インタビュー
飛空船に乗って,いざ冒険の旅へ。ニンテンドーDS用RPG「ノスタルジオの風」プロデューサーインタビュー
だが,そこはテクモが初めてリリースする本格RPGだけあって,一筋縄ではいかない仕掛けが随所に隠されているようだ。あまりにも要素が多すぎて,メディアに配布する資料には最低限のポイントしか記載できなかったという本作のコンセプトや見どころ,コアなRPGマニアをも唸らせるであろうやり込み要素などを,プロデューサーの菊地啓介氏に聞いた。
素直な成長物語としても,やり込み系としても楽しめる大型RPG
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。ノスタルジオの風に関して,4Gamerで取り上げるのはほぼ初めてになりますので,まずは簡単にどんなゲームなのか教えていただけますか?
19世紀末,「飛空船」が発達したもう一つの地球を舞台にしたRPGです。なので,ロンドン,カイロ,ケープタウン,サンクトペテルブルグ,東京……実在の世界をモチーフにした都市が登場します。
その一方で,アトランティス大陸やムー大陸,あるいはバベルの塔のような,神話にしか出てこない,本当にあったのかどうかといわれるような場所も登場します。そういったものをグラフィックスと音楽で上手に表現できたかな,と思っています。
4Gamer:
そうした世界を,主人公たるプレイヤーが冒険する,と。
菊地氏:
はい。4人の少年少女の成長物語を中心にストーリーが展開します。主人公の父親はイギリスの有名な大冒険家で,悪の組織から謎の少女を守ろうとするのですが,途中で行方不明になってしまいます。そこで主人公は,冒険家になって父親を探しに行くというわけです。
その過程で,主人公は仲間と出会っていくのですが,彼らもまた何かしら悩みなどを抱えています。主人公は仲間達と同じ苦難を乗り越え,絆を深めていく。これが序盤の流れです。
エディ |
パッド |
メロディ |
フィオナ |
4Gamer:
まさに王道の成長物語ですね。
菊地氏:
そうですね。それと,このゲームのもう一つの大きなモチーフになっているのが飛空船というもので,主人公は父親が残した「マーベリック号」に乗って,街や遺跡などの拠点間を移動します。話が進むにしたがって高く飛べるようになり,山を越えてその向こうへ行けるようになるんです。
4Gamer:
なるほど,そうやって主人公の活動領域が広がっていくわけですか。
この飛空船での冒険が,通常のRPGでのフィールド移動にあたり,移動中に「空賊」やモンスターなどと遭遇するとバトルになります。勝てなければ当然先に進めませんから,飛空船をカスタマイズして強化します。カスタマイズできるパーツには,飛空船の先端に取り付ける「ブレード」,大砲の「キャノン」,もう少し小回りの利く「ガン」などがあって,世界各国で機能も形状も違うんです。
例えば日本のブレードは刀だったり,ほかの地域ではトンカチっぽくなっていたりして,何となく攻撃方法も違うと予想できるんじゃないでしょうか。キャノンやシールドもドラゴンっぽい形のものなどいろいろあって,ただ強くなるだけでなく見た目が変わっていく面白さがあります。
4Gamer:
ダンジョン内などでは,主人公やほかのキャラクターによる戦闘もありますよね?
菊地氏:
はい。キャラクターバトルは比較的オーソドックスなシステムで,RPGは初めてという方でも楽しめるようになっています。いわゆる必殺技として「スキル」があって,バトルが終わるとスキルポイントがもらえ,それを各スキルに自由に割り振ります。そこでスキルがレベルアップすれば強くなりますし,新しいスキルを手に入れられる場合もあります。
またスキルポイントの振り分け方で,攻撃重視タイプやスピード重視タイプなど,成長にバリエーションを持たせられます。実際,スタッフ何人かにやらせてみたのですが,それぞれ成長のさせ方が違っていて,僕自身も「こんな使い方もあるのか」と感心させられるほどですので,結構自由度は高いと思いますよ。
メインストーリーに加えて,豊富なやり込み要素も
オーソドックスでありながらも,スキルの成長のさせ方でプレイヤーごとの個性が出るというわけですね。飛空船とキャラクターの戦闘の比率はどうでしょう?
菊地氏:
だいたい半々ですが,プレイ時間でみるとキャラクターバトルの方が少し多めに感じるかもしれません。また,飛空船での戦闘には天候の概念もあって,砂漠の砂嵐の中では命中率が低くなったり,雷雨などで感電して行動不能になったりといった状態異常が発生します。
4Gamer:
まさに世界の空を舞台にしたゲームという感じですね。
菊地氏:
基本的なシステムはこんなところで,大体メインストーリーは20〜30時間程度で一通りクリアできるボリュームです。
しかし,それとは別に世界7大都市に「冒険者協会」があって,そこには数十のクエストが用意されています。冒険者ランクはEランクから始まり,クエストをこなすことで上がっていきます。また,ランクが上がるとクエストの難度もアップします。
このほかにも「ワールドトレジャー」というお楽しみ要素があり,これはモヘンジョダロなどの遺跡をNPCのヒントを頼りに探すというものです。もちろんただ探すだけではなく,いくつか見つけるごとにご褒美がもらえます。
4Gamer:
メインストーリー以外にも,かなりのやり込み要素がありそうですね。
菊地氏:
やり込み要素はかなり詰め込んでありますよ。あと今回,やりたかったことの一つが「交易」の概念です。ゲームはロンドンからスタートするのですが,主人公が東京に到達すると,ロンドンのショップでも和風の武器が売られるようになったりします。つまり貿易が開始されたということなのですが,実際に世界が動いている感じが表現できたと思っています。
なるほど。ゲームをある程度進めてからロンドンに戻ると,何か新しい発見があるかもしれないということですか?
菊地氏:
ええ,そうです。そして,そういった主人公の軌跡は「冒険者手帳」に全部記載されていきます。遭遇したモンスター,達成したクエスト,マップの踏破率や宝箱の回収率など……全部埋めようと思ったら,かなり長時間遊べるようになっています。
4Gamer:
そうした,いわゆるやり込み要素はメインストーリーをクリアしてエンディングを見たあとでも継続できるのですか?
菊地氏:
そうです。中には一度クリアしないと出てこないクエストもあります。実はメインストーリーと関係ないダンジョンも全体の2割以上を占めるほど用意していますし,宝箱も,中には難度の高い場所にあるものもあります。普通にサラッとプレイしただけでは,なかなかコンプリートできないかもしれません。
4Gamer:
なるほど。すでに公開されている情報のイメージとはちょっと違って,RPG初心者だけでなくマニアにも向けた作りともいえそうですね。例えばメインストーリーをまったく進めずに,クエストなどのやり込み要素だけ遊ぶというようなことはできますか?
菊地氏:
いえ,メインストーリーを進めないと世界も広がっていきませんから,さすがにそれは無理ですね。
ストーリーといえば,主人公の仲間となるキャラクターには,それぞれにメインストーリーとは別のエピソードを用意してあります。一人ひとりのキャラクターにフォーカスを当てた内容で,あえて進めなくてもメインストーリーに支障はないのですが,キャラクターの魅力にハマッた人の思い入れを深めるようなものになっています。
また,いわゆる1周めのプレイでは,意識しなくても自然にレベルが上がっていきますので,比較的容易にメインストーリーを追えるようになっています。
RPGを求めるさまざまな層にアピールする「レイヤー分け」
ところで,これまで菊地さんが手がけてきたゲームというと,「零」シリーズや「影牢」シリーズなどダークなイメージが強いのですが,今回はまったく違いますね。
菊地氏:
とくに意識してダークなものをやってきた,というつもりはないんです。むしろ,トラップゲームとかホラーゲーム,あるいは競馬やゴルフというようにターゲットを絞ったものという感じですね。実は「CERO A(全年齢対象)」というレーティングを意識して,つまり,より幅広い層に向けて王道のゲームを作ったのは今回が初めてなので,ちょっとドキドキしているのですが(笑)。
4Gamer:
意外にも,「CERO A」は今回が初めてだったんですね。
菊地氏:
はい。今作は僕が発案したものではなく,まずレッド・エンタテインメントさんの企画があって,ほかにも作家の先生方がいてという状況で,これを商品化するにあたり,マニアックな方向に持っていかないほうがいいだろうという判断がありました。着地点は王道路線で行きましょう,と。
ほかのRPGタイトルがトリッキーなシステムや,可愛らしい女の子キャラクターといった皆に好まれるようなキャラで攻める中,我々はせっかく最高の素材があるのだから,素材の魅力を引き出す最高の調理でお出しするという意味で王道を選んだのです。
4Gamer:
なるほど,企画なり作家性なりを最大限に引き出すには,王道が一番だったと。
菊地氏:
しかし,そう決めたのはいいのですが,実際にどうすればいいのかというところで頭を悩ませまして,その結果「レイヤー分け」というところにたどり着きました。
例えば,過去にRPGをプレイした経験がある人――もっというなら,仕事が忙しくて最近はあまりゲームができなかったり,目まぐるしい展開についていけなかったりしてRPGから遠ざかっていたけれども,何かきっかけがあれば遊んでみたいと思っている人ですね。そういう人のために親切なインタフェースと分かりやすいガイドを用意して,ビックリするような演出でゲームを盛り上げながら,最後まで遊んでいただけるように配慮しました。
4Gamer:
たしかに,RPGは好きだけどストーリーに食傷気味だったり,レベル上げが億劫だったりで手を出しにくいという社会人プレイヤーの話はよく聞きます。
小学生から中学生くらいまでのプレイヤー層には,カスタマイズしたり集めたりという,僕自身が子供のころから大好きだった楽しみを用意しました。
また十代後半から二十代くらいの,今現在RPGを遊び込まれている人には,バトルの「オーダーテーブル」システムで,どのスキルをどういう順番で使えばより効率よく戦えるかをジックリと考えてもらうといった,戦略的なプレイも楽しめます。
4Gamer:
それぞれの遊び方を一つのタイトルにまとめ上げていくのは,なかなか困難な作業だったのではないですか?
菊地氏:
一般層といいますか,より広い層の多くの人に同じことをやってもらうのは難しいと考えています。その代わり,このタイプの人にはこの部分で十分楽しんでもらう,別のタイプなら別の部分を,というようにパッケージしていって,結果的に幅広い層に受け入れられるようなものにしています。
まあ,今はこうしてまとめて話していますけれども,実際には計画段階で半年以上かけて作業していますから(笑)。
プレイヤーの想像力を刺激する,アナログ的な手触り感
お話を聞いていても,相当に力を入れて大事に作ってきた感じが伝わってきます。
ところで,コンセプトビジュアル・キャラクターデザインの辻野芳輝さん,モンスターデザインの雨宮慶太さん,敵飛空船デザインの草ナギ(※)琢仁さんなど,王道というよりもマニアが喜びそうなスタッフが参加しているのも本作の特徴ですよね。この作家陣を使ってニンテンドーDSというのも贅沢な話だな,と個人的には思ってしまうんですよ。例えばPLAYSTATION 3(以下,PS3)用ソフトでもおかしくないような。
※編注:弓扁のナギ
菊地氏:
その点については,PS3でリアルに再現してしまうと,逆にそれぞれの作家性が食い合ってしまってマッチしないんじゃないでしょうか。カツカレーのように,それぞれの素材が上手くまとまればいいのですが,何も考えずに混ぜ合わせてしまうと大抵失敗します。プレイヤーも各先生の作品としては評価するでしょうが,ゲームの世界観としては納得しません。
4Gamer:
なるほど。そのまま再現すると,それぞれの個性が強すぎて世界が成立しないわけですね。
菊地氏:
そういうことです。その点,今作ではニンテンドーDS用に,上手に一つの世界に収められていると思います。雨宮先生のモンスターはダークでありながらもキュートにまとまっていますし,草ナギ先生の飛空船にしても稼動部分が一つ一つ分かるような設定画だったものを,開発会社のマトリックスさんが上手にニンテンドーDS用に落とし込んでくれています。
また,予約特典として店頭でプレゼントする設定資料集を用意したのですが,1点1点のクオリティが凄いんですよ。どのデザイン画も載せたくて,ネタバレにならないようにするのに苦労しました,ぜひ手に取っていただきたいですね。
4Gamer:
ところで先ほども少し触れましたが,すでに公開されている情報では,普通のRPGっぽい部分ばかりが強調されてしまっている感がありますよね。確かに王道といえばその通りなのですが,一人の情報の受け手として見た場合に若干インパクトに欠けるといいますか,どこかで見たような気がするといいますか……。
今作では,RPGをやる人ならこれ好きだよね! という要素,そして僕自身が子供の頃から好きだった要素を詰め込んであります。それはモンスターとのバトルであったり,キャラクターのカスタマイズであったり,飛空船を動かすことであったり。それを,ここが凄い! ノスタルジオの風とはコレだ! というようにアピールするのではなく,受け取った人それぞれに色を付けてもらいたいんです。
また今回は,グラフィックスにアナログ的な手触り感を残したかったというこだわりがありました。最近ではパッと見てすぐ分かるようなキャラクターも多いですが,今回はあえて情報を劣化させることで,見た人それぞれの思い入れで補完してもらいたかったんです。メインビジュアルにしても,飛空船の下,主人公達が風に吹かれて立っているうしろ姿ですが,色彩や主人公たちの顔など,そこに足りない情報を見た人やプレイヤーに補ってもらいたいという意図があります。
4Gamer:
なるほど。どんな表情をしているのかさえも,想像で補完してもらうと。
菊地氏:
実は,過去に「零」でも似た手法を使っていまして,あえて見えにくくすることでプレイヤーそれぞれの想像で補完してもらうというコンセプトがありました。今作でも,そういったように想像が広がっていくゲームにしようと考えたんです。飛空船のカスタマイズやスキルの成長はあくまでも仕組みであって,それを使ってどう遊ぶかについては非常に懐の広い作りになっています。
4Gamer:
聞けば聞くほど製品版を手にするのが楽しみになってきます。それでは,本作に期待している人と4Gamerの読者にメッセージをお願いします。
菊地氏:
ノスタルジオの風は,私が初めて手がけたRPGで,初めてRPGに触れる方や,少し距離を置いていた方にも十分楽しめる作りになっています。ひねくれたところのない,ストレートな少年少女の冒険物語の中で,飛空船のカスタマイズや宝箱のコレクションなど,やり込み要素も数多く用意しています。4Gamerの読者さんというと,腕に覚えのある方が多いと思うのですが,そういう方が楽しめる要素を凝縮してありますので,この秋から冬にかけて,ぜひ楽しんでください。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
自身がRPGを相当にやり込んでおり,かつ従来はターゲット層を固定したタイトルばかりを手がけてきたがゆえに,ノスタルジオの風ではマニアックにならず広い層に受け入れられるよう常に意識してきたという菊地氏。その結果,本作はメインストーリーで「世界名作劇場」のような誰でも素直に受け取れる直球の成長物語を描く一方で,直接関係しない部分では実績/カスタマイズ/コレクション/戦闘の効率化と,コアゲーマーのやり込み心をくすぐるような要素を盛り込んだ作品となっている。
菊地氏のみならず,テクモが2008年に最も注力したタイトルといっても過言ではないそうで,気が早い話ではあるが,評判が良ければシリーズ化したいとのこと。まずは近々に発売されるこの第1作を楽しんでいただきたい。
- 関連タイトル:
ノスタルジオの風
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(C)2008 TECMO,LTD. / RED