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[COMPUTEX]NVIDIAのCEOを囲むラウンドテーブルレポート,Huang氏,朝食をとりながら未来を語る
具体的な製品戦略というよりも,NVIDIAを率いる彼が考える「現時点におけるNVIDIAの行動方針」や「業界の未来像」といったものを,朝食をとりながらざっくばらんに語るといった会だったが,今回はその中から,いくつか出てきたキーメッセージをかいつまんでレポートしよう。
「コンテンツ主導時代,コンピューティング
デバイスの最適解はタブレットPC」
Huang氏は「スピードは悦びである」と切り出し,iPhoneやiPadが仕掛けた一連の「あらゆるメディアを直観的に高速に操れるポータブルデバイス」の台頭に賛同の意を示した。「小さいから低性能でよい」のではなく,「小さくても高性能であることが新しい価値を生み出す」という,デジタルデバイスに新しい常識を導き入れたAppleの功績は確かに大きい。
ちなみにTegraとは,ARMコアとGeForceベースのグラフィックスコア,そのほかのI/Oやメディアプロセッサを一つにまとめた組み込み向けSOC(System On a Chip)のこと。「小さくても高性能」なポータブルデバイスの,次なる進化の方向性として,より高性能なGPU機能の搭載が当たり前になると,Huang氏は予測しているのだ。
その一例として氏が挙げたのが,「バーチャルレゾリューションの台頭」である。
聞き慣れない言葉なので解説が必要だろう。
ポータブルデバイス側のディスプレイパネルは,640×480ドットや853×480ドット程度の解像度が一般的だ。だが,ポータブルデバイスそのものに,何百万から何千万ピクセルを取り扱えるポテンシャルを与えておけば,ひとたびワイヤレスHDMIなどの手段で外部の高解像度&大画面ディスプレイに接続するだけで高解像度表示ができるようになる。
ディスプレイデバイス側の持つ最上の品質でコンテンツを表示することを最優先とし,コンテンツそのものには解像度制限を与えないという概念,これがバーチャルレゾリューション(Virtual Resolution)なのである。
現状,ビデオコンテンツは,負荷の低いコーデックを使ったり,解像度を下げたりしてポータブルデバイス向けにトランスコードして利用するのが当たり前となっている。しかし,バーチャルレゾリューションが当たり前となる世界ではその必要がない。タブレットPC&スマートフォンにハイビジョンコンテンツをそのまま突っ込んでおくのもよし,とするわけだ。
この場合,ポータブルデバイス向けであっても,GPUは相当に高性能でなければならない。Huang氏は,あらゆるコンテンツを,あらゆるメディアデバイスで,透過的かつ高品位に取り扱えるようにする未来像を思い描いており,それには,Tegra 2のような,省電力性能に優れた高性能なGPUが最適だというわけである。
筆者は「ソニーがGoogle TVをアナウンスしたが,ああいったテレビ向けのGPUについてはどう考えるか」と聞いてみたが,それについての回答は「NVIDIAとしては,テレビ向けのGPUについて短期的な戦略を持ってはいない」だった。「現状は,モバイル(=ポータブル)デバイス向けのGPUに注力するつもりだ」とも付け加えていた。
20年前,ディスプレイと本体,キーボードがバラバラだったデスクトップPCは主流だったが,現在は,それらが一体となったノートPCが主流。そして今,一体化の度合いをさらに深化させた,iPadのようなタブレットPCが出てきた。この流れは加速していき,今後は,タブレットPCがノートPCを置き換えていく,というのがHuang氏のビジョンだ。
その理由は「やはり,『スピードが悦びになる』という概念を,より分かりやすい形で享受できるからだ」とHuang氏は述べる。
今日(こんにち)のノートPCは,一昔前と比べると格段な高速化を果たした。だが,速くなったことはなったものの,コンテンツを楽しむためには,電源を入れて起動するというプロセスが,どうしても必要になる。
しかし,多くのユーザーは「デジタルデバイスでソフトウェアを実行したい」と思っているのではなく,コンテンツを楽しむということを目的としてデジタルデバイスを活用している。そのため,「今後,タブレットPCにおいては,ますます『ソフトウェアを走らせるプラットフォームであること』が隠蔽されるようになるはず」というのが,Huang氏の見解だ。
例えば,ビデオを見るときに「PCを起動し,Windowsを立ち上げて,プレイヤーソフトを起動して,再生する」という行為を隠蔽し,「電源を入れて動画を選択すればそれが再生される」という操作感覚になるというのである。
これを具現化するコンピュータは,ノートPCの形ではなく,タブレットPCの形のほうが自然であり,そのソリューションを支えるのはTegra 2であるというのが,氏の思い描く,“2010年以降のタブレット時代”のシナリオのようだ。
……ここまでで十分理解してもらえたと思うが,とにかく氏はタブレットPCが大好きで,かつTegra 2に絶対の自信を持っているようで,「ノートPCには戻れない」というようなことを何度も述べていた。
「近い未来,すべてのPCが立体視対応になる」
続いて話題は,「3D立体視」へと移った。
パナソニックの3Dプラズマ発売を皮切りに,2010年は空前の立体視ブームとなっているが,NVIDIAは,立体視ブームの起こるはるか前,2006年頃から立体視ソリューションの提供を行っているという(編注:実際には2001くらいから立体視ドライバを提供している)。いうなれば,時代のほうがNVIDIAに追いついてきた感じだ。
それを受けてHuang氏は,
- 演算パワー的には十分に立体視対応が可能となった
- 2010年以降に公開される大作映画の多くが立体視対応になって,立体視が特別なモノではなくなってきている
という点を挙げ,「もはや,立体視するかしないかは,ユーザーの選択である。ハードウェア的には立体視対応が当たり前になる」と予見する。
さらにHuang氏は,大胆な近未来像も語る。「近い将来,一般ユーザー向けのカメラデバイスは写真も動画もすべて立体視対応になる」というものだ。
「カラー写真が当たり前になってから,特別な目的がない限りは白黒写真に取って代わった。それと同じことが起こる。3D写真が当たり前になればみんな3D写真を撮るようになるはずだ」(Huang氏)。
「たとえ,“その時点”で立体視対応ディスプレイを持っていようがいまいが関係ない」とHuang氏は言う。
1000万画素クラスのセンサーを搭載するデジタルカメラは普通に売られているが,1000万画素が表示できるディスプレイを持っている人はほとんどいない(※1920×1080ドットのディスプレイで表示できるのは200万画素程度。デジカメのCCDは1画素でフルカラーを表現できるものではないものの,画面解像度以上の情報量であることには変わりはない)。1000万画素のカメラは,できるだけ多くの情報量を記録しておこうという意義において価値があり,それによって撮影された1000万画素の写真データは,各ディスプレイデバイスごとに最高品位で表示するためのオーバースペックというわけなのだ。
その視点に立つと,立体視対応の写真を撮影することは,さらに高次元なバーチャルレゾリューション的なコンセプトだといえる。2Dディスプレイに表示すれば2D写真として,3D立体視対応ディスプレイに表示すれば立体写真として見られる,というわけである。
「この考えは動画にも当てはまるだろう」(Huang氏)。
すべてのビデオカメラが近い将来3D撮影対応になるだろうというのだ。
そうなったときには,PCが立体視対応でないことのほうが不自然となるかもしれない。
「NVIDIAは水平分業の一端を担うことに
これからも注力する」
NVIDIAは,あらゆるジャンルのグラフィックスプロセッサやグラフィックス関連技術を提供していくが,あるソリューションに対してすべてを提供するポジションを目指すことはないだろうというものだ。
例えば,iPadがタブレットPCブームを作り出したが,これに便乗して,NVIDIA自身がタブレットPCを作ったりはしないということだ。よりよいタブレットPCを実現するためのグラフィックスプロセッサやグラフィックス関連技術を提供することに注力するというのがNVIDIAのポジションということになる。
Appleは1社でソフト,ハードのすべてを丸ごと手がける垂直統合型の企業だが,NVIDIAは水平分業の一端を担うポジションに注力するという意味にも取れるだろう。
「水平分業のポジションは,時代の変革に柔軟に対応できるところにメリットがある。また,新しい時代を作り出すようなイノベーションを提供していける楽しみもある。NVIDIAはTegraや3D Visionのような,新しいアイデアをこれからも早いペースで業界に提案していく」(Huang氏)。
以上,通して話を聞くに,とにかく今年のNVIDIAは,Tegra 2と立体視に力を入れていくことがよく分かってもらえたと思う。
以前は,こうしたラウンドテーブルだと,GPGPU(≒CUDA)に関してのトークが熱っぽかったのだが,今年はまったくそれ関連の話が出てこないのが印象的だった。
これは,NVIDIAがGPGPUへの力を緩めたのではなく,CUDAが成功を収め,ライバルのAMDやIntelを,この分野から実質的に追い出してしまえたことで,ひとまず安泰だから,次のテーマに向けた臨戦態勢を整えることにしたということなのだと思われる。
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