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「GPUのワット性能は8年で100倍に」。NVIDIAのJen-Hsun Huang CEO,国内のGPUコンピューティングイベントで大いに語る
サーバーにGPUを搭載してスーパーコンピュータに
さて,Huang氏はまず,今日の講演の主なポイントを3つにまとめてみせた。いわく,
- GPUスーパーコンピュータをメインストリームに
- CUDAの普及は臨界を超えた
- これは始まったばかり
とのことだ。
スライドだけでは少々分かりにくいが,1.について氏は「GPUをサーバーと組み合わせ,スーパーコンピュータにする」とぶち上げる。現時点でもGPUはHPC(High Performance Computing)分野に受け入れられ,一部で大きな成功を収めているものの,HPCの市場はさほど大きくはないのが悩みだ。GPUの利用を,一般的なサーバーまで拡大すれば,より大きなビジネスにつながるため,次の狙いをそこに定めた,といったところだ。
問題は「サーバー市場でGPUは必要とされるのか」という部分だが,この点について,Huang氏は自社の例を挙げて説明する。それによると,NVIDIAの社内にあるCPUコアの85%はプロセッサの設計に利用されており,また論理シミュレーションには専用のスーパーコンピュータを利用しているのだそうだ。NVIDIAのビジネスには,スーパーコンピュータを活用したテクニカルコンピューティングが重要な役割を果たしている,というわけである。
氏によると,GPUの設計における論理回路のシミュレーションに専用のスーパーコンピュータを用いることで,汎用のコンピュータを用いるときと比べて数百倍の性能が得られ,ビジネス効率を大きく上げることができたという。
Huang氏は,分子生物学や金融など,他分野のシミュレーションは,論理回路の設計ほど容易に実現できるわけではないと認めつつも,CUDAによってさまざまな分野のシミュレーションが可能になったと強調。「仮に従来比10倍の速度でシミュレーションが可能になるなら,ビジネスに重要な意味を持つ。将来的には9割がテクニカルコンピューティングになるだろう」と断言してみせた。
2006年を境として,企業が所有するコンピュータの計算能力が急激に上昇しているというデータ。緑色の線は企業が持つコンピュータの計算能力(TFlops)で,水色の線はムーアの法則を示している。「2006年を境に企業のコンピュータの能力はムーアの法則を超えて伸びている」(Huang氏) |
ゲストスピーカーとして登壇した,東京工業大学の青木尊之教授 |
先ほどのスライドの2.で「CUDAの普及は臨界点を超えた」としていたHuang氏だが,それを証明するかのように,数人のゲストスピーカーを招いてCUDAの応用例が紹介された。
まずは,東京工業大学で教鞭をとり,GPUコンピューティングで意欲的な活動をしている青木尊之教授から。
なお,青木教授によるTSUBAME 2.0の例以外にも,医療や品質検査といった分野のゲストが招かれたほか,Amazonとの協業で展開されているGPUクラスタのクラウドサービスなどもデモが紹介されたが,本稿では写真を示すに留める。
以上のように,さまざまな分野で利用が進むCUDAだが,「普及のカギは,アーキテクチャを簡単に手に入るものにすること」とHuang氏。「ソフトウェア開発者が使ってこそアーキテクチャが有効になる。だから我々はすべてのGPUにCUDAを採用した。これは戦略的な決定だ」。
さらに,2010年11月に開催されたGPU Technology Conference 2010(以降,GTC2010)で存在が明らかにされた「CUDA-x86」――x86プロセッサ上でCUDAの利用を可能にするコンパイラ ――についても「来年の何処かのタイミングで出荷する」と宣言。あらゆるコンピュータでCUDAの利用を可能にしていくという,同社の方針をさらに推し進めると強調していた。
8年以内に,GPUの消費電力あたりの性能は
Fermiの100倍に
ここでHuang氏は,GTC2010でその存在が明らかになった「Kepler」「Maxwell」(順にケプラー,マクスウェル。いずれも開発コードネーム)を紹介。さらに「DARPA」(Defense Advanced Research Projects Agency)から次世代のEchelon(エシュロン,大規模な通信監視システムとされているもの)のための研究助成金を受けたことに触れ「Echelonのためには,システムの作り方を抜本的に変えていかなければならない。システムを提供していくにあたって(電力あたりの)パフォーマンスを100倍にできると思っている」と述べていた。
講演から,同社はCUDAを,HPC業界に留まらず,並列計算における事実上のデファクトスタンダードにしていこうと考えていることが分かる。Intelに続きAMDもGPUをCPUに組み込む方向に走っているなか,NVIDIAはCUDAや,(今回の講演ではさほど取り上げられなかった)Tegraを武器に,ややベクトルが異なる方向で対抗していこうとしているようだ。同社の動きはゲームグラフィックスの動向にも大きな影響を与えていくに違いない。今後の動きにも注目していきたい。
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