連載
チュートン騎士団というと,Microsoftの「Age of Empires II: Age of Kings」で,塔に立て籠もってガン待ちしていたり,テンプル騎士団などとセットでオカルトミステリの悪役になったりしているのをご記憶かもしれない。日本人にとってなんとなくファンタジーっぽく思える「騎士団」という言葉のイメージに反し,非常に現実的かつ具体的な活動を行っていた人々であった。
その活動がどんなものだったのか――ごくごく上品かつ婉曲に一例を挙げるなら――彼らの業績の一つ「東方植民」(バルト海沿岸の異教徒に対する十字軍)の結果,我々はそれ以前にこの地域で,どのような文化や宗教が栄えていたのか,まるで分からなくなってしまったというあたりが,よく引き合いに出される。ちなみにこの植民の権利は,時の神聖ローマ帝国皇帝から与えられたものだ。
チュートン騎士団,あるいはドイツ騎士団と呼ばれる彼らは,本来十字軍時代の初期である12世紀頃,聖地を目指す巡礼者を守るために設立された団体だった。だが,当然ながらこの役割はイスラームが聖地を奪還することで有名無実化し,やがて対異教徒を看板とした戦闘集団に特化していく。そして,あちこちで半ばクーデターじみた騒ぎを繰り返しながらヨーロッパを転々とし,最終的に落ち着いたのがバルト海沿岸というわけだ。
ちなみに彼らをこの地に導くことになったのはワルシャワ大公で,この選択は後に「ポーランド史における最大の失敗」とされる。あんなことやこんなこと,そんなことがあったポーランドの歴史のなかで最大の失敗とまで言われるのだから,ポーランド人がどのくらいこれを悔いているかは,推して知るべしである。
ともあれ,1230年頃から始まった植民事業は,1280年頃に完了し,ドイツ騎士団領はその全盛期を迎える。
さて。ここで問題となるのは,EU3が1453年スタートのゲームであることだ。1300年頃に全盛期を迎えた勢力が,1450年頃どうなっているかというと……すでにとっぷりと落日の過程にある。
1410年にはタンネンベルクの戦い(のちに第一次世界大戦で歴史的な大会戦が発生する場所だ)に大敗して領土を失い,1466年になると首都を含めた国土の西側をごっそりとポーランドに奪われ,騎士団はポーランドの封臣となる。1523年には総長がマルティン・ルターと面会,感動のあまりプロテスタントに改宗してしまう。一応,騎士団の基盤はカソリックの修道会だったはずなのだが,その基盤ごとちゃぶ台返しをする豪快さである。
まあ,上記を簡単に要約すると
「お先真っ暗」
ということだ。どうみても確固たる独立国としてヨーロッパの覇権争いに参加できるとは思えない。
だが,そうであるからこそ,彼らに何ができるかを試してみる価値はある。史実を生きた彼らには申し訳ないが,もしチュートン騎士団が,チュートン騎士団のまま近世を闊歩していたら,ポーランド人はかの大公の選択を,決して「最大の失敗」とは言わなかっただろう。「最大で最悪の失敗」と言ったに違いない。
ヨーロッパ全域で国民国家が成立していく流れのなかで,チュートン騎士団という国家と宗教団体のアマルガムには,果たして何ができて,それは何を引き起こすのか。ぜひ見てみようではないか。
まずはざっと状況を把握してみる。収入は決して悪くないし,文化圏の性質も申し分ない。小国というほど小さすぎないし,リガで分断されているように見える国土も,実は連続性が確保されている。しかも海軍ユニットが豊富なので,制海権はしばらく安心できそう……良いじゃないですかこれは。兵役人口に不安があるとはいえ,1プロヴィンスしかない国家にはそもそも1000人に満たない(=傭兵しか雇えない)ところだってあるわけで,恵まれた部類といえる。AIドイツ騎士団領が,長生きすることが多いのも,むべなるかなだ。
とか思っていた矢先,まずはポーランドから宣戦布告される。こちら,最大動員して1万人くらい。相手,ポーランドとリトアニアのタッグで押し寄せてきて,その数は「たくさん」。まるで戦争になりません。
諦めていくつかのプロヴィンスを割譲し,とりあえずは停戦に持ち込む。なんだかこれは嫌な雰囲気だと思いつつ内政を再開するも,5年の停戦期間が切れたポーランドからは,即座に再度宣戦布告される。もう彼らを留めるものは何もありません。あっという間に国土を蹂躙されて,事実上のゲームセット。
ダメだこれは。
もう一度落ち着いて,あらゆる情報を確認してみる。
まず,自国の首都がポーランドに領有主張されている。つまり,ポーランドは向こうしばらく,こっちにケンカふっかけ放題。ダメじゃん。ポーランドとの関係改善を主眼に置き,関係がせめて−10くらいまで戻れば,あるいは攻めて来ないかも……。
攻めて来ました。
じゃ,じゃあポーランドと同盟だ! ゲーム開始直後なら同盟が成立する可能性は,「低い」けれどゼロではないらしい。ここで同盟さえ結べれば……。
結べません。
何度も何度も何度も何度も何度も,ゲーム再開しては同盟ボタンを押し,ため息とともにゲームを再開したものの,全然成功しない。というか,ここまで確率が低いとなると,もはや正当なプレイ手段ではない,ということだろう。
ならば,とりあえず経済価値の高いプロヴィンスを割譲してポーランドの歓心を買っておき,遠い未来に取り返すという方向性ならどうだ? 遠い未来がいつになるかは分からないけれど,生きていれば,生きてさえいれば,いつか何かが変わるはず……。
ポーランドが2度目の宣戦布告をしてくることはありませんでしたが,ポメラニア連合軍に侵攻されて終了しました。
え,えーと……。
こうなったら,とことんやってやろうじゃんかよ!
相次ぐ失敗のあとは,恒例の反省会である。おそらくここまでの失敗の要因は,プレイヤーが目標を見失っていたことにあるだろう。この国がどうなるかではなく,この国をどうするか。そういった図々しさがなくては,EU3では前に進めない。しかし,この状況で何をするか,ねえ。
と,とりあえず,何はともあれ無事に1467年を迎えること。これを第一の戦略目標とする。史実では1466年に事実上国が崩壊しているので,このハードルを越えれば「成功」である。なんだか昔,似たようなことをした気もするが,いやいや,ちょっと燃えてきましたよ。
何度も何度もポーランドに踏まれ,ポメラニア連合軍に踏まれ,デンマークに踏まれ,ノヴゴロドに踏まれているうちに,だんだんバルト海世界のパワーバランスが見えてきた。
国の規模が違いすぎるので,そもそも戦争にならない。徹底抗戦できなくもないが,直後にノヴゴロドが来ると終了。しかもこれが,けっこう来る。ポーランドとの戦争が始まった場合,徹底して戦闘を避け,無駄な消耗を避けるべきだろう。そのうえで,ダンツィヒを含めた経済的に豊かな2プロヴィンスを進上すれば,その後のポーランドは比較的こちらに侵攻してこない(難易度:普通,積極性:普通)。リトアニアにも1プロヴィンスを割譲する必要があるが,こちらはそれだけで済む。
デンマーク+ノルウェーと,スウェーデンが戦争をしているので,これを利用する。基本的にスウェーデンが不利な立場の戦争なので,スウェーデンとの同盟は非常に高確率で成功する。この同盟を維持している限り,ドイツ諸州の連合軍は戦争を仕掛けてこない。こちらの連合のほうが規模が大きいためだ。
リガとプスコフという,それぞれ1プロヴィンスからなる独立国が隣接しているが,これらはドイツ騎士団固有の領土である! ポーランド=リトアニア大公国に3プロヴィンスを貢ぐ以上,せめて二つは回収しないとゲームに参加できない。もっとも,領土要求が通っているわけではないので,開戦理由のない不当な戦争をするほかない。外交併合? 遺憾ながらそんな時間はありません。
とにかく気合い。タイミングが合えばプスコフをかっさらって和平に持ち込める。初期のノヴゴロドは兵役人口が薄いので,こちらが大借金を背負ってでも徹底抗戦すると,戦勝点−6%程度なら痛み分け和平に応じる。
何度国が崩壊したか憶えていないが,対ノヴゴロド戦は気合いで勝てることを知った段階で,なんとかドイツ騎士団領は大きな領土縮小のないまま,1467年を迎えられるようになった。戦争の第一段階に勝利したのである。
最初の目標を果たしたところで,次の目標を考える。なんだかすごく泥縄だが,史実においても人々はそうやって頑張ってきたのだ。きたのかな? きたことにしよう。
史実におけるドイツ騎士団の年表を見ると,次はやはり1523年ルターとの邂逅であろう。これを果たすためには,なにはともあれ1523年まで生き延びねばならない。がんばるぞ!
現状においてドイツ騎士団を支えているのは,スウェーデンとの同盟である。これがある限り,ノヴゴロドのように兵役人口に問題のある国や,ドイツ諸州のようにまとまらないと勝負できないグループは,こちらに侵攻してこない。
だがスウェーデンはデンマーク・ノルウェー連合軍の前に,じりじりと押されている。このままではまずい。かといって,この戦争にどういう形で介入できるというのだろう? さらに言えば,介入したら(現状維持以外に)どんないいことがあるのだろう?
国威でスウェーデンに負けているため,和平交渉はしばしばスウェーデン主導になる。たとえドイツ騎士団がベストを尽くして大戦果を挙げても,押され気味のスウェーデンがそれを材料として白紙和平に持ち込むというケースが非常に多い。ドイツ騎士団はあたら人的資源を無駄にしていくだけである。
それでも,我々はこの戦争に介入する必要がある。というのも,ポメラニア連合軍の構成員はポーランドその他の大国に侵食されつつあり,うまくすればスウェーデンとの同盟が切れても,こちらに宣戦してこない可能性が出てきたのだ。仮定と想定ばかりの綱渡りだが,これ以外に今のところできることはない。そしてドイツ騎士団はこの戦争への介入を,素晴らしく良い形で行える。
スウェーデンからの援軍要請がきたら,まずはこれを受諾する。厳しい財政のなかから輸送船2ユニットを建造してあるので,これに歩兵1,騎兵1を載せ,バルト海に出る。
デンマークの首都は,ユトランド半島とスカンジナビア半島をつなぐ島の上にある。デンマーク軍の主力はスカンジナビア半島のデンマーク領にいるが,ユトランド半島側にも予備兵力は残っていて,これがスカンジナビア半島まで移動してくる。
ここで,ドイツ騎士団海軍はユトランド半島沖に入り,航路を封鎖する。制海権がこちらにある限り,陸上ユニットはこういった狭水域を横断できない。こうやってデンマーク軍を分断しつつ,陸軍は丸裸になった首都を攻略する。
これを戦争のたびに繰り返すのだ。繰り返されるほうもアレだが,これは言っても詮ないことである。デンマーク軍は思うような機動ができず,やがて戦争は泥沼化して白紙和平で終結する。これがすっかり恒例行事となった。
こうやって時間を稼いでいるうちに,中欧では小国の併呑が進み,それに応じてドイツ騎士団と同盟を結ぼうという小国も増えてきた。これらの申し出をすべて受諾し,外見上の国家規模を水増ししていった結果,スウェーデンとの同盟が一瞬途切れたときにも,ポメラニアからの宣戦はなかった。ドイツ騎士団は,必要な「時間」を確保したのである。
やがて時代は下って1523年。残念ながらドイツ騎士団にルターとプロテスタンティズムは訪れなかった。その代わりと言ってはなんだが,ポーランドがプロテスタントに染まる。これはドイツ騎士団にとって由々しき事態であった。
これまでドイツ騎士団は,苦しい財政のなか,必死にポーランドとの関係改善に努め続けてきた。事実,一時はその関係は+150前後にまで進展,もうポーランドから戦争をふっかけられる心配はないだろう,というレベルにまで達していた。
ところが,ここにきてポーランドはプロテスタントに鞍替えする。両国の関係は一気に冷え込み,-150という素晴らしいスコアに逆戻りした。これでは,またいつ悪夢が到来するか分からない。ルターとグーテンベルクは,恨まれても仕方のない仕事をしたんだなあと,あらぬところで実感する。
それはそうとして,救いもある。リトアニアがカソリックを維持していたことと,南からオスマン帝国が進出してきたことだ。こうなってはポーランドもさすがに北に伸びる余裕はなく,オスマン帝国との間で激闘を繰り広げていった。
言うまでもなく,この状況は一過性のものに過ぎない。二つの勝利を越えてきたドイツ騎士団が,これから先の歴史にも名前を刻み続けるつもりであるならば,来たるべきオスマン帝国衰退の時期に至っても,南から攻撃されないだけの地盤を作らねばならない。だが,そんなことが可能だろうか? 方法はある。もっとも,これは世界史に汚点を残すような方法だが……。
ノルウェー・デンマーク連合軍の攻勢の前に,スウェーデンは押され続けていた。ドイツ騎士団の援護も空しく,スウェーデン領は徐々に縮退している。そしてついに,決断の時がきた。
いつものようにノルウェーがスウェーデンに宣戦し,いつものようにスウェーデンはドイツ騎士団に援軍要請する。
そしてこのとき初めて,ドイツ騎士団は援軍要請を蹴る。これによって国家の国際的評価は大きく下がるが,評価などどうでもよい。重要なのは,これによってスウェーデンは確実に大敗すること,そして,ドイツ騎士団とスウェーデンとの同盟が解除されたことだ。
現フィンランドの最南端近くまで押し込まれたスウェーデンに対し,ドイツ騎士団は宣戦布告。当然だが正当な開戦理由などない。あえて言えば「我々が生き残るために必要だから」である。
もはや軍隊の体をなしていなかったスウェーデン軍はあっという間に崩壊,フィンランド最南端の2プロヴィンスはドイツ騎士団領となり,スウェーデンはドイツ騎士団の属国となった。
そして,ここでドイツ騎士団総長はバルト海世界を震撼させる宣言を行う――「かつて我々は,異教徒を撲滅するため東方へと植民した。いま我々は,異端を撲滅するため北方に植民する」
具体的に何をしたかといえば,国策として選択していた「中央銀行」(インフレを抑制する効果がある)を停止,代わりに「主の御心のままに!」を採用したのである。
ノルウェーはプロテスタントを奉じており,これによってカソリックを奉じるドイツ騎士団はノルウェーに対し自由に宣戦できる。また,徐々に衰退しつつあったノヴゴロドは正教会であるため,ここに対しても自由に宣戦できるようになった。
しかし,まずは攻撃目標をノルウェーに定める。ノルウェーはたび重なる戦争で人的資源の大半を使い果たしているのが明白で,ほとんど兵士が見えない。しかもスカンジナビアの美味しい地域をいまようやく確保したばかりなので,経済的にもこれからの国だ。
これからの国は,いま潰すに限る。百戦錬磨のドイツ騎士団およびドイツ騎士団海軍はノルウェー軍を各所で撃破,ノルウェーはあっという間に所領を減らしていった。ノルウェーと同盟していたデンマークは,最初の頃こそ関与の動きを見せたが,ユトラント半島でオーストリアとデンマークが戦争を開始した直後を狙ったため,案の定「自国の戦いで手いっぱい」となって,ノルウェーとの同盟は破棄された。自国の防衛を自国で行えない者はこうなる運命なのだよ……。
あ,ああ,まあ,スウェーデンは,そうですね,いい国でしたよ。ええ。感謝してます。
やがて,大ブリテン島から追い出されつつあったスコットランドが同盟を求めてきたのでこれに応じ,スコットランドもノルウェーを進出先として選んだため,戦争は2対1となった。スコットランドの戦力はまったくアテにならないが,攪乱には十分だ。しかもノルウェーが自領奪回のためスコットランドに宣戦してくれるので,こちらとの停戦期間にノルウェーが回復するのを妨げ,攻勢の維持に貢献してくれる。
また同じ頃,ロシア方面に大きく張り出していたリトアニア(もうどう見ても,この国がロシアと呼ばれるべきだ)が,ノヴゴロド領のほとんどを制圧した。交易の中心地(CoT)のあるノヴゴロドを占領できれば,ドイツ騎士団は一段階上の国家にステップアップできるということで,対ノルウェー戦をいったん棚上げして,全軍でノヴゴロドを攻略する。これによって飛び地になっていたスカンジナビア領とバルト海沿岸領が陸続きとなり,ドイツ騎士団はついに歴史の表舞台に立つ資格を得た。
余勢を駆ってノルウェーを粉砕,スカンジナビアでデンマークと国境を接するところまでドイツ騎士団領は拡大した。
こうなってくると「ここまでくればなんでもできるんじゃ?」という気分にもなってくる。CoTはある,人的資源も充分,技術もそう遅れているわけではない。せいぜい,最先端の国に比べると陸軍が2段階くらい古くて,最大の国に比べると人的資源が3分の1程度に収まっている,その程度の差である。
……今後も頑張って生き延びます……
問題なのは外交だ。これまで不埒な悪行三昧だっただけあって,この国はすっかりダメになってしまいました,という点だ。なにしろ最も仲の良い相手がリトアニアで,関係はやっと+100。最大値は+200のパラメータだということを思い出すだけでげんなりだが,そもそも関係がプラスの国を探すほうがたいへんなのだから,さらにげんなりだ。もっとも,これまで
小国:同盟を結んでください。
騎士団:いいですよ(額面上の戦力Up)。
小国:他国から攻撃されています! 助けて!
騎士団:あなた誰でしたっけ?
これをさんざん繰り返してきたのだから,こちらをまともな国と見てくれる相手が少ないのも当然ではある。むしろ,こんな国にまだ同盟を結ぼうというオファーがあること自体が驚きだ。申し出てくる国は,1プロヴィンスしかない国ばっかりだけど。
過去のことはさておき,現時点でドイツ騎士団は技術が2流,人口は1.5流,資金は2流,インフラ3流以下という国である。どこか大国と手を組まないと,打って出るのは難しい。できればスカンジナビアからデンマークを叩き出したいのだが,戦力的にほぼ同等で,金回りは相手のほうが良さげ(維持費のかかる騎兵がいっぱいいる)なので,正直ちょっとしんどい。
さてどうしたものかと思っていると,ここで歴史が動いた。というか,動いてしまった。
「……その男は,自分が教皇だと名乗った。イタリアから逐われ,フランスから逐われ,現ベルギー付近から逐われ,しかしカソリックの伝統を引き継ぐためにやってきたのだと。
そして騎士団総長は驚くべき決断をする――この男に,ドイツ騎士団のすべてを委ねるという決断を。
かくしてドイツ騎士団は,教皇領となった。カソリック世界の頂点は,北欧に屹立したのである」
ええええええええええええ!!
これはなんと言ったものか……。とにかく起こったことをありのままに書くと,突然イベントウィンドウが開いて,「教皇庁が移転しました」的なメッセージが書かれていて,なぜかそこには「OK」ボタンしかなかった。押すしかないので押してみたら,自分の国が教皇領になってしまった。
いやあ本当に,EU3ではいろんなことが起こりますね。
それはそうとして,こうなったからにはますます,なにがなんでも生き残らねば。カソリック世界のためにも! この世界のスカンジナビア半島は,世界で一番プロテスタント人口が多いというところは,是が非でも無視する方向で。
さて皮肉にも,史実とは正反対の方向でドイツ騎士団の歴史的な役割が終わったいま,なすべきことは生存と体裁の維持であろう。だって教皇領だもん。
ヨーロッパに生存する国のサイズが全体的に大型化している現在,スカンジナビアからデンマークを叩き出すことは必須であるといっていい。デンマークが他国とつるんで教皇領に攻撃を開始したら,世界のどこにも友達のいない教皇領(国際関係は基本的に以前のものがそのまま維持される)は,直ちに店じまいである。自衛のためには攻撃するしかない。
とはいえ,前述のとおり正面切って戦うのは,かなりきつそうだ。資金的にいってオーストリアやブルゴーニュと関係改善を図るのも無理ではないが,同盟にまで持ち込める可能性は低い。また,こっちから見ると100年くらい進んだテクノロジーで固めた軍隊同士がぶつかる,ヨーロッパ全土を揺るがすような大戦争に巻き込まれたら,こんな朽ち果てた廃屋のような国では,ドアを一蹴りされただけで倒壊してしまう。
ならばやるべきことは一つ。これまで同様,準備をして待つのだ。
やがてその時は来た。デンマークとオーストリアの戦争が再燃したのだ。
この頃,オーストリアはすでに張子の虎となっており,戦争はデンマーク有利に進行していた。デンマークは勝利を確定させるために,スカンジナビアの軍隊をすべてヨーロッパ本土に投入する。
いまこそ,歴史から学ばぬ輩を教育する時間だ。戦闘艦6隻を主力とする二つの艦隊が,ユトランド沖に出撃する。移動するデンマーク陸軍の最後尾となった,歩兵と砲兵を中心とする約1万の陸軍部隊がシェラン島(首都のある島)に入ったタイミングで,デンマークに宣戦布告。今回ももちろん開戦理由なんてない。あえて言えば「我々が生き残るために必要だから」である。
デンマーク軍の主力は大陸にあり,そして海峡は教皇領海軍が封鎖している。デンマーク海軍が出撃したものの,数の差はいかんともしがたい。むしろ拿捕されて,こちらの戦力が強化される始末だった。
制海権が確定したところで,二つの艦隊をローテーションさせて適宜疲労を回復させながら,海上封鎖を維持する。デンマーク軍は大陸で釘付けとなり,砲兵隊は首都に閉じ込められた。敵影一つないスカンジナビアのデンマーク領を教皇軍はゆっくり制圧していき,やがてデンマークはその領土の大半を手放す,屈辱的な講和を飲むハメになる。
国土を分断される形で領土割譲が行われたいま,彼らはもはや教皇領の敵ではなかった。続く3回の戦争(全部開戦理由なし。書類を偽造してもよかったのだが,不当な開戦による安定度−3ペナルティにも,もう慣れました)で,デンマークは教皇領に完全に併合されたのである。
そうこうするうちに時代は進み,気がつけば1789年が迫っていた。フランス革命が起こるなら,それとどう向き合うかは教皇庁にとって重要な問題である。
だがフランス革命は起きなかった。ヨーロッパではつつがなく王権が維持され,そして相も変わらず各国は互いに争っていた。いやはや,革命がなくても,ナポレオンがいなくても,人間は戦争をするものらしい。
教皇領はここに至って過去を振り返り,今後は文化の保護に尽くすことにした。著名な哲学者のパトロンとなり,また国を挙げて美と芸術を奨励した。これによって教皇領の名前が恥じ入るくらい低かった威信は徐々に向上し,1800年を迎える頃には世界が羨望と驚異の眼差しで見つめる,文化国家へと成長した――そう,350年前の姿を知っている者が聞いたら張り倒したくなるような国家に。幸いなことに,人間は350年も生きられないらしい。
最終的に教皇領は,ポーランドとの同君連合から離脱したリトアニアと「カソリック連合」を結成。技術では致命的に遅れているものの,その問題は人の数でカバーするという,実にスラブ的な発想で対処した。文化母体としてロシア文化圏が含まれているんで,人海戦術はわが陣営固有の文化ですよ,文化。
当然ながら,この「権威と人口の結婚」をヨーロッパ諸国は脅威と認識。リトアニア主導で行われたオスマン朝征伐では,ほとんどのカソリック国が反・教皇=リトアニア連合に動くという,まことに嘆かわしい状況になったのだが,無限に湧き出るリトアニア兵の前に戦争はうやむやに終わった。いずれにしても,戦争と宗教が強固な相関を見せる時代はとうに過ぎ去っていて,それは「教皇領」のアイデンティティそのものに及ぶ時代の波であった。
ドイツ騎士団の驚くべき顛末は以上である。まさかゲームの中で本当にドイツ騎士団領が,その歴史的役割をまっとうしてしまうなんて……。
それはそうとして,ポーランドはヨーロッパで実質ただ1国のプロテスタント国家で,その真北に展開した教皇領がヨーロッパ最大のプロテスタント信仰地域を制圧しているというこの地図,やはり「あれはポーランド史上最大の誤りだった」のは変わらないらしい。
最後になるが,チュートン騎士団は現在も存続している。当然ながら固有の領地は持っておらず,慈善団体としての性格が強いものの,史実においても彼らの歴史は,未だ絶たれてはいない。
※各章のタイトルは「Portal」のエンディングテーマ「Still Alive」の歌詞より引用しました。
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