レビュー
どれだけ遊び続けてもきりがない,ハック&スラッシュファン必見の大作RPG
セイクリッド2
コンピュータRPGの歴史を語るうえで欠かせないタイトルといえば,やはり「Ultima」と「Wizardry」だろう。ざっくりとその違いを説明するならば,前者は,物語に沿って世界を旅し,特定の目的を達成するために冒険を繰り広げていくタイプのRPGであり,後者は,RPGには欠かせない“戦闘”という要素を軸に,パーティ編成やダンジョン攻略,レベル上げ,アイテム集めといった要素にフォーカスしたタイプのRPGだ。
いずれも,ゲームの中の人物になりきって(主人公キャラクターを演じて)楽しむという共通点はあるが,ゲーム世界を表現するための手法や,ストーリー性,戦闘システム,目的などは異なっており,シリーズを重ねていく過程で,どちらも独自の方向へ発展していったということは,4Gamer読者ならご存じのとおりだろう。
その二つの“源流”からは,大小さまざまな支流が生まれ,RPGというジャンルは,現在でも世界中で愛されている。日本では,「ドラゴンクエスト」「ファイナルファンタジー」「テイルズ オブ」といったシリーズが“JRPG”として隆盛を極め,海外では「The Elder Scrolls IV: Oblivion」「Fallout 3」「Mass Effect 2」といったビッグネームが,その内容にふさわしい評価と売り上げを記録している。
また,とくにPCゲーマーにとっては,どちらかというとWizardryを源流とする,“ハック&スラッシュ”タイプのRPGも重要な支流といえるだろう。RPGジャンルとしてのハック&スラッシュは,文字どおり戦闘要素に特化したタイトル群のことで,世界観やストーリー性よりも,敵を倒し,アイテムを得て,キャラを育てることが目的とさえ言える,“終わりのないゲーム”である。PCゲームでは,最新作「3」の発売が待ち遠しい「Diablo」シリーズが,極めて有名である。
今回紹介する「セイクリッド2」(PlayStation 3 / Xbox 360)は,そんなハック&スラッシュタイプのアクションRPGだ。美麗なグラフィックスや,美形揃いの登場キャラクター,まとまりのあるストーリー性などが評価されがちな日本においては,かなり挑戦的な(そして地味な)タイトルに映るかもしれないが,本作は,ハック&スラッシュ系RPGとしても紛れもない名作である。
※本稿で使用しているSS・ムービーは,筆者のフレンド達に許可を得て,海外Xbox 360版で撮影/掲載したものです
戦闘とキャラ育成に特化したRPG
35平方キロメートルという,広大にもほどがある面積のマップに,膨大な数のクエストが用意されており,倒しても倒してもキリがないモンスターを相手に,際限のないキャラクター育成,気の遠くなるようなレアアイテム集め,自由度の高いカオスな協力プレイなどが楽しめる。
セイクリッド2の最大の特徴は,なんといっても,奥深いキャラクターカスタマイズを可能にしているレベルアップシステムと,スキルシステムにある。
本作では,キャラクターレベルが上がると,キャラ固有の値だけ能力値が強化されるのだが,さらにポイントが獲得でき,それを任意の能力値に割り振ることで,自分好みのキャラクター育成が楽しめる。魔法使い系のキャラクターであれば,呪文威力に関わる知性(Intelligence)にポイントを突っ込み,火力を高めていくことができるし,打たれ弱さという弱点を補うために,体力(Vitality)や意志力(Willpower)にポイントを割きたいという人もいるだろう。
また,各キャラクターにはコンバットアーツという概念も存在する。コンバットアーツは,キャラクターの特技のようなもので,各キャラクターに三つの系統(アスペクト)が用意されている。ちなみに一つのアスペクトは,五つのコンバットアーツで構成されている。魔法使いが分かりやすいのだが,火炎系,氷系,神秘系と3種類のアスペクトがある。火炎のアスペクトの中には,コンバットアーツにあたるファイヤーボールなどの技がある,という具合だ。ただしコンバットアーツは,キャラクターのレベルアップではなく,敵からドロップする“ルーン”を消費して強化していくことになる。
一言でキャラクター育成といっても,セイクリッド2にはこれだけの成長要素が盛り込まれている。キャラクターがレベルアップするたび,そしてルーンを拾うたびに,キャラクター強化の方向性に関する判断を求められ,決断する。これがセイクリッド2の魅力の一つになっている。
能力値や任意のスキルを成長させていくことでキャラカスタマイズを行い,足りない部分はレアリティの高い装備を見つけることで補うという,典型的なハック&スラッシュ系のRPG。この系統のゲームの王道に則って,貴重なアイテムは敵を倒して入手するしかない。敵のアイテムドロップは当然ランダムであり,いいアイテムを拾うことの困難さが,収集意欲を強く煽り立てる。
しかもコンバットアーツは,一つ一つにレベルの概念があり,アスペクト全体ではなく,コンバットアーツ単体でレベルを上げるには,ルーンと呼ばれるアイテムを拾うしかない。アイテム収集がキャラクターの強さにつながるし,カスタマイズの選択肢を増やすことになるというわけだ。これはもう,一度ハマッたら止められない。
恐ろしく広大な世界と膨大すぎるアイテム数
約35平方キロメートルという広大な世界を,最大4人Co-opで探索し,メイン,サブ合わせて500以上のクエストをこなしていく。当然ながら,必ずしもクエストをこなしていく必要はなく,ダラダラと世界を探索し,適当に敵と戦っていてもいい。ただ,クエストをこなしていくほうが取得経験値効率が高いので,ピンポイントで進めていくことになるだろう。もちろん,効率など考えず,膨大な時間をかけて,クエスト達成率100%を狙ってもいいが,クエストの数はとにかく膨大なので,全部こなすのにどれだけ時間がかかるのか,考えるだけでも気が遠くなる。
35平方キロメートル……と言われても,この面積をいちいち行ったり来たりするわけにも行かないので,各地にポータル(ワープポイント)が設置されていたり,馬などの乗り物を利用したりしつつ,旅することになる。移動中に雨が降ってきたり,昼夜が変化したりもするので,のんびりと徒歩で移動するのもいい。のんびりしていても途中で敵は襲い掛かってくるので,その時は経験値とアイテムを入手するチャンスだ。夜は敵の出現数が多すぎて涙を流すことになるかもしれないが,それがハック&スラッシュの醍醐味と割り切れば,案外楽しめる。敵が多いということは,得られる経験値やアイテムも多いということ。まったく問題ない。
とはいえ,本作の装備アイテムにはレアリティが設定されており,貴重なアイテムはなかなか手に入らない。武器と防具には,鍛冶屋で魔法効果のようなものを付加することも可能なので,レアアイテムの出が悪いなら,それを利用してしばらく我慢するといい。ちなみに,特定のキャラクターは,スキルで鍛冶屋になれたりもする(海外版では鍛冶が機能しない不具合があったが,日本語版では修正されている)。
武器や防具には,キャラやレベルによって装備できないアイテムなども存在するので,いいアイテムを拾ったとしても手放しで喜ぶことはできない。装備以外にも,先述したルーンや,レリックという魔法系の装備品などもあるので,とにかく尋常ではない数のアイテムを集めることになる。
これらの装備に関する厳しさを聞いて,昔の洋ゲー愛好家であれば,どこか懐かしい気分になるのではないだろうか。
無限のバリエーションとはこのことだ
実際に画面を見てみると,何となく「Ultima Online」や「Diablo」を思い出してしまうのは,筆者の年代だけかもしれないが,とにかくノスタルジックな気分になる。本作では,キャラクターごとに性別が固定されており,キャラメイクでは,キャラクターの性別を変更することは不可能で,種族(セラフィム/インキュイジター/シャドウウォーリア/ハイエルフ/ドライアド/テンプルガーディアン),髪型,髪の色,信仰する神様,Light/Shadowの属性くらいしか設定できない。つまり,見た目での変化がほしいなら,装備品で工夫するしかない。
ちなみに,キャラメイクで選択できる“信仰する神様”は,どれを選んでもとくに問題ない。“ギフト”という特殊能力が異なるだけだ。ギフトは,数分に1回しか使えないのだが,体力を回復してくれたり,天から雷を落として敵を攻撃してくれたりと,なかなか強力なものになっているので,好みに応じて選ぶといいだろう。
Light/Shadowの属性は,そのまま光のストーリーを楽しむか,闇のストーリーを楽しむかを決める部分になる。種族によってはどちらかしか選択できないし,Co-opでキャンペーンモードをプレイするとき,異なる属性のキャラとは一緒に遊べないなどの制限があるので注意が必要だ。フリーワールドモードでは関係ないので,「ひたすら一人でハック&スラッシュ」な人にはあまり重要な部分ではないかもしれない。
なおこれは余談だが,筆者は説明書を読まずにプレイして,ギフトの選択ミスでキャラクターを作り直すことになった。何も知らずに選択したのがカオスの神様で,ギフトは悪魔召還。これはものすごく強い悪魔を召還し,敵をあっという間に片づけてくれるものなのだが,問題は,一定時間が経過すると自分のキャラクターも攻撃されるということ。まぁ殺されるのは構わないのだが,復活しても,悪魔は同じ場所にいた。当然ながら抵抗むなしく撲殺され,そっとリセットボタンに手を伸ばした……。
筆者がオンラインCo-opで見た光景としては,ドライアドという遠距離攻撃(弓の達人)メインの種族が,中ボスクラスの敵を,一発殴るだけで瞬殺していた。意外すぎる出来事にしばらく棒立ちになってしまったほど珍しい光景だった。あまり注目されないような特定のスキルでも,ひたすら特化すれば,あそこまで強くなるのかと驚いたものだ。
それ以外にも,純粋に「操作に慣れている」ことの影響も大きい。このゲームは,「攻撃」や「魔法」というボタンがない。四つのボタンとトリガーの組み合わせで使用できる12のショートカットに,武器や盾,魔法を割り当てる仕組みなのだ。武器のショートカット操作で攻撃し,魔法のショートカット操作で魔法を使う。このことにより,たとえば剣と弓を瞬時に使い分けたり,複数種類の魔法を素早く使い分けたりといったプレイが可能になるのだ。
最初は戸惑うだろうが,実際に一度でも本作をプレイしたら,これが非常にゲームパッドでの操作に向いていることが分かるだろう。「Diabloタイプのゲームをパッドでプレイできるか!」と筆者も思っていたのだが,正直に言うと,もうマウスメインの操作のほうが面倒にすら感じている。
「ハック&スラッシュはDiabloこそが至高であり,マウスを壊すのがデフォ」という人も多いだろう。とくに4Gamer読者の中には多いかもしれないが,心配ご無用。というのも,セイクリッド2でのターゲッティングは,セミオートになっているのだ。
本作では基本的に,自分の向いている方向を攻撃する。魔法や弓矢などの遠距離攻撃では,キャラクターの視線の延長上にいる敵をターゲッティングするようになっている。たとえば,自分の後ろに雑魚がいて,遠距離に厄介な敵を見つけたときは,雑魚に殴られるのを我慢して視線を厄介な相手に向ければ,その敵に向かって遠距離攻撃が繰り出せる。一部例外はあるが,スキルを上げまくると,ホーミング性能が付いたりもするので,操作で困ることはないだろう。ハイエルフのファイヤーボールに至っては,ロックオンしたら90度どころではないまがり方をする。
ちなみに,セミオートターゲッティングの精度が気になる人もいるかもしれないが,これはかなり幅広い範囲に補正がかかる。向いている方向を中心にして30度ぐらいの角度は,何も考えなくてもターゲットしてくれる。一部の種族だけ使用できる範囲攻撃に関しては,割り振ったボタンの長押しで,自由に範囲を動かすことができる。マウスで遊んでいる人もスムースに,直感的に遊べるはずだ。
終わりのない冒険の日々
アイテム収集や世界の冒険だけでも,十分に長時間遊べることは分かると思うが,このゲームを1周した段階で「あと数年遊べるんじゃないだろうか」という感覚が芽生える。メインクエストを進めていると,一応のゲームクリアを迎える。普通の人はまず,難度ブロンズ(銅)で1周すると思うのだが,2周目を難度シルバーでプレイすると,間違いなく驚愕する。なんと,シルバー開始直後の雑魚キャラから,ブロンズの最終ステージで雑魚敵から得られるものと,ほぼ変わらない経験値が得られるのだ。当然,敵がそれだけ強くなっているということでもあるし,得られるアイテムもいいものになっているのだが,ハクスラファンにとってこれは堪らない。
ちなみにこのゲームには,5段階の難度があり,Bronze→Silver→Gold→Platinum→Niobとなっている。ゴールド以上はレベル制限があり,一定以上のレベルに達していないと選択することすらできない。
複数のキャラクターを同時に育てていくタイプの人であれば,ゴールドに到達するまでにどれだけ時間がかかるのか,考えるのも嫌になるだろう。しかし,それこそがこの手のゲームに求められている難度ではないだろうか。ライトゲーマーであれば,ブロンズでストーリークリアすればいいだろうが,愛好家であればあるほど,何かを捨ててより難度の高いモードに挑みたくなるものだろう。
またマップの広大さも,マニア心をくすぐる要因の一つになっている。このゲーム,ストーリーをクリアするだけなら,足を踏み入れる必要のないエリアが多数存在するのだ。筆者も3周目に突入したキャラクターがいるのだが,初めて出会う野良ボスがまだ存在していたし,初めて見る街も存在していた。とにかく,遊び尽くすという意味での果てが見えない。
人を選ぶがあえて勧めたい
ちょっとノスタルジックなハック&スラッシュ。スキルが多すぎて,いつまでたっても完成系が見えてこない無限のカスタマイズ。どれだけ敵を倒してもなかなか拾えない,レアリティの高いアイテム。そしてUltima系王道RPGファンでも楽しめること請け合いの,膨大なクエストの数。そんな世界を4人で協力して楽しむことができるのだ。しかも愉快なことに,Co-opプレイをしているとき,ホストになっている人間のクエストを,乱入者が勝手に引き受けることもできる。自由度という意味では,Co-opとシングルプレイでの差はまったくない。
これは個人的な話だが,筆者がCo-opしているときに,仲間の一人が中ボスをリスポーンポイント(キャラが復活するポイント)に連れてきてしまい,復活した瞬間から大ピンチということが何度かあった。とにかくストーリーよりも,戦闘やコミュニケーションの部分で楽しめてしまう。まさに,ハック&スラッシュの正当継承者と呼ぶにふさわしい一作だ。
しかし,嬉しいことに,めでたく日本語版が発売。ローカライズに手を上げたのはスパイクだ。日本語版「Gears of War 2」に「Red Faction: Guerrilla」(関連記事)をぶつけてきた勇者の中の勇者である。ハック&スラッシュ系はシステムの理解に時間がかかるため,言語に悩まされる人も多い。その反面,日本ではそれほど数が売れないことから,ローカライズされることが希。こんな愛好家泣かせの日本の状況に,一筋の光明が差し込んだのだ。
セイクリッド2日本語版のきめ細やかなローカライズは,理解の難しいハック&スラッシュのプレイを大いに助けてくれる。また,海外版では機能していなかった一部スキルが,ちゃんと有効になっていたりもする。細かなバグがそれなりに改善されているのも,プレイヤーとしては実に嬉しいところだ。
ハック&スラッシュがない生活なんて,聖書のない教会のようなものだというあなた。興味はあったけど,敷居が高くて手が出せなかったというあなた。この機会に,ぜひとも終わりのない冒険に飛び込んでみてほしい。
動画撮影機材:トムソン・カノープス HDRECS
動画編集用ソフト:トムソン・カノープス Edius Pro 5
キーワード
Sacred 2 was developed by Ascaron. Sacred 2 - Fallen Angel (C) Koch Media GmbH 2009, 2010. Sacred and the Sacred logo are trademarks or registered trademarks of Koch Media GmbH. Ascaron and the Ascaron logo are trademarks or registered trademarks of Ascaron Entertainment GmbH. Marketed and distributed in Japan by Spike Co., Ltd. All Rights Reserved.
Sacred 2 was developed by Ascaron. Sacred 2 - Fallen Angel (C) Koch Media GmbH 2009, 2010. Sacred and the Sacred logo are trademarks or registered trademarks of Koch Media GmbH. Ascaron and the Ascaron logo are trademarks or registered trademarks of Ascaron Entertainment GmbH. Marketed and distributed in Japan by Spike Co., Ltd. All Rights Reserved.