連載
【ヒャダイン】常識を,通念を覆していく,それが「ゼルダの伝説」なんだな
ヒャダイン / 音楽クリエイター
ヒャダインの「あの時俺は若かった」 |
第93回:「常識を,通念を覆していく,それが『ゼルダの伝説』なんだな」
ども。この日のために生きてきたと言っても過言ではない,「ゼルダの伝説」シリーズ最新作,「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」が発売されましたね。
ゲーム史上においてもナンバーワンゲームと名高い前作「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」(Nintendo Switch / Wii U)は数百時間プレイして,スマホにサントラ全曲をばっちり入れている身としては,楽しみわくわく半分,「え,前作の完成度を超えるなんて無理じゃね?」とか「蛇足にならなきゃいいけどな」とか,「そろそろNintendo Switchのスペックじゃ厳しくね?」とか天邪鬼な自分もいたことは事実です。
結論から言うと。前作を超えてきてやがる。いや,超えたというか前作のいいところはそのままキープしておいて,新しい要素がガンガン入って完全に進化している。そして勝手に心配していたカクツキなんかもゼロ。ロード時間もほとんど気にならない。ほかのゲームでのカクツキはなんだったんだ,と思うくらいの快適さ。驚きの連続です。
さて,具体的に何が変わったかとかのレビューはあちこちの記事やYouTuberが触れていると思うので,今回私は主観的に感じたことを書いていきます。
まず一番に思って自己嫌悪すら感じたのが,「ああ,私はいつから自分の頭で考えなくなってしまったんだろう」ということです。このティアーズ オブ ザ キングダム,ある意味不親切なゲームではあるんですよね。文字情報もチュートリアルも少なく,オープンワールドに放り出されてあとは自分で道を探してね,がんばってー! というスタイル。
祠を攻略していくのですがそれは基本謎解き。自分が持てる数少ない力,選択肢を駆使してどうにかこうにかクリアしていきます。多分これが正攻法なはずなのに,という方法がうまくいかなかったら邪道でもなんでもいいから特殊技である「ウルトラハンド」(ものを運んだりくっつけたりする能力)や「モドレコ」(物体の時間を戻す能力)を駆使したらクリアできちゃったりするのです。
さて話は戻りますが,自分の頭で考えること。これに向き合わされる毎日になろうとは。正直難度は前作よりも高く,祠やフィールドで手も足も出ない瞬間も何回か訪れました。序盤の冬山で凍死しそうになったり。そういうとき,ついスマホに手を出して調べたくなってしまうんですよね。発売直後だとしても攻略Wikiは充実しているし,それを見たら取扱説明書を見るがごとく「ふむふむなるほど」とそのレシピどおりにやったらどうにかできてしまうわけです。おいおい。お前の脳みそはお飾りか? いつからお前は自分の頭で考えなくなったんだ。
確かに実生活でも分からないことや思い出せないことがあったら,秒でスマホで調べて答えにたどり着く毎日を送っています。街に出てレストランに入りたいときも,適当な店の前まで行ってわざわざそこで評価サイトの星の数をチェックして入るか否かを考えたり。いつの間にか「最適解」や「効率」を重視するライフスタイルになってしまったことを痛感します。
ティアーズ オブ ザ キングダムにおいても,何度「オススメの攻略順」みたいなものを調べそうになったことか。このゲームはどの道を選ぶのも正解だし,取りこぼしがあってもそれはそれ。今が楽しければそれでいいじゃないか。自分で考えて自分で選んだ道を歩く。他人に口を挟ませない自分だけのハイラルを味わう重要性を,ひしひしと感じています。
あと自分の理系脳の乏しさにも気付かされます。今回,ウルトラハンドという能力で落ちているものを組み合わせて車や飛行機やいろんなものを自作できるのですが,そのセンスの欠如に絶望。この機体のここに扇風機を置いたら浮力になって前に進む,とかがまったく思い付かないのです。そういえば学生のころ,物理は赤点だったなあ……なんてことをまざまざと思い出します。
祠攻略においても物体が動く法則を考えたらすぐ解けそうなものも,発想が沸いてこない。文系的な言葉遊びクイズとかが出てきたら速攻で解けるのになあ。そういうゲームじゃないんです。
ミニイベントでちょいちょい出てくるのが,でかい看板を一人で支えていて助けを求めてくる人物。それに対して道に落ちている素材を組み合わせて看板を支えるついたてみたいなものを作ってあげればクリアなのですが全然うまくいかない。物理法則をまったく分かっていないんでしょうね,私。ちゃんと勉強してればよかった。ていうかこれはセンスか。
ディテールから離れる話にはなるのですが,ティアーズ オブ ザ キングダムをプレイしていて痛感するのが,「あれ,私,こんなに現実世界のことが嫌いだったっけ?」ということ。私,ミュージシャンをしているんですけど仕事は楽しいし友達も愉快だしペットも可愛いし旅行したりもするし充実しているはずなんです。しかし一度ティアーズ オブ ザ キングダムを始めたら,もうハイラル地方からどこにも行きたくない。関東地方には帰りたくない。先日も飛行機で往復4時間の旅があったのですが,ずっとハイラルにいたらあっという間に移動完了でした。こんなに簡単に時間が溶けるものだなんて。
ゲームの中で主人公リンクは昼夜問わず崖を登って空も飛び降りて雪山も灼熱砂漠も走り倒します。もちろんスタミナ切れすることもありますがすぐに回復します。一方,現実世界の私はどうでしょう。夜は眠くなるし,だけど睡眠は浅いし,走ると疲れるのは当然歩くのすら億劫だし,35度超えの夏も底冷えする冬も大嫌いだし,全然リンクと違う。これから歳を取ったらもっと歩けなくなるでしょう。ますますリンクへの憧憬は強まるばかりです。
しかし実生活でも少しメリットはありまして。こないだ,ももいろクローバーZのコンサートを観に代々木第一体育館に行ったんですね。そのときの座席が「ロイヤルボックス」という馴染みのないエリアで,係員に聞くと「2階席から入ってください」と。言われたとおり2階席に行くと確かにロイヤルボックスは見える。しかしどこにも出入り口がないんですね。モノノフさんの中をうろちょろと迷う様はさぞかし滑稽だったことでしょう(10年前に比べて顔をさされることが圧倒的に減りましたが)。
そこでロイヤルボックスの構造をティアーズ オブ ザ キングダム方式で考えてみたんですね。すると「あ! これは一度1階の廊下に降りれば特別な入り口があるはず!」という発想に至り,勇気ある撤退。一度廊下に戻ってちょっと進むと,あったあったよ専用入り口。そのとき私の頭に鳴ったのは当然あの音「タラリラタリララン♪」。謎解き正解音です。まあリンクだったら壁をよじ登って飛び越えりゃ,すぐに入れるはずなんですけどね。
私はまだゲームの半分も終えていない状況。っていうか,何をもって終わりと言えるのか分からない名作ティアーズ オブ ザキングダム。もしかしたら永遠にできてしまうんじゃないかと思うほどです。実際前作も3年くらいやり続けてたし。
でもここにあらためて誓います。ネットは見ない! 分からないことがあったら友達に聞く。限界まで自分の脳みそで考える。どんなに時間がかかろうと,徒労に終わろうといいんです。リンクには体力がある。一緒に付き合ってくれるよ。でもショート動画くらいは見ちゃうかなあ。ああ楽しい毎日です。
■■ヒャダイン(音楽クリエイター)■■ ヒャダイン氏が“歴史から静かに消え去りそうな90年代ムーブメントをすくいあげる”というテーマで活動する,ミラッキさんとのトークユニット「genEric genEsis」。先日開催した,2回目となるイベント「ジェネリックSPEED」検証回は大いに盛り上がり,次回は8月を予定しているとのこと。詳細は後日発表予定です。 |
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ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム
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