瀬川氏:
あれは本当に最後の最後に,スタッフが遊び心で入れてみたものなんですよ。とくに私達が指示を出したわけではなく。実際に聞いてみたら「懐かしくていいな」となって採用しました。なにかを狙ったわけではないですよ(笑)。
4Gamer:
そういえば,こんなジングルあったなと,昔を思い出しましたね。てっきり,ターゲットの年齢層を高めに設定したことで実装されたのかと思っていました。実際のところ,どれくらいの年齢層の人達が遊んでいるのでしょうか。
瀬川氏:
20代前半から30代前半の人達が多く,32〜33歳がピークです。ターゲットの年齢層を高く設定していましたが,結局始まってみればもっと若い人達が多くなるのかなと思っていたところはあったのですけどね。
第2企画セクション ディレクター三木洋之介氏 |
最初の頃は,チャットの内容を見ていると「夏休みの宿題やった?」といったような会話もけっこう多くて,これは考えていたよりも若い人達がメインで遊んでいるのかな,と思っていましたね。
瀬川氏:
同じ20代前半から30代前半といっても,野球つくONLINEを遊んでくれている人達は,オンラインゲームファンというより,プロ野球ファンが多いようです。ゲーム自体にはそれほど慣れていないところもあるようなので,オンラインゲームに慣れている若い世代がゲーム内で目立っているといった感じだと思いますよ。
4Gamer:
それだけ年齢層が高いと,滞在時間が短めだったり,ログインしている時間帯に偏りがあったりしますか?
三木氏:
こちらは年齢層とは違って予想外でしたね。夜のスポーツニュースを見るくらいの感覚で,毎日ログインはするけど滞在時間は短い,といったスタイルで遊ばれる方が多いと思っていたのですが,実際にはみなさんかなり長い時間滞在しています。あと,嬉しい誤算としては,40代の方もけっこう遊んでくれていますね。
4Gamer:
具体的に何時頃が多いのでしょうか。
三木氏:
実際のプロ野球中継が始まる午後6時くらいから増えていって,そのまま右肩上がりで夜中の12時をまわったあたりがピークです。
4Gamer:
推移としては,ほかのオンラインゲームとそれほど変わらないようですね。
ただ,遊び方は独特で,実際に野球中継を見ながらファン球団チャットで,応援しているチームの話をしているといった感じです。あとは,12時を過ぎて日が替わると,チームのコストが上がるので,それを待ってすぐにチームのオーダーを組み替えるという人が多いみたいですね。
瀬川氏:
実際の試合で,田中幸雄選手や前田智徳選手が2000本安打を達成したときに,「田中幸雄が打ったよ」とか,チャットで盛り上がっていたので,プロ野球ファンのコミュニティとして機能してきているのかなとは感じました。
4Gamer:
滞在時間の長さこそ予想外だったものの,実際に遊んでいる人の年齢層や,コミュニケーションツールとして利用されるというのは,予想通りだったわけですね。
では,基本プレイ無料のオンラインゲームが数多くある中,月額980円という価格設定には,どういった狙いがあったのでしょうか?
瀬川氏:
980円というのは,1回プロ野球観戦に行くよりも安いので,プロ野球ファンの方にとっては試しやすい価格だと思っています。もちろん無料ではないので,入り口に障壁があるのは分かっているのですが,1回登録してもらえれば,続けて遊んでもらえる自信はあります。
守備力と調子が勝敗の鍵を握るチーム編成
4Gamer:
では,ゲームの中身によった話をさせてもらいますね。従来作とは違って,実在するプロ野球チームの運営を請け負うわけではなく,完全に新しいチームを作りますよね。その違いへの反応はいかがでしょうか。
三木氏:
おおむね良好だと思います。
4Gamer:
ゲーム開始直後は,あまり全国的な知名度が高くない選手達で,どうにかしていくわけですが,マニアック過ぎないですかね。場合によっては自分のチーム内メンバーのほとんどが知らない選手で構成されることもありますし。
三木氏:
そこから有名な選手や思い入れのある選手を集めていくところに楽しさがあると思っています。また,野球つくONLINEを通じて,選手の特徴などが分かったなんていう声も聞きます。そういった意味では,野球つくONLINEが,あまり知らなかった選手や,若手選手を知る機会につながれば,本当に嬉しいですね。
プロ野球のOB選手などにも野球つくONLINEを見ていただいたのですが,「知らない選手も登録されているよ」なんていうこともありました。「これを見たほうが勉強になる」と言ってくださった方もいますよ。
4Gamer:
そうそう,ゲームに出てくる選手はかなり多いですよね。何名くらい登録されているのでしょうか。
瀬川氏:
さすがにプロ野球の登録選手全員ではないですが,1チーム平均50名ですので,600人ほどですね。
4Gamer:
そんなにいたんですか。単純に多いだけでなく,あまり知らない選手もメンバーに組み込む必要が出てくるので,データとして存在するだけ,というわけではないのがいいですね。ところで,選手を多く集めているプレイヤーは,何名くらい持っているのでしょうか?
瀬川氏:
多くても300名くらいだと思いますよ。
4Gamer:
コンプリートしようと思ったら,まだまだ先は長そうですね。
瀬川氏:
多くの選手を集めれば,それだけ先発メンバーのバリエーションが増えます。戦い方の幅が広がるので,ぜひたくさん集めてください。
4Gamer:
選手が増えてくると先発オーダーの決定は悩みますね。
瀬川氏:
先発オーダーを決めるときにコストやパラメータだけを気にしている人が多いみたいですが,守備力も重要ですよ。被安打数を減らそうと思うと,ピッチャーとキャッチャーを重要視すると思いますが,ちゃんと守備力が高い人をメンバーに入れると,かなり結果が変わってくるはずです。
セカンドやショートといった,いわゆるセンターラインは,とくに重要ですよ。
瀬川氏:
もちろん,答えはないので,一概には言えないですけどね。10点取られても15点取り返すようなコンセプトのチームも,勝っていますから。
4Gamer:
そうなんですよね。限られたコストのなかで,誰をメンバーに入れるか本当に悩んでしまいます。とくに打順は,ちょっと変更するだけで,つながりが変わるじゃないですか。あれはなにが影響しているのですか。
瀬川氏:
そこがポイントになっているので,教えるわけにはいかないのですが……。
4Gamer
ヒントだけでも。
瀬川氏:
そうですね……各選手に1番から9番まで,向き不向きが設定されています。ある程度プロ野球を見ていれば分かるようになっているので,実際の試合を見ながら試してみてください。
4Gamer:
なるほど,そんな仕組みだったんですね。では,同じ打順でもその前後を打つ人が変わると,つながりが変化するのはなぜでしょうか。
え〜と,例えば,同じ球団の選手を並べるとか,色々と要素はあります。試合に直接関係のないデータなども参照していますから,あとは探してみてください。
4Gamer:
なるほど。ゲームの表には出ていない情報も加味されているんですね。
三木氏:
選手の調子というパラメータもあるので,つながりだけ気にしていても勝てないと思います。1番から9番まできっちり決めて戦っていくよりも,調子に合わせて入れ替えたほうがいい結果になることが多いでしょう。選手の調子をみて先発オーダーを替えるのが,監督の仕事ですし。
瀬川氏:
ただ私は,調子の重要性が分かっていながら,選手に個人タイトルを獲らせたいので,あまり先発オーダーを替えていないんですけどね(笑)。
4Gamer:
その気持ちはものすごく分かります。タイトルを獲ったことがない選手に,ゲームの中では獲らせてあげたいとか思いますしね。とは言いつつも,最近チームの成績が悪いので,帰ったらさっそく調子に合わせてオーダーをいじってみます。
瀬川氏:
そうそう,やり込んでいる人になると,選手カードをダブらせると調子が良くなるというのを利用している人もいますよ。
三木氏:
ここぞという試合に合わせて,友達に頼んで主力の選手カードを手に入れて調子をアップさせているようです。
4Gamer:
そんな手があったとは……。
三木氏:
もちろんそれで絶対に勝てるわけではないですが,勝つ確率を上げる,一つの方法ではあります。
強いチームを紐解くと,やっぱり強い理由が分かりますね。ちゃんと調子を見て入れ替えていたり,チームカラーやスキルを的確に設定していたり。よく研究していると思います。
4Gamer:
一日10分程度でも遊べるとはいえ,がんばった人が報われるようになっているんですね。
三木氏:
ええ,多少はがんばった人も強くならないと,ゲームになりませんからね。
瀬川氏:
いろいろと試しながら遊んでください。
夢は世界制覇!? 今後のアップデートの方向性とは
4Gamer
先日発表されたアップデート計画の中で,試合の勝敗にプレイヤーが関与できる機能が追加されるというのが,最も大きな要素だと思います。どのようなものになるのか教えてください。
三木氏:
いまは選手の組み合わせが試合結果に影響していますが,プレイヤーがもう少し試合にからめるようになる,とだけお伝えしておきます。
今までは,選手の組み合わせとスキルという二つの要素が試合結果に反映されていたのですが,そこに試合を組み立てるような要素が追加されるわけです。ですので,大きな柱になるアップデートです。
三木氏:
試合が始まる前の段階で,なにかができる要素です。まだ作成中ということもあって,具体的にはお知らせできないんですよ。
4Gamer:
そうですね。発表したけど「結局実装できませんでした」では悲しいので,公にできる段階になったら教えてください。あとはプロスポーツを題材にしたゲームの宿命ともいえる,選手データの更新も予定されていますよね。
瀬川氏:
一応冬と発表していますが,シーズン終了後にその年の成績を振り返り,見直しを行います。まあ,年に最低限3回,できれば4回ぐらいできるといいのかなと思っています。
三木氏:
ただし,シーズン中に変えるというのは注意が必要ですね。もの凄く活躍していた人がいると思ったら,ある日を境に成績が一気に落ちてしまうこともありますからね。
4Gamer:
引退してしまう選手や,別の国のリーグへ行ってしまう人の扱いはどうなるのでしょうか。
瀬川氏:
残念ですが,ゲームからもいなくなってしまいますね。
引退してしまう選手はともかく,メジャーリーグに行っても,日本のプロ野球に復帰すれば,ゲームにも登場するようになりますよ。帰ってきてほしい選手もいますしね。
4Gamer:
過去の名選手が追加されるようなことはありますか?
瀬川氏:
'85年の阪神や黄金時代の西武,V9時代の巨人を再現したいといった夢もあるでしょうしね。なかなか難しいところではありますが,コンシューマ版では実装していたので,考えてはいます。
4Gamer:
'85年の阪神は熱いですね。バース,掛布,岡田,真弓と阪神ファンでなくても揃えたくなります。世代を超えたオールスターチームを作りたいといった要望もありそうなので,ぜひお願いします。
では次の質問です。アップデートとはちょっと異なりますが,サカつくONLINEでやっている無料サーバーのようなものの予定はありますか。
瀬川氏:
もちろん検討はしています。きっちりとお話しできる段階になったら,またあらためて発表させてもらいます。そうそう,先日発表した計画はあくまでも決まったものだけを明らかにしています。あれ以外にもまだまだ温めている企画があるので,楽しみにしていてください。
4Gamer:
どのような方向性になりそうですか?
瀬川氏:
9月11日に,プレイヤーの投票によって選ばれた選手を「野球つくMVP」として,一定期間好調を維持するシステムを実装します。(編注 インタビュー収録日は9月4日)そういった,プレイヤーの声がゲームに反映されるようなものを,今後も追加していきたいと考えています。
4Gamer:
プレイヤーの一人として今後のアップデートを楽しみにさせてもらいますね。では最後に,今後野球つくONLINEをどう成長させていきたいと思っているのかを聞かせてください。
野球つくONLINEに野球好きが集まって,実際に草野球の大会をやるなど,コミュニケーションツールとして利用してもらえれば嬉しいですし,そう使われるようにしていきたいです。
ゲームだけだと,どこかで限界がくると思いますが,人と人とのつながりに,終わりはなかなか来ないですからね。このゲームを通して野球仲間ができて,みんなが盛り上がれるようなものにしていきたいです。
瀬川氏:
まあ,夢に近いですが,野球をワールドワイドなスポーツにするための架け橋的な存在にしたいと思っています。今回,野球つくONLINEを国内でサービスインしたのですが,このあと,たとえば,韓国,台湾,アメリカといったところでも始め,日本国内はもちろん各地域で成功を収めて,世界一を決められるようなものにしたいです。そして,最終的にはWorld Baseball Classic(WBC)のようなリアルな大会を,私達がビシっと仕切れるぐらいになりたいです(笑)。
4Gamer:
野球好きとしてはしびれる夢ですね。ぜひ叶えてもらいたいです。
瀬川氏:
WBCを観たときに本当に熱く燃えたので,野球つくONLINEもあれぐらいの興奮を味わえるようにしたいです。
4Gamer:
期待しています。本日はありがとうございました。
野球つくの名前は冠しているものの,従来作とはシステムが大きく異なっている野球つくONLINE。実際にサービスが始まってみると,シリーズファンだけでなく,開発者側の狙いどおりに野球ファンが集まっており好評のようだ。
本作は,あまりゲームに時間を割けない人でも遊べるように設計されているため,実際にプレイヤーができること/やることは少ない。だが,ログインすれば野球が好きな人達とでコミュニケーションが取れる。もちろん,いままでも野球ファン同士がインターネットを介して交流を図る場はあったが,好きなチームを作って競い合うというゲーム要素や,トレーディングカードの要素が加わったことで話のきっかけができ,知らない人同士でもコミュニケーションが取りやすくなっているのだろう。
瀬川氏の壮大な夢が叶うことを祈りつつ,今後どのように野球つくONLINEが成長していくのか,一プレイヤーとして注目していきたい。(Text by noguchi,Photo by kiki)
- 関連タイトル:
プロ野球チームをつくろう!ONLINE 2
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