レビュー
55nmプロセス製造の新世代エントリーGPUが持つ価値を探る
GF9500GT-E512H/HS
ZOTAC GeForce 9500 GT AMP! Edition
» NVIDIAの新世代エントリーGPUを,宮崎真一氏が評価する。GeForce 9世代のローエンドとして,前世代のエントリーミドルレンジたるGeForce 8600シリーズを置き換える存在だが,果たして,2008年夏の時点で,ゲーマーにとってどんな価値があるだろうか。
今回4Gamerでは,玄人志向製のDDR2メモリ搭載モデル「GF9500GT-E512H/HS」,そしてZOTAC International製のGDDR3メモリ搭載クロックアップモデル「ZOTAC GeForce 9500 GT AMP! Edition」(型番:ZT-95TES2P-FCL)の2製品をそれぞれ玄人志向とアスクから借用できたので,さっそく検証してみたいと思う。
ZOTAC GeForce 9500 GT AMP! Edition メーカー:ZOTAC International 問い合わせ先:アスク(販売代理店) info@ask-corp.co.jp 価格:未定 |
補助電源いらずのコンパクトなカードサイズ
2枚はデザインも仕様もかなり異なる
GeForce 9500 GTと,価格帯や位置付け的に重なるところの多いGPUとの違いを,表1にまとめたので参考にしてほしい。
まずGF9500GT-E512H/HSのカード長は実測167mm(※突起部除く)。「GeForce 8600 GT」のリファレンスデザインである175mmより短い。また,これはGeForce 8600 GTと同じだが,PCI Express用の6ピン補助電源コネクタは用意されておらず,消費電力の低さが窺える。
グラフィックスメモリにはNanya Technology(のElixirブランド)製チップ「N2TU51216BG-25D」(2.5ns品)を採用し,計8個搭載することで容量512MBを実現。GPUクーラーは2スロット仕様の大型パッシブヒートシンクを搭載するが,一方でグラフィックスメモリチップは剥き出しの状態である。
ちなみにGPU-Zのスクリーンショットではリビジョンが「A1」となっているが,これは誤表示。本稿の冒頭に写真で示したとおり,実際に搭載しているのは55nmプロセスで製造されるB1リビジョンとなっている。ダイサイズは実測で11×11mmだった。
GPUクーラーは52mm角相当のファンを搭載した1スロットタイプ。この冷却ファンはGPU温度により自動制御されるタイプで,標準状態の回転数は30%だ。GPU温度が75℃以上にならないと回転数は50%に上がらない仕様になっており,筆者の耳にはかなり静かに聞こえた。
ちなみに搭載するメモリチップはこれまた剥き出し。採用するSamsung Electronics製GDDR3チップ「K4J52324QE-BJ1A」(1.0ns品)はカードの表面に4枚,裏面に4枚搭載し,その総容量はやはり512MBとなる。
クロックアップモデルということで気になる動作クロックは以下のとおり。
- コア:550MHz→650MHz
- シェーダ:1400MHz→1625MHz
- メモリ:1.6GHz相当(実クロック800MHz)→1.8GHz相当(実クロック900MHz)
クロックアップモデルであっても,PCI Express用補助電源は不要だ。
※2008年7月31日追記
玄人志向の「GF9500GT-E512H/HS」は,GPUチップ上の刻印が削り取られていて判別ができなかったが,コンデンサの配置を見るに,どうやらこれは65nmプロセスを採用しているもののようだ。そのため,上記のGF9500GT-E512H/HSに関するGPU-Zの表記は正しいことになる(※本文は初出時のまま残してある)。
GF9500GT-E512H/HSのGPUチップ。「G96-300」までしか判別できない
しかし,ZOTAC GeForce 9500 GT AMP! Editionは,本稿冒頭の写真で示したとおり,間違いなくB1リビジョンを搭載。それにも関わらずA1と表示されており,バージョン0.2.6のGPU-Zは,55nmプロセスのGPUを正常に認識できていない。
いずれにせよしばらくの間,GeForce 9500 GT GPUは65nm版と55nm版が混在することになりそうだ。
エントリーGPUらしく低解像度に絞ったテストを実施
GDDR3モデルはリファレンスクロックでも評価
基本的に,比較対象としてはリファレンスクロック採用モデルを選んだが,「EN8600GT/HTDP/256M」はシェーダクロックのみクロックアップされていたため,今回,同製品のシェーダクロックはGeForce 8600 GTのリファレンスである1190MHzに下げて使用している。
また,ZOTAC 9500GT AMP Editionは前述のとおりクロックアップモデルなので,同製品の標準状態のほか,NVIDIA製ユーティリティソフト「NVIDIA System Tools」(Version 6.02)を用いてリファレンスクロックまで下げた状態でもテストを行うことにした。
なお,ドライバの「GeForce Driver 177.72 Beta」はNVIDIAからレビュワー向けに提供されたものである。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション5.2に準じるが,今回の主役はエントリーGPU。その非力さは容易に想像できるため,今回はテスト解像度を800×600/1024×768/1280×1024ドットに,また,アンチエイリアシング&異方性フィルタリングを適用する「高負荷設定」を省略して,「標準設定」のテストのみにそれぞれ絞っている。
9600GT-512X リファレンス仕様の9600 GTカード メーカー:Albatron Technology 問い合わせ先:アスク(販売代理店) info@ask-corp.co.jp 実勢価格:1万8000円前後(2008年7月29日現在) |
EN8600GT/HTDP/256M オリジナル静音クーラー搭載の8600 GT メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) news@unitycorp.co.jp 実勢価格:1万1000円前後(2008年7月29日現在) |
なお以下,とくに断りのない限り,文中,グラフ中とも「GeForce」を省いたGPU名で表記を行う。また,9500 GTは3パターンあるため,DDR2メモリ搭載モデルを「9500GT[DDR2]」,GDDR3搭載クロックアップモデルを「9500GT[OC]」,そして9500GT[OC]をリファレンスクロックで動作させた状態を「9500GT[GDDR3]」と表記する。
GDDR3搭載のリファレンス動作で
8600 GTSにあと一歩及ばないレベル
グラフ1は「3DMark06 Build 1.1.0」(以下,3DMark06)の結果である。本稿では見やすさを考慮して,一番上を9600 GTのテスト結果にしているので,9500 GTのスコアはオレンジ系のバーを見てほしいが,9500 GT[GDDR3]が8600 GTSに一歩及ばず,9500 GT[OC]で逆転している。
一方の9500 GT[DDR2]は,8600 GTとほぼ互角のスコアだ。
実際のゲームにおけるパフォーマンスを見ていこう。
グラフ2はFPS「Crysis」から,GPUベンチマーク「Benchmark_GPU」のテスト結果をまとめたものだが,ここでは9500 GT[OC]が8600 GTSと並び,9500 GT[GDDR3]は一歩置いて行かれている。9500 GT[DDR2]が8600 GTのスコアを上回っているのは,グラフィックスメモリ容量に2倍もの違いがあるためだろう。
もっとも,レギュレーション5.2の合格基準フレームレートである40fpsは,9600 GT以外すべてパスできず。Crysisのような描画負荷の高いゲームタイトルを満足にプレイするのは,やはりこのクラスのGPUだと厳しい。
同じくFPSから,Crysisと比べると圧倒的に“軽い”「Unreal Tournament 3」(以下,UT3)のスコアをまとめたのがグラフ3である。描画負荷が軽い状態ではクロックアップモデルがメリットを発揮しやすいが,果たして9500 GT[OC]は低解像度でスコアを伸ばしている。UT3の合格ラインである60fpsを,9500 GT[GDDR3]がクリアしている点も興味深い。
もう一つ,UT3以上に描画負荷の低いFPS「Half-Life 2: Episode Two」(以下,HL2EP2)のスコアを見てみると,800×600ドットではCPUボトルネックによるスコアの頭打ちが見られた(グラフ4)。1024×768ドット以上では,UT3とほぼ同じ傾向を示しているといっていいだろう。
TPSの「ロスト プラネット エクストリーム コンディション」(以下,ロスト プラネット)のベンチマークモード「PERFORMANCE TEST」から,実ゲームに近い傾向を見せる「Snow」のテスト結果をまとめたのがグラフ5だ。
ロスト プラネットはグラフィックスメモリ負荷の高いタイトルだけに,128bitメモリインタフェースを持つ9500 GTは不利。9600 GTに大きく離される。また,メモリクロックの低い9500 GT[DDR2]は8600 GTにかなり置いて行かれる。
ただ,800×600ドットで合格基準の40fpsを上回っている点には,相応に価値があろう。描画設定をある程度落とせば,1024×768ドットでもプレイ可能になると期待が持てるレベルに,9500 GT[GDDR3]と9500 GT[OC]はある。
最後にRTSの「Company of Heroes」(以下,CoH)の結果をグラフ6にまとめた。ここでもUT3やHL2EP2と同じような傾向が出ている点に注目しておきたい。
55nmプロセスの採用により
消費電力は若干低下
55nmプロセスを採用することで,80nmプロセスで製造される8600シリーズからどれくらい消費電力が低下しているのかは気になるところだろう。
今回もいつものように,OSの起動後,30分間放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,各タイトルごとの実行時として,システム全体の消費電力を計測することにした。消費電力変化のログを取得できるワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いてスコアを取得し,まとめたものがグラフ7である。
アイドル時のスコアを比較してみたとき,9600 GTが高めであることを除くと,ほかはいずれも100W以下で固まっており,ほとんど同じ。対してゲームアプリケーション実行時だと,9500 GTは――グラフィックスメモリの種類とクロックによって若干の違いはあるものの――おおむね160W台前〜中盤に収まっている。
もう少し細かく見てみると,9500 GT[DDR2]が8600 GTと同程度。9500 GT[OC]が,8600 GTSを確実に下回っている。総じて,GeForce 8世代のエントリーミドルレンジGPUから,若干の消費電力低下を実現しているといってよさそうだ。
続いて,3DMark06を30分間連続実行した時点を「高負荷時」として,室温24℃の環境にバラック状態で置かれたテストシステムにおけるGPU温度を測定した結果がグラフ8である。測定に用いたのはGPU温度取得機能を持つ汎用ユーティリティソフト「ATITool」(Version 0.27 Beta 3)だ。
GPUクーラーが異なるので,スコアはあくまで参考値となるが,9500 GT[OC]のスコアを見るに付け,ZOTAC 9500GT AMP Editonのクーラーはなかなか優秀。前述したとおり,GPU温度が75℃まで上がらない限りファンは低回転が維持されるので,よほど劣悪な温度環境に置かれない限り,高負荷時にも静かに運用できそうである。
9500 GT[DDR2]はファンレスモデルなので,この温度は致し方ない。
1万円を超す価格設定はやや疑問だが
「補助電源なしの小型カード」を求めるなら……
とはいえ,SFF(Small Form Factor)やミニタワーなど,補助電源を必要としない小型のグラフィックスカードに対するニーズは,少なからずある。そういった層にとっては,相応に価値があるのではなかろうか。
ただそのとき,グラフィックスメモリの仕様には注意したい。3Dゲームを前提に9500 GTを選択するのなら,GDDR3メモリ搭載製品を選ぶべきである。また,ゲームのグラフィックス設定を落としたり,解像度を下げたりといった妥協が必要な点も覚えておきたいところだ。
- 関連タイトル:
GeForce 9500/9400
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