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[TGS 2008#003]CESA和田会長の基調講演「ゲーム産業新世代に向けて,日本がなすべきこと」
CESA会長 和田洋一氏 |
東京ゲームショウ2008の初日に開催される「TGSフォーラム」の基調講演には,社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)の会長で,スクウェア・エニックスの代表取締役でもある和田洋一氏が登壇。和田氏は,「本日は抽象的なお話をしますが」と冗談めかして断りを入れつつ,「海外のゲーム産業が発展するなかで,日本のゲーム産業が向かうべき方向,なすべきこと」について話を始めた。
和田氏はまず,日本のゲーム産業が海外勢との“発展速度”において,追いつかれ追い越されてしまったという現状を披露。「昔は,日本はゲーム産業のリーダーだと自信を持って言えたが,今はどうだろうか」と,業界のイニシアチブを失いつつある点を指摘した。
日本産のゲームが国内でもシェアを奪われつつある現状に対し,“よくいわれる言説”を持ち出した和田氏は,
・ハリウッド映画,アニメ,漫画など,万国で受け入れられるコンテンツはあり,趣向性の問題ではない
・日本企業の財務体制面は強固であり,この点が北米に比べ問題になるとは言えない
・世界的に,「成功したコンテンツファンド」の例はほとんどなく,ファンドの問題とは言えない
といった具合に各説を一蹴,
氏によれば根本的な問題は,「日本ゲーム産業が『物作りのコミュニティ』を発展させてこなかった」ところにあり,問題解決のために今後日本のゲーム産業は,「ネットワーク型の産業に変化していくべき」とのことだ。
和田氏は,「日本のゲーム産業に勢いがあったとき,我々は,もっと外に広がっていくべきだった」と,過去を反省しつつ振り返る。「私が言うといろいろと問題もあるのだが,ゲームの開発者は,職人気質的なところもあって,その“作り方”について,『やって覚えるんだ』,『見て盗め』みたいなところがあったかもしれません。要するに,ゲーム業界から外に知識を求める,知識を広げる努力をしてこなかった」と語りながら,「一方北米では,学校教育まで根を広げ,ハリウッドなど他産業との連携を密にしています」と,その差に対する危機感を露わにした。
和田氏が語る「ネットワーク型の産業」というのは,インターネット云々とかそういう意味でのネットワークではなく,知識が重層的に折り合うという意味でのネットワークという意味だ。
現状の危機に対して一通りの説明を終えたあと,和田氏は,「コミュニティをオープンにしていかないと,日本の『物作り』の土壌が細くなっていくのではないか」と語りながら,「とはいえ,日本のゲーム会社にはまだまだ力があり,今後,危機の本質を自覚して取り組んでいけば,まだまだ間に合う」と説明。「まずはできるところから手を付けるべき」だとして,CEDECなどの取り組みをより充実させること,教育/研究分野の促進などを提示しながら,講演を終了した。
ここ最近の和田氏というと,海外のゲーム市場を見据えた発言が目立つ節があったが,今回の講演もまた,海外市場,そしてそこへ向けて日本のゲーム産業が進むべき道を示唆する話であった。
CESAでの取り組みをはじめとした業界人としての和田氏,そして「インフィニット アンディスカバリー」や「ラストレムナント」など,海外市場を意識した“和製RPGの普及”への取り組みなどというスクウェア・エニックスの代表としての和田氏。この両面から,今後の氏の活躍に注目したい。
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