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ゲーマー向けディスプレイにも「AIアシスト」の波が来る? ASUSの最新有機ELディスプレイの見どころをチェック
本稿ではそれ以外の,ゲーマー向けディスプレイを中心に紹介していこう。
コスパ重視のゲーマー向け有機ELディスプレイ
ROG Swift OLED XG27AQDMG
ASUSのゲーマー向け製品ブランド「Republic of Gamers」(以下,ROG)ブースにおいて,2024年のディスプレイの注目ポイントは2つある。
ひとつは,イチオシ製品のすべてが有機ELディスプレイということだ。価格面では液晶ディスプレイよりも高くなるが,それでも,だいぶこなれた値段まで降りてきている。
2つめは,AI支援でゲームを遊びやすくする「AIアシスト」機能だ。「その機能は,役立つか否か」という議論はあるだろうし,それ以前に,「そんな機能を使ってまで,ゲームをプレイして楽しいのか」といった不要論にも発展しそうで,とにかく大注目となっていた。
ROGが強く訴求していたゲーマー向けディスプレイの新製品は3つあるが,どれもが有機ELパネルを採用している。なお,採用する映像パネルは,どれもが白色有機EL画素にカラーフィルターを組み合わせたタイプのLG Display(以下,LG)製パネルである。別の記事でも触れたが,採用事例が増えている青色有機EL画素に量子ドット技術を組み合わせたSamsung Electronics製のQD OLEDパネルではないのだ。
量産化技術が熟してきたLGの有機ELパネルを採用することで,ASUSは,価格対スペック比に優れることをアピールポイントとした「ROG Swift OLED XG27AQDMG」(以下,XG27AQDMG)を披露した。
XG27AQDMGは,日本を含めた多くの地域では近日発売予定だが,一部の地域ではすでに販売されており,米国における価格は699ドル(約11万円)。ROGブランドのゲーマー向け有機ELディスプレイがこの値段というのは,たしかに魅力的である。
製品名に「27」とあるとおり,画面サイズは27インチで,解像度は2560×1440ピクセル。有機EL画素の光を漏らさず,ダイレクトに表示面から出力させるために,表面加工はあえて光沢(グレア)系を採用したそうだ。その恩恵もあって,黒の締まりは鋭く,コントラスト感は良好だ。
採用するLG製有機ELパネルは,最新世代の高輝度パネルである。具体的には,大型テレビ向け有機ELパネルでは2年ほど前から採用が進んだマイクロレンズアレイ(MLA)構造を採用したものだ。
有機ELパネルは,本来は絶縁体である有機物に電導体を混ぜ合わせることで,半導体化した画素を発光体に用いる。ここに電荷をかけて発光させると,点光源のような放射状の拡散光が発生するが,LGは,この有機発光層にμmクラスの微細な凹凸形状による集光光学系(マイクロレンズアレイ)を組み合わせることで,表示面側に導光させる仕組みを実現した。これにより,同じ明るさならより少ない消費電力で,同じ消費電力ならより明るく光らせられるようになったのだ。
最大輝度は450nitで,HDR映像はVESAのHDR関連技術「DisplayHDR 400 True Black」の認証を取得している。画素応答速度は0.03ms(300μs)で,一般的な液晶パネルの100倍は速い。垂直最大リフレッシュレートは240Hzで,HDMIのディスプレイ同期技術「VRR」は,40〜240Hzの範囲で対応する。
映像入力インタフェースは,HDMI 2.0×2,DisplayPort 1.4×1。3.5mmヘッドフォン出力はあるが,内蔵スピーカーはない。ちなみに,スタンドは縦に90度回転する縦画面モードにも対応している。
他機種を圧倒するほど特別な機能があるわけではないが,現在,ゲーマーが求める必要十分なスペックを備えていて,価格も魅力的な有機ELディスプレイとくれば,ゲームファンに人気が出そうな製品だ。
1440pでも480Hz表示
ROG Swift OLED PG27AQDP
「ROG Swift OLED PG27AQDP」(以下,PG27AQDP)は,XG27AQDMGに,いくつかの強化ポイントを加えたような製品である。
画面サイズは27インチで,解像度は2560×1440ピクセル。採用する有機ELパネルは,こちらもLG製のMLAを組み込んだ高輝度かつ高効率なタイプで,画素応答速度も0.03msと同じだ。
XG27AQDMGと異なるところは3点ある。
ひとつは,表示面にアンチグレア(非光沢)加工を施している点だ。表示面で画素光が拡散するため,若干の黒浮きが出る代わりに映り込みが減り,視野角も広くなっている。日本ではアンチグレアのディスプレイが人気なので,「これを待っていた!」という人も多そうだ。
2つめは,垂直最大リフレッシュレートで,本機は解像度2560×1440ピクセルで,ついに480Hz(=480fps)表示を可能としたのだ。eスポーツゲーマーには歓迎されそうだ。
3つめはHDMI 2.1に対応していること。これは,解像度2560×1440ピクセルで480Hzの映像を伝送するために必要なので,対応は必然だといえる。
逆に,この3点以外に大きなスペックの違いはない。
発売時期は近日中とのこと。価格は未定だが,当然ながらXG27AQDMGよりも高価になるだろう。
4Kでも240Hz,フルHDなら480Hz表示が可能
ROG Swift OLED PG32UCDP
解像度3840×2160ピクセル(以下,4K)のゲーマー向けディスプレイにおける垂直最大リフレッシュレートは,120〜144Hzあたりが定番だった。それが2023年以降は,Display Stream Compression(DSC)技術の導入によって,4Kディスプレイのリフレッシュレート向上が進んでいる。
その流れを受けて,ROGからも,4K表示時に240Hz表示を実現するディスプレイ「ROG Swift OLED PG32UCDP」(以下,PG32UCDP)が登場した。
PG32UCDPでユニークなのは,フルHD入力時には,垂直最大リフレッシュレートを480Hzまで引き上げられること。
実は,LG製有機ELパネルは,2022年製造くらいのものから,2つのリフレッシュモードを切り替える機能を有していた。テレビ用有機ELパネルの場合,60Hzと120Hzの2モードとなっていたが,ゲーマー向けディスプレイ向けの有機ELパネルでは,これを240Hzと480Hzに引き上げたということなのだろう。
同様のデュアルリフレッシュレート機能は,今後の4Kディスプレイにおける定番機能となっていくに違いない。
さて,本機で採用されている有機ELパネルは32インチサイズで,前2機種よりは一回り大きい。しかし,パネルの世代としては,これらと同じMLA世代の有機ELパネルだ。
画素応答速度は,XG27AQDMGなどと同じ0.03ms。HDR表示については,VESAの「DisplayHDR 400 True Black」認証を取得している。
映像入力インタフェースも,先述の2製品と変わらないが,上位モデルらしく,PC切換器機能(KVM機能)を備えているのは,分かりやすい違いと言えようか。
ROGディスプレイのAIアシスト機能は,2種類が開発中
今では珍しいものではなくなったが,端末や機器がインターネットに接続する「IoT」(Internet of Things)という概念が,一時期は賑わせたものだ。現在では,あらゆる端末機器がAI的な機能を持つ「AIoT」(AI of Things)の時代になりつつある,と言えようか。
そんなAIoT的な機能を,PC周辺機器メーカーはゲーマー向けディスプレイに展開しつつある。すでに,「モンスターハンター」シリーズ用のAIアシスト機能を搭載したMSI製ゲーマー向けディスプレイ「MEG 321URX QD-OLED」を紹介したが,ASUSでは,もう一歩進んだAI支援機能を搭載しようとしている。
ASUSは,ゲーマー向けディスプレイにおけるAI支援機能を,2方向から実現しようとしている。ひとつは,ゲーマー向けディスプレイそのものにAI機能を搭載してしまう方向性だ。4K/240Hz表示対応のPG32UCDPは,この方向性のAI機能を搭載している。
FPSと言っても,さまざまなタイプのゲームが存在している。「敵とおぼしき動体」が,背景なのか障害物なのか,あるいは敵や味方プレイヤーなのかは,ゲームごとに見え方が違うはずだ。この点について,ASUS担当者に確認したところ,「現在は,基本プレイ無料のチームFPS『THE FINALS』を使って,学習データを構築した」とのこと。
COMPUTEX会場では,録画しておいたTHE FINALSのプレイ動画をPG32UCDP上で表示していた。ここでAI Sniperを動作させると,敵キャラクターが画面中央の照準エリアに近づいたとき,画面中央の領域が照準スコープを覗いたときのように,数倍の大きさに拡大されるのだ。
THE FINALSの学習データを用いたAI Sniper機能は,本作以外のゲームでは高精度に動作できるはずもない。この点を指摘すると,説明員は,「現在,ROG開発チームでは,Steamで提供されているFPSのトップ6に対して,学習データを開発することを検討している」という具体的な目標を教えてくれた。ちなみに,学習データのアップデートは,ディスプレイ側のファームウェアを更新する形で行うことになるそうだ。
この方向性でAI機能を実装することの利点は,PCゲームに限らず,据え置き型ゲーム機向けのゲームに対しても,AI機能を利用できることだ。また,AIを動かすに当たって,PCやゲーム機側のプロセッサ演算能力を消費しないところも利点と言えるかもしれない。
一方,この機能のために,ディスプレイ側に推論アクセラレータの搭載が必要となり,その分,ディスプレイの価格が若干高くなることは懸念点だろう。
ちなみに,デモとして公開していたTHE FINALS用のAI Sniper機能を実際にユーザーに提供するかどうかは,詳しくは決まっていないとのこと。まだ,開発初期段階なのだろう。
ASUSが考えるAIアシスト機能のもうひとつの方向性は,ASUS製ゲーマー向けディスプレイユーザー向けの無料ソフトウェア「Display
この場合,ディスプレイ側に推論アクセラレータを搭載する必要がないので,ディスプレイの価格には影響しない。一方で,このAIアシスト機能を実現するためには,PC側のCPUやGPUなどの演算リソースを消費することになり,ゲーム側の実行性能に影響が出ることが懸念される。
また,当然ながらこの機能はPCでしか実行できないので,据え置き型ゲーム機では利用できない。
そもそも,競技性の高いゲームでは「チートツール」と判定される可能性もあり,DisplayWidgetCenterが動作している環境では,対象ゲームを実行できなくなるかもしれない(※ディスプレイ側での機能も,ハードウェアチートと言えなくもないが,ゲーム側からそれを確認する術はない)。
ASUSブースでは,XG27AQDMGを接続したPCで,AIアシスト機能のデモを行っていた。動作していたAIアシスト機能は,「AI Visual」というもので,ディスプレイに表示される映像の種類を自動で認識して,その映像に最適な画質調整をかけるという機能になる。
処理系としては,ディスプレイに表示されるゲーム映像をPC側でキャプチャし,そのキャプチャ画面を,AI Visual機能がコンピュータビジョン的なアプローチで解析する仕組みだ。その処理は,「CPU側に内蔵されたNPUを活用する実装になっている」(ASUS)とのことだった。これが本当だとすると,ホストPC側の演算リソースには,そこそこの負荷がかかることになる。
単なる画質調整モード(以下,画調)の変更なら,今どきのテレビが搭載する「AIおまかせ画調」系と変わらないが,ASUSがわざわざ搭載するとということで,あえてアグレッシブに画調を変更する仕様となっていた。
ただ,さすがに表示映像をPC側で直接加工すると,GPU負荷がさらに高くなってくるので,AI Visualが,HDMIインタフェースの「DDC/CI」(Display Data Channel Command Interface)や「SCDC」(Status and Control Data Channel)などを駆使して,表示映像をリアルタイムに調整するのだそうだ。
AI Visualのコーナーでは,あらかじめ録画しておいた「PC使用中のデスクトップ」映像を,ホストPC側で再生して,AI Visualがゲーム/映像ジャンルを正しく認識しているかや,認識したうえで,ゲーム/映像ジャンルに適した画質調整をリアルタイムに行えているかを確認するデモも行っていた。
デモと言うこともあってか,画質調整は大胆に行っており,たとえばMOBA系ゲームを認識すると,画面全体の彩度を極端に下げたうえで,特定の色だけを強調する調整が見られた。一見すると見にくいだけにも思えるが,市販のゲーマー向けディスプレイでも,画調モードでこういう表示を行うものがあるので,MOBAのeスポーツゲーマーなら,これでいいのかもしれない。
さすがに,実用レベルにはまだまだ達していないようなデモだったが,いずれは,ゲームを有利にプレイするための攻略支援的な機能にまで発展するのであろうか。
こうした試みに対して,ゲーマーとゲーム開発者とでは,異なる意見を持ちそうにも思える。ひととおりのデモを終えたあと,ASUS担当者は,筆者にこう話した。「中級者以上のプレイヤーにとって,こうしたAI支援は余計なお世話になるであろうことは,我々も分かっている。我々は,そのゲームがどうしても難しいと感じている初心者に対して,そのゲームに慣れ親しむまでのレクチャーとなるようなAI支援を考えて開発をしている」とのこと。最終的に,どのようなものが完成するのか,楽しみではある。
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