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[GDC 2009#20]キーワードは「原点回帰」と「同窓会」。伝説的な格ゲー,ストリートファイターの復活秘話
そんなストリートファイターシリーズではあったが,III以降は音沙汰がなく,もう新作は発売されないと思っていた人も多いことだろう。ところが,2007年10月に突如「ストリートファイターIV」(PS3版 / Xbox版)が発表され,格ゲーファンの血をふたたび煮えたぎらせた。
普通に考えれば,ヒットしているうちに続編を出しそうなものであるが,なぜIVの誕生までに10年もの歳月がかかったのか。筆者も含めて,ここに疑問を抱いている人は多いだろう。今回行われた「IV Style: Returning to the Roots of a Fighting Game Classic」は,そんな疑問が解決しそうなレクチャーだった。
そもそも小野氏とそのチームメンバー,さらにはカプコン社内でも「ストリートファイターIIIでストリートファイターシリーズは終わった」という空気になっていたのだという。
もちろん「終わった」といっても悪い意味ではない。格闘ゲームとして完成したとでもいうべきで,小野氏自身も,「やりたいことはすべて盛り込んだ」と思っていたそうだ。発売後数年が経っても大きなトーナメントが開催されていたこともあり,プレイヤーもその出来映えには納得していると思っていたのである。
ところが,大会などに出席しているうちに,じつは新作を求めているファンが大勢いるということが分かり,ストリートファイターIVの開発を決めたらしい。
ただし,タイトルの番号こそIVとはなるものの,IIIで完成したと思っているものへさらに改良を加えるというのは「どうにも納得がいかなかった」と小野氏は語る。そこで氏は,IIIの発売から10年近くが経っていたこともあり,あえて対戦格闘ゲームの原点ともいえる,ストリートファイターIIを復活させるという方針を掲げたそうだ。
というわけで小野氏は,「原点回帰」というキーワードを引っ提げて,社内で「IIを復活させるぞ!」と息巻いてみたものの,開発メンバーにはイメージがきちんと伝わらず,非常に苦労したようだ。そこで,もう一つ「同窓会」というキーワードを加えて,昔ストリートファイターIIを遊んだ人に,再びコントローラ(もしくはスティック)を握ってもらおうと訴え,再度自らの意思をメンバーに伝えたのである。
IIとIVの間には17年もの時間の隔たりがあり,当時の学生はみんな大人になっている。さすがにそれだけの時間が経つと,当時のプレイヤーの中でIIは美化されている可能性が高い。
最近はWiiのバーチャルコンソールなどもあり,昔のゲームを手軽に遊べるようになったが,それらを遊んだ人の多くが「なんらかの違和感を感じたはずである」と小野氏は考えた。つまり記憶の中のゲームと実物にギャップが生まれるのである。
そのギャップをいかに埋めるのかが,ストリートファイターIVを開発するうえでのテーマになった。方向性としては,IVを見たかつてのプレイヤーに「変わったな」と思わせるのではなく,「懐かしい」と言ってもらえるように努力したのだという。
ただし,IIそのままのものをIVとして出したのでは,17年差というギャップを埋められない。そこで,多くの人の記憶にあるIIのイメージを想像し,実際のIIとは異なる部分を補完していったそうだ。
ちなみに,IVが完成したあとに「IIとIVはそっくりだ」と言われることがあるそうだが,IVを見た瞬間にIIをイメージしてもらい,なおかつ古臭さは感じさせないのが狙いだったので,これは小野氏にとって褒め言葉なのだという。なかには皮肉のつもりでこの台詞を言ってきた記者がいたそうだが,小野氏の喜んだ姿を見たあとは,なにも質問してこなかったそうだ。
もちろん新たに出す以上は,新機能を盛り込む必要があるのだが,あまりに極端なものを入れてしまうと,IIの思い出が壊れてしまう。そこで苦心した末に生み出したのが「セービングアタック」だ。
セービングアタックとは,相手の攻撃に耐えて必殺の一撃をお見舞いできるというテクニックで,中パンチと中キックを同時に押すだけという簡単な操作で発動する。これは新機能として複雑なものを入れてしまうと,過去のプレイヤーに受け入れられない可能性が高いと考えて,簡単な操作で出せるようにしたという。
もちろん簡単に出せるからといって役に立たないテクニックではないし,むやみやたらと強力なわけでもない。あらたな駆け引きの要素が加わったといったレベルだ。ただし,小野氏曰く「まだまだみんな,使いこなせてはいない」とのことなので,プレイヤーにとっては,さらに研究余地のある要素なのだろう。
また,当時ストリートファイターIIを遊んでいた小中学生は,誰かの家に集まって対戦を繰り返したという経験を持つ人が多いとも考えたという。もちろん,そんな子供達もいまは大人になっており,誰かの家に集まって対戦するというのは難しくなっている。そこで,テクノロジーの力を借りて気軽に対戦できる機能,要するにオンライン通信対戦も実装した。なかでも,一人でゲームを遊びながら対戦相手を待てる「アーケード待ちうけ」は,まるでゲーセンで相手が乱入してくるような感覚を再現しており,当時を知る人にはたまらない機能だ。
ともあれ,講演の中でもとくに印象的だったのは,小野氏が「ストリートファイターをチェスのような存在にしたい」と話していたことかもしれない。チェスは大人から子供までが同じルールで戦い,なかにはテレビで対局が中継されるようなプロも存在する。それぐらい普遍的なものを作りたいと考え,完全に新しいものではなく,IIのリメイク的な作品を開発したのだ。もちろん続編などをまったく考えていないわけではないが,やはりゲームの基本は変えず,それまで遊んできた人達が違和感なくプレイできるようなものを目指したいという。
ハードウェアの進化によってその姿が大きく変わるゲームなだけに,チェスのようなものを作り上げるのは困難だろうが,ぜひ挑戦してもらいたい。
ちなみに,ストリートファイターIIを手にまめができるほど遊んだ筆者としては,この講演後に無性にストリートファイターIVをプレイしたくなった。「格ゲーはマニアックすぎて,いまさら戻れない」という考えは間違っていたようだ。同じような勘違い(?)をしていた人は,ストリートファイターIVをプレイして,小野氏が語った言葉の真偽を確かめてみてはいかがだろうか。
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