レビュー
“扱いやすいFermi”がようやく登場か。GeForce GTX 465を試す
ZOTAC GTX465 1GB 256BIT DDR5(ZT-40301-10P)
Fermiアーキテクチャを採用し,DirectX 11完全対応という仕様はそのままに,「GeForce GTX 470」(以下,GTX 470)よりもスペックを引き下げた製品で,現時点におけるGeForce GTX 400シリーズ最下位モデルとなる。
GTX 470のレビュー記事において,筆者は同製品の価格と消費電力がネックとまとめたが,その点でGTX 465はどういった改善が見られるのか,はたまた見られないのか。今回は,ZOTAC Internationalの販売代理店であるアスクの協力を得て,搭載製品「ZOTAC GTX465 1GB 256BIT DDR5」(型番:ZT-40301-10P,以下 ZOTAC GTX 465)を入手できたので,さっそく,その実力を詳らかにしてみたい。
GTX 470からシェーダプロセッサ数を削減
一方でカードデザインはGTX 470とほぼ同じ
GTX 465が搭載するシェーダプロセッサ「CUDA Core」の数は352基。Fermiアーキテクチャを採用したGF100(=GeForce GTX 400)コアの場合,32 CUDA CoreとL1/共有キャッシュやテクスチャユニット,さらにジオメトリエンジンなどがセットになって1基の「Streaming Multi-Processor」(以下,SM)を構成する仕様のため,352 CUDA CoreのGTX 465は11SM仕様ということになる。
「GF100-030-A3」という刻印が入った,GTX 465のGPUパッケージ。ちなみに352 CUDA Core,44テクスチャユニット,32ROPユニットというのは,ノートPC向けの「GeForce GTX 480M」と同じだ。GeForce GTX 480Mは,GTX 465をベースに,動作クロックを大きく引き下げたものということなのだろう |
フルスペック版GF100のブロックダイアグラム |
ことによると,GF100コアが内蔵する4基のGPCはいずれも有効で,そこから5SM(=160 CUDA Core)が削られているという可能性もゼロではない。
ちなみにGF100コアでは,SMごとに4基のテクスチャユニットが割り当てられているため,11SM仕様のGTX 465で,テクスチャユニット数は44基。また,メモリコントローラがフルスペックの6基から4基へと削減され,256bitインタフェースになったことを受け,8基で1パーティションを構成するROPユニットもパーティション数が6から4に減り,8基×4=32基となった。
表1は,GTX 465と上位&従来製品,競合製品とのスペックを並べたものだ。コア&シェーダクロックはGTX 470と同じだが,メモリクロックは5%弱の引き下げ。グラフィックスメモリ容量も,メモリインタフェースが絞られた都合上,1GBとなっている。
ここで,リファレンスデザインを採用している可能性が高いZOTAC GTX 465を概観してみよう。
カード長は実測243mm(※突起部除く)で,これはGTX 470リファレンスデザインと同じ。カード全体を覆うGPUクーラーを含めた見た目は,GTX 470のリファレンスデザイン版カードと瓜二つだ。
- GPUパッケージと接触する5本のヒートパイプを採用したパッシブクーラーと,メモリや電源部のヒートスプレッダを兼ねるファンユニットを,カバーで覆うというGPUクーラーのデザインに違いが見られない
- 基板レイアウトが見るからに同じで,GTX 465は,メモリチップの空きパターンが用意されている
といった案配で,外見から大雑把にまとめるなら,「GTX 465は,GTX 470をベースに,SM数とメモリ周りのスペックを引き下げたモデル」といったところだ。
ZOTAC GTX 465が搭載するメモリチップは,Samsung Electronics製の「K4G10325FE-HC05」(0.5ns品)で,これも4Gamerで入手したリファレンスデザイン版GTX 470カードと同じ。同じメモリチップを搭載しつつ,メモリクロックを低めにしているのは,消費電力や発熱といった,GTX 470が抱える懸念点を抑えるためではなかろうか。
ちなみに,TechPowerUp製のGPU情報表示ツール「GPU-Z」(Version 0.4.2)で動作クロックを確認したところ,リファレンスデザイン採用モデルなので当たり前といえば当たり前だが,ZOTAC GTX 465の動作クロックは,表1で示したものと同じだった。
メモリチップは1Gbit品のGDDR5 |
GPU-Z実行結果 |
上位&従来製品,競合製品と比較
ドライバはRelease 256&Catalyst 10.5を利用
テスト環境は表2のとおり。直接の上位モデルに当たるGTX 470のほか,DirectX 10世代のシングルGPU最上位製品である「GeForce GTX 285」(以下,GTX 285),そして「ATI Radeon HD 5850」(以下,HD 5850),「ATI Radeon HD 5830」(以下,HD 5830)も,比較対象として用意した。
このうち,GTX 285カードであるASUSTeK Computerの「ENGTX285 TOP/HTDP/1GD3」は,メーカーレベルのクロックアップがなされているため,テストに当たってはリファレンスクロックにまで下げている。
テスト方法は基本的に4Gamerのベンチマークレギュレーション9.2準拠。ただし,最新版のグラフィックスドライバである「GeForce Driver 257.15 Beta」と「ATI Catalyst 10.5」を用いてテストをすべく,これらのリリースを待ったというスケジュールの都合上,「Crysis Warhead」「Left 4 Dead 2」「ラスト レムナント」のテストは省略。同じ理由で,解像度も1680×1050&1920×1200ドットの二つに絞った。
一方,DirectX 11環境下の評価を深めるため,「S.T.A.L.K.E.R.: Call of Pripyat」(以下,STALKER CoP)の公式ベンチマークテストを追加し,DirectX 11モードで実行しているので,この点はお断りしておきたい。
Rampage III Extreme 4-way SLIも視野に入れるゲーマー&OCer向けハイエンドモデル メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) news@unitycorp.co.jp 実勢価格:4万7000円前後(※2010年5月31日現在) |
XFX Radeon HD 5830 1024 MB DDR5 DisplayPort(HD-583X-ZNFV) オリジナルデザイン採用のHD 5830カード メーカー:Pine Technology 問い合わせ先:シネックス(販売代理店) 問い合わせ窓口 実勢価格:2万3000〜2万5000円程度(※2010年5月31日現在) |
なお,テストに当たっては,組み合わせるグラフィックスカードによって“効き具合”が異なることを避けるため,CPUの自動オーバークロック機能である「Intel Turbo Boost Technology」をBIOSから無効に設定。「Intel Hyper-Threading Technology」は有効にしたままとする。
GF100コアらしく,DX11環境では強さを見せる
一方,GTX 470との差はかなり大きい
定番のベンチマークソフト,「3DMark06」(Build 1.2.0)における総合スコアから見て行こう。グラフ1,2がその結果だが,ここではまず,GTX 465とGTX 470に注目したい。アンチエイリアシングとテクスチャフィルタリングを適用していない「標準設定」の1680×1050ドット設定時だと,GTX 465はGTX 470比93%のスコアを示すが,グラフィックス描画負荷が高くなるとその差は開いていき,4xアンチエイリアシングと16x異方性フィルタリングを適用した「高負荷設定」の1920×1200ドットだと,GTX 465はGTX 470の82%まで下がるなど,落ち込みが大きいのだ。
CUDA Coreとテクスチャユニット,そして何よりROP数&メモリインタフェースの削減は,グラフィックス描画負荷の大きさに比例して,大きく影を落とすようになると見るべきだろう。
続いては,3DMark06のデフォルト設定である解像度1280×1024ドット,標準設定において,「Feature Test」を実行した結果について見てみたい。
グラフ3は「Fill Rate」(フィルレート)だが,DirectX 11特化型GPUたるGeForce GTX 400シリーズの2製品は揃ってスコアを落としており,とくにGTX 465は,Multi-TexturingでHD 5850の半分である。このあたりはGF100コアが持つ宿命のようなものなので,こんなものといえばそれまでだが,DirectX 9世代のゲームタイトルをプレイするに当たっての懸念材料にはなると思われる。
グラフ4,5に示したのは,順に「Pixel Shader」(ピクセルシェーダ)と「Vertex Shader」(頂点シェーダ)のテスト結果。Release 256世代のGeForce Driverでは,GeForce GTX 400シリーズに向けたパフォーマンスの最適化が図られているが,DirectX 9アプリケーション――というか3DMark06――における頂点シェーダ偏重の方向性は変わっていない。
これがGF100コアの特性なのか,DirectX 11世代におけるテッセレーション性能にドライバの最適化を図ると,どうしてもDirectX 9環境でこういう方向性に振られてしまうのかまでは分からないものの,この傾向が続く限り,DirectX 9環境でGeForce GTX 400シリーズがATI Radeon HD 5800シリーズを圧倒するのは難しそうだ。
Shader Model 3世代における汎用演算性能を見る「Shader Particles」(シェーダパーティクル),長いシェーダプログラムの実行性能を見る「Perlin Noise」(パーリンノイズ)のテスト結果がグラフ6,7となる。
GTX 465のスコアは,GTX 470比でCUDA Core数が8割弱になったことを考えると,いたって順当なものに落ち着いた。
実際のゲームから,グラフ8は,DirectX 11モード,標準設定で実行したSTALKER CoPの結果になる。STALKER CoPの公式ベンチマークテストは,「Day」「Night」「Rain」「SunShafts」という,(負荷がDayからSunShaftsへと順に高くなっていく)四つのシークエンスを連続で実行し,それぞれでフレームレートを出すというものだ。
今回は結果を一気に並べてみたが,面白いのは,描画負荷の低い局面だと,GTX 465はHD 5830といい勝負で,HD 5850にはまったく歯が立たないのに対し,最も描画負荷の高いSunShaftsだと,わずかながらもHD 5850を上回るスコアを示している点だろう。
続いて,高負荷設定のスコアがグラフ9だが,こちらだとGTX 465の対HD 5850逆転劇が,Nightから起こる。DirectX 11アプリケーションを高いグラフィックス設定で実行したときは「GTX 465≧HD 5850」が成り立ちそうだ。
では,DirectX 9世代のゲームアプリケーションだとどうなるのか。グラフ10,11は「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)の結果となる。
Call of Duty 4は,テクスチャユニット数の影響を受けやすいタイトルなので,44基というGTX 465は不利なのだが,果たして,動作クロック(=シェーダクロック)の高さでHD 5830よりは安定的に高いスコアを示すものの,HD 5850やGTX 285にはまったく届かない。
DirectX 10世代の「バイオハザード5」だと,ゲームエンジン自体がGeForceへ最適化されているため,GeForceのスコアは全体的に高め(グラフ12,13)。実際,GTX 465もHD 5850と肩を並べるレベルにある。ただ,解像度が高くなると,HD 5850やGTX 285の逆転を許すほか,GTX 470には9〜20%という差を付けられている点は押さえておきたいところだ。
ゲームテストの最後となる「Colin McRae: DiRT 2」(以下,DiRT 2)では,STALKER CoPと同様,DirectX 11モードでの検証になるが,さすがはDirectX 11特化型GPUといったところか,GTX 465は1680×1050ドットでHD 5850と互角の勝負を演じている。1920×1200ドットだとやや置いて行かれ気味だが,これはメモリ周りの制限を考えるに,やむを得ないところか。
GTX 470比で予想以上に消費電力が下がったGTX 465
ただし依然としてGPU温度は高め
さて,NVIDIAの公称スペックによると,GTX 465の最大消費電力は200W。GTX 470の215Wからは15Wしか減っていない計算だが,基板デザインの流用を踏まえるに,妥当な線という見方もできるだろう。
実際のところをチェックすべく,今回も,ログを取得できるワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,システム全体の消費電力を計測してみたい。
テストに当たっては,OSの起動後,30分間放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,各タイトルごとの実行時としている。
その結果はグラフ16にまとめたとおり。アプリケーション実行時の消費電力で比較すると,GTX 465はGTX 470より49〜59Wも低いスコアを示しており,GTX 285と比べても同等以下の値に収まっている。さすがにHD 5850&HD 5830と比較してしまうと見劣りしてしまうという事実はあるにせよ,ハイエンドGPUとしてそこそこ妥当なレベルにあると述べていいのではなかろうか。
少なくともGTX 480とGTX 470によって定着しつつある「GF100=電力食い」というイメージは,GTX 465には当てはまらない。
続いて,3DMark06の30分間連続実行時を「高負荷時」として,アイドル時ともども,GPU温度を取得した結果がグラフ17となる。
ここでは,テストシステムを室温21℃の環境でバラック状態に置き,GPU-Zから“読んだ”値をスコアとしているが,GTX 465は「GTX 470よりはマシ」というレベル。バランスの取れた冷却能力を発揮するHD 5850の存在が,GTX 465の立場を危うくさせている。
なお,搭載するGPUクーラーの動作音だが,筆者が実際に聞いた主観的な印象であることを断ってから述べると,リファレンスデザインのGTX 470と同じこともあって,聞こえる音の大きさはGTX 470とさほど変わらなかった。
GTX 285の立ち位置を置き換えるモデル
価格次第でHD 5850のライバルとなるか
GTX 470とのパフォーマンス差は大きく,かつ,DirectX 9環境のテストではGTX 285のスコアを下回ることもある点は気になるものの,NVIDIAの現行製品ラインナップで,GTX 470と「GeForce GTX 260」の間を埋める存在にはなり得ている。“GTX 285や「GeForce GTX 275」のDirectX 11対応モデル”的なGPUとまとめることができそうだ。
北米市場におけるGTX 465カードの想定売価は279ドルで,今回取り上げたZOTAC GTX 465の場合,日本での初値は3万円前後になる気配。よりバランスに優れるHD 5850の牙城を崩せるかどうかはさておき,今後の価格展開次第でHD 5850のライバルになり得るDirectX 11世代のGPUが登場してきたことは,素直に歓迎できそうだ。
それにつけても,なぜ“GTX 460”ではなくGTX 465なのだろうか。GTX 470とのパフォーマンス差を考えるに,正直なところ,下一桁が5である理由はないように思う。もちろん,外からは分からない何らかの事情があってGTX 465になったのだろうが,せっかく仕切り直しの400番台,もう少しユーザーに分かりやすい命名をしてほしいものである。
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