レビュー
外交と人間関係が拡充された,中世ヨーロッパシムの傑作
クルセイダーキングス デウス ウルト【完全日本語版】
» 中世ヨーロッパシム「クルセイダーキングス デウス ウルト」を,当サイトでParadox Interactive作品といえばこの人,アトリエサード 徳岡正肇氏がレビューする。海外でも評価の高い作品なのだが,まだ英語版でさえ動作安定性に不安があるなど,いくつか問題が残っているのも事実。現状での魅力と問題点をともにお伝えしよう。
「ままならなさ」の頂点を極めたパラドゲー
プレイヤーはヨーロッパ中世の封建領主となり,悲喜こもごもな歴史のうねりを乗り越えて自らの家系を維持していくのがプレイ目標だ。ヨーロッパを軍事的に統一するといった荒事も不可能ではないが,あくまで本筋は家系のサバイバルといってよい。
率直に言って,このシリーズが再び日本語ローカライズされたこと自体に少々驚きを覚えた。主要参与国として日本が含まれる「ハーツ オブ アイアン」シリーズや「ヴィクトリア」,テーマに沿った活躍は難しいものの日本でプレイできる「ヨーロッパ・ユニバーサリス」シリーズなどと異なり,本作の舞台はヨーロッパ圏となっていて,どうやっても日本は出てこない。
テーマは中世の暗黒時代における封建領主の興亡と,これまたとてつもなく地味なうえ,ゲームは実にParadox Interactive作品らしく,荒唐無稽な軍事覇権を確立することなど実質不可能な構造である。そして当然ながら,派手なアニメーションや3DCGを駆使したカットシーンなども存在しない。
戦争といっても,いつもどおりの地味な画面。何か派手なビジュアルで動作条件や速度が変わったら,文句が付きかねないゲームジャンルなのである |
圧倒的に有利な戦況であっても,有能な将軍がむざむざ戦死することは十分あり得る。とかくこの世はままならない。それを肌で教えてくれるゲームだ |
もっとも,CKからCKDVになったことでゲームの骨子が大きく変化したわけではない。CKDVの面白さはCKの面白さであり,CKDVは,CKがもともと持っていた楽しさを巧みに拡張したセットといえよう。
CK自体の魅力についてはメディアクエスト/ライブドア版のレビューをご覧いただくとして,以下ではCKDVで何が追加され,何が変わったかをざっと見ていこう。
国同士の外交感情パラメータが追加された
もっともこの関係表示,ほかの作品ほど「あてになる」ものではない様子。AIの設定にもよるが,たとえ関係が+200であろうとも,攻めてくるときは攻めてくると思ったほうがよい。多かれ少なかれ国民全体が他国に対する感情を共有している近代以降と比較して,この時期における友好度なんてものは結局,君主および宮廷人士がその国をどう考えているかの指標でしかない。そして義理や人情が国際政治の重要なパラメータになり得ないことは,中世においても同様なのである。
人間関係が外交関係を決める中世
もう一つ,大きな追加要素が「友人」「敵」の概念である。CKDVに登場する人物は,ことごとくこの「友人」や「敵」を持つ可能性がある。当然だが,友人となったキャラクター同士は良好な関係にあり,敵となればその関係は冷めきったものとなる。
友人関係は非常に重要。当たり前だが「友人は敵ではない」というのがとくに大事 |
この手の偉いさんが敵になると,そのまま国際関係に影響を与えることがままある |
ここで問題になるのが,中世国家の方向を決定するのは,民衆の意思ではなく封建領主の意思であることだ。個人レベルの対人関係にすぎない「友人」と「敵」は,簡単に国際政治における重要なファクターへと昇格してしまう。
また,こういった人間関係は宮廷の廷臣達の間でも展開する。宮廷の中枢部で友人関係が花開くならともかく,敵対関係の泥沼が生ずると,国家の存亡に関わる。とくに「敵」となった有力者は暗殺すら仕掛けてくることがあり,そこで発生した小さな揺らぎは,一歩間違えると簡単に国家の屋台骨を揺るがす。
里子? 人質? 「留学」制度導入
そして,ここに「留学」という要素が加わることで,事態のカオス度はさらに高まった。小規模な領主達は,より実力を持った領主の宮廷に自分の子弟を留学させてくる。留学といえば聞こえはよいが,実態は里子に近い。
国外から留学してきた子供達は,そこでさまざまな人間関係を育む。いじめる/いじめられるなど日常茶飯事,恋が芽生えることもあれば,あまりのストレスに精神疾患を示すこともある。そして,そうやって培われた人間関係が,次代の国際政治を生み出していくのだ。
イベント発生率に影響する? 国の「安定度」
このほか,各種インタフェースも大きく改善された。なかでも情報閲覧性の著しい向上は間違いなく朗報で,うまくいっているときの国家を,よりスムースに管理できるようになった。つまり安定度と同じく,見やすくなったからといってダメになり始めた国を救えるかといえばそんなことはなく,こりゃダメだという状況をより明確に認識できる程度である。
動作安定性とプレイバランスについてはパッチ待ちか
現時点で最も痛いのが動作安定性である。CKDVはとにかくよく落ちる。とくに,なんらかの理由で領主が死んで,国が後継者に委譲される瞬間など,大量のデータ変動が起こるとき,非常に高確率で落ちる。最低限の自衛策として,オートセーブは1か月単位に設定しておくことを強く推奨したい。
そして動作はかなり重い部類だ。正確に測定したわけではないが,CKに比べて,同じ期間のプレイに2倍以上の時間がかかる。かつてCK関係の記事を書くために取ったメモと比較する限り,3倍近い時間がかかっている場面すらある。とりあえず快適なプレイには,Core 2 Duo以降のCPUが必須といってよいだろう。
ちなみに現時点での問題は,自国が簡単に滅びるといったよくあるものではなく,モンゴルがあっさり壊滅しがちという,なかなか個性的なものだ。それはそれで面白い気もするが,ゲームテーマの根幹にかかわるだけに,茶化している場合でもない。Paradox Interactive各製品のパッチについて,ここまできちんとフォローしてきているサイバーフロントがパブリッシャだけに,英語版パッチの熟成を待ったうえでの,日本語版パッチの円滑なリリースを期待したい。
そういったわけで,いろいろと問題も残る本作だが,仕様拡張によってますます興味深い中世人物絵巻になったのは間違いない。個人的には英語版パッチの進捗状況を見守りつつ,どうすれば隣の国に呑み込まれないで済むかというレベルの小勢力プレイを,しばらく気長に進めるつもりだ。それでも十分面白いのである。
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