レビュー
DHARMAPOINT初の日本語メカニカルキーボード2製品,その価値を探る
DHARMA TACTICAL KEYBOARD
(DRTCKB102PBKS,
DRTCKB102UBK)
» DHARMAPOINTのキーボード第2弾にして,初の10キー付き仕様,初のメカニカルスイッチ仕様を採用した製品のレビューをお届けしたい。PS/2接続モデルとUSB接続モデルの2種類が用意された意味,そしてそもそも,どこまでゲーム用途に最適化されているのかを,米田 聡氏がチェックする。
同ブランド初のキーボード製品「DHARMA TACTICAL KEYBOARD(DRTCKB91UBK)」は,東プレ製品「Realforce」をベースとしたカスタムバージョンだったが,第2弾となる「DRTCKB102」シリーズは,ZF Electronics(旧Cherry)の「MX」メカニカルキースイッチ,いわゆるCherry黒軸を採用し,さらには独自のキー配列を採用して底面積の省スペース化を図るなど,各所に“DHARMAPOINTらしさ”を出そうとした跡が見える意欲作だ。
では,実際のところ,使い勝手はどのレベルに達しているのか。今回はそのあたりを掘り下げてみることにしよう。
日本の平均机上サイズを考慮した横幅379mm
カーソルキーなどは特殊配置に
ただし,PS/2接続のDRTCKB102PBKSには,DRTCKB102シリーズと同時発売されたDHARMAPOINT製のPS/2−USB 1.1変換アダプタ「DRKBCN」が付属し,USB接続も可能になっているため,あえて上下関係をつけるなら,PS/2&USB両対応となるDRTCKB102PBKSのほうが上位モデル,ということになる。
上に示した写真を見ると分かるのだが,DRTCKB102シリーズの両製品は,「一般的なフルキーボードから,“カーソルキーや[Insert][Delete]キーなどの段”を削って,メインキーボードと10キー部をくっつけた」ようなデザインになっている。
縦横のサイズは379(W)×150(D)mm。一般的なフルキーボードは横幅が440〜470mm程度あるので,ざっと60mm程度は短くなっているわけだ。
キーボードの幅が狭ければ,その分だけマウスパッド用のスペースを広く取れるというのは言うまでもない。ただし,だからといってキーピッチを一般的な19mmよりも短くしてしまうと,打ちづらくなってしまう危険性がある。そこでDHARMAPOINTは,
- 一般的な日本語109キーボード仕様をベースとし,10キー部を搭載すること
- 一般的な19mmのキーピッチを確保すること
- 机上サイズ(※机のサイズではない)の横幅を800mmと仮定したうえで,その半分となる400mmをマウスパッド用に確保し,ローセンシ志向のプレイヤーに不便さを感じないこと
以上3点を前提として,小型化を図った。その結果がDRTCKB102であると,製品マニュアルに用意された技術解説コラム「プロダクションノート #007」内で述べられている。
もちろん,省スペース化に当たって,特定のブロックがまるまる削られている以上,犠牲になるキーは出てくる。具体的には,
- 左右[Windows]キー
- [Menu]キー
- 右[Alt]キー
- [Home]キー
- [End]キー
- [Page Up]キー
- [Page Down]キー
の八つ。[Windows]キーと,メニューウインドウ風のイラストとカーソルが描かれる[Menu]キー(※通称「アプリケーションキー」)が省かれているので,「日本語106キー配列から,5キーを省略したもの」と説明したほうが,より正確かもしれない。
面白いのは,製品名にもあるとおり,102キー仕様であることだ。実は,10キー部分に,見慣れない[=]キーが追加されており(※手元のキーボードとと見比べてほしい),これにより,“109−8+1=102”となっている。
■[Windows]キーを省略するという英断
省スペース化に当たって,どのキーを削り,どれを残すかについては,開発側もずいぶんとこだわったようだ。
ゲーム中に左[Ctrl]キーなどを押そうとしてうっかり左[Windows]キーを押してしまい,面倒なことになってしまった経験のある読者は多いだろう。ゲームプレイに当たって,[Windows]キーは明らかに不要なのだが,ゲーマー向けキーボードでも,完全に省略したものはほとんどない。何らかの方法で機能を無効化できるようにする――例えばDRTCKB91UBKだと,付属のキーストッパーを使えば物理的に押せないよう加工できた――ことで対応するのが普通だ。
これに対してDRTCKB102では,[Windows]キーを省略したことで,こういった事後対応を行う手間がなくなっている。また,できる限りフルキーボード仕様に近づけたことで,(コンパクトキーボードやノートPCのキーボードでよく見かける)[Fn]キーも必要なくなり,結果として,左[Shift]と並んでゲームプレイ時に多用される左[Ctrl]キーが大きくなるという,副次的なメリットも生まれている。
このあたり,DHARMAPOINTは前出のプロダクションノート内で,
現在においてWindows中心に動いている我々パソコン周辺機器業界ではWindowsキーのないキーボード開発など新製品においては,ほぼ考えられないのが実情だ。Windowsキーがあることで,一般のユーザーには現在のOSに則したウィンドウズ○○対応のキーボードとアピールすることもできる上に実用面においてもWindowsキーを使う便利なショートカットキーが目白押しでマーケティングサイドからいえば,拾わない手はないというほどのキーであり発売するにあたってWindowsキーが付いていないのは自殺行為とでも判断される世界なのである。(※原文ママ)
と,[Windows]キーを省略することに,かなりの議論があったことを振り返っているが,いくら一般ユーザー向けのメリットがあっても,“うっかり押すと,最悪デスクトップに戻ってしまう”という,ほとんど自爆ボタンのようなキーは,やはりゲームには不要なのである。この点で,[Windows]&[Menu]キーの省略と,[Ctrl]キーの大型化は,大いに賞賛したい決断といえるだろう。
キーボードとしての利便性を考えると,確かにカーソルキーはあったほうがいい。カーソルキーでFPSをプレイする人が存在することも考えると,カーソルキーの周囲,指が届きやすい部分にキーが豊富なのも歓迎できるが,一方で,このあたりの配置が相当特殊なものになってしまい,慣れるまで時間を要するという減点材料もある。
ところで,横幅を短くし,空いたスペースにキーを詰め込んだことで,LEDインジケータを埋め込む場所がなくなったため,[Caps Lock][Scroll Lock][Num Lock]キーには,それぞれ緑色LEDが埋め込まれているのだが,これが思いのほか便利だ。とくに[Caps Lock]キーは,うっかりオンになっていると,パスワードの入力ミスが発生したりすることもあるのだが,LEDにより,Caps Lockされているかどうかが直感的に分かりやすくなっているのはいい。
クセのないキーの並びと
黒軸スイッチは好印象
高さはチルトスタンドを立てない状態で,キートップを除き29mm(公称値)となっており,チルトスタンドを立てると本体の奥側が44mm(同)に持ち上がる。キートップの高さは実測で10mmだ。キーの配置は,手の形に沿ってわずかに湾曲しながら階段状に並ぶシリンドリカル・ステップスカルプチャ(Cylindrical Step Sculpture)仕様である。
ただし,ここで注目すべきは「±20g」のところで,DRTCKB102では実のところ,押し始めの押下圧は公称40g。コインを使った実測では,30g強くらいからキーが沈み始めるようで,実際の操作感は40gというスペックよりさらに軽い。
したがって,DRTCKB102を使うポイントは――黒軸スイッチを搭載するほかのキーボードと同じだが――「底まで押し込まないこと」である。底まで押し込むクセがある人にはとても重く感じられるので,その場合,慣れるまでは操作に戸惑うだろう。
ちなみに,キースイッチが反応する深さは約2mmほど。キーストロークは4mmあるので,半分ほど押し込んだところでスイッチが反応することになる。2mmというストロークは,最近のゲーマー向けキーボードとしては標準的で,一般的なキーボード製品と比べると浅い。軽いキーと浅いキーストロークにより,軽快な操作を行える。
これに対して,ZF Electronics純正とされるこのスタビライザーは,キースイッチとほぼ同等の機構によってできており,キーのどこを押しても,同じようにキー全体が沈み込んでくれる。押下圧が,キーの中央と左右両端でほとんど変わらないのもポイントが高い。
PS/2モデルは16キーの同時押しに対応
PS/2−USB変換アダプタ,USBモデルも及第点
この点,DHARMAPOINTは,DRTCKB102シリーズについて,「Nキーロールオーバー」仕様を採用したとしている。DHARMAPOINTは,Nキーロールオーバーについて「同時にキーを押した際にすべてのキーの入力を読み取れる機能」(※プロダクションノートより原文ママ)と定義しているので,要するに,三つのキーが押されたら,三つのキーすべてが読み取れなければならないというわけだ。
ここで注意する必要があるのは,Nキーロールオーバーという仕様とは別に,PS/2接続のDRTCKB102PBKSは,PS/2−USB変換アダプタであるDRKBCN使用時に最大10キー,USB接続のDRTCKB102UBKは最大6キーと,同時押し対応の上限が定められていること。USBの仕様により,同時押し可能なキーの数は最大6※で,DRTCKB102UBKは仕様どおりというわけだが,DRKBCNがそうでないのは興味深い。
※多くの場合,USBキーボードが一度に転送できるデータ量は8bytesと規定されており,先頭の1byteは[Ctrl]や[Alt]などといった修飾キーの情報が入り,2byteめはreserved。残る6bytesに,押されているキーの情報が1byteあたり1個入るため,修飾キーを除くと最大6キー,ということになる。
そこで今回は,データが明らかになっていないDRTCKB102PKBSのPS/2接続時も含め,2製品3パターンの同時押し対応数をチェックしてみることにした。具体的には,同時に押されているキーをDirectInputのAPIで調べる自作ツール「4Gamer Keyboard Checker」のβ版を用いて,実際に同時押し対応数を確認する。一般的なPCゲームタイトルと同じAPIでテストできる本ツールに関しては,最終の動作確認を経て,できるだけ早く公開する予定だ。
というわけで,まずはDRTCKB102PBKSを,PS/2インタフェースで接続した環境での動作結果を示したのが,下の画面である。結果はご覧のとおりで,最大16キー。「全キー同時押し」というインパクトはないものの,指の数が10本ということを考えれば,まったく問題のないレベルであるといっていいだろう。
続いて,DRTCKB102PBKSを,同製品に付属するDRKBCN経由でUSB接続したときの結果を示したのが下の画像だ。仕様では10キーのはずなのだが,実際には最大14〜16キーを検出できている。
この理由は何だろうか。DHARMAPOINTに確認したところ,「Windowsは,11キー以上を同時に押すと,キーボードの種類,もしくはタイミングによって,2〜3キーがリピートされ,ユーザーの意図しないキー入力が発生する。そのため,問題の発生しない10キーまで(を仕様)としている」という回答が得られた。
実際,テストを重ねると,(必ず発生するわけではないが)押していないキーが押されたかのように反応したり,押されっぱなしになってしまったりする現象
に出くわすことがあった。DRTCKB102PBKS+DRKBCNで,仕様とテスト結果に違いが生じたのは,この現象によるものだったというわけだ。つまり,この現象を無視すれば,10キーを超える同時押しも可能ということになるが,DHARMAPOINTの保証外になるのでご注意を。DRKBCNでサポートされるのは,あくまで10キーの同時押しまでである。
ちなみにこの現象,100%の再現性があるわけではなく,限りなくバグっぽいのだが,現時点ではWindowsの仕様とされているようだ。DHARMAPOINTでは,Windows以外のOSだと,この問題が起きないことを確認しているという。
さて,最後に,後回しになってしまったが,USB接続版のDRTCKB102UBKの検証結果も念のため掲載しておくことにしよう。ご覧のとおり,カタログどおりのテスト結果となっている。
ゲームでの操作性は申し分なし
キー配列が気にならなければ買い
以上,レイアウトやスイッチの品質,同時押しなどについて細かく見てきたが,実はここまでで,ゲームでの使い勝手に関するポイントは,一通り述べ終えた感じだ。現時点で筆者が最も慣れているFPSである「Enemy Territory: Quake Wars」(以下,ETQW)や,最近始めた「Quake Live」のβテスト版,いずれにおいても,DRTCKB102シリーズの操作性は高いレベルにある。
同時押し数に制限が少ないことがゲームプレイにもたらす安心感も,ほかには変え難い。ちょっとしたこと,例えば「武器の変更」一つ取っても,一般的なキーボードを使っていると,同時押し数の制限に当たって,「武器変更のショートカットキーを押したはずなのに……」といったことがよく起こるが,DRTCKB102において,その心配は無用だ。右手でマウスを握っている限り,同時押し数が最大6のDRTCKB102UBKでも不安はない。PS/2接続で使いたい場合や,6キーでは不安という場合には,DRTCKB102PBKSを選択する,といった感じだろうか。
キーボードサイズも,実際にディスプレイの前にマウスパッドとセットで置いてみると,その小ささを実感できる。極端に小さいというわけではないので,一般的なフルキーボードからの移行でないと,メリットとして感じるのは難しいかもしれないが。
本製品に問題があるとすると,やはりそれはキー配列,ということになる。DHARMAPOINTがこだわり抜いた配列であり,そこに意味があることもよく分かるのだが,メインキーボード部右端が変則的であることは確かだ。
[W/A/S/D]まわりには何のクセもないので,ゲーム中に違和感を覚えることはまずないだろう。また,メインキーボード部右端部分も,19mmピッチ自体は守られているため,慣れの問題といってしまえばそれまでかもしれない。
ただ,これまで一般的なフルキーボードに慣れ親しんできたタイプの人だと,とくにゲームをプレイしていないときに,カーソルキーを使いづらく感じそうだ。また,[Delete][Insert][Page Up][Page Down]キーなどが,“普通に”配置されていることを前提として,フルキーボードを選んできた人だと,最初は相当な違和感と戦うことになるだろう。キーボードを買い換えるのに当たって,そういう「慣れる作業」を苦痛だと思う人には,残念ながら勧められない。
逆にいうと,キー配列にハードルの高さを感じない人にとっては,間違いなく最良のゲーマー向けキーボードの一つだ。ハードウェアとしての完成度は非常に高く,かつ,Cherry黒軸仕様のメカニカルキーボードとしては価格もまずまず。ゲーム,そして一般的なPC用途にと,とことん使い倒せるハイエンドキーボードを探しているなら「買い」である。
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