インタビュー
雷電が選ぶ道は“成長”か,それとも“堕落”か――「メタルギア ライジング リベンジェンス」で描きたかった物語をクリエイター陣に聞く
ゲームバランスにおける試行錯誤
4Gamer:
ゲームバランスについても聞かせてください。
アクションゲームでは,作っているうちにどんどん難しくなってしまいがちという話を聞きますが,MGRではいかがでしたか?
齋藤氏:
いやー,それはよくありますね(笑)。
稲葉氏:
よくあるというか,どうしても難しくなってしまうんですよ。
齋藤氏:
作っている最中に何度もプレイすることになるので,どうしてもゲームに慣れてしまうんです。で,だんだん難度のバランス感覚が麻痺して,どのラインから“難しい”のかが分からなくなることがあります。
とりあえず自分の中ではこれがノーマルだろうというラインを引いたのが,東京ゲームショウ 2011とPlayStation Storeでの配信でお披露目した体験版なんですが,やっぱり難しいと言われてしまっていて(笑)。
4Gamer:
あのバージョンは本当に難しかったです……。
齋藤氏:
TGSでの試遊を後ろで見ていても,自分が思っていたとおりになっていない部分があったので,これは修正せねばならんなと。そういった状況を受けて,上のほうからのお達しもありましたし(笑)。
稲葉氏:
齋藤はアクションゲームのプレイヤーとしてはかなり上位に位置するくらい上手なんです。ただ,上手な人間から見て簡単な方向に振るのは難しいので,なかなかいいバランスに設定できなくて……。
4Gamer:
それは何となく分かる気がします。
稲葉氏:
僕はその点,ゲーマーとしての腕前は普通くらいなので,自分が「少し難しいな」と思うくらいがちょうどいい,という風に考えています。客観的に見て,齋藤に「だめだよこれは,みんな困るよ」って諭したり……。
齋藤氏:
そんな優しい言い方じゃなかった(笑)。
一同:
(笑)
4Gamer:
では,製品版の難度は体験版からかなり大きく変わっていると。
齋藤氏:
はい。難度に関しては,最後の詰めで一気に調整しました。その際に,体験版にお寄せいただいた感想も参考にしています。もちろん,ノーマル以上の難度に関しては好きなように,とことん難しく作らせてもらっていますが(笑)。
稲葉氏:
そこはもう,好きなようにやればいいよ,と。
玉利氏:
ただ,今までのメタルギアシリーズの難度設定を参考にしていただいているようで,同程度に収まっているとは思っています。
ちなみに,イージーモードには「イージーアシスト」というシステムもありますから,激しいアクションが苦手な方でも遊べるようになっていますよ。
4Gamer:
それはどういったシステムなのでしょうか?
稲葉氏:
セミ・オートマチックで発動するシノギです。
齋藤氏:
常に攻撃をしていれば,シノギが自動で発動してくれるというシステムなんです。
稲葉氏:
ゲームに介入している感覚を残したまま,簡単に「シノギってこんなに気持ちいいのか!」と体感できます。なので,ある程度ゲームに慣れてきたら,自分でシノギを出せるノーマルを遊んでみよう,と思ってもらえるといいですね。
4Gamer:
なるほど。ノーマルモードへの導入まで意識しているとは,良く考えられていますね。
稲葉氏:
締め切りの2週間前くらいに入れたシステムなんですけどね。3日でアイディアを煮詰めて,ギュギュッと押し込みました。
4Gamer:
そんなにギリギリだったんですか!
玉利氏:
最初にあのシステムを見た時は「そこまで簡単にして,ゲーム性は崩壊しないの?」という不安を感じたものですが,フタを開けてみればむしろ「よくこの短時間でここまで調整したな」と思える内容になっていました。
齋藤氏:
簡単なモードを作るとしても,ゲームが持っている本来のコンセプトを壊してはいけない,というのが大前提です。そのための調整として何をすべきかを,かなり練り込みました。
4Gamer:
難度調整とひとくくりに言っても,かなり細かく考えられているんですね。
稲葉氏:
敵のライフを減らしたりAIをショボくすることでゲームを簡単にするのはたやすいんですが,敵の攻撃ペースが減ってもシノギを使えないストレスが溜まっていくだけですし,面白さもどんどん減っていきます。それをカバーするイージーアシストは良い解決策でしたね。
4Gamer:
ちなみに,ハード以上の難度も用意されているんでしょうか?
稲葉氏:
もちろんありますよ!
是角氏:
1回クリアするたびに新しい難度が出現して,最終的には5段階の難度を選択できるようになります。
4Gamer:
つまり,ハードの上が2段階もあるんですか……計り知れない……。
是角氏:
最高難度では,ほぼ一撃死です(笑)。
4Gamer:
つまり,敵の攻撃力が単純に上昇すると?
齋藤氏:
そうなりますね。8倍から10倍くらい攻撃力が上がっています。
4Gamer:
それはキツイ……っ。
AIも良くできていますよね。遠く離れたらロケットランチャーを撃ってきて,近付いたらすぐさまマチェットに持ち替えたり。
齋藤氏:
そこはある程度プログラマーに任せている部分ではありますが,やはり武器を2種類持たせて違った攻撃をさせるとか,そういった部分をちゃんと決めるのには時間がかかりました。
とはいえ,初期のAIはバカ丸出しでしたよ。一時期,全体の進行が一本道な感じになっている時があって,AIもそれに準じた形に作られていたんです。
「それじゃあ面白くない」ということで,色々な攻略ができるように世界を広げたんですが,そうするとAIのバカっぷりが目立ってしまって……。AIはゲームデザインに合わせて作るものなので,ゲームデザインが変わるごとに調整の繰り返しでした。
4Gamer:
そうそう,個人的には,ゴリラみたいな無人機の強さが腹立たしいです。
齋藤氏:
マスティフのことですね。やっぱり,投げキャラは強くしたいなと思いまして(笑)。
是角氏:
基本的にシノギはどんな攻撃でも受け流せますが,投げには対応できませんからね。
玉利氏:
最初のほうから出てくるにも関わらず,アイツには後半まで苦しめられますね。
稲葉氏:
ちょっと不思議ですよね。グラートとかは後半楽になるのに,マスティフはいつ出てきてもしんどいという。
4Gamer:
ボス以外では,最も苦戦した相手です。憎い!
齋藤氏:
こちらがアクションをする上で,相手も違った攻撃をしてこないと,戦術が単調になってしまいますよね。なので,敵キャラクターにも個性を付けています。マスティフの場合は,「コイツを早く倒さないと……」という,憎むべき敵として作りました。なので,その感想は狙い通りです(笑)。
「メタルギア」“らしさ”を形作るものとは?
4Gamer:
率直に言って,従来のメタルギアシリーズとはまったく違うゲームでありながら,“メタルギアらしさ”を随所に感じさせる作品だと思いました。
もちろん遊ぶ人によって,その“らしさ”は違うものだとは思うんですが,制作する上で「ここを変えたらメタルギアではなくなってしまう」と気をつけた部分はありましたか?
是角氏:
どこが“メタルギアらしさ”なのかは,おっしゃる通り,人それぞれでしょう。
ですが,メタルギアシリーズの魅力はこれまで積み重ねてきた世界観や,個々のキャラクターが作り上げているものです。なので,それぞれが持つ魅力を崩さずに,そのキャラクターが生まれた背景やストーリーを描くのが重要だと考えています。
4Gamer:
世界観とキャラクター性こそが,メタルギアシリーズを形作っているということですね。
是角氏:
はい。そのうえで,ゲームとしてのユーモアとシリアスのバランスをとりつつ,遊びの幅を提供していく。それがメタルギアではないでしょうか。
これらを揃えれば,たとえどんなに違う方向性のゲームでも,遊んだプレイヤーは「これはメタルギアだ」と感じられると思うんです。
4Gamer:
MGRは,シリーズのファンが遊んで「これはメタルギアじゃない!」と思うようなことのない作品に仕上がっているということですね。
是角氏:
ええ。クリアをしたときに,「これはメタルギアだね」と言ってもらえる自信があります。
玉利氏:
実際に海外メディアの方からお話を聞いてみても,そういった声をいただいています。本当にプラチナゲームズさんと組むことができて良かったと,あらためて感じますね。
稲葉氏:
齋藤のメタルギア愛が随所に込められていますから。
齋藤氏:
僕はメタルギアシリーズが本当に大好きなので,どうやってそのテイストを壊さないようにするかという点にはかなり気を使いました。「ここを外したらダメ!」というポイントもあり,「ここはあえて変えよう」という場面もあり……さまざまなハードルを乗り超えて,現在の形に収まっています。
4Gamer:
そんなメタルギアらしさを出しつつ,アクションゲームとしてのテンポを損なわないシナリオを作るのは一筋縄ではいかないと思うんですが,そのあたりはいかがでしたか?
玉利氏:
何よりも「斬る気持ち良さ」を味わってもらおうという気持ちでシナリオを書きました。ですがその一方で,敵を斬って命を奪うことに対して,疑問を持たずに終わってほしくはありません。これは今までのメタルギアシリーズでも訴えてきたテーマですし。
全体を通して見ると,プレイヤーに対してその是非を問いかけるような内容になっています。
4Gamer:
やはり,何度も推敲を重ねたのでしょうか?
玉利氏:
そうですね。1回シナリオを提出したあとも,絵コンテを作ったり,ミーティングを重ねて実際にモーションキャプチャを取り込んだりしながら,さまざまな修正を加えました。
そういえば,海外向けに翻訳していく過程で,自分では見えていなかった部分が見えてきたこともありましたね。
4Gamer:
それはどういったことでしょうか?
玉利氏:
翻訳するにあたって,言語や文化の違いから,どうしても意訳になる部分が出てくるものなんです。そこで翻訳された文章を見ると,「このセリフで重要なポイントはここだから,ほかの部分は切っても良いな」といったところが見えてくるんです。
早めにシナリオを完成させられた分,若干の余裕があったので,テンポを良くするための推敲を重ねることができました。
4Gamer:
かなりショッキングなエピソードもあって,思い切ってるなぁと……。
玉利氏:
開発部内でも色々と物議を醸しました(笑)。
4Gamer:
こういう言い方をするのも何ですが……よく通りましたね(笑)。
玉利氏:
通らなかったシーンもありましたけどね!
稲葉氏:
せっかく作ったのに(笑)。
是角氏:
日本でいうところのCEROの審査を「Z」まで振り切る選択肢もあったんですが,作り手側としては,できるだけ多くのユーザーさんに楽しんでもらいたいので,落とさざるを得ない表現があったのは事実です。
4Gamer:
CEROがZになってしまうと,一気に購買層が限定されてしまいますからね。
是角氏:
別に残酷な物語を描きたいわけでもなく,雷電にとって必要なこととして描いた結果,表現がどぎつくなってしまうことがどうしてもありまして……。
ただ最終的には,そういった必要な部分も,CERO Zにならないような演出でうまく説明できています。
玉利氏:
やっぱり戦う理由もないのに,ただ戦うというのは,それが一番おかしいですからね。「斬る気持ち良さだけでは終わりたくない」という考えと有機的に結びついたストーリーを,作ろうと考えていました。
4Gamer:
それはやはり,雷電自身に元少年兵という過去があるからこそなんでしょうか。
玉利氏:
「メタルギアソリッド2 サンズ オブ リバティー」(以下,MGS2)では多少語られていましたが,最新作の「メタルギアソリッド4 ガンズ・オブ・ザ・パトリオット」(以下,MGS4)ではあまり触れられていませんでしたよね。MGS4は,スネークというキャラクターの完結編といった意味合いが強い作品だったので,雷電はスネークから教えを請う立場のままだったんです。
ですが,今回は雷電が主人公なので,彼の過去やパーソナルに寄ったストーリーになっています。
「活人剣」の甘さと「人斬り」の本質
4Gamer:
そんな雷電が本作では当初「活人剣」という信念を掲げているようですが,どこからその発想が生まれたのでしょう?
悪を斬り倒さないと先に進まないのがアクションゲームの基本ではあるんですが,それが本当に正義なのか……といった疑問があるんです。
僕自身,活人剣という言葉はきれいごとっぽくてあんまり好きではないので,その辺りを突き詰めた結果が,今回のシナリオになっています。
齋藤氏:
ちょっと雷電の“甘さ”を出そうという話をしましたから,それが発想の起点でしたよね?
玉利氏:
あ,そうですね。
齋藤氏:
「白い雷電」から「黒い雷電」になるとき,どんな形でその“甘さ”を消していくか。その過程で,活人剣という言葉の意味が分かるようなお話になっています。
4Gamer:
そのあたりを通じて,本作では雷電というキャラクターが成長する姿を見ることができた気がします。
玉利氏:
うーん,あれが“成長”なのか,それとも“堕落”なのかは,かなり難しい部分ではありますが,その区分けはこちらから提示しません。
そこはプレイした人に考えてほしいポイントですね。とくに,サムとの絡みには注目してほしいです。
4Gamer:
「Jack the Ripper編」のトレイラーは鳥肌が立つほど衝撃的で格好いい映像でしたし,あんなにもノリノリな雷電は初めて見たような気がします(笑)。
玉利氏:
あのトレーラーでは,あの状況に至るまでの展開を意図的に伏せているので驚いたかもしれません。でも,MGS2のシナリオを何度も読み返し,今回のゲーム性も考慮すると,あの展開は必然なんです。
過去のことを考えても,なぜ雷電の仲間達はアメリカに適応できたのに,雷電だけが適応できなかったのか。そういったことを踏まえたら自然にキャラクターが動いていったんですよ。
4Gamer:
こうやってお話をうかがっていると,玉利さんの雷電というキャラクターへのこだわりが強く伝わってきます。
玉利氏:
僕の場合,自分で考えて書いているというよりも,今まで小島が作ってきた雷電というキャラクターになりきって書いたつもりです。やっぱり思い入れは強くなりますよね。
齋藤氏:
この言い方が正しいかどうか微妙ですが,雷電って“中二病”的な要素が強いキャラクターじゃないですか。MGS2の「俺は子供の頃に……」みたいな台詞とか,MGS4で「俺はサイボーグだから……」と悲観するところとか。その針が振り切れた先にあるのが,MGRのアレというわけです(笑)。
4Gamer:
なるほど,きちんと延長線上にあるわけですね。
それにしても今回MGRをプレイしてみて,ようやく雷電のキャラクターが“立った”と思いました。個人的には今まで一歩離れて見ていたのが,やっと感情移入できるキャラクターに昇華したという印象です。
玉利氏:
どうしても今までは,スネークという偉大なヒーローの“引き立て役”という立ち位置だったので,そう言っていただけると嬉しいですね。
是角氏:
従来の雷電を知っている人に対してのオススメポイントはそこですね。
これまでにいろいろな経験をしてきた雷電というキャラクターが,スネークと同様の大人になったとき,どういった人間になっているのかと。雷電のことをよく知っている人ほど,その変化を楽しめると思います。
玉利氏:
知らない人にも,一人の新たなヒーローとして純粋に楽しめるはずです。
4Gamer:
早くも次の展開が気になってくるのですが……今回のMGRは,続編を想定した作りになっているのでしょうか?
齋藤氏:
エンディングを楽しみにしておいてください(笑)。
是角氏:
「メタルギア」という名前は付いていますが,MGRは新しいIPだと思っています。ゲーム性も主人公も違いますから,遊んでくださった方に「もっとこのゲームで遊びたい!」と思っていただけたら嬉しいです。そこが,エンターテイメントの目標だと思っていますので。
もしも,多くの方にそういう風に受け入れられたならば,ぜひ次も作ってみたいと思います。
4Gamer:
ぜひとも,“ライジング・サーガ”を打ち立てていただきたいなと思います!
玉利氏:
皆様の応援が……。
是角氏:
あれば,実現できる……かもしれません。
4Gamer:
期待しています。ありがとうございました!
今回のインタビューは,筆者がMGRをじっくりプレイしたうえで行ったものであるため,本作を楽しみにしているという読者にとって,なかなか興味深い内容になったのではないかと自負している。
とくにストーリーに関しては,玉利氏の発言を念頭に置きながらゲームをプレイすれば,より深く雷電というキャラクターを理解できるはずだ。
いよいよ発売まであと少しというところまで来たMGR。プレイレポートでも書いた通り,一足早くクリアした筆者は本作をかなり気に入っている。間もなく世に放たれる真の“斬撃”アクションゲームを,もう少しだけ楽しみに待ってほしい。
ダークヒーローな雷電かっこよすぎ。新たな歴史を“斬り”拓いた「メタルギア ライジング リベンジェンス」のプレイレポート
「メタルギア ライジング リベンジェンス」を発売前にじっくりプレイ。メタルギアの魅力と壮快なアクションが融合した傑作だ
「メタルギア ライジング リベンジェンス」公式サイト
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メタルギア ライジング リベンジェンス
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