レビュー
女性隊員+巨大ロボだが,中身は硬派な戦術級ストラテジー
POWER DoLLS2 COMPLETE BOX
» 6月27日に9980円(税込)という低価格で発売された「POWER DoLLS2 COMPLETE BOX」を,ヒストリカルストラテジーの合間にほぼ歴代全作をプレイしてきた編集部Guevaristaがレビューする。ボードストラテジーライクなシステムに,厖大なバランス調整時間を投じて仕上げられた本作は,良質なストラテジーゲームを求めるすべてのゲーマーにとって注目すべきパッケージなのだ。
女性隊員のみで構成された,巨大ロボットの空挺部隊
「パワードール2」シリーズは,戦闘用巨大ロボットである「パワーローダー」の多彩なバリエーションと各パイロットの能力,さまざまな武器と弾薬,装備品の組み合わせを考えつつ各ステージをクリアしていく,キャンペーン型のターン制ストラテジーとなっている。それぞれのキャンペーンには,未来の植民惑星「オムニ」で生じた内戦の展開に基づくストーリー性があるうえ,個々のステージでのミッションは待ち伏せあり,時間稼ぎあり,強襲降下あり,施設爆破あり,人命救助ありと変化に富む。このあたりは特殊部隊という設定をうまく活かした部分といえるだろう。
多様な機体と兵器で,幅の広い作戦立案が可能
■どの規模(人数)の部隊を
■どの地点に
■どのタイミングで
■どういった進入手段を使って
送り込むかについてのものだ。ステージにもよるが,これらのポイントは基本的に変更可能で,その候補はあらかじめ選択肢として用意されている。例えば大型輸送機からの高々度降下による進入を選べば,敵地上兵力による対空砲火を受ける危険はないが,各パワーローダーの降下地点はおおざっぱなものになる。それに対して強襲機を使った「通常降下」なら,飛行機自体の進路をコントロールしつつ,1機ずつ望みの地点に降ろせる。その代わり,対空砲火で機体が危うくなったら,目標地点に到達することなくその場でパワーローダー部隊を緊急降下させるといった事態もあり得る。
作戦を成功させるに当たっては戦闘自体よりも,状況説明から予想できる事態を分析し,それに応じた作戦を組み立てることが,ずっと重要なのだ。
立案した作戦に応じて,前述したパイロット,パワーローダー,その装備という組み合わせを決めていくのが普通の手順ではあるものの,実際に参加各機の装備を整えてみたら,とても予定どおりの作戦は行えないと思うこともある。そうしたら作戦を見直すといった風に,作戦立案画面と部隊編成画面を何度か往復しつつ,頭の中で戦いの様相を組み立てていく。これが「パワードール2」シリーズの醍醐味の一つだ。
輸送/回収手段も考え各隊に隊員を割り振る。索敵機の装備と機数が代表的な悩みどころ |
作戦開始前には,隊員およびエアクルーによる,いかにもなセリフや報告が入ることも |
先ほども述べたとおり,パワーローダーとその装備は実にバリエーション豊富で,採れる戦術の幅が広い。例えば,射程の長い直射兵器であるキャノン砲系統は頼りになるが,目標によって徹甲弾と榴散弾を使い分ける必要がある。それに対して曲射兵器のグレネードランチャー系は汎用性が高いものの,射程が短く,マガジン1個あたりの弾数は少ない。また,アサルトライフルやサブマシンガン,ガトリング砲といった小火器系は威力こそあまりアテにならないが,対空射撃や臨機射撃(後述)が可能といった点で独自のメリットを持つ。
火器以外の装備品も同様にバリエーション豊富だ。手榴弾や発煙弾,高性能爆薬といった比較的分かりやすいもの以外に,格闘戦闘を有利にする「スタンポッド」(要するに閃光音響手榴弾に当たるもの)や,索敵距離を広げる「マルチセンサ」,特定地点に置くことで,そこを常時索敵済み状態にする「プローブ」などがある。
パワーローダーの天敵は戦闘ヘリ。高速で視界が広く,攻撃力もある |
キャノンの場合,敵パワーローダーには榴散弾,車両には徹甲弾が有効 |
ライフルや機関銃で,ミサイルを撃ち落とせるのがロボットらしい魅力 |
グレネードは範囲攻撃兵器。この場合,青い線の7ヘックスが有効範囲 |
行動ポイントと視界がキモの精緻な戦闘
行動に伴うAP消費を考えるうえで,どうかすると隊員各自の基本APよりも影響が大きいのが,各自の持つスキルだ。スキルには「索敵」「隠蔽」「工兵」「支援要請」の4種類があり,これらを持った隊員が該当するアクションをとるときは,消費APが半分で済む。AP消費量の多い索敵,頻繁に使うことになる隠蔽は,とくに重要だ。
行動ポイント制のメリットは,アクションごとのコストをうまく再現できることだけではない。本作は交互ターン制で,味方の行動がすべて終了してから敵の行動が始まるものの,味方の行動ターン中には,すべての味方機のすべてのアクションを自由な順番で行える。
まず「索敵」して周囲の安全を確認し,その安全圏内を前進,進んだ先で再度索敵したあと,「隠蔽」状態(後述)でターンを終えるといった行動は典型的なものだろう。敵を撃つために前に出て,撃破したらより装甲の厚い機体の後ろまで下がって隠蔽状態になるとか,所定の地点まで移動し,爆薬を仕掛けてから遠ざかるといったアクションが自在に行える。また,行動の中断と再開も自由なため,部隊全員の残りAPを見比べながら,ある隊員による射撃を一時中断して,ほかの隊員に射撃させ,最後は全員下げるといった段取りも,その場で調整できる。
また,海外製ボードストラテジーゲームから学んだと思われる,精緻な視界ルールも本作の特徴だ。建物や地形の起伏を利用して敵の視線を避けつつ,自分はなるべく高所に占位して敵を先に見つけるのが,基本的なセオリーといえよう。
索敵ルールに関連して,重要なポイントとなるのがユニットの「隠蔽」状態だ。敵の索敵によって所在ヘックスがばれても,隠蔽状態が継続していれば,直撃弾を喰らう確率は低くなる。巨大ロボットが平地の真ん中でどう隠蔽姿勢をとっているのかはいま一つ分からないのだが,例えばこれは歩兵が立っているか伏せているかに該当するルールだ。
交互ターン制をとる本作では,ターン終了時に可能な限り機体を隠蔽状態にしておくのが,被害を避けるうえで重要なのである。
同じように自ターン終了後,視界かつ射界に入ってきた敵ユニットの前進を阻止する「臨機射撃」が行えることも,意識しておくべきルールだ。不意打ちで敵に大きな損害を与えられると同時に,敵のAPを削れるので,これ以上の前進を許したくないときにも活用できる。
総じて,ヘックス/ターン制の戦術級歩兵戦闘ゲームと戦車戦ゲームの良いところを両方持ってきた形の戦闘ルールであり,敵の手強さと,選択肢の多さに圧倒されなければ,息詰まる戦闘を存分に楽しめるだろう。実際(とくに「ADVANCED POWER DoLLS2」で)最初はとてもとても勝ちようがないと思ったステージでも,答えは用意されている。用意された選択肢の“意味”をきちんと考えていけば,それは必ずや見つかるはずだ。
現実ではなくあえてSF設定をうまく使い,手幅の広い作戦展開と精緻な戦闘を実現しており,やや大げさにいえばヘックスゲームの楽しさを,ほぼすべて備えた作品と評せよう。
厖大なバランス調整時間に裏打ちされ
いまも色褪せない作品
MS-DOS時代に源流を持つだけあって,一見するとどこがクリッカブルオブジェクトなのか分かりづらいとか,640×400ドット(NEC PC-9801 Mate/Fellow/Multi以前の画面仕様)に揃ったメニュー系画面の縦横比などからは,さすがにやや古めかしい感が否めないものの,プレイ内容の充実度から見てこれに匹敵するヘックス/ターン制ゲームは,おそらく数えるほどしかない。それもそのはず,3作合わせて考えれば,おそらくは丸2年以上になる開発/バランス調整時間が投じられているのだから,これはある意味必然なのだ。現在のPCゲーム開発環境を念頭に置いたとき,良き時代を思い起こさせてくれる話でもある。
そうした3作がまとめて1万円を切るとなれば,ストラテジー好きにとってのお買い得度はなかなかのものだ。
以前プレイした人は,Windows Vistaでの動作が保証され,数々のおまけがまとまったリーズナブルなパッケージとして,未プレイのストラテジーファンならこの機会にぜひ,本作を手に取ってみてほしい。
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